第130話 セレナの再戦
〔~セレナ視点~〕
バアル様がせわしく動き終わると、私たちは普通に学校に行き、帰り、仕事を終わらせ、寝るのルーティーンが数日続く。つまり普通の生活が帰ってきていたの。
「本当に良かった~」
いつも通り私は学園が終わると帰路についている。
「にしても本当に襲撃はなくなったのね~」
「セレナ、油断はできないのですよ」
相変わらずリンさんは真面目で、今でも軽く警戒している。それもバアル様の指示で。本来なら私に付くこともなくバアル様に付くはