第333話 部隊の選別

 父上と何とも不毛なやり取りをした二日後、時間を見計らってゼブラストの駐屯地へと訪れる。


「総員!敬礼!!」


 軍の訓練場のでは総勢百名もの騎士が整列していた。武器は個々に違うが、防具は全てゼブルス家の統一されている鎧を着ている。


「よい、楽にしろ」


 ザッ!!


 俺の言葉で全員が敬礼の構えを解いて、姿勢を正す。


「さて、なぜここに集められているか知っている奴もいるとは思うが、一応説明しておく」


 飛空艇に乗りノストニアの国内に向かう事、そしてその際に有事に備えて警備をする必要であること。そしてそのためにここにいる部隊が集められたことを説明する。


「もちろん全員とは言わない。今回のことは国にとって大事であるために、近衛騎士団からも派兵が行われる」


 近衛騎士団の名前が出てくるとこの場にいるほとんどが色めき立つ。


(父上は、このことも考えて手配したのか?)


 ゼブルス家、つまりは公爵家の精鋭の部隊であれば、当然それに見合うプライドを持っている。それこそ騎士の中で最強と噂されている近衛騎士をライバル視してもおかしくはない。


「そして同時に言おう、この中で全員を起用するわけではない」


 この言葉にざわめきが起きる。部隊丸々用意されたのならば、普通は全員を使うと思うだろうが、今回はそうはいかない。


「二つ理由を述べる。まず一つ、飛空艇には乗れる人員数が存在するためお前たちを全員乗せることはできない。二つ目に、船内での警備となるため室内や狭い場所での戦闘に長けている必要がある。なにせ誤った攻撃で飛空艇を破壊されてはまずいからな」


 修復できそうな壁ならいいが、重要な配線などが存在している箇所に損傷を与えれば最悪失墜しかねない。


「異論はあるか?」


 全員に向けて問いかけるが、帰ってくるのは理解した視線のみ。


「では、これから選別に入るが、自分の戦い方が明らかに向いてないという者は名乗りでくれ」


 問いかけるが、誰も言葉を出さない。


「(一応の注意は必要だな)己のプライドだけで出来ると考えているならむしろ迷惑だからやめろ。ここで自己的に客観的見て判断しろ。得意不得意を自覚していることは評価を下げることにはならない」


 すると、反応は不機嫌と安堵と言う二種類に分かれた。だが、ほとんどが不機嫌の反応を見せた。


「さてイゴール・セラ・ニュレア、隊の選別を任せる」


 俺が呼んだのは列には入っておらず、俺の後ろで事の成り行きを見守っている騎士の名を呼ぶ。


「人数はいかほど」


 イゴール・セラ・ニュレア、この部隊の隊長であり、ゼブルス家の騎士の中で最古参の一人。容姿は50代と思えないほどの隆々とした体躯を誇っており、老化している証であるはずの白毛も本人の覇気が相まってか艶やかにも見えるほどだ。実力もこの年になっても騎士になっているだけあり、ゼブルス家の騎士の中で最強を競わせると、最上位に位置するだろう。また本人は南部のとある伯爵家当主の叔父と言うこともあり、家柄も十分だった。


「とりあえず制限は掛けない、明後日までに部隊の中で誰が適しているかで順位を付けて報告しろ」


 こちらの言葉ににイゴールは頷き答える。


「若はどうしますか?このまま選別を見学しますか?」

「そうだな……そうするか」


 今日の仕事はこれでほとんどが終わりと言えた。


(それに帰っても俺が手伝わされるだけだしな)


 正確には俺の仕事・・・・がだった。実際、父上の執務室には一時間ごとに山の様な書類が持ち込まれる。もし俺が帰って、手持無沙汰なことを知られれば当然文官にも父上にも強制にやらされることになる。


「では、バアル様も見ていることだし、始めるぞ。まずは―――」


 それから狭い所での戦闘がはっきりと苦手とする者以外で、模擬戦を始める。ただ、それだけでは意味が無いので、団員の一人が魔法で氷の壁を作り、室内や廊下を想定した場面を作り出してから模擬戦を行う。


