第146話 最も高い山場

 真夏の暑い時期、とある村では一人の兵士が村の門を見張っていた。


「ふぁ~~」

「おい、交代だ」

「了解」


 背後から交代を告げられると、同僚に必要な物を渡してから中に戻ろうとすると、突然雷鳴が響き渡る。


「な、なんだ!?」

「わからん!?」


 ドォン


 雷は門のすぐ前に落ちる。


 魔物襲撃かと思い持っていた武器を構える。雷が落ちた場所にはなにやら人影が見えるだけだった。


「おい!兵舎はどこにある!」

「へ?」


 人影は門番に詰め寄る。


「あ、あれ」


 気迫に押されて自然と建物を指さす。


「あれだな!」


 また光ったと思えば少年の姿が消えている。


「なんだったんだ?」

「さぁ?」


 門番は訳も分からず呆然としていると、兵舎から彼らを呼ぶ声がする。














〔~バアル視点~〕


「よし、感謝する」

「いえいえ、よろしければ、ご歓待を――」

「遠慮する!」


 すぐさま『飛雷身』を発動させて雲に飛び、次の村に向かう。


 今行っているのは、『飛雷身』でゼブルス領のあちこちに飛び、それぞれの村町の兵舎を訪れて、ステータスだけを確認している、という荒業だ。


 もちろんそれ以外にも準備をしていないわけではない。兵舎を訪れるとともに、工房で印刷したアンケート用紙に必要事項を記載してもらい、それを後々ゼブルス家に届けてもらうというものだ。


 もちろん、都合よく休んでいる全員が兵舎にいるわけもないので、一度赴くと、その場で読み取れる全員を読み取り、残りは順次という形で行っている。


(これで2834人、次の村には50人兵士がいるはず)


 考えているうちに次の村が見えた。


 それからは先ほどと同じことの繰り返しだ。


 門番に兵舎の場所を聞き出し、そこで一番偉い奴を呼び簡潔に事情を説明し、その場にいる兵士を呼び集め測定する。


 測定が終われば、紙を渡し、項目に記入してもらい、また次の村に飛ぶ。


 ちなみに魔力だが


 ――――――――――

 Name:バアル・セラ・ゼブルス

 Race:ヒューマン

 Lv:47

 状態:普通

 HP:812/812

 MP:5024/4824+200(装備分)


 STR:99

 VIT:93

 DEX:117

 AGI:144

 INT:176


《スキル》

【斧槍術:53】【水魔法:3】【風魔法:2】【雷魔法:47】【精霊魔法・雷:38】【時空魔法:20】【身体強化Ⅱ:39】【謀略:44】【思考加速:27】【魔道具製作:38】【薬学:2】【医術:9】【水泳:4】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【轟雷ノ天龍】

 ――――――――――


 となっている。


 毎年生誕祭に顔を出していて、その度にイピリアが俺に合った神樹の実を取ってきてくれるおかげでここまで魔力量を伸ばすことができていた。


 そしてさらには今年の生誕祭では俺の色に近い果実が3つも余ったらしく、例年に比べて何倍も魔力を伸ばすことに成功していた。


 だが、こんなMPではすべて回りきるなんて事ができるはずもない。


 ではどうしてこのような手段が取れているのか、それはある発明品が可能にしてくれた。








(本当に千年魔樹とウルに感謝だな)


 服の上から腕輪を撫でる。









 実はこの二年で外部から魔力を供給するシステムを作り出すことに成功しており、これにより魔道具が存在する範囲で俺は工房にある魔石との魔力のやり取りが可能となっている。


 当初は100MPで1MPのみしか供給できなかったのだが、とあるヒントでそれが可能になった。


(魔力に色があるってことがわかれば簡単だったな)


 ヒントはエルフたちが魔力を色でとらえているところからもらった。


 魔力には色が存在し、近しい色ほど親和性が強くなると判明したからこそ、この魔道具を作成することができた。


 例えば赤い魔力の持ち主に青い魔力を供給しようとしても、1/100ほど供給できればいいほうだ、だがこれが緋色の魔力だった場合は1/7まで上昇することできるようになるのが判明した(クラリスの協力の元)。




 現状、魔力は全域から無差別に集め、ある魔石蓄積している。


 だがこの時、色が混ざり合ってバアルの色からは程遠くなっていた、だから二年前はほとんどの供給がうまくいかなかった。


 だが原理を知れば何も問題ない。


 いわばこの魔石から俺に流れてくる途中で俺の魔力の色に変換すればいいだけだ。


 では一体何をしたのか、その答えは簡単だ、途中にある物を挟めば問題なかった。それは何か、答えは俺の髪・・・である。


 生物は周囲に漂う魔力を吸収し、自身の色に染め上げるとクラリスから聞いた。では今度はどこでそれが行われているのかという疑問が沸き上がる。


 ここで俺は魂なんてあやふやな物でないと仮定し、考え、植物を見て思い出した。


 なぜ植物は水と二酸化炭素から炭水化物を合成できるのか、それはひとえ葉緑体という細胞小器官で体内で反応しているからだ。もしこれと同じように生物の細胞の中に魔力を生み出す細胞小器官のようなものが備わっていたとしたらと。


