第143話 同好会

「バアル様部活見に行きましょう!部活!」


 式が終わり、帰ろうとしているとセレナがそう言う。


「部活か……いいかもな」


 初等部では学園が終わると、そのまま帰宅し、イドラ商会から届けられている書類を片付けたり、要請がある場合はキラのほうを動かさなければいけないため時間がなかったのだが。この二年でイドラ商会の人員も増え俺が担当する仕事量が少しづつ減っていた。今はでは緊急の仕事以外では日に3時間ほど仕事を行えばいいだけとなった。もちろん政務はそうとはいかないが、残念ながら王都にいるときにゼブルス領の政務に関わることはないので、政務に関してはすべて父上に行くようになる。


(それに中等部は初等部と比べて授業が少ないからな)


 初等部はすべての強化を満遍なく履修させるため、勉強の時間が多いが。中等部に進むと一定の科目だけになるので必然的に授業が減る。


 そのため部活などに時間をさけるようになった。


「では行きましょう!!」


 そういってセレナに連れられたのは中等部の中心にある広場だ。


 初等部のクラブとはまた違い、中等部の部活は正式に学園から部費が出る。


 では初等部ではどうやって資金を賄っていたのかというと、親御の実費や卒業生からの寄付であった。クラブでは学園が居場所を貸し出すだけで、あとは自分たちで好きにやってくれというスタンスを取っていた。


 そして部活だがクラブとは違い、成績と人数さえそろえることができれば部室を拡張したり、部費を大きく上がるため、人集めがかなり活発に行われている。


 そのため―――


「剣術部!剣で力をつけたいのならここにはいるべきだ!!!!」

「槍術部!安全な間合いを取って戦いたいならここだよ!」

「弓術部、ギルドでの小遣い稼ぎなどにも使える便利な部活だよ~」

「拳術部~武器がないとき戦えないと困るよね、そんなときには拳で戦うしかない!クラブに入ってなかった人も歓迎だよ」


 といった風にお祭りもかくやという具合に帰り道すべてで部員の呼び込みが行われている。


「ここはまだいいほうですよ」


 セレナの話だと、各属性魔法の部活はさらに躍起になって新人部員を確保しようとしているとか。


「魔法でパフォーマンスをするんですけど、当然各属性の優劣があるじゃないですか、となると得意属性に対して嫌がらせをしているんですよ」


 少し気になって魔法方面に行ってみると、それぞれ高台を設置し、魔法で攻撃しあっている。


「燃えろカス!」

「凍らせて黙らせろ!」

「去勢してやるからじっとしていろ!」

「てめぇら全員つぶす!」

「邪魔すんなボケ!」


 罵詈雑言が飛び交いながら、魔法も飛び交いお互いを攻撃する。


 もちろん威力は調節しているらしく初級魔法しか使っていない。


「は~い、けがした人はこっちに来てね、光魔法で癒してあげるから~」


 その中心で、『光魔法』の部活がけが人を介抱していた。


「お前ら、しっかりと受け止めろよ」

「「「はい」」」


 外縁部では『闇魔法』部の全員が闇魔法で被害が出ないようにしていた。


「ああ、うん、やめておこう」


 殺伐している雰囲気がでているので入りたいとは思えなかった。


「ここに入る奴はいるのか?」

「ええ、まあ、初等部のつながりなどで」


剣聖ソードマスター』からそのまま剣術部へ、『太陽槍ブリュナーク』から槍術部といった具合に初等部のクラブの延長線上にある部活に入るのが普通らしい。


 もちろん魔法関係のクラブもしかり。


「ん?あっちはなんだ?」


 横道を見てみると何やら細々とやっている集団がいる。


「あ~あそこは同好会の場所ですね」


 当然ながら部活と認められない集まりもある、それが同好会だ。


「部活になるにはそれなりの実績などが必要になりますしね」


 部員の数、実績を証明して晴れて同好会から、予算を支給される部活となる。募集している場所も部活とは違い、細道の方角だった。


「『筋肉同好会』『美脚同好会』『美肌同好会』『遊戯同好会』『魔物同好会』『料理同好会』

『算数同好会』『歴史同好会』『鉱石同好会』『小麦同好会』『小技同好会』『宴会同好会』…………」


 読み上げた中には妥当なものもあれば、ナニコレというものもあった。


 ……というかほとんどがナニコレに類するものだったが。


「これは部活にはなれないな」


 どう考えても人員を集めうることも難しいし、実績を作るのだって不可能に近い。


『美脚同好会』や『美肌同好会』ってなんだよ、見る方なのか、それとも体を維持する方なのかすらわからん。


(それにどうやって実績を作るつもりだよ、婦人方にでも売り込むのか?)


 リンが以前取った『高濃度保湿液のレシピ』がダンジョンから出てくるぐらいだ、一通りの化粧品などは出回っている中、資金も知恵もない状態で実績を作るというのか。


 さっさと同好会の範囲を出て部活のところに戻ろうとすると、一つの同好会に目が留まる。






「おい」


 声をかけたのは『スキル研究同好会』という看板が掛けられたテーブルだった。


「は、はい、なんでしょうか」


 俺の声で起こされた男は涎を拭き、すぐさま姿勢を正す。


「ここは、何をしているんだ?」

「はいぃ、ご説明しますと」


 すると足元から何かの資料を取り出す。


「ここは『スキル研究同好会』、名前の通りスキルについてを研究する同好会となっています」


 そして資料を開き見せてくる。


「教会が有する『神鑑の眼』や『鑑定のモノクル』でステータスを見るとスキルというものが乗っています。ですが、いままで不思議に思いませんでしたか?それはどうやって決められているのか、どうやってレベルが上がるのか、なぜ習ったことがないアーツが使えるのか、と」


