第377話 男〇王子
「では、宴を始めようではないか」
王子は席に座ると、静まったこの空間に響き渡る様に宣言する。
それも
(もう少し離れた位置を擁してもらいたかったが)
この位置にいるのは少々居心地が悪かった。
王子の宣言の後、後ろから足音が聞こえる。周囲を軽く確認してみると、支柱の裏から多くの侍女がやってきていた。招待客一人に付き、二人の侍女は銀杯と酒が入っているだろう小さな水瓶、そしてそれらを置くための膳を抱えてやってきた。目の前で膳を置き、銀杯に水瓶から酒を注ぐ。
全員に配膳が終わってことが確認できると王子は立ち上がる。
「今夜の招待に応じてくれてうれしく思う。そして遥々グロウス王国からやってきた麒麟児である、バアル・セラ・ゼブルス、君に謝辞を述べたい」
王子、並びに席についている全員の視線がこちらを向く。俺はそれに対して苦笑して答える。
その後、王子としての挨拶を行い、最後の部分に入る。
「そして二日後の神前武闘大会の成功を祈願して、乾杯」
「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」
王子が音頭を取り、銀杯に口を付けると、全員がそれに
「では、存分に楽しめ!!」
その言葉の後に二度、盛大に手を打ち鳴らすと。再び、銅鑼が鳴らされる。
シャラン
その後、鈴のような音が聞こえると、コの空いた部分に様々な踊り子が入ってくる。それも全員がベリーダンスの様な格好をしており、男の欲情を誘うような恰好をしていた。
それから蠱惑的なダンスが始まる。薄く透明な布が何重にも舞い、様々なものが揺らされる。そして誘うような視線を招待客に振る舞う姿は娼婦の様にも見えてしまう。
現に招待客の男性はギラつくような視線を踊り子に向けていた。
(はぁ、こういうのは生殺しだ)
そしてその間に支柱の隅々から料理が乗った大皿を持った使用人たちがやってきて、踊り子の視線を遮らない場所に置かれる。
「どの料理をお運びしましょうか?」
詳しく聞くと、料理を食べたい場合は付きっきりになっている二人の侍女に取ってきてもらう形式だという。
「では、アレとアレを」
「かしこまりました」
俺が指定された肉料理といくつかの包まれた野菜料理を取りに侍女が立ち上がる。
開始の宣言が終わると、ドカリと座り込んだ殿下が声を掛けてくる。
「バアル・セラ・ゼブルス、今回は私の招待に応じてくれてうれしく思う。カーシィム=サル・ネンラールの名において満足のいく歓待を約束しよう」
「ご厚意感謝いたします」
カーシィムの笑顔に、こちらも笑みで返す。
「それとどうだ?私が自ら厳選した酒の味は」
「極上の一言ですね。ここで全部飲み干すのが惜しいくらいです」
注がれた銀杯を呷るのだがその際に舌の上で味わうコクがまたよかった。
「それはいい、帰りにいくつか渡す。存分に楽しんでくれ。それと
「いえ、結構です。私も異なる食文化に触れてみたいので」
ネンラールは異本的には手食文化が浸透していた。当然、この宴会でも浸透しており、すでに料理を配膳してもらっている者たちは手掴みで料理を食べていた。
「なら、いい。それと堅苦しくする必要はない。ラフィーアの様に、とまではいわないが、年来の友人の様に接してくれると助かる」
「そうですか……では、多少口調を崩させてもらおう」
多少迷ったがあちらは親密さをアピールしたいのだろうと思い、口調を平時の時に寄せる。
「ああ、是非そうしてくれ」
そういうと、王子は配膳された肉の一切れを摘まみ、口に入れる。そしてその後、艶めかしく指を舐めとる。それもこちらに見せつけるようにだ。もし俺が女性ならおそらく生唾を飲んでいただろう。
「ふむ、やはり、
「カーシィム様」
「わかっている。だが確かめたかったのだ」
カーシィムは背後にいる護衛らしき女性にたしなめられる。
「ここで何をとは聞かないのだな」
一連の動作とやり取りに何も言わないでいると、カーシィムは面白そうな表情をしながらこちらに問いかける。
「グロウス王国にも様々な噂は流れてくるからな」
「ふふふ、
カーシィムはわざと言葉に出さない部分を、わかりながら聞いてくる。
「不名誉だが、いいのか?」
「構わない。というよりも私はそれを受け入れているから。それでどんな通り名だ?」
ここまで言われれば言わざるを得ない。
「グロウス王国で聞き及んだのは
言いにくいことだが、ユリアの言葉を信じて、そのまま言葉に出す。
そしてそのタイミングで料理が配膳される。
「もちろん噂のみで、真実だとは思わないが」
一応の保険でそういいながら、その先は言いたくないと表す様に春巻きに似た料理を摘まみ口に入れる。
「ああ、そこは安心してほしい、両方とも
「っっっごほ、ごほ」
なんてこともないという風のカーシィムの言葉に思わず咳き込む。その時に見えたが背後にいるリンは絶句していた。
「……もう一度、確認をさせてほしい。真実なのか?」
ここで間違いだと認めれば聞かなかったことにするが、という意図で問いかけると、面白い物を見たようにカーシィムは笑いながら言葉に出す。
「なら、もう一度言うが、
「…………」
その言葉に本当に思考が止まってしまった。
もし、ここにいる
だがこれが招待客に限ってしまえば話は違う。ラフィーアの様に女性ながらも招待されている者もいるが、大半が男性だった。もし5、いや4割が男性だったとしても、それはつまり男性招待客のうち半分と関係を持っていることになる。そして招待客を見渡せば男性がほとんどを占めており、そうなれば答えは出ていた。
そして少しだけ混乱が収まると、違う考えを持ち始める。
(いや、まて、派閥関係のことを言っている可能性もある。いや、むしろ、その可能性の方が)
「ああ、もちろん体の関係だ」
何とかカーシィムを普通に見ようといろいろと考えていたのだが、本人からとどめの言葉が出される。
「カーシィム様、少々あからさますぎるかと」
「だめか?調べればわかると思うが」
「それでもです。ですが、もう遅いです。なれば招待された意図を詳しくお話しするのが良いかと」
そう公に助言したのは先ほどカーシィムを嗜めた女性だった。長身でスタイルは良いが、起伏はあまり存在していない。服装は白と淡い紫を基調とした色合いで、形式はどちらかというとグロウス王国に近しい。そして目が悪いのか眼鏡を掛けて、それが切れ長で冷やかな相貌に拍車をかけていた。また肌はカーシィムとは違い白い。髪はうっすらと青みがかった薄紫色で、後頭部で団子にまとめているのだが、収まりきっていないのか、ファッションなのかわからないが一筋の髪がまとまりきらずに背中を伝っていた。
「ならそうしよう。ありがとうクヴィエラ」
「んっん!?こういうのは後にしてください」
カーシィムは礼を言うように振り向くとクヴィエラ頬に手を添え、そのままキスをし始める。それも啄むようなものではなく、もっと深く、俗にいうディープキスだった。
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