第145話 休みが無い夏季休校

 それから夏季休校に入るまでフルク先輩に動いてもらい、『武術』学部全員の情報を得ることに成功した。


 そして夏季休校に入る前にそれぞれ中間試験を行うことになる。この部分は初等部と同じだ。


 もちろん学部ごとに試験内容は異なり。


『武術』は実戦形式の試験。


『魔術』も同じく実戦形式の試験。


『経済』は筆記形式の試験。


 そのほかの学部もそれぞれの形で試験を行っている。


 そして結果だが、『不可』『可』『良』『優』『秀』という形で返され、点数などは発表されない。


 代わりに『不可』になった生徒のみ各校舎にて発表されてしまう。


 これは貴族、平民関係なくだ。


 平民が発表されても誰も気にも留めないが、貴族となれば話は違う。


 普通の貴族なら『不可』なんてものは取らないので、周囲からは『出来損ない』のレッテルを張られてしまう。


 これが嫡男となるとさらにひどいことになるだろう。


(まぁそれ以前に『不可』を取る貴族なんて進級などできるわけもないがな)


 最初の試験は誰も『不可』を取ることもなく終わった。










 夏季休校まで残り数日という時に王家から手紙が届く。すぐさま休みを返上し、ネロとリンを連れて、玉座の前にて陛下と対面する。


「早速だが、実はこれが届いてな」

「それは?」


 陛下からグラスに、グラスから俺に手渡される。


「一言で言えば、アジニア皇国からの招待状だ」


(『ブレイン』が言っていたのはこの事か……また、めんどくさいものを突き付けてきたな)


 これを受けとるということは俺がアジニア皇国まで出向かなければいけなくなる。


 なにせあちらは戦国真っただ中だ、誰が好き好んでいきたいと思うのか。


(何か先延ばしにする方法はないか)


 頭の中でいろいろと巡らせていると、一つの考えが浮かんでくる。


「せっかくのご招待ですが、これはお受けできません」

「ほぅ、なぜ?」

「実はある考察を行っており、その結果が出るまで動けないのです」


 今行っているスキルの研究がある、それを使い、この招待を断ろうとする。


「ほぅ、研究か、どんな内容だ」

アーツに関する研究です」


 宰相、グラス、陛下の頭の上に『?』が出る。


「なぜそんな、研究を?」

「お言葉ですが、アーツは武術をたしなむものであれば、誰もがその恩恵を理解できます。ですが、その実態を正確に把握している者はおりません」


 魔法使いは魔法を強くするために研究するが、騎士や戦士はそうじゃない。


 自身の力を強めるために鍛えはするが、アーツの研究などする奴は皆無だ。


「もし仮に、ごく一部だけが使える強烈なアーツをほかの者が使えるようになったら、グロウス王国はさらに力をつけることができると信じておりますゆえ」

「………その研究結果はいつ出る?」


 有用性は十分できただろう。


「おそらく、夏季休校が終わるまでにはある程度の結果は出るでしょう」


 夏季休校が終われば、秋はゼブルス領の収穫時期で忙しくて行くのは無理、冬季休校は雪の中を通る危険性を訴えることができるのでそれもなんと拒否できる、年明けは新年際、次はノストニアの生誕祭。つまりはこの夏季休校さえ乗り切ってしまえば一年は拒否できる。


「では、再び学園が再開するときにバアルの研究結果を発表してもらうぞ」


(…………は?)


 おもわず陛下の顔を見上げる。


 その顔は俺がどのような考えをしているのかを見抜いて面白がっている顔だった。


「グラス、夏季休校が終われば、ある程度の結果が出ると聞いたな?」

「はい、私の耳にもしかと」


 内心で舌打ちする。


「ですが、ある程度の結果です、そこのところをお間違えないようにお願いします」

「ああ、わかっている、若手の中で最も注目されているバアルのある程度・・・・だろう」


 ここで成果を出せば問題なし、だが結果に満足しなかった場合は評判を落とすことになる。


「(はぁ~)わかりました、研究に尽力いたします」

「うむ、小国とはいえ、国からの要請を断るんだ、それなりの成果を期待しているぞ」


 最後に釘を刺されて謁見が終わる。










 謁見が終わるとグラス殿に呼び止められてとある部屋に案内される。


 そしてその部屋には当然のように陛下が居座っている。


「さて、バアル殿、少しだけ意見を聞きたい」


 グラス殿からとある紙を渡される。


「これは?」

「アジニア皇国の戦歴だ」


 使節団を送った直後から影の騎士団は動き出していたみたいだ。


「連戦連勝ですね」


 規模の小さい戦から大がかりな戦の戦歴が書かれている。


「ああ、そのため、国土が三割増加したのを確認している」


 領地に関しては元が小国ってのもあるが………それより連戦連勝というの凄まじい。


「これはジュウという武器の恩恵だと、我々は捉えている」

「でしょうね、訓練してない農兵でもジュウを持たせて横に並べるだけで、十分な武力となりますから」


 日本に行われた鉄砲三弾撃ちはかなり強烈だったと聞いたことがある。


「そこでだ、グロウス王国でもジュウを開発をするべきだという声が上がっているのだ」

「………はい?」


 思わず返事が遅れた。


「どこですか、そんな声を上げているバカは」

「……エルド殿下が自分の部下に言い聞かせている」


 グラスの言葉に思わず手を目に当てて空を仰ぐ。


「失敬、これは失言でした。ですが、なぜエルド殿下が知っているんですか?」

「アジニア皇国の使節団の中にエルド殿下の派閥貴族が加わっていたんだ」

「それでジュウのことを知ったと?」


 グラスは頷き肯定する。


「はっきり言います、現時点でジュウを作る必要はないと断言させてもらいます」

「根拠は?」

「とある伝手でジュウと火薬を手に入れました。それの威力を推し量るためいくつかの実験を行ったところ、銃を優先するんじゃなく魔法を優先する方がいいという結果が出ました」


