第147話 文明の素晴らしさ

 それから一週間かけてすべての書類が届いたのだが。


(さてさて一人でやると言ったはいいが……パソコンに打ち込むスピードは速くても一枚30秒はかかってしまう)


 一日に食事の時間を抜いて睡眠4時間だと仮定する。


 その状態で一日費やしてできる作業は2400枚、それが約20万枚……………単純計算でも84日かかる。





 うん









「やってられっか!!!」






 全ての足場を埋め尽くすほどの書類の山が存在する。


「普通に考えろ、この量は一人でさばききれるか!!!」


 と言うことですぐさま工房に駆けだす。










 人力で無理であるならば、文明の利器に頼る。


「ケイ素、リン、ホウ素、貴金属少々」


 これらは『魔道具製作』の前のスキル『錬金術』のアーツを使用し抽出した。


(文明の本気見せてやるよ)


 そこら辺の石から抽出したSi(ケイ素)、P(リン)はリン鉱石から、B(ホウ素)はホウ砂から分解抽出している。


 もちろんリンは危ないので赤リンに変換済みだ。


 ちなみにだがリン鉱石もホウ砂もグラキエス家の鉱床はもちろんゼブルス領の数少ない鉱床から十分とることができていた。


(こちらでは少し珍しい石程度で、使い道なんてなかったみたいだからな)


 なのでほぼタダ同然の値段で手に入れることができた。


 この4つでとあるものを作る。


「『改編』」


 ミスリル盤の上で三つの物質が独りでに動き、二種類の物質になった。


「シリコンと半導体の完成」


 作り出したのは前世で電気部品の最重要と言っていい部品、半導体とシリコンだ。


「さらにもう一回」


 次に作っていたシリコンからフォトダイオードに変換。


「次で最後」


 最後にフォトダイオードと半導体を合わせて。


「撮像素子の完成」


 撮像素子、ここまでくれば、あとは分かるだろう。


 俺が作っていたのは撮影機だ。残念ながらこれにはカラーフィルターを内蔵してないので色までは判別できないが、文字を読み込むだけなのでモノクロでも全く問題ない。


「本当に楽だなこのスキルは」


 材料さえあれば、知識だけで再現できる。やろうと思えば、戦車も用意出来てしまう。


 後は二酸化ケイ素からレンズを作成し、光を通さない外装を作り中に撮像素子とレンズを組み込み終了となる。


「あとは画像処理エンジンを組み立てて」


 これにて撮影機の完成だ。


「あとは電波の周波数を合わせて同期、その後に――――」


 処理したデータを『ブレイン』に送信できるように組み、一般的な魔道具同様、吸魔装置、蓄魔器、小型無線機能を組み込み、終了だ。























「じゃあ、後は頼むぞ」

「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」


 あの後、撮影機を量産し、専用の部屋を用意して、ようやく効率化ができた。


 まずは台の定位置に紙を配置、その後、台に固定されている撮影機のボタンを押す。


 パシャ!


 音と光が起こった後、紙を変えて、再び、ボタンを押す、この繰り返しだ。


 これならば一回の作業に、十秒、さらには紙を置いてボタンを押すだけなので誰でもできる。また取られた写真はデータとなり『ブレイン』に転送される。後は項目ごとの情報を『ブレイン』自身が読み取り、集計する。


 これならば台をどれだけ量産できるかでかなりの時間短縮が行われる。


「それじゃあ、後は頼むぞ」

「はい、お任せください」


 事前に手配していた執事見習い達にこの場を任せて、俺は自室に戻る。


「あら、仕事は終わったのかしら?」


 部屋に戻ると、そこにはノエルに給仕をしてもらいながら、ソファで本を読んでいるクラリスがいた。


「いや、何でここにいるんだよ?」

「なんでって?婚約者の部屋なんだから私の部屋同然でしょ?」

「プライバシーって知っているか?」


 クラリスは何のことかしら、と言いながら横になり、本を読む。


「仮にも姫なんだから、その態勢はどうなんだよ」

「いいの、いいの、誰も気にしないし」


 これは何を言っても無駄と思い、椅子に座り、机の上に置いてある書類に目を通す。


「すまんノエル、俺にも紅茶を頼む」

「かしこまりました」


 ノエルは紅茶を取りに部屋を出る。


「ん?そういえばセレナは?」


 クラリスと一緒にいることが多いのだが、別行動か?


「ああ、セレナは―――」















 うぉおおりゃああああーーーーーーーーー!


 ブヒィイーー!