 この世界ではスキルは常識だ。


 常識であるがゆえに、誰も疑問に思わず恩恵を得ている。前世なら、なんで足を動かせれば歩けるのか、といった具合に。


「で、どんな活動をしている?」

「今のところはほかの部活などに協力してもらいスキルについて観察しています」


 スキルのレベル統計、使用できるアーツの種類と人員分布、スキルレベルは足りているのになぜだか使用できないアーツ


 こういったもののデータを集めてスキルとは何なのかを解き明かそうと設立された同好会みたいだ。


「まぁ私が中等部1年の時に発足しただけなので、まだ二年しかたってないんですが」


 そういって頬を掻く。


「……面白そうだな」

「「え?!」」


 リンと少年は驚く。


「…ここがですか?」


 リンはこれの何に興味を抱いているのか理解できない様子。


「ほ、本当に?」

「ああ、ダメか?」

「い、いえ!むしろよろしくお願いします」


 そういって頭を下げる。


(いや、本来はこっちが頭を下げるんだが)


 その後、同好会の入会書に名前を書き込み、晴れて『スキル研究同好会』入会した。
















 それからは学園が終わると同好会の部屋に向かう。と言っても同好会なのでボロボロの廃校の教室を一つを借りているだけが。


「ではフルク先輩、資料を見させてもらう」

「どうぞどうぞ」


 現在、この研究会には俺とフルク先輩のみが所属している。


 フルク先輩の資料には身長、体格、体重、性別、年齢の個人情報にスキルレベルと使用できるアーツについての記述がびっしりと書かれている。


「リストで見てみると、人によって使用できるアーツとできないアーツがあるな」

「そうなんだよ、だからこそ細かくデータを取っているんだけど、理由がわからなくてね」


 一つのアーツで傾向を取ってみても、ほとんど傾向と呼べるものがなく、しいて言えばスキルレベルが一定以上が必要という条件しか出てこなかった。


「スキルを上げれば、使えるアーツが増える、これの原理がさっぱりでね」


 アーツという一定動作をスキルを上げるだけで習得できる。本当にゲームの世界みたいなシステムだ。


「いろいろな文献を見ても、スキルに関する記述はそれぞれ違ってね~、ある国では人の本能に植えられていたものを呼び覚ますだとか、人によっては親や祖父、祖先から受け継ぐことができただとか、人が神より与えられた恩恵だとか、どれも根拠がないものばかりだったよ」

「ではフルク先輩は何がスキルの本性だと思う?」

「それを調べているんだけどね」


 資料を眺めて言うと一つ疑問がある。


「ステータスについての資料はないのか?」


 するとフルク先輩は片方の腕で親指と人差し指を付けた状態で掌を広げ、その後反対の腕で手を振る。


 つまりは金がないということだ。


「どこかにパトロンでもいればいいんだけどね~」

「そうだな」


 こちらを見てくるが無視して資料を確認する。


「っと、すまない、調べ物をしてくるよ」


 そういうと紙とペンを持って部屋を出ていく。


アーツを使用するにはスキルレベルが必須なのは理解できる、だが使用できる奴とできないやつがいる、なぜだ?)


 体格も性別もスキルレベルも同じで、使用できるアーツに違いが出ている。


(魔力に関係するのか?)


 クラリスやエルフからしたら魔力でも千差万別に見えるらしい。


 ならばその魔力の違いで使えるアーツに違いはあるのか?


(クラリスに確認してみるか)


 帰ると書置きを残し、屋敷に戻る。
















「はい?スキルに魔力は関係しているかって?」


 俺の部屋のソファで寝ているクラリスに尋ねてみる。


「結論から言うわよ、無いわ」

「言い切れる根拠があるのか?」

「ええ、私たちは魔力を見ることができる、ということはアーツの前兆も確認できるのよ」


 クラリスの話だと、過去にこの手の議題で研究した変わり者のエルフがいたらしい。


アーツわね、魔力による一定強化しか行っていないのよ」

「どういうことだ?」

「たとえばね―――」


 例えば【剣術】に『スラッシュ』というアーツがある。


 これは普通の斬撃を強化し、強いダメージにするというもの。もちろんこれにも魔力消費がある。


 さて、ではここで消費された魔力はどこに行ったのか。その変人のエルフが調べてみた結果、腕の局所が【身体強化】され、さらには剣の刃先に薄く張り付いていたことが判明。それも剣先よりもさらに鋭角の刃のようにしてだ。つまり『スラッシュ』とは腕力を一時的に強化し、剣先をさらに鋭くするように魔力が作用し、切断力を強化しているアーツだとわかる。


「ここで言いたいのがアーツは基本的な強化のみよ、属性攻撃でもない限り、ただ魔力自体があればいいということになるわ」


 なので、例えその薄い魔力が赤でも、青でも、黄でも、黒でも関係なく。ただ張り付き、より鋭利に変化させることができればいい。


 もっとわかりやすく例えるなら水車を回すのには液体が必要になる、だがここで必要なのは液体という状態の物質で、塩酸だろうが、真水だろうが、海水だろうが、何でも構わないということだ、いわば水車が回りさえすればいい。


 なので魔力の色、質などは関係ないらしい。


「それにしても魔力か」


 何とも不思議な物で、こうしてスキルについて調べて、魔力自体に原因があると分かると、魔力自体にも謎があり、調べたくなる。


 とりあえず頭を振り払い、魔力の質や色はアーツの使用には基本的に関係ないと理解した。

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