第131話 情報経路として

〔~セレナ視点~〕


 敵が挟まれるのを私を見ていた。


「……終わりよね?」


 これが突破されたら本当に勝ち目はない。


 なにせ発動している魔法を解除してまで魔力をかき集めてから発動させていたる。魔力が底をつき、私もふらふらになりそうだった。


 しばらくしても反応がないので問題ないと判断し、魔法を解除すると閉ざされた咢は崩れていく。


 中心の部分を見てみると、つぶれている片腕を見つけた。


「私は悪くないわよ」


 多少の罪悪感にさいなまれるが、これは正当防衛だ。責められるいわれはない。


「あっ」


 片腕の先に先ほどの短剣が落ちている。


「………戦利品としてもらうわね、来世はまっとうに行きなさい」






 その後、ボロボロになった家を見ておもわず膝をつきうなだれるセレナの姿があった。











〔~バアル視点~〕


「よくやったな」

「ですね」


 少し離れた建物の屋根で俺とリンはセレナの戦いを見ていた。


「にしても最後は逃げられましたね」


 俺とリンの目にははっきりと見て取れていた。


「じゃああとはキラがうごく」

「はい、ご武運を」


 キラは『完全迷彩』を使用し闇に溶け込んでいく。







〔~???~〕



 ボタッボタッボタッ


 無くなった左腕から血をたらしながら、一人の男が路地を進んでいく。


「っち、くそが!!」


 おもわず苛立ち壁を殴りつける。


「最後の最後で持ってかれた!!!!!!!」


 何度も殴り苛立ちを消化する。




 最後の触手に腕をつかまれたのは最悪なことに短剣を持っていた左腕だった。あの短剣があれば触手を簡単に切断することが出るのだが封じられる時点で使えない。かといって普通の剣ならば様々な方向から出てきている触手を切り取るのは少しだけ時間がかかり、その時間があれば俺は挟まれて潰される。よって一回で拘束を解くために短剣と左腕を犠牲にして難を逃れるしかなかった。


「命には代えられねぇが………くそっあれを手に入れるのにどれだけ苦労したと思っている!!」


 憤慨するが一度冷静になる。


「まぁいい、この世界ならこれさえあればとりあえず食っていける」


 耳飾りを右手で触る。


「はぁ、報告もしなければいけないか」


 そのまま入り組んだ路地を進み、報告するために一つの建物に入っていく。


 建物の最上階の部屋に入ると雇い主がそわそわしながら待っていた。


「どうだ、!?」

「わりぃな失敗した」

「なに!?たった小娘一人だぞ!!」

「ああ、以前はな」

「……どういうことだ?」


 俺は戦いで気づいたことを報告する。おそらくだがあの小娘に支援している存在がいることを、前と違って魔力の量がけた外れに伸びていたことをだ。


「―――ということで失敗した」

「そうか、やはり、あの小娘には何かあるのか」

「だろうな」


 これからどうしようか考えていると、通ってきた扉の奥から凍えるような気配を感じる。


 シャキ


 すぐさま剣を取り構える。


「おい!?なにを!?」

「誰かいるぞ!!」


 そういうと依頼主も理解したのかすぐさま、例のジュウを取り出し構える。


 ギィ……ギィ……


 扉の向こうから少しずつ歩いてくる音が聞こえる。


 コンコン


 扉がノックされる音が聞こえる。


 ………クイ


 依頼主を見ると顎でお前が行けと促されるので慎重に扉の前に移動する。


 ………そっ


 まさに扉に触れようとしたその時


 ガゴン!!


「がはっ!?」


 扉を突き抜けてきた腕が頭を鷲掴みにする。


「おのれ!!」


 ボォン!


