第152話 隣国の戦争
予定通り新たな研究機関の発足のパーティーが開かれると、しばらくしていつもの定例会の場所に案内される。
「よくお集まりいただきました、今回の定例会は少々重要な情報を扱っているので、いつもよりも先んじての開催となります」
定例会が始まると一人の騎士が壇上に立つ。
「どういった情報なんだ?」
「そう相応のことでは変更はないから、かなり大事だろう」
「だが大事と言っても、そのような情報など出てきてはいないぞ」
周囲では支援者が話をしている。
『静粛に』
陛下の声でこの場の音が無くなる。
「では発表いたします、クメニギスとネンラールが戦争の準備を始めました」
「「「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」」」
影の騎士団の発表ではクメニギスの西とネンラールの東に武器や食料、傭兵が集まっているのを確認したらしい。
(グロウス王国に向けてではない……ブラフの可能性があるが、そこまで面倒を準備するか?)
「そこで我々は調査をしたところ、クメニギスはフィルク聖法国と同盟を結び、蛮国に攻め入るつもりです」
蛮国とはあくまで我々の中での呼称。なにせ正式に国と呼べるものは無く、いくつもの氏族のつながりしかない土地だ。
「それはどこまでだ?」
グラキエス家当主が手を上げ発言する。
「調べてみたところルンベルト地方まで進出するそうです」
ルンベルト地方は蛮国とフィルク聖法国とクメニギスを結ぶ地方のことを言う。
昔に蛮国とフィルク聖法国は何年もその場で争ったことがある。
それにクメニギスが参戦するとのことだ。
「目的は?」
「不明、ですが政治に不介入のマナレイ学院から意見が上がったとの声もあります」
チラッ×3
貴族のやり取りを聞いて、陛下、グラス殿、アスラ殿の視線がこっちを向く。
「もしや見越していましたか?」
リンが耳打ちしてくるが、違う。冤罪だ。
「それでネンラールの方は?」
「そちらはアジニア皇国との戦争を考えているようです」
チラッ×多数
今度は会場にいるほとんどが視線を向けてきた。
俺がアジニア皇国でいろいろ根回ししたのはここにいるほとんどが知っていた。
「はぁ~戦争に発展する経緯を教えてくれ」
手を上げて発言する。
「はい、まず基本としてネンラールでは魔法技術があまり発達しておりません。そして同時に魔法を脅威に思っています、そこでどうやら魔力を使わないジュウとやらに興味を持ち技術を横取りしたいようです」
魔法技術ではクメニギス魔法国もちろんグロウス王国にも及ばないとなると、ほかの技術を取り入れようとするのは自然な流れだ。
(それに選ばれたのがアジニア皇国か)
さすがに国の規模が違いすぎる、負けるのは火を見るよりも明らかだ。
「我が国に飛び火などは!!」
一人の貴族が声を上げる。
だが周りからは嘲笑が上がる。
(ここにいる奴らは馬鹿じゃない、グロウス王国の軍事力だと全面戦争にならない限り、負けることはないのがわかっているんだろう)
なのでたとえアジニア皇国を滅ぼしたとしても、すぐさまグロウス王国に戦争を仕掛けるなんてことはまずできない。
それこそ軍事力の5パーセントほどでアジニア皇国に勝利しなければいけない。
それに
(影の騎士団は、イグニアがネンラールと接触しているのを知っている、向こうもイグニアという隠れ蓑の後ろで得られる利益を持ちたいはずだ)
ならばイグニアに手を回してじっくりと利益を取る方がまだリスクが低い。
「だが!仮にアジニア王国のジュウの技術が渡ればどうなる!攻め入る可能性もゼロではない!!」
もちろんその通りだ。
増長すれば確率は少なくないが、ジュウなどそこまで脅威には感じない。だがジュウが何か知らない奴らからしたら不安なのだろう。
それからは飛び火を警戒する貴族と問題ないという貴族の間で討論が始まり、もはや会議どころではなくなった。
「では来年からマナレイに行くのか?」
影の騎士団の定例会が終わると、陛下に呼び出された。
「そのつもりです」
「ふむ……エルドに付くというわけか」
当然ながら西側、ひいてはクメニギスはエルドの色が強い、陛下の判断も流れではそうなる。
「そうではありません、招待され、そこに興味が引かれたのですこし知識を学びに」
もちろんそこは否定する。
だが裏で多少の接触があるのはなんとなく理解できているのだろう。
「ふむ、まぁよい、だがこの時期か」
「何か問題がおありですか?」
「多少な………いや話しておこう」
意外だ、こういう物は胸に秘めると思っていたんだが。
「バアル、クメニギスの内情はどこまで知っている?」
「第三王子が出家し継承位争いを抜け出したことは存じています」
残念ながらそこまで大きな情報は持っていない。
「さきほどは定例会どころじゃなかったからな」
「ではそこからは私が説明しましょう」
陛下がグラスに視線を向けると、グラスは一つの紙束を渡してくる。
「まず王家には現在第二王子、第三王子、第四王子、第五王子、第一王女、第二王女、第三王女が存在します」
紙には7人のことが書かれている。
「継承位争いを脱落したのが、第三王子と第二王女」
「理由は?」