 セレナの掛け声と共に豚のような悲鳴が聞こえる。


「いや、森の中で何やっているんだよ」


 ゼウラストの近くにある森の前で立っていると、先ほどの掛け声と悲鳴が聞こえてきた。


「ほら、少し前から休みだったじゃない?その間にセレナがリンと一緒に冒険者ギルドに登録したのよ」


 ちなみにリンにも休暇を与えているのだが、いつもと変わらず護衛をしている。


「と言うことは何かのクエストをやっているのか?」

「みたいよ」


「うぉおおおりゃあああ、金になれ!!!!!!」


 欲望丸出しの掛け声が響いてくる。


 しばらくすると奥からガラガラと何かを乗せた台車がやってくる。


「あれ?バアル様?なんでここに?」


 セレナが体に似合わない大きな台を押しながら森から出てきた。


 台車にはオークが十匹ほど乗せられている。


 普通なら運べないはずなのだが、【身体強化】を使えばこの程度なら運べてしまう。


「いや、ひと段落したんだが、何やっているのかと思ってな」


 リンは休暇にも関わらず護衛をしてくれているし、ノエルも変わらず給仕を行ってくれる。


 本当に休日と言えるのはセレナぐらいだ。


「理由としてはリンに休暇を見せるためだな」

「私ですか?」

「ああ」


 するとセレナも何かわかった顔になる。


「リンさんは仕事人間ですからね~………よかったら一緒に来ますか?」

「………あわよくば手伝ってもらおうとか考えてるな」


 そういうと明後日の方向を向きそのまま台車を進めていく。










 ゼウラストにある冒険者ギルドに到着すると、台車を持って中に入る。


 そしてもろもろの手続きを終えると。


「はいセレナちゃん、クエスト報酬とオークの買い取り額よ」

「ありがとうございます!!」


 カウンターに乗せられた銀貨13枚を受け取り、セレナは上機嫌になる。


「そっちはお友達?」


 受付嬢セレナの後ろから眺めている俺を見て微笑んでいる。


「はい、セレナがどんな感じで働いているか見て見たくて」


 すると受付嬢は饒舌に話し始める。なんでも100年に一度の逸材だとか、このまま行けば英雄みたいに名前が広がるなどなど。


「でもセレナちゃんは日帰りできるところのクエストしか受けてくれないのよね」

「まぁ、雇われの身ですし」

「でも日給で大銀貨出るところなんてそうそうないわよね?」


 いや、全然出ているんだが。


 今のところ給金はリンに金貨3枚と大銀貨7枚、セレナに金貨2枚と大銀貨3枚となっている。


 ノエルに関しては差別化が無いようにゼブルス家の侍女見習いと同じ給金にしてあるが、もちろん特殊手当として追加で給金を払っている。


「もしよかったら君たちも登録しておかない?」


 話を聞くと登録だけしておけば、好きな時にクエストを受けられるし、何か採取してきた物を買い取ることもできるそうだ。


「それにギルドからの除名は問題行動に対してのみよ、長期間クエストを受けなくても問題ないわ」

「………何か隠してないか?」


 ここまで勧誘する理由が彼女にあるだろうか。


「いや~無いわよ」


 そう言って笑うが、その裏に何かあるのは見て取れた。


「………セレナの友人である俺たちが冒険者になって、本格的に始めだしたらセレナも仕事を止めて冒険者稼業に精を出してくれる、か」


 ッピク


 受付嬢の頬が揺れる。図星のようだ。


「まぁそう言うことなら、登録だけしておきますよ、お前たちはどうする」

「そうですね、しておいても問題ないですね」

「私も大丈夫なの?」

「ええ」

「じゃあ、ここに名前、出身地、年齢、一番得意な武器を記入してね」


 すべてを記入し、終わると紙を持ってそのまま奥に行く。


「にしてもセレナが逸材ね」


 普段のあいつを知っているので何とも言えない。


「いえ、まぁ普通にかなりの実力がありますよ」

「確かに、この中でセレナ以上の魔力の持ち主はいないからね」

「それに全員が武に精通しているわけではないですし」


 リンとクラリスがギルド内にいる人たちを見てそう評価する。








「おい」


 他愛ない会話をしていると。後ろから声を掛けられる。


 振り返ると、同年代ほどの少年二人が近づいてきていた。


「なんだ」

「いま、セレナの知り合いだって聞いたが、本当か」


 テーブルでほかの冒険者としゃべっているセレナを指さす。


「ああ、それがどうした」


 少年は気安く肩を組んでくる。リンが一瞬刀を抜きそうになったが害がないのはわかり切った事だったので、目で静止する。


「なぁ、何とか俺達と組んでくれるように説得してくれないか?」

「………はぁ?」


 何を言っていると思いつつ、鬱陶しいのでとりあえず腕を外す。


「直接言えばいいだろう?」

「いや…」

「まぁ…」


 俺の言葉に二人は何やら歯切れが悪くなる。


 するとタイミングよく登録を終えた受付嬢が戻ってくる。


「お待たせ、あら?」


 受付嬢は二人を見て、変な顔になる。


「二人ともまだ懲りてないの?」

「何かあったのか?」


 すると二人は慌てだす。


「この二人はね、セレナちゃんが登録しているところに来て『お前みたいなガキには無理だ』とか言って挑発したのよ。で、そのあとセレナちゃんにボコボコにされてね~」

「ああ…」


 なるほど話しかけにくい理由が出てきた。

 

「それとこれがギルド証ね。無くしたもう一度最初からやり直しになるから気を付けてね」


 カウンターに俺、リン、クラリスの名前が入った札が置かれる。ドッグタグのような形をしており、名前と出身地、ギルド登録地が記載されている。


「はい、それじゃあどうする早速クエスト受けてみる?」

「いや、今回は登録だけにしておく」


 セレナに戻ることを伝えると、今日の狩りは終了したらしく、共に帰路に着く。

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