第144話 スキル研究

 翌日はノートパソコンを持って部室に入る。


「それはなんだい?」

「資料の整理に便利な魔道具です」


 早速、資料を総てパソコンに打ち込み、データ収集を行う。


 さすがにこれだけの資料を人力でまとめるのはあまりにも手間がかかりすぎる。迅速に記録を活用するためにはすべてのデータをアーカイブ化したほうが手っ取り早かった。


「そんな魔道具があるのか?」

「ええ、それと」


『亜空庫』を開き『鑑定のモノクル』を取り出す。


「リン、先輩について行って、ステータスの情報も集めてきてくれ」


 今日はすでに武術の鍛錬が早く終わったらしく、護衛としてリンもこの部屋にいた。


「いいのですか?」

「そうですよ、もし万が一壊れたとして、僕には弁償できるお金はないですし」

「そこは大丈夫だ、リンなら万が一も起きない」


 この言葉を聞くとリンは頭を下げ、礼をする。素面で礼をしようと意識しているのだろうが、頬が若干にやけていた。


「それに一回で銀貨一枚を取る教会とは違いこっちはタダで計ることになる、十分協力的になってくれるはずだ」


 部費が出ると言っても、個人に鑑定料を払ってしまえばカツカツになるはずだ。全員がタダで計ってもらえるなら諸手を上げるだろう。それもこちらは情報収取の為なので詐欺などの心配もありはしない。


「ではフルク先輩、リン頼む」

「了解です」

「こっちこそありがとう、貴重なモノクルを貸してくれて」


 二人は部屋を出る。


「さて」


 パソコン内の一つのアプリを開く。


『ハロー、調子はどうだい?』


 チャット欄に文字を打ち込むと。


『問題ありません、マスター』


 返事が返ってくる。


 俺が開いたのは人工知能アプリケーション『ブレイン』だ。


『本日はどのようなご用件でしょうか?』

アーツについての統計を取ってみた項目を絞り分布図を取ってみてくれ』

『了解しました』


 この人工知能、まぁいわゆるAIは俺の工房の生産体制と防衛設備の権限を与えている。生産したい魔道具を伝え素材を渡すと自動で作ってくれるし、もし仮に工房に侵入者が現れたら全ての防衛機構を操作して地獄を見せる存在だ。


 もちろん、ほかにも些細な情報処理や、魔導人形キラの操作、現在使われている通信機の会話ログも記録させている。


『一つ報告ですマスター、影の騎士団に新たな情報が加わりました、なにやらマスター絡みなのでご注意くださいませ』


 なので当然ながら影の騎士団の通話のやり取りも『ブレイン』は把握しているので影の騎士団よりも先んじて情報が手に入る。


「…………アジニア皇国みたいなことはごめんだぞ」


 そしてなぜ影の騎士団の情報を得られているかと言うと、実は通信機のすべてに盗聴器を仕込んでいる。これにより影の騎士団や黒霧の館のやり取りは筒抜けになっている。


 内容は後回しにして、とりあえず情報を打ち込み続ける。


『現時点の情報の集計完了、結果から申しますと現時点の統計データのみでは統計は確認されませんでした』


 現時点での情報を送っても結果は出ず、完全にわからなくなった。


『現時点でのどのような条件だと考える?』


 限定的とはいえ、AIを積んでいるので、こういった質問もできる。


『不明と判断せざるを得ません。仮にステータスの情報が集まったとしても傾向が見えない可能性もあり、十分な数が集まれば傾向が見える可能性もあります。ほかにもこれらとは違う項目が存在することも考えられます』


 ということでデータを打ち込まなければどうなるかわからない。


 ひとまずフルク先輩が採取したデータをすべて打ち込む。


 約三分の一を打ち込むのだが。


『残念ですが、これ以上行っても意味がありません、新しい項目でもない限り』


 という返信が帰って来る。


(まぁ、そうだよね)


 映し出された分布図はまとまりがなく満遍なく広がっていた。


(解った事と言えば身長、体格、体重、性別には、アーツの使用条件に含まれていないということか)


 集められたデータの結果、これらの項目が『関係ない』とわかるだけだった。


「となるとあの二人のデータ待ちだな」













 それから結構な時間がたつのだが二人はいまだに帰ってこなかった。


(遅い)


 まさか、学園内で襲われたなんてあるはずもないので心配はないのだが。あまりにも遅いのでこちらから出ることにした。










 データを取るにあたってアーツを使用するので目的の場所は『武術』学部なのだが。


「「「「「お~~~~」」」」」


 何やらグラウンドで、歓声が巻き起こっている。


「おら『炎波』」

「『極光の聖盾』」


 特大の炎の波が人影を飲み込もうとすると、一人を丸ごと包むようにオーロラが現れて、炎から防ぐ。


『ははは!』






「はぁ~~」


 笑い声を無視して、俺はため息を吐きながらブレーキ役を探す。


「あら、ごきげんようバアル様」

「久しいな、ユリア嬢」


 案の定ブレーキ役は観客席の最前列にいた。


「なんでこんなことになっている?」

「どうやらイグニアがアークさんのユニークスキルに興味を持ってしまったようで」


 模擬戦したいとイグニアが言い出してしまったとかで、何とかユリアがアークを丸め込んで模擬戦をさせているようだ。


「(双方が合意しているのならいいか)それより、リンを見なかったか?」

「リンさんですか?先ほどこの会場を出ていくのが見えましたよ」


 ちょうど入れ違いになってしまったのか。


「そうか、邪魔をし」

「そういえば、収穫権のオークションとはいい考えをお持ちですね」


 この場を去ろうとすると後ろからそんな声が聞こえてくる。


「ああ、あれなら必ず標準的な・・・・利益が出るからな」

「ええ、そうですね」


 ユリアは軽く微笑んでいるが、笑顔の裏では歯ぎしりでもしているのだろう。


「ゼブルス家での徴税した作物はどのように使用するのですか?」


 つまりはオークションの分は諦めるが、税で集めた作物はどうするのか、と聞いてきている。


「そちらに関しましてはイドラ商会特製の超大型冷凍倉庫にて長期保存していますよ、いつ何が起こるのかわかりませんから」


 暗に売る気はないと告げる。


「あらそうですか、ではもし何かあった際は援助を求めてもよろしいですか」


 ユリアの言う何か・・とは食料不足も含んでいるんだろう。となると食料不足で苦しんでいる領地からの要請には応えてくれるのか?と聞いている。


(痛いところを突きやがって)


 その要請の間にイグニアの派閥が入れば、形だけ見ればイグニア派閥からの施しということになる。


 それが狙いでユリアはこのようなことを聞いてる。


「それは、父上、ゼブルス家当主にご相談ください、おそらくですが陛下と協議したうえでの判断になるでしょう」

「陛下がですか?」

「はい、父上は農業大臣の地位も得ています、我が領地の備蓄はもちろん、その保存した物の中には国に何かあったときに放出する分も含まれます。もちろんこれには陛下の許可が必要です」