「第二王女は国内の貴族と婚姻し、継承位を返上しています。第三王子には神光教に入信したので継承位を返上ですね」
二人に関しては完全に継承位争いから抜け出したそうだ。
「他の五人に関してだが、泥沼と言うにふさわしいな」
「…確かに」
武力も人材も見る限りでは綺麗に五等分されている。残念ながら一人の質は不明だが規模は綺麗に分かれている。
それこそ誰かが意図して組み合わせたかのように。
「……気持ち悪いな」
「同感だ」
グラスも勘づいている。
「それでそれの何が関係が?」
「実はなクメニギスの一定勢力にエルドが近づいた」
「……はぁ?、おっと、失礼」
思わず言葉が出てしまった。
「それでどこの勢力ですか?」
「……元第二王女派閥だ」
「…………………はぁ?」
数分間思考が止まる。
「なぜ?」
どう考えても近づく意味が分かんない。
「わからん、影の騎士団でも引き続き調べているが、まったく理解はできない」
グラスでもこの判断はよくわかってないらしい。
「そこでお主に頼みだ」
陛下の御声がかかると跪く。
「おそらくクメニギスに行けば、エルドの方から連絡が来る」
「意図を確かめてほしいと?」
「その通りだ」
………影の騎士団ですら、エルドの意図を測り切れていない。
であれば最も接触してくる確率が高い存在をつかって意図を確かめるということだ。
「……陛下は二人を放任しているのではないのですか?」
今まで継承位争いに干渉してこなかったはずだ。
「ああ、基本はその方針で行こうと思っていたのだがな」
すると陛下は俺をじっと見る。
「まぁ今回のはあまりにも意図が不明なので、少しだけ不安に思う、とでも考えてくれ」
「わかりました」
こうしてクメニギスの訪問理由にエルドの動向調査が追加された。
「それは面白い話だね~~」
夜、父上に王宮でのやり取りを説明する。
「エルド殿下が力のない派閥と接触、その意味が不明なんです」
「その派閥は今どうなっているんだ?」
「一応、勢力を維持したまま宙に浮いているそうです」
まとまっていた頭が消失、となれば当然解散が普通。
だが既にほかの5派閥と敵対してしまっている、となると今更敵派閥に鞍替えはできない。
けど一人でいれば間違いなく攻撃される、だから徒党を組み、守る体勢になっている。なので勢力として成り立っているとは言えない。
「じゃあ嫁いだ先は?」
「何の変哲もない子爵家です」
普通に領を治めている子爵家だ。
別段戦力が強いということもなく、金を持っているわけでもない。
「??恋愛結婚かな?」
「おそらくは」
争いが嫌で逃げたとも考えられるが、そんなことはどうでもいい。
「では嫁いだ第二王女には本当に何の力もないのだな」
俺と父上が注目しているのは何かする力を持っているのかどうかという点だけだ。
「それだったらエルド殿下の行動がさらに不思議だね~」
「ですね」
エルドはリターンが全くない相手に近づくほど余裕があるわけではないはずなのだが。
「………にしても」
父上は面白そうな顔つきになる。
「バアルの行く先ではいろんなことが起きるね」
「…………言わないでください」
今思えば『君の人生で楽しましてくれるなら』という言葉が原因だとも考えられる。
「どうだい?いっそ止めて家に帰ってきたりは?」
「………それ、仕事を押し付けたいだけですよね?」
父上の視線が逸れた。
「では冬季休校にはアルベールとシルヴァと遊んでやってくれ」
「そうしますよ」
その二人は長く構わないと泣き出すから始末に置けない。
それからは冬季休校まで同好会の資料を王城の一室に移す作業や、国費を使い研究に必要なものを買い込んだ。
「それと、これが冬季休校から二年先までどうすればいいかのマニュアルも置いて行く」
「本当に!助かります!!!」
冬季休校の数日前に研究室として割り当てられた、王城の一室に資料のすべてを運び終えると同時に、一通りの機材の説明を行う。
「え~と、同好会と同様にスキルレベルと使える
すでに撮影機の配備しているので、これからも断続的に情報が入ってくる。
そうすれば『ブレイン』が分析を行い、俺に情報がフィードバックされていく。
「騎士団からの情報採取に陛下の許可も取り付けています、なので思う存分やってくれ」
もちろん騎士団からしたら邪魔に感じるかもしれない。
なので陛下の許可をすでに取ってある。
「一つ疑問だけど、調べるのにステータスの欄があるよね?そこはどうすればいいの?」
「それもすでに手配している。月に一日だけ教会から『神鑑の眼』を借りる約束になっている。その時にデータを採取すれば問題ない」
最初は騎士団もステータスを測られることを嫌がってはいたが、鑑定代をこっち持ちと言った瞬間飛びついてきた。
「それじゃあ、あとは頼むぞ」
「了解です!!」
「それと何かあったら、近衛兵団に伝言を頼む、そうすれば俺に届くから」
本当なら通信機を渡したいところだが、残念ながらフルク先輩は信用が足りない。
「じゃあ、俺が戻るまで研究室を頼む」
「わかりました」
こうして研究室の準備は終了した。
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