第328話 副産的な戦力増強
次の日、正確には生誕祭開催日、神樹の根元にある広場で、アルムが開催を宣言する場所に来ていた。
「―――では、生誕祭の開催を宣言する!!」
「「「「「「「わぁあああーーーーーーー!!」」」」」」」
アルムの宣言に大きな歓声が巻き起こる。ノストニアの一大行事と言える催しならこの反応もおかしくはなかった。
(毎年思うが淡白なやり取りだな)
一番最初に生誕祭に出た時とは違い、アルムは神樹に上ることは無い。あの時は王位が変わる時だったからこそだ。だがそれは豪華ではないというわけではない。広場ではこのままエルフによる数多くの催し物が目白押しで行われることになっている。
「さて、俺達は祭りを回るか」
「そうね」
俺達は用意された貴賓席から立ち上がり、この広場を離れていく。
正直言って、俺が生誕祭で何かしらの役割を負うことは無い。なにせ俺たちは招待された側、つまりはゲストと言える。そんなゲストに仕事をしてもらうなんてことはまずありえない。そのため、生誕祭で、必ず行わなければいけないのは貴賓席にて開会式と閉会式に出席することだけで、それ以外は基本的にほかのエルフと同様に祭りを楽しむことになっている。
(とは言え、何度も来ているから、新鮮味などないな)
楽しもうと思ってもすでに、どのような屋台や出し物があるのかを知っているため、特別に面白味がある様な出し物はまずなかった。
(やることと言えば、露店や屋台を除いて掘り出し物があるかどうかの確認と、
視線をグエンとその部下に向ける。
「感触はどうだ?」
「はぁ……何とも言えませんとしか……本当にこうしておくだけでいいのですか?」
グエン達は顕現している精霊たちを見てキョロキョロしている。そして各自、その手の中にはそれぞれにあっている属性のある精霊石が握られていた。
(グエン達が精霊と契約すれば戦力増強に繋がるからな)
毎年、生誕祭に同行する護衛にはこのように相性の良い精霊石を持たせて護衛させている。もし契約できれば、戦力の増強に繋がるからだ。もちろん不満が出ない様に毎年毎年人員を入れ替えも行っている。また、その甲斐あってか、現在ゼブルス家には精霊と契約した者がちらほらと現れ始めていた。
「使い方は合っているわ、そうしていれば精霊から寄ってくるはずよ」
そしてクラリスも当たり前の様に精霊石を持ち、何とか精霊と契約しようと頑張っていた。
(諦めろ、とは言えないな)
俺はセレナからクラリスは精霊とは契約できないと聞いている。その理由はイピリアの言葉で、魔力の質が関係していることが判明したが、それでもとクラリスは行っていた。
だが、その結果は芳しくなく、婚約する前も婚約した後も生誕祭には参加して、このように精霊石に魔力を込めているが一切精霊から反応はなかった。
(もし、ロザミアが魔力について何かを解き明かしたらそれもわかるようになるか?)
魔力について研究しているロザミアなら何かしらに気付くのではないかとも思ってしまう。
「なに?」
「いや、何もない」
「そう?ねぇ、あれ、珍しいと思うけど」
少し前まで不機嫌だったのに、今は何とも純粋に精霊と契約しようとしている。そのため、少し前まで見せていた不機嫌さは鳴りを潜めていた。
「そうだな、少し寄ってみるか」
それから露店や屋台などの様々な場所を巡り、純粋に祭りを楽しんでいく。
それから二日間、昼間はクラリスに付き合い、様々な場所を訪れたり、すこし気分転換にアグラベルグの様な聖獣たちを見に行ったりもした。そして夜には何とも疲れているアルムの愚痴を聞いたり、酒を共にして笑い話をしていた。
そして最終日、昼間はこの二日間と同じようにエルカフィエアを回り、そして日が暮れて夜になれば広場へと戻り貴賓席に着く。
「…………」
そしてその際にクラリスの機嫌は少し前どころかもっと不機嫌になっていた。
『どうすればいいと思う?』
『恋慕を抱くことが無い精霊にアドバイスを求める時点で間違っておるぞ』
この後の神樹の実の落実に備えてイピリアを呼び出してある。一応の確認で聞いてみるが、問いかけたことが間違いだという答えが返ってきた。
その間にエルフの給仕が一つの飲み物を用意するのだが
サッ
その際に一つの紙きれが容器の下に置かれているのが見える。
給仕に視線を送ると一度だけ頷いてから礼をして離れていく。
隠しながらこれを渡してきたのなら何かしらの意味があると考え、その紙きれをクラリスに見えない様に取ると、掌に隠しながら覗き込む。
(神樹の実を手に入れてクラリスと分けろ、か)
現在、クラリスが不機嫌になってる最中での指示だ。さすがにこの指示に意味が無いということは無いだろう。
リィィィィィィィィィン!!!!