 これは本当の話で備蓄の中には国が飢饉の際に使う分もあるのだ。


 話を持って行っても、様々な理由で突っぱねられるだろう。


「……なるほど、そういえば我が領で何やら採掘量が減少傾向にあるのは御存じですか?」


 言葉の裏に、鉱石を値上げするぞと脅している。


 グラキエス家との条件は『市場価格よりも安く提供する』というものだ。


 となると市場価格を上げてしまえば値段を吊り上げも可能になる。


「へぇ、そうなんですか、それは残念です」


 だから何と告げるとユリアの眉が少しだけ動いた、おそらくは少しは牽制になると思っていたのだろう。


 だが残念ながら、すでに満足な量の鉱物を仕入れることはできている。


 それも当分の間、鉱石類を必要にしないほどにだ。


「もしかして魔道具の値段が上がったりしますか?」

「まぁ多少は上がるでしょうが、許容囲内でしょう。ああ、もちろん値上げの理由は公表はしませんよ」


 今度はこちらが脅す番だ。


 もし急に値上がりしたら、どう見ても不自然だ。それゆえに目ざとい者は原因を探るだろう。もちろんグラキエス家にたどり着くのは明白。


 さらには密約が表に出てない以上、外野からはグラキエス家がゼブルス家に圧力をかけているようにしか見えない。


 それを受け入れずやむを得ずに魔道具の商品が値上がりをしてしまった。


 さて外野はこれを見て何を予想するだろうか。


「……」

「では、私はこれで、ああ、もちろん約束は守りますので」


 約束を破ったわけではないと言い張る。


 最後に見たユリアの顔はすべてを凍らせるような笑顔だった。








 入れ違いになったので、部室に戻るとすでにリンとフルク先輩がいた。


「バアルさま、これが調査結果です」


 部室に戻ってくるとリンが調査したステータス一覧を差し出してくる。


「……意外に集まったな」


 数にして数百人の情報が載っている。


「まぁ、普通に測ろうとしたらお金が掛かりますから」

「ただって言った瞬間にほぼすべての生徒が押し寄せてきたからね、それで遅くなったんだよ」


 自身のステータスがただで測れる、利用しない手はないだろう。


 二人が遅くなった理由を把握する。


「じゃあ早速」


 俺は早速、名前とステータスを打ち込み始める。


「にしてもあれは、大丈夫なのかな?」

「大丈夫ですよ、イグニア様も強引なところはありますが義理堅いので」

「まぁそうだよね、にしても今年の進級生のなかにユニークスキル持ちがいたんだね」

「ええ、結構有名なんですけどね」

「ユニークスキルだとイグニア殿下が有名すぎるからね」

「アークも結構有名ですよ、ノストニアの先王に通行許可をもらっていますから」


 どうやらアークがイグニアと模擬戦している原因は二人にあるようだ。


 話の続きを聞いていると、とある部活の人たちにステータスのチェックをしていると偶然アークたちが通りかかって、彼らもステータスチェックをした。


 そこに偶然にもイグニア殿下が居合わせて、ユニークスキル持ちと模擬戦をしたいといったのが元凶みたいだ。


「そういえばリンさんは従魔がいるんだよね?」

「ええ、まだ連携の授業に入っていないので屋敷にいますが」

「できれば従魔のデータも取ってみたいんだけど、いいかな?」

「では学園に、連れて来た時に立ち寄りますね」

「よろしく頼むよ」


 二人がしゃべっているとアプリに通知が来る。


『一つ質問です』

『なんだ?』

『ステータスの具体的な定義を教えてください』


 アプリに書かれた言葉を見て固まる。


(ステータスの具体的な定義)


 ステータスが何の数値を現しているのか。


(そういえば調べたことはなかったな)


 一応は筋力、耐久力、器用さ、敏捷性、知能と神から説明を受けたがどういったメカニズムで決まっているのかはまだ不明。


『一応は―――』


 ひとまず神からの説明通りに教える。


『意外です、マスターならすでに何の数値化か把握していると思っていました』

『うるさい、それで何かわかったか?』

『はい』


 そこには五角形のステータス表示がされる。


『まずはスキルレベルごとに分け、それぞれあるアーツを使用できるものとできないものに分類、それらのステータスを確認しましたところ、見事当りと思しきものを引き当てました』


 表示される表を見て理解した。


 結論から言うとアーツは最低限のスキルレベルを持ち、さらに一定以上のステータスが必要ということが判明したのだ。


『ですが、稀に基準を満たしていてもアーツを使用できない者もいます。それらに関してはさらなる情報も必要になると考えます』


 確かに数名は基準を満たしてもアーツの使用ができない。何かしらの条件が存在するのか、はたまたほかの要因か、さらに調べていく必要がある。


「今後はそれらも考えていかないとな」

「ん?」


 ちょうど使い勝手のいい研究員もいるので人手には困らない。

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