 依頼人のジュウが発射されるが銃弾は当たることなく地面に落ちる。


「な、なにが?」

「この!?」


 なんとか離れようとするが剣が何かに阻まれて体まで届かない。


「お前には用ない」

「まっ、待ってく」


 グシャ


 これが俺が最後に聞こえた音だった。













〔~バアル視点~〕


 頭を握りつぶし、こと切れた男を放り投げて、部屋の中にいる男に対面する。


「………」

「ひぃ!?」


 すぐさま逃げ出そうとするので取り押さえる。


「こ、ころさないでくれぇ!」

「安心しろ、とりあえずは殺すつもりはない」


 男を引きずり強制的にソファに座らせる。


「さて、いくつか聞きたいことがある」

「な、なんだ」


 先ほどの行動からとりあえず殺されないってことがわかったようだ。


「お前はどこの組織だ?」

「き、聞いてどうするんだ!」


 気丈にふるまってはいるが足が震えている。


「どうやら勘違いしているようだから、先に言っておく、俺がここに来たのは手を組まないかということだ」


 すると男は驚く。


「な、なぜ?」

「まず確認させろ、お前はフォンレン商会に所属しているものだな?」

「………ああ」


 調べればわかると観念したのか素直に頷いた。


「さて、取引というのは簡単だ、アジニア皇国の情報をこっちにながせ」

「!?………どういうことだ?」

「なに、今の裏界隈ではアジニア皇国の情報が高値でやり取りされている。ただそれだけのことだ」


 これは嘘ではなく本当だ。様々な裏組織が暗躍し、様々な情報が売買されるようになっている。


 むろん、向こうからの情報だけではなくこっちからの情報も存在はしているが、それは影の騎士団の仕事だ。


「いいだろう、だが名を明かしてくれないか?」

「……そっちが言ったらな」


 少し考えた後に、こちらに顔を向けた。


「私はロンラン商会外部仕入れ担当ムジョンという」

「よろしくムジョン、で、なんであの少女を狙った?」

「………」


 ムジョンは何も言わない。


「はぁ~」


 仕込みの剣を取り出し、眼前に突き出す。


「今回の襲撃であの少女を狙った。あの少女はフォンレンがえらく執着している存在だ、フォンレンは自分の部下にその理由を話しているのも確認している。そんな存在を殺すのは一つ、フォンレンと敵対しているに他ならない」

「…………」

「ちなみに理由は陛下自身が希望したみたいだ。それを知っていながらも邪魔をする、この時点ではっきりとわかるだろう?お前はアジニア皇国の敵対国の者だ」


 なにせアジニア皇国の皇帝が望み、交易は国の利益にしかならない行動のはずだ。なのにそれを阻害する、この時点で国をよくは思ってはいない存在だと判断できる。


 そしてその中でフシュンと合流していないことから前皇帝の忠義者じゃないことが判明。


 となると、単純に国に敵対するものということになる。


「わ、私を差し出しますか?」

「それはしない。言っただろう、今この国ではアジニア皇国の情報が高値で取引されていると、それにな」




 俺はムジョンのそばにより耳打ちしてやる。





「面白い情報を一つやろう。とある貴族はアジニア皇国の皇帝をよくは思っていない」





 そうささやくとピクリと眉が動く。


「情報の精度は?」


 当然、アジニア皇国に敵対する間諜なら食いつく。


「かなり高い、フシュンが大使になった経緯はわかるか?」

「ある程度は、ゼブルス家の嫡男が手を引いたと聞いていますね」


 ロンラン商会にいればこのような情報は当たり前に手に入るのだろう


「詳しい話を聞きたいなら、手を組まないか?」


 俺がこいつと手を組みたい理由、それはフシュンが情報を伏せる可能性があるからだ。たしかにフシュンとは手を組んだが、それは現皇帝のみ不利になる条件でだ。フシュンには愛国心があるので現皇帝に不利になる情報でも国にとって害がある場合は伏せられてしまう場合がある。


 その点ムジョンならそんな情報でも提供してくれる。もちろんムジョンの方でも伏せる情報があるかもしれないが、今度は逆にフシュンから手に入るだろう。


 こういった点からムジョンとも手を組みたかった。もっと言うならばアジニア皇国の敵対者とだ。


 そしてムジョンが反アジニア勢力の貴族とつながりたいのは友好的な関係に何とかひびを入れたいからに他ならない。友好国というのは敵対国からしたら邪魔な存在、それが大国ならなおの事。アジニア皇国の地方は小国しかないと聞く、そんな中アジニア皇国が大国と友好を結ぶのは敵対国からしたら絶対に歓迎できない事態だ。なのでグロウス王国で友好的にできない勢力に働きかけてもらい友好の邪魔をしたい魂胆だろう。


「………話を聞こう」

「そうでなくては」


 しばらく考え込んだ末にムジョンは話に乗った。


「それで、アジニア皇国に反感を抱いている貴族とは誰だ」


 当然、ムジョンからしたら反感を抱いている貴族を知りたい、だが。


「個人名は控えさせてもらうが、俺の組織の後ろについている奴だよ」


 当然直接コンタクトを取られては不都合な部分が出てくる、なので窓口として夜月狼を使ってもらう。


「………お前たちのか?」


 いくらムジョンでも手を組む裏組織ぐらいは調べる。そうでなければ間諜としては致命的な点だ。


 では夜月狼の後ろについている奴とは誰の事だろうか。


 むろんバアル人形キラを操っていると知ればゼブルス家にたどり着くが、そんなことを知っている人物は本人とリン以外存在しない。


 話を戻そう、今、『夜月狼』の後ろにいるのは調べれば出てくる存在がいる。もちろんそれは外務卿として知られているアズバン家の御子息ニゼル・セラ・アズバンだ。


 夜月狼の後ろに外務卿のアズバン公爵家、そして今回アジニア皇国と友好を築いたのがゼブルス公爵家、ここまで情報がそろえば勝手に頭の中でシナリオが組み立てられるだろう。


(今回、ゼブルス家が外務卿を差し置いてアジニア皇国と友誼を結んだ。これに対して他国とのつながりを一手にまとめているアズバン家は当然面白くない。なので報復としてアジニア皇国との交友に反対している、ってか)


 おさまりが一番いいのがこの推論だろう。そして一番いやらしいのがこの推論があながち間違いではないという点だ。


(構図は問題ないし、実際問題アズバン家はいい顔をしていないからな)


「………話は分かった、ではそちらの要求は?」

「当然、アジニア皇国の情報だ、それから」


(今はまだ半信半疑だろうが、時期に信用してくれるだろう)


 こうしてフシュンとは別に東方諸国の情報源を手に入れた。

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