「あの空間であれば私の力は半減するでしょうね」


 模擬戦の行動を見ていると後ろにいるリンが感想を述べる。


「だな、どちらかと言えばノエルやカルスが得意とする状況だろう」


 狭い空間で自由自在に動く糸を作り出せばやりようはいくらでもある。だが逆に風や火と言った広範囲に影響を及ぼす戦闘手段はとりにくい場となる。


「バアル様ならどう戦いますか?」

「俺か、俺なら―――」


 観戦した中には参考にできる様な戦闘もあれば、やや失点がある戦闘もあった。その後、陽が落ちるまで模擬戦を見ながらどのように戦うかをリンと話し合うこととなった。















「これが、結果となります」


 模擬戦をやらせてから三日後、俺は自室でイゴールから結果表を受け取っていた。


「最優秀者はアルフレッド・アラストか」

「彼は冒険者からスカウトされて騎士になった男です」

「実力は……聞くまでもないか」


 精鋭と言える部隊、当然そこに所属している騎士が弱いわけがなかった。


「戦闘スタイルは両刃の片手剣に盾、そして冒険者時代に手に入れた魔具のマントか」

「はい」


 騎士としては基本的なスタイルだが、その分造形は深く、技術を極めれば、あらゆる場面で対応できるようになっている。そのため狭い通路などでも十分に戦うことが出来た。


「それに加えて彼ならば攻撃、護衛、索敵あらゆる盤面で使えるはずです」

「なるほど……だが、彼を今回の護衛の長にすることはできないな」


 こちらの言葉にイゴールは重くうなずく。


 ゼブルス家の精鋭部隊ともなれば当然そこには貴族の子弟がいる。イゴールの様に貴族籍を持っているなら、まだやりようはあったのだが、さすがに平民が隊長の部隊に貴族の騎士たちを入れるわけにもいかない。


「でしょうね、それに彼自身は指揮能力はそこまで高くありません」

「才能なのか教育によるのかはわからないが、どちらにせよだな」

「でしょうね。そちらのリストに載せたのも船内での戦闘や守護といった面では最適と言えたからですので」


 今回欲しい人材は飛空艇内での警備が出来そうな者だ。リストに指揮能力の評価は入れていないという。


「次点ではカミーロ・セラ・エステバン」

「エステバン子爵家の者だな」

「はい。彼は長子で本来なら家督を継ぐべきだったのですが……なぜか彼自身が継承権を放棄、その後ゼブルス家の騎士になりました」


 その言葉に思わず笑ってしまう。


「理由は?」

「本人の言葉では、弟の方が向いていて、俺は向いていないと言っています」

「なるほど。では彼を隊長に据えるのは?」

「……おそらく、本人が拒否するかと」

「どうしてだ?」

「なんと言いますか……彼は飄々とした気質ゆえに何かを率いることに適していると思えません」


 規則を緩めることはしても引き締めることには向いていないため、彼は長の役職には不向きだという。


「副官に厳しいものを添えればできないこともないのですが、今回はノストニアへ赴くと言う事でしたので軽い性格のカミーロにすべきではないかと」

「では誰が」

「無論、自分が」

「イゴールがか……だがお前の武器は」

「ええ、人の丈ほどある大剣ですね」


 イゴールの獲物は地面に突き立てれば薄い壁ともいえるほど大きい剣だ。狭い所の戦闘など得意ではないし、何よりイゴールの戦闘スタイルは盾ごと押しつぶすようなパワータイプ、つまりは物を壊してなんぼの様な戦い方となる。


「もちろん、船内では相棒を置いていくつもりです」

「では戦闘面ではどうする?はっきり言って小手先の戦い方じゃないのはわかっているぞ?」

「もちろん、こちらで」


 イゴールが示したのは握った両手の拳だった。


「いつの間に武闘家になった?」

「ははは、精鋭と呼ばれるためにそれなりに鍛えています。もちろんその中には徒手もあります。もっと言えば今回の場合は両の手にバックラーを付けますが」

「一応聞くが、その場合の戦績は?」

「ギリギリ50人には入っていますよ」


 リストを先送ると42番目にイゴールの名前が載っていた。


「……なら言うことは無い。それで次にだが―――」


 イゴールが飛空艇内の警備の指揮を執ると決まれば次はその人員をすべて選別していくことになる。

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