第198話 翼を持ち空を飛ぶこと
〔~レオン視点~〕
「お前らもう少しだけ耐えろ!!!」
「「「「「「おう!!!!!」」」」」」
魔蟲の軍団に突撃を駆けている中、俺を含めてここにいる全員の背筋に冷たいものが―いや、もっとわかりやすく言おう、対面したら殺されてしまう敵が現れた。
そしてこの気配には覚えがある。
「レオン!どうする?!」
ルウもこの気配に気がついてる。
「ルウ…………頼めるか」
「おうよ!任せておけ」
俺は立ち止まり宣言する。
「よく聞け!!気づいていると思うが後方に『王』が現れた!!よって前面の『母体』をルウに任せる!!」
「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」
「そして『王』を放っておけば甚大な被害が出る!!!朋友を見捨てられない者!!!我こそはという者は俺の元に集え!!!」
「「「「「おお!!!!!」」」」」
号令を聞き、俺の元に余裕がある連中が集まった。ルウもルウで仲間をまとめて再び攻勢の準備に入る。
「では行「待てレオン」」
今まさに出立の合図を告げようとすると、上からエナの声が聞こえてくる。
「アレは放っておけ」
「どういうことだエナ!あれを放っておくというのか!!」
「ああ、レオンが行っても死ぬだけだ!!他もな!」
エナの言葉に憤慨を憶える感情もあるが、ここではそんな感情よりも優先すべきは理性だった。
「じゃあどうする!!」
「当然アレに対処できる奴にやってもらうしかないだろう」
視線の先は当然『王』だ。
「だが、誰がアレを殺せる!!!!」
少なくとも俺の知る限りではルウやアシラ、ノイラ辺りでようやく戦闘と呼べる戦いを行える。そんな状態なのにアレを殺すとなるとどんだけの強者が必要になるか。
だがエナはその問いにそれ見たことかと答える。
「もちろん、あいつに決まっているだろう」
ドン!!!
音のなる方を見てみると『王』の頭部で放電が起きていた。
「あれは………」
眼に力を入れて何が起きているのかを確認すると続けて黄色い棒が同じ場所に飛んでいく。
飛んできた方向を見てみるとバアルがいた。
「つまりはバアルに相手をさせるということか?」
「ああ、それが一番いい」
エナがそう言うが
「まさかとは思うが、囮のために焚きつけたか?」
この言葉に全員の視線がエナに向く。状況だけを考えれば十分考えられる。
「確かにバアルに時間を稼いでもらっていればオレ達は『母体』に集中できるな」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」
声が聞こえる範囲にいる奴らはエナに敵意を向ける。
それもそうだろう、話をし、一緒に戦い、飯を食った。すでにバアルは俺たちの仲間だ、そんな仲間を売るような真似絶対に許すことはない。
「けど見くびるな、犠牲を出すなら絶対に納得してもらう、それがオレの流儀だ」
エナは今まで一度でも犠牲を強要したことはない、仮に必要な時はあくまで本人が納得して犠牲になっている。だがそのことはエナに近しい人物しか知らない。そして犠牲を出した元凶にはどんな手段を持ってしても敵討ちを行う、それこそ闇討ち、毒殺、俺たちの中で忌み嫌われている事を依然とだ。
そのことを知らない人物からしたら嫌悪する対象となり、エナはいつしか『腐肉喰らい』と呼ばれていた。
そんな悪評があることから、ここにいる中でエナのこの言葉が本当かを知る人物は数名だろう。
「だからレオンお前は『母体』に集中しろ」
「エナ、お前はどうするつもりだ?」
「もちろん、オレの隊の奴らでバアルを援護するさ、ハースト!」
「了解だ!」
エナはその後、咆哮を上げてヨク氏族を連れて『王』に向かっていく。その様子に納得はしないが異議はない。
「だとよ、どうするレオン」
ルウがそう言うがこうなればやることは一つ。
「お前らさっさと片付けて『王』に向かうぞ!!」
部下と共に咆哮を挙げて、より苛烈に攻め込む。
(エナが良いと言っているから大丈夫だと思うが、死ぬなよ)
新しき友の無事を祈り、より前へと進む。
〔~バアル視点~〕
イピリアの自信ありげな策を聞いた後、視界が確保しやすい、場所に移動していた。
「『
特大の『
(それにしても、時間が必要、か)
イピリアの話では最低でも10分、確実に仕留めるなら30分は時間が欲しいらしい。
(ならばとる手段は一つ、ひたすら翻弄して時間を稼ぐ、だな)
まずは気を引くために頭部に効きもしない攻撃を当てている。
すると
「おっ」
「(俺も動かないとな)『飛雷身』」
頭部がこちらを向いて事をいいことにその頭上に移動する。
「さて、気を逸らすために少しは嫌がらせをしないとな『怒リノ鉄槌』」
ジュウウウウ!
