第199話 影の立役者

 ファルコの考えた作戦を簡潔に言うと。


 速さに自信がある者達が自身の魔力が尽きかけるまで大岩窟殺戮百足グランドワームの翻弄を行う。そして次に担当する者が引き継ぎ、また再び翻弄、時間稼ぎを行う。その後は余力のある者だけで交代していくという策だ。


 ただ時間を稼ぐだけなら効果的な策である。








「今のところファルコが引きつけている、その間に順序を決めてくれ」


 速さに一芸を持つファルコとはいえ、スタミナがいつまでも持つわけがない。ほどほどに疲れが溜まり、速度が落ち始めれば、俺が乗っていたヨク氏族みたく一口で食べられてしまうだろう。


「だが、ほとんどの者はレオンの上空にて戦っている。唯一、動かせる連中は【鳥化】して背にエナのところの奴らを乗せている」


 ヨク氏族は元の数が少ないため、エナとティタの部隊と共にいない者はレオン達の上空で空を飛ぶ魔蟲の対処をしてもらっていた。それも立った350ほどしかいないので、彼らも手一杯になっている。


「………一つ聞くが二人乗っけることはできるのか?」

「体の大きいな者であれば、な。私なら三人は余裕で乗っけられる。もちろんそんな状況になれば速度は期待するなよ」


 それが確認できれば、あとは問題ない。翻弄するときだけ背にいる獣人をほかのヨク氏族の背に移せばいいだけで済む。


「エナ、ハーストと相談して伝令役をしろ」


 そう言うと無線機を渡す。


「オレが指揮をするのか?」

「ああ、ハーストからの指示をお前が無線機で部下に伝えてやれ」


 そうすればわざわざ集まったりする必要もない。


「そろそろファルコが疲れ始める頃だな」


 大岩窟殺戮百足グランドワームの攻撃を何度も避けているファルコなのだが、疲れが出て来たのか大雑把おおざっぱな動きになっていた。


「では次は私が担当するとしよう」

「ハーストがか?」


 言っては悪いがファルコの3倍はある体躯だ、とてもスピードが出るとは思えない。


「エナ、左斜め前にいる二人を呼んでくれ」

「わかった、C2、B5、の二人、ハーストの元に来るように伝えてくれ」


 エナは渡した無線を通して二人に来るように告げる。


 そしてその二組が近づいてくると


「飛び乗れ」

「わか」

 ガシッ

「あらよっと」


 ハーストの言葉でエナは俺を抱えながら横の鳥に飛び乗る。


「いや、ハースト、お前が言わないとほかの連中は」

「問題ない、奴を仕留めるためなら協力するさ」


 そう言い残すとハーストはファルコの元に飛んでいく。


「お前ら今後の動きを説明するぞ」


 飛び乗ったヨク氏族の背でエナは無線機を通して部隊の全員に指示を与える始める。









〔~ファルコ視点~〕


「はぁはぁはぁ」


 グヴァ!!


 素早く進路を切り返しデカブツの牙を交わす。


(そろそろのはずだ)


 バアルが無事に伝えてくれているなら、そろそろ交代の誰かが来るはず。


「ファルコ」


 その思いが通じたのか頭上から声が聞こえる。


「ハーストさん!!」

「時間稼ぎご苦労、何とか後退するんだ」

「わかっていますよ、ただこいつがそれを見逃してくれると思いますか?」


 後ろを振り向くと、デカブツは今も執念深く追ってきていた。さんざん挑発した甲斐あってか、今は俺しか見えていなさそうだった。


「なに、そしてらこうするまで」


 頭上を飛んでいたハーストさんはわざと速度を緩めて大岩窟殺戮百足グランドワームの口前まで移動する。


「な!?」

 グワッ!


 大岩窟殺戮百足グランドワームが首を伸ばしハーストさんを飲み込もうとしている。これを驚くなというのが無理な話だった。


 だが


 クルッ

 ガチン!!


 顎がしまる前にハーストさんは翼を大きひるがえし、そのまま頭に沿うような形で後ろに回る。さらには置き土産・・・・も残していた。


 キシャアアアアアアアアア!!!


『王』は荒れ狂う。理由は頭部にできた新しい傷、その位置は残った3つの眼球の一つだった。


「すごいな…………」


 俺はまだあのような動きはできない。


 ハーストさんの動きはとても繊細で、通常ではできない動きを可能にしていた。それこそほんの数センチ翼がずれただけでも風の影響で真っ逆さまに落下していくぐらいの精密な技術だった。


「ふぅ~でもこれで何とか一息つける」


 傷を付けられた怒りでか、矛先がハーストさんに向き始める。その間に視界に入りづらい場所に位置取り、体力回復にはかる。


「では頼みますハーストさん」


 いつでも援護に入れる位置で休める速度で飛び始める。










〔~バアル視点~〕


「次B1が『王』を担当する、交代にもたもたするなよ。C3すぐ真下の奴らを近くの部隊に合流させろ。D9、邪魔な蜂が数匹、A10の元に向かっている近くにいるD5、F7、E12を率いて邪魔しろ。ほかにも手の空いている奴らは蜂を駆除しろ、特に『王』の相手をしない奴らは強制的にだ!!」


 エナがヨク氏族の背の上で戦況を見ながら的確に指示を下す。


(あの距離を見えているのか……)


 上空から森の間にいる奴らを見定めて的確な指示を出している。地上にいる獣人達は米粒サイズに加えて、鬱蒼として森が視界を阻んでいる、それがどれだけ困難なのかは言うまでもないだろう。