空から鈴に似た音が聞こえてくる。
「始まったな」
視線を神樹から外し、周囲を見渡すと6つの光の柱が立ち上っているのが見えた。
そして鈴の様な音が鳴り響いてから一分もしないうちにアルムが広場の壇上に出てくる。
「今年も無事に年を越してこの生誕祭を終えられたことをうれしく―――」
アルムは王らしく生誕祭が行われたことについての祝辞を述べている。
(俺も新年祭で同じようなことを行うから、わかるが、あんなものほとんど去年の使いまわしで済んでしまうんだよな)
グロウス王国で行われる行われる新年祭で、稀に父上が仕事で王都に向かう必要が出てくるときがある。そういう時は俺が臨時で始まりと終わりの宣言をしなければいけない時があった。
「さて最後に神樹に祈りを」
その言葉と共にほとんどの魔力をイピリアに送る。
「神樹よ
『『『『『『『『『『
アルムの宣誓と同時に、俺にも感じられるほどの魔力が放出される。
リィィィィィィィィィン!!!!
一際大きな音が鳴り響くと同時に、毎年のように咲かせていた花が様々な色に変わっていく。そして次第に花は実となり、俺やアルム、ほかに精霊と契約している者は精霊に頼み込み、実の奪い合いを行う。
『いつも通り任せておけ!!』
例にもれずイピリアも神樹の実めがけて飛んでいく。
「ねぇ、私は精霊と契約できると思う?」
イピリアが神樹の実へと向かっていくのを見ていると、隣にいるクラリスから問いかけられる。視線を送り、クラリスが気休めを求めているかを確認するがどうやらそのようではない。
「できるんじゃないか?」
「根拠は?」
「さぁな、俺の勘だ」
気休めを求めているなら嘘をつくが、そんな様子はない。なので思っていることをそのまま言葉に出す。
「一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「魔力を研究しようとしたのは私のため?精霊と契約できないのは私の魔力に問題があるとわかったから?」
クラリスは期待を込めた視線を送ってくる。
「……想像に任せる」
その考えが一切なかったとは言わない。もちろん大きな目的は魔力が何か知ることで、何かしらの法則を見出して活用することにあった。スキルについてもこれが該当する。そして同時に副産物でクラリスの件に関しても解決できる可能性があった。
「そう、なら勝手に想像するわ」
クラリスはそういうと、視線を帰ってきているイピリアに向けた。
『ふぃ~今回は少し手間取ったわい』
「そうか」
イピリアから神樹の実を受け取る。
(ん?)
受け取ったのは直径10~15cmぐらいで、ウロコ状の模様が見られる黄色いハート形の果実だった。
(この世界の果実か?にしてはどこかで見覚えがある様な……まぁいいか)
頭の隅に何とも引っかかった感じで出てこないのにもどかしさを覚えるが食べられるなら
「ほら」
「っと?いいの??」
「ああ」
俺はハートの形を割る様に二つにしてクラリスに投げ渡す。
(……思い出した、チェリモヤだ)
果実に口を付けて、まろやかな口触りを感じているとようやく果実の名前を思い出すことが出来た。
(とはいえ、味は桃か)
「ん、おいしいわ」
クラリスも同時に口を付けて、果実の味を楽しんでいた。
「バアル」
「なんだ?」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
クラリスが何のことで感謝しているのがわからないが、その言葉を受け入れて生誕祭は終わりを迎えた。
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