「やっぱり甲殻が分厚すぎるか」
『怒リノ鉄槌』で削れることは削れるが、鱗が厚過ぎるため遠くから見れば鱗にこぶし大の跡が付いただけだろう。この様子なら鱗を貫くまで5回は最低でも必要になる。しかも一点を貫くだけでだ。
なので
(狙うのは薄い場所)
飛び降りると同時に横切る眼を潰す。
キシュウアアアアアア!!!!!!!
さすがに痛かったのか体を大きく揺らす。
(レオン達に担当してもらわなくてよかったな)
落下しながら地面を見ると暴れている衝撃で地面付近は大変なことになっていた。何本もの樹が物ともしなく倒されて岩の上に体が乗るとその石は粉々になる。
(動くだけで戦略兵器になるからな……レオン達に任せていたらどうなっていたことか)
今あるすべての戦力をぶつけたとしても10分ほどしか持たないと思える。なにせ倒れこむだけで強烈な一撃となり、軍のなかをだたひたすらに蠢くだけで甚大な被害になるだろう。
「掴まれ!!」
「は?!」
急に声がするので振り向くとファルコが迫ってきていた。
「そのままじゃ落下するぞ!!」
ファルコは腕を強引につかみ、再び空に上がる。
「おい!馬鹿!これじゃあいい的だぞ!」
「うるさい!舌噛むぞ!!」
予定と狂った行動することになった元凶に苦言を言い放つが、当の本人は良かれと思ってやった様子。だがこれではやりたいことができず、さらには『王』の視線がこちらを捉えていた。
「やっぱ、お前か」
ファルコも俺が標的になっていることが分かっているのだろう。
「馬鹿か!あんなことをして」
「ああ、でもしなけりゃ俺を標的にもならないだろう」
「わざとかよ!!」
「だから俺を掴んでいると危険だぞ、ほら」
「ああ?、!!??」
「ほら、放さないと死ぬぞ」
「っ、仕方ない。少し乱暴にするぞ!!」
「は?ぐっ!?」
ファルコは俺を空に放り投げる。
ビュ~~~
(やば!?)
風を切りながら落下していく。
先ほどまで
(ファルコ!!放り投げるなら体勢を考えろ!)
今は背中から落ちて行っている形で、不安定だった。何とか体をねじり、地面が見えるようにするのだが。
ブン!!
シュ!!!!
