第373話 水辺に咲く花

「うわぁ~~きわどい」


 セレナはリンの格好を見て、思わず言葉を出してしまう。


 リンの水着なのだが、下半身はクラリスと同じ短パンだが、上半身はクロスホルタービキニに似ている首の後ろで紐を結び固定するタイプの物だった。またいつもは結い上げている長い髪をほどいているせいか、いつもとは違いとてもお淑やかな印象を与えてくる。


「いつそんな物を用意していた?」

「いえ、これはクラリスの私物です。普通の奴を取り上げられまして……これに着替えさせられました」

「……言いたくはないが、サイズが合っていないだろう?」


 セレナがきわどいと表現した直接的な原因でもあるのだが、胸のサイズが合っていないためか、その存在が一際強調されていた。


「はい、少し苦しいくらいですが、耐えられないほどではないので」

 ジィ~~~~


 リンがなんてことないように告げるが、傍に居るセレナの目から光が消えていた。


(まぁ、セレナではどうやったってリンには太刀打ちできないからな)


 セレナのスタイルは背が低い、だがかといって寸胴体型ということでは無く、どちらかというと純粋な小柄な体型というやつだった。だがそれは言ってしまえばすべてにおいて規模が小さいと言える。


 180の俺とほぼ同じ目線であるリンは高身長でありながら、しっかりと女性的な特徴に富んだ体型、俗にいうグラマラスやダイナマイトボディと言える体型であった。それにセレナが勝てるわけがなかった。


「……もげればいいのに」

「呪詛を吐かないでもらえますか?私も少し大きくなりすぎて困っているんですよ、押さえつけないと動くときに邪魔ですし」

「シャーー!!」


 セレナはリンの発言を聞くと奇声を上げながら飛び掛かるのだが、残念ながら身体能力ではリンに勝つことが出来ないため、容易に頭を押さえられる。


「しかし、本当に大きいわよね。2年前は私と同じぐらいだったのに」

「クラリス!?」


 いつの間にかリンの後ろに回り込んだクラリスが、リンの胸が鷲掴みする。


「ちょっと、やめ!?」

「本当に大きいわね。それに丁度良い感触よね」

「ガルルル」


 リンは迫りくるセレナを抑えているため、背後から迫るクラリスの手に対処しきれない状況に陥った。


(ここがプール場でよかったよ)


 リンにとって幸いなことに、男性は施設外を固めるように配置され、プール内には女性の護衛騎士の姿しかなかった。


 その理由は


(普通に考えれば婚約者とアルバングルの客人がいるからな)


 レオネやマシラはアルバングルからの客人、クラリスに関しては俺の婚約者だ。そんな彼女らに邪な視線を送ることがないよう女性騎士だけを配置するのはある意味当たり前だった。


「仲がいいですね」


 三人の様子を優しいまなざしで見つめているラフィーアがこちらに近づいてくる。


「どうやら、あの噂は杞憂に終わったようですな」

「なんの噂だ」

「バアル様に男色の気があると」


 思わず振り向き、ラフィーアの顔を見て驚き固まってしまう。


「どこから、そんな噂が」

「いろいろとありますが、公爵家の長男でありながら妾を取らないどころか女性と関係に興味がない、とネンラールの一部に噂で広まっております。どこからかなどは残念ながら不明ですね」

「誰が、といいたいが人の口に戸は建てられないか」


 何らかの成果を上げれば、その成果を嫉む人物が出てくるのは必然。有名になったことで同時に悪口が出回るのはある意味では弊害なのだろう。


「こっちではそんな噂が広まっているのね」


 クラリスはリンに構いながらこちらを向く。


「全くのでたらめだがな」

「なら、これはどう?」

「クラリス、いい加減にひゃぅ!?」


 クラリスが乳房を持ち上げたためかリンの口から変な声が出る。


「どう?眼福?」

「ああ」


 別にこれぐらいのことは隠すつもりもないので素直な答えを告げる。


「にしては表情が変わっていないような気がするけど……」

「いい加減に!!」

「ちょっ!?あははは!!!」


 リンはセレナを安全に引き剥がし転がすと、クラリスの手を掴み逆に拘束し、やられたことをやり返し始める。


 クラリスの美乳がリンの手によって掴まれるのだが、それがくすぐったいのかクラリスは笑い声をあげる。


「この!この!」

「ははは!!ちょっと!リン、本当にくすぐったい!!」

「私は恥ずかしかったんです。その分はやり返させてもらいます!!」


 それから二人がもみ合うこととなった。


「お前らそのくらいに」

「バアル!?」


 背後からレオネの慌てる声が聞こえる。そしてその声で、どうなるか理解できてしまった。


 ザパァン!!


 背後から波に呑まれて、ほんの少しの間、もみくちゃとなる。


 そしてプールサイドの上を何回か転がる。幸い、すでにセレナと同じようなラッシュガード型の水着に着替えているため、服が濡れて気持ちが悪い感触はしなかった。


 そして水が引くと、ふと腹の上に重みを感じる。


「なはは、ごめんね~」


 レオネが腹の上にまたがりながら謝罪する。


「いろいろ言いたいことはあるが、とりあえずどいてくれ」

「え~~こういうとき雄って喜ぶんじゃないの?それとも私だから嫌なの?」

「……場所と状況を考えろ」

「は~~い」


 軽くたしなめると、レオネは退いてくれる。


「それより話は終わった?終わったならあそぼ~~」

「……まだ始まってすらいない」

「ありゃりゃ~じゃあ、まだ時間が掛かりそうだね。じゃあ私はまた遊んでくるから、いやっふ~~!!」


 言葉を発しながら、レオネはプールに飛び込んでいく。


「……ラフィーア、そろそろ話とやらを進めたいのだが」

「ふふ、かしこまりました」


 今までのやり取りが長すぎたのかラフィーアが苦笑しながら移動する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る