第376話 美女的な美男
宴会場は周囲が支柱に囲まれており、隙間から庭園が見渡せるようになっていた。席にはコの字型に座椅子が用意されており、上を見上げれば天上がドーム状になっている。天井の頂点部では長方形に切り抜かれており、そこから星空が見ることが出来る。また切り抜かれた部分の下には同じような長方形のステージが用意され、座椅子からは見下ろすことが出来た。
「それではあちらの席へどうぞ」
「……あそこか?」
案内人が差した部分はコの字型の縦棒の中央部分。それもその場所だけ周囲よりも数段高く設定されており、どういう人物が座るかは容易に察することが出来る。
(それにしても側近を差し置いてすぐ隣とは)
招待客の重要性を知らしめることはできるが同時にやっかみも受ける位置となる。
「あの、どうしましたか?」
「いや、何でもない」
「では席でお待ちください。もうしばらくした後に殿下が来られます」
案内人の指示した席に着くとそのまま、席に着く。
(まぁ、そういった反応になるか)
周囲を観察すると同時にあちらからも観察の視線が送られる。
「……服装がバラバラですね」
背後に控えているリンが周囲を観察しながら、呟く。
実際、席についている者たちはラフィーアなどのサリーの様な装いから、アオザイ、
彼ら、もしくは彼女らを見たのなら、グロウス王国に慣れている者なら疑問の声を上げるだろう。
だが、彼らからしたら、それほどおかしくはない状態だった。
その理由だが
「リン、ネンラールの歴史はどれくらい理解している?」
「授業でかじった程度です」
「なら、一応説明しておこう」
それから王子が来るまでの間、リンに軽くレクチャーする。
まずネンラールの起源だが、300年前にいた戦神の加護を受けた英雄が起源とされている。だが、彼の説明をするその前に当時のネンラールの状況を説明しておこう。
当時、ネンラールの地域は8つの国になっていた。それらの国は当然のように幾度も領地を奪い合い、戦乱状態となっていた。
そこで当初の彼、ネンラールの王祖に戻る。彼は両親祖父母と共に各国を移動する、いわゆるジプシーの様な生活を送っていた。
そして彼が15になる頃、転換期が訪れる。とある三か国がある天災により、国力低下を招いてしまった。となれば当然のように残りの5つの国が蠢き、戦争の悲惨さは一段と増す結果となる。
それは彼にとって好機だった。彼は各国を移動したときの伝手を使い、新たなる国を発足、それが一番最初のネンラールだった。
「その後、勢力を大幅に拡大して、およそ40年ほどでその8つの国をすべて飲み込む。そして250年経ち、今のネンラールとなる」
「いくつか疑問が沸き上がる部分があるのですが……」
リンも今の説明にもの申したい部分が二、三点あるのだろう。
「俺もだ。だが、伝え聞く話はこれだ。それに国興しの話など綺麗に盛られているのが常だろう」
実際グロウス王国も似たような話がある。前世の日本もそれらしき話があり、箔を付けるため、どの国もやっていることだった。
「御詳しいですね」
リンについて話していると背後から聞き覚えのある声がする。
「
「はい。実は私は殿下の支援者の一人なのです」
「……
「はい、
真意を確かめるように問いかけると、ラフィーアは何事も無い様に返答が帰ってくる。
「それより我が国のことを話していたようですが、疑問とはいったい?」
「……いや、勝手な邪推だ。藪をつつくつもりはない」
神話の類の話を変に真に受ける気はない。あくまで脚色された部分に疑問が沸き上がるだけだ。
「そうですか……そうおっしゃられるなら、無理に聞くつもりはありません」
「そうしてくれると助かる」
ドドン
ラフィーアが納得し終えると大きな銅鑼の音が連続で響き渡る。
「どうやら殿下がお越しになられたようなので、私は自席へと戻ります。何かあれば気軽にお声をおかけください」
ラフィーアはそういうと、礼をしてから用意された自席へと戻っていった。
ドドン
再び、銅鑼の音が聞こえてくると。
「殿下のおな~~り~~~」
声が発せられる。その声を聞くと、席についている者たちが頭を下げ始める。
俺はその様子を面白半分に眺めていると、コの字の空いた部分から入ってくる一人の人物が見えた。
「ああ、楽にしていいよ」
「「「「「「ははぁ!!」」」」」」
(…………男……だよな?)
周囲が件の人物の言葉で姿勢を直す中、俺は姿を見て困惑していた。
なにせ、二人の供回りを連れて入ってきたのは、褐色の肌に艶のある黒髪、服装も普通よりも露出が多く、体躯は長身でありながら男の様な筋肉はなくむしろ女性らしい柔らかさが見て取れた。
相貌も目は切れ長でまつ毛も長く、左目の下に泣き袋があるのが特徴的だ。顔の輪郭も柔らかく、相貌も相まってか、男性側から見ると冷やかさが目立つ女性であり、女性から見るとカッコいい同性としか見えない、つまりは男性なのに容姿は妖艶な美女だった。
また声も女性のハスキーボイスにしか聞こえないため、それが余計に女性に感じさせていた。
ヒラヒラ
呆気にとられながら観察していると、笑顔になりながら、女性の仕草の様に小さくこちらに手を振る
そして同時に
(二つ名は得るべくして得たようだな)
現在の髪は肩に切りそろえるか、それよりも少し長いぐらい物を背中のところで結んでいる。もしこれが腰までしっかりと髪を伸ばしでもしていたら、本当に女性という感想しか出てこない相手だった。
(そんな相手が俺にどんな要件か、見ものだ)
ステージから一直線に自分の席へと移動する王子を見ながら、そんな感想を抱いた。
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