 そこで細胞が体から離れ、さらには生きている状態で放置し、魔力を生み出すのかと実験した。


 培養液に自身の髪を浸し、そこから長く観察をした、もちろん俺は色が見えないのでクラリスにも協力してもらってだ。すると結果はどうなったか、仮説どおり、俺と同じ色の魔力を発し始めた。


 その後は髪の細胞が死亡するまで魔力を発するのを確認でき、さらにそれからの実験により、魔力をなじませた髪は単体でも一年は持ちこたえれることも判明した。


 これにより魔力を供給する装置のめどが立つことになる。まずは大量に魔力を採取した魔石から俺の髪に魔力を流す、その後、髪から発せられた魔力だけを集めて俺とおんなじ色の魔石に注入し、保存する。


 その後は俺の任意のタイミングで魔力を供給する、これにより、俺は膨大な魔力の貯蔵に成功した。


 現在は数値で言うと約120万MPが貯蔵されているのが確認できている。それにより、今まででは考えられない距離を自由に行き来できるようになっている。


 手順としては村に訪れている間に魔力供給装置『インフィニティ』から魔力を供給、そして旅立つ頃には全回復といった具合だ。


(日暮れまであと少し)


 月が出ていれば問題ないが、出てないときは視認が難しく『飛雷身』での移動はできなくなる。故に日の出ている時間が限度だった


(あの村でラストか)


 最後の村に赴き情報を得ると、そのままゼウラストに戻る。














 最後の兵士のステータスをチェックし、書類を渡し終える。それから村を出ると誰もいないであろう山の頂上に移動する。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~、あ゛ーーおわったー!!!!!!!!!!」


 大声で叫ぶと自然と笑いに代わる。


 それほどまでにつらかったのだ。なにせ丸々一月を費やし、すべての兵士のステータスチェックが終わった。もちろん毎日がハードスケジュールで下手したら体を壊していたかもしれないぐらいに。


 後はそれぞれが記入し終わり、それを役人が回収し、届けられるというわけだ。


(ほんとう、何度あの王様の顔を殴りたくなったか!!)