 それも


(すべて的確・・だな)


 もちろん犠牲を一切出さないと言っているわけではない、あくまでその場では最低限の損失・・で済ませているという意味だ。


「それにしても雲行きがワリィな、くそ!」


 エナが空を見ながら吠えるのにはもちろん訳がある。先ほどまで晴れ模様だった空が、少しづつ厚い雲に覆われ始めていた。日の光が少なくなればその分影が落ちる、影が落ちれば見落とす確率が高まってしまう。


「F4、交代だ!」


 エナが交代を告げると一羽の鳥が『王』に向かって飛んでいくのだが。


「っち学習してきているな」


 交代しようとしている一人が何とか『王』を振り切ろうとするが、『王』もどういった飛び方をするか学習しているせいか振り切りにくくなっていた。


 そして


 バクン!!


「っ、すまない」


 先程まで担当していたヨク氏族の戦士が喰われる。エナはその様子を見て謝罪を述べる。


(まだかイピリア?)

『もう少しじゃな、今の程度だと深い傷をつけて終了じゃろう』


 仕留める時間はもう少しかかるとのこと。


「時間的にはあと数人というところか……」


 先程喰われた戦士で7人目。一人大体3分と考えて21分が経った。あと三人もすれば殺す手はずは整う。


 のだが



 ギュジュシュ、シューー!!!!!!!!!!!!!!!



 突然、『王』は鳥を追うのをやめてレオンの方角へ動き始めた。


「考える頭があるなら、そうなるよな」


 ただ時間だけが取られていくのに気づいたら無視し始める、しかも目とかを除けば何されても無傷な体を持っているならなおの事。


「で、どうする?」


 エナは一度指示を止めてこちらを見る。


「無視するなら、できないようにしてやればいいだけだ」

「だからどうする?」

「こうする、『飛雷身』」







『王』が無視できるのはヨク氏族の攻撃に有効手段がないからだ。ならその攻撃の部分を俺が担えばいい。


 ット


「っ誰だ!?」

「すまんが少し背中借りる」


 俺が飛んだ先は今翻弄している鳥人の背だ。


「おい!」

「このままだと地上の奴らが混乱する。そのための引きつけ役だが、奴はもうこっちに見向きもしないだろ?」


 そう言うと何も言えなくなる鳥人。実際、彼の武器だと、柔らかいところはともかく、堅い甲殻には傷一つ付けられない。


「お前は指示通りに飛べ、そうすれば奴を引きつけられる」

「………了解だ」

「それじゃあ、こう動いてくれ」


『念話』で一つの指示を出す。


「また複雑だな」

「それでも飛んでもらわないと囮になるのは無理だ」

「わかっているよ、くそ!つかまっていろ!!」


 そう言うとファルコほどではないが、かなりの速さで飛び始める。


(よし、指示通りだな)


 ヨク氏族は体に纏わるように飛び、頭部へと向かう。


「『怒リノ鉄槌』」


 何とか背の上に立ちながらバベルを取り出す。その後は羽を掴み体を固定させると同時にアーツを発動させる。こちらの準備が終わるとヨク氏族は頭から尾をなぞるように飛び始める。


 スレスレを飛ぶ最中、バベルを甲殻に擦り付ける。


 ギィ、ギィィィィィイイイイ!!!

 ジュ、ジュウゥゥゥゥウウウ!!!


 硬い物を引きずるような音と蒸発するような音が聞こえてくる。


「っと!?」

「ぐっ!?ばかやろぉおおお!!飛ぶ態勢が崩れるだろう!!!!!!」


 衝撃でやや体勢が崩れるもヨク氏族は何とか立て直し、再び空に舞い上がる。


 だが一連の結果がどうなったかと言うと。


「うわぁ、ミミズ腫れ、いや、この場合はミミズ凹みとでも言うべきか?」


 飛び始めたところから腹部にかけて一本の傷跡が残る。


「さて、痛覚はどうなっているのか見物だ」


『王』の様子を確認してみると。


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 一目でわかるほど激怒していた。


「じゃあ、あとは頼むぜ『飛雷身』」

「っておい!!」


 再びエナがいる背中に飛ぶ。その後は目論見通り、新たな標的となったヨク氏族に向けて攻撃し始める。











〔~エナ視点~〕


「なるほどな」

「……大丈夫なのか」

「ああ、問題ないようだ」


 傍にいるティタは何が起きているのか見れなかったが、オレの眼にはバアルが何をしたのかがはっきりと見えていた。


「それよりもティタ、お前の出番だ」


 今のところ『王』の死の匂いはバアルのおかげでだいぶ薄れてきていた。こうなると問題は下に出てくる。


「レオンのところに行って援護をしてやってくれ、おそらくお前がいないとかなりの痛手を受ける」


 少し前からレオン達に若干だが死の匂いを放つものが現れた、そしてその匂いはティタが相殺できる匂いがしていた。


「……了解だ、本気・・で暴れてもいいんだな?」

「ああ、お前の実力を存分に生かせ」

「……ああ、だがエナ」

「なんだ?」

「……なんでもない呼んだだけだ」


 そう言うとティタはヨク氏族に頼んでレオンの元に運んでもらう。


「たっく…………なんで言い切らないんだか」


 レオンの元に行くティタを見届けていると一瞬の閃光が後ろに発生する。


「よう、もどった」

「おう」


 これで当初の状態に戻り、あとは既定の時間になるまで耐えるのみとなった。

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