(あ、これは死んだな)
先程まで200メートルはあった距離を一瞬にして詰められる。それも視界には逃げられる隙間はなく、口の中すらも丸見えだ。本来なら逃げるための視界を確保してできるだけ『飛雷身』で翻弄するつもりだったが、ファルコが邪魔したことにより、思うように視界が確保できず、逃げることができなくなってしまった。
(『真龍化』で何とか牙と胃酸をやり過ごせるか?………これは、その前に窒息死だな、けど試してみ)
ヒュン
「がっ!?」
観念して『真龍化』を発動させようとすると強引な力で真下に引き寄せられる。
「ぐっ!?」
今度は急上昇していく感覚が五感を襲う。そして一度浮遊感を感じた後、衝撃と共に何やらもさもさしたものが顔に当たる。
「おい!さっさと立ち上がれ!」
「この声はファルコか?」
すぐさまもさもさした何かから顔を話して周囲を見る。
「……これって」
「ファルコ……であっているか?」
「当たり前だ」
今立っているのは鳶色の羽毛の背中の上だ。左右を向けば翼があり、片翼で人の背ほどある。
「もう一度聞くがファルコだよな?」
「だから!そうだと言ってんだろう!!」
ファルコは怒るが何度も聞き返したくなる。なにせ今は完全に鳥の姿を取っているのだから。
「それにしても危なかったな、俺じゃなければ今頃お前は丸のみだったぞ」
どうやら俺が喰われる寸前でファルコが助けに入ってくれたらしい。だがそれは余計な善意と言わざるを得なかった。
「しかし、よく間に合ったな」
「あ?ああ、確かにあいつは速いが俺ほどじゃねぇよ」
その言葉でモノクルを取り出してファルコを鑑定する。
――――――――――
Name:ファルコ
Race:鳥人
Lv:58
状態:普通・獣化[全]
HP:295/425
MP:551/651
STR:31[+74]
VIT:20[+38]
DEX:58[+78]
AGI:135[+130]
INT:29[+48]
《スキル》
【斬翼:82】【鉤爪:17】【隠密:7】【空強襲:54】【飛翔:154】【身体強化:38】【滑空:127】【風読み:88】【空の眼:113】【夜目:77】【思考加速:27】【視野拡張:49】【風耐性:37】【雷纏:―】
《種族スキル》
【鳥化[天風隼]】
《ユニークスキル》
――――――――――
(なるほど、鳥ならではのスピード特化か)
ステータス、スキル構成を見るに速さに一芸を持つタイプだった。
「それでどうする、勝算はあるのか?」
「俺がレオン達を見逃せるように殿になると思うか?」
時間が必要で、怒らせるような真似をしなければいけないことを簡潔に伝える。
「いろいろと説明は省く、とりあえず時間が必要だ」
「具体的には?」
「最低でも10分、確実に『王』を仕留めるなら30分は欲しい」
「それは長いな………」
もしこの『獣化』が『身体強化』と同じなら使っているだけで魔力を消費しているはずだ。そしてレオン達と同じなら全身を変化させている時点でかなりの消費量となる。
「ファルコ、30分持つか?」
「無理だ、せいぜいが十数分が限度だな、さらに本気で飛ぶとなると数分が限度だ」
それではあまりにも短すぎる。
「けどそれは俺だけがやった場合だ、だから」
ピヒャアーーーーーーーー!!
鳥特有の甲高い声が響き渡る。
「おい!こんな大声上げたら」
シュルシュルシュルシュル
当然、アレの興味を買うことになる。
「俺の羽は頑丈だからな、しっかりつかまっていろよ」
「おい、だから話を、ぐっ」
俺の話を聞こうとせずに急降下するのでとっさにファルコの羽を掴む。
突風の中、何とか眼を開けて何が起こっているのかを確認すると、真後ろに
けど
「そんなんじゃ俺には追い付けねぇよ」
ファルコはすぐさま翼を切り返し、
「いいかよく聞け!、俺は今から――――――」
ファルコが話してくれたのは時間稼ぎの作戦だった。
「―――覚えたな?」
「もちろんだ」
「よし!!」
そう言うとファルコはすぐさま上昇していく。
「………いた!!」
すぐさま滑空していくと
「じゃあ頼むぞ!」
「ああ!存分にバカにしてやるさ!!」
そう言うと再びファルコは
「おい、バアル」
「ん?エナまで一緒か」
大きな鷲の背には既にエナが乗っていた。
「何をしようとしている説明しろ」
「私もお願いしたいな」
足元から聞きなれた声が聞こえてくる。
「もちろんだ、そのためにここに来たからな」
俺がわざわざ
そしてその作戦だが。
「ファルコはヨク氏族の戦士持ち回りでの時間稼ぎを提案してきた」
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