 少し前まで陛下の顔を思い浮かべただけで自然と周囲に放電が巻き起こるほどだった。


「まぁ!でも、この後も……あるんだよな………」


 頭の中で整理するとこれは一番高い山であっただけど、ほかにも十分高い山はある。


「続々届く、調査書を打ち込むのか……」


 ステータスに関してはモノクルを使用した段階ですぐさま打ち込み、簡単な聴取に関しては音声録音をし、すべて『ブレイン』が文面にしてくれたから問題ないんだが。


 紙となると話は違う。


「さて、何メートルの紙の山が出来上がっていることか」


 考えるとどんどん億劫になっていく。


「はぁ~帰るか」


 とりあえず館に向かって飛ぶ。









「さて、バアル様」


 屋敷に戻ると、額に青筋を浮かべているリンに出迎えられた。すぐさま自室に戻り、詰め寄られているわけなんだが。


「仕方ない、置いていったのは悪いと思っているが、そうでもしないと到底間に合わない」

「ですが、護衛としては到底受け入れられない案だと分かっていますよね?」


 リンからしたら絶対に諫めらければいけない案だったのもまた事実。護衛対象が一人で様々な場所に出歩く、そんなこと護衛の観点からしたら絶対に許可できない。


「だが、な、これは王命に近いことなんだ、それだったらほんの少し危険でも行うべきだろう?」

「その説明をエリーゼ様の前で出来ますか?」


 うん、無理だろうな。


 母上はたとえ陛下の言葉でも自分の家族に危害があるのなら突っぱねる。


「一応は私とセレナで留守をごまかしましたが、次に何かあれば、私たちは協力しませんが、いいですか?」

「ああ了解だ」


 今回は何とか説得し協力してくれたが、もう同じことはできないだろう。


「それで、実験のほうはどうなっていますか?」

「ああ、それなんだが」


 ノーパソを開き『ブレイン』とコンタクトを取る。


「ごく一部のアーツを除いては条件を制定することには成功したようなんだ」


『ブレイン』の編集したデータには


『【スラッシュ】:剣術スキル、刀術スキル

         必要MP3

【動作:鋭い斬撃を繰り出す】

【効果:斬撃の強化】

 基準:各スキルレベル5以上

   STR10以上

   VIT10以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【クラッシュ】:斧術スキル

         必要MP3

【動作:力強い振り下ろし】

【効果:衝撃力の強化】

 基準:斧術スキル5以上

   STR14以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル一でも可

 』


『【スイング】:槍術スキル、槌術スキル、杖術スキル

        必要MP3

【動作:横薙ぎの一撃】

【効果:薙ぎ払いの威力上昇】

 基準:各スキルレベル5以上

   STR10以上

   DEX10以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル一でも可

 』


『【ラッシュ】:格闘術スキル

        必要MP2

【動作:なし※殴る時に発動するため】

【効果:殴りや蹴りの衝撃力上昇】

 基準:格闘術スキル5以上

   STR10以上

   VIT10以上

   AGE10以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル一でも可

 』


『【二連速射】:弓術スキル

         必要MP3

【動作:無意識下で素早く矢を番える】

【効果:二本目の矢の自動装填】

 基準:弓術スキル5以上

   DEX10以上

   INT10以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル一でも可

 』


『【デュアルスラッシュ】:剣術スキル

             必要MP7

【動作:最初の一撃から瞬時に返しの一撃を繰り出す】

【効果:瞬時に二度の斬撃を繰り出す】

 基準:剣術スキル10以上

   STR17以上

   DEX15以上

   AGE20以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル一でも可

 』


『【ブレイク】:斧術スキル

        必要MP6

【動作:真上から振り下ろす】

【効果:衝撃の強化に加えて、弱い箇所に分散させる】

 基準:斧術スキルレベル12以上

   STR20以上

   DEX17以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【剛打】:槌術スキル

      必要MP8

【動作:槌を振る(角度関係なし)】

【効果:硬いものであればあるほど内部に衝撃が広がる】

 基準:各スキルレベル13以上

   STR18以上

   DEX22以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【エッジストライク】:槍術スキル

            必要MP8

【動作:素早く突きを繰り出す】

【効果:刺突の威力上昇】

 基準:槍術スキルレベル15以上

   DEX19以上

   AGE24以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【乱打】:杖術スキル

      必要MP11

【動作:連続殴打】

【効果:一定動作を無意識下で連続再現する】

 基準:杖術スキルレベル15以上

   STR15以上

   DEX20以上

   AGE18以上

   INT25以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【アローエンチャント】:弓術スキル

             必要MP13

【動作:なし】

【効果:番えた矢に様々な属性を付与する】

 基準:各スキルレベル5以上

   DEX17以上

   INT27以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【居合】:刀術スキル

      必要MP3

【動作:鞘に納めた状態から素早い一撃】

【効果:無防備状態から瞬時に一撃を繰り出せる】

 基準:各スキルレベル5以上

   DEX18以上

   AGE25以上

   INT15以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


『【拳砲】:格闘術スキル

      必要MP10

【動作:自動で構えを取り、空気を殴る】

【効果:拳の衝撃波を飛ばす】

 基準:格闘スキルレベル15以上

   STR20以上

   DEX18以上

   AGE22以上


 ※上位スキルの場合はスキルレベル1でも可

 』


 代表的に武系初期スキルで最初に覚える二つを挙げてみた。


 現時点ではアーツはそれぞれによって必要なステータス値やスキルレベルが必要とされていることが確認された。


(俺達みたいにレベルアップの恩恵を最大限受けているならまだわかるが、そんなことを普通はしていない、なので高度なアーツになればなるほど使い手が限られてい来る)


 なにせ普通に戦闘を繰り返し、レベルアップをするのならSTR、VIT、AGI関連が良く伸びやすく、DEXやINTが伸びにくくなる。


 これにより、本来必要なステータスを満たすことができず、アーツが使えないという現状が起きるわけだ。


「とはいえ、現時点ではだ、あとから続々とくる書類を見てさらに精査しないとどうなるかは不明だがな」


 また以前から上がっていたステータスなどは満たしているのにアーツが使えないという謎も残っている。本当にどのような形になるかは、書類が届き終わってからとなる。


「それにだ、リン、お前が使っている『風柳』も謎が残る」

「私のですか?」


 以前、リンに聞いたら翠風流という刀術の流派でのみ伝承されるアーツらしく。ほかの者には使えない。


 アーツがスキルレベルとステータスに依存すると仮定したら、矛盾が起きてしまう。


「まぁこういうのはもっと時間をかけて調べないとな」


 コンコンコン


 扉がノックされるので話は中断される。


「失礼します、書類が届きました」


 文官の一人が1メートルはある書類の束を運んでくる。


「……ついに来たか」

「あの、手伝いましょうか?」

「いや、これは俺がやらないといけない」


 なにせ、すべてをこのノーパソに打ち込まなければいけなくて、さらに問題なのがこれ一台と言うことで一人でやらなくてはいけない。


「他のみんなに伝えろ。俺はこれが全部終わるまで、全員に休暇をやる」

「了解しました」


 ここから第二の地獄が始まる。

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