 ジュウでは軽い土嚢や数メートル幅の水を貫くことはできなかったと報告する。


「なるほど」

「厄介なのは、ろくに訓練していない兵士をある程度武力を持たせることができて、さらにはあまりにも早いため見ることが難しいという二点のみです」


 前世の世界なら銃という兵器が強いのはわかる、だがここは異世界だ。


 すぐさま土嚢を作り出すこともできれば、宙に浮く水の塊すらも生み出せる。


 さらにはエルドの腕輪のように自動で障壁を張る魔道具を準備できたのなら、もはやジュウの無力化が可能だ。


 なので本当に富国強兵にしたいのなら魔法を強くするべきという結論となる。


「なるほど貴重な意見を出してくれて感謝する」

「いえいえ………それとまだ話を続けた方がいいですか?」


 俺は窓際で陛下と楽しく話しているネロを見る。


「そうだな、問題ない範囲で頼めるか」

「了解です、では」


 それから影の騎士団で明かせる活動報告。


 国内の情勢についてわかりきっている部分をお互い、おどけながら話し合った。











 それから終業式を終えると、すぐさま紙の資料や必要なものを馬車に詰め込んでゼブルス領に出発する。


「えっと、なんで僕が連れてこられたの?」


 馬車の中には、俺、リン、セレナ、クラリス、ノエル、ネロともう一人、フルク先輩がいる。


「以前説明しただろう?」

「えっとスキルの研究をするから夏季休校ゼブルス領に来てほしいんだよね?でもなんで僕が?言ってもそこまで優秀でもないよ?」

「実は、また夏季休校が終わるとスキルについての考察を発表することになった、長年スキルについて研究している先輩の力が役に立つはずだ」

「そっか、でも研究結果を発表か、緊張するな~」


 そういって呑気に外を見ているのが少しだけいらだったので爆弾を落としてやる。


「そういえば、来年で卒業だよな?」

「そうだね、僕はそこまで優秀でもないからこれが終わったら職を探すよ」

「では後輩からの贈り物ということで先輩が結果を発表しないか?」

「僕が?」

「ええ」


 研究結果を発表し、それが好評なら、知名度が上がる、そうすれば職も探しやすくなるなどいい言葉を並べてやる。


「うぅ、バアル君ありがとう、その役受けさせてもらうよ」

「いえいえ、では陛下の御前での発表を頼む」

「ああもちろ…………………………………………………ん?」


 言葉を処理しきれなかったらしく、かなりの長い時間固まった。


「ごめんもう一度言ってくれない?」

「だから陛下の御前で」

「へいか?平価?兵科?あれどっちの意味?」

「どちらでもない、グロウス王国国王アーサー・セラ=ルク・グロウス陛下のことだ」


 すると再び凍り付く。


 先輩が再起するまで資料を確認する。








 それからゼブルス領の屋敷に着き、客室に案内されてもフルク先輩はフリーズしたままだった。


「それで、これはどういうことだ?」


 そんな先輩を放っておいて、執務室に向かい。とある書類を父上に提出する。


「はい、騎士団のステータスチェックをさせてほしいのです」

「う~ん、非番の騎士や兵士のみなら許可しよう」

「それでいいです、お願いします」


 条件を新たに加えると、父上はサインと公爵家の家紋を入れてくれる。


「では失礼します」


 書類を受け取るとすぐさま扉をあけ放ち、移動する。






「いや、理由を聞きたかったんだが………」


 執務室には何が起こったかわからず固まっている当主様の姿を何人かの執事やメイドが目撃したという。









 すぐさまリンとセレナを引き連れて、ゼウラストにある様々な兵舎を回る。


「そこまで急がなくても」

「だめだ、研究のためのサンプルは多いほうがいい」

「どのくらい?」

「ゼブルス家で雇っている兵士や騎士全員、欲を言えばゼブルス領にいるすべての戦闘職にだ」


 そういうと二人は驚愕の視線を向ける。


 なにせゼブルス家の兵士は総数20万だ、約二か月の休暇期間があるとしても一日に3~4千人調べないといけない。さらには鑑定のモノクルは俺の持っている一つと家にある一つなので文官を送り込み調べていてもらうなんてこともできない。


 教会に調べてもらうという手もあるが、もちろん実費では兵士たちは納得しないし、こちらが負担をすれば金がかかりすぎる。


 もう一つさらに、父上の言葉で調べられるのは非番の兵士に限るとされている。


「こんな状態で急がないといけないに決まっているだろう」


 説明してやると、理解はしたようす。だが感情ではやりたくなさそうだ。


「ほ、ほんとうにやるのですか?」

「や、やるならゼウラストの人たちでもいいのでは」

「バカか、百人に調べた情報と一万人調べた情報どちらがより精巧かは言わずともわかるだろう?」


 説明していると、さっそく一つ目の兵舎にたどり着く。










 日が落ちるころ、自室にて今日の成果を確認しているが。


「だめだ、これじゃあ間に合わない」


 一日目が終了した時点で、約千人しか調べることができなかった。


「ば、バアルさま」


 いつもは何も言わないリンでも今回は疲れたようだ。


「陛下に説明するのであれば、影の騎士団に尽力してもらえばいいのでは?」

「それだと、功績が俺ではなく影の騎士団になる、それはできない」


 発表はフルク先輩にやらせるが、研究者の名前を俺にしなければいけない、もちろん協力者なども書かなければいけない。


「仕方ない、あの方法で行くか」


 道中にふと思いついた、最悪を想定していた案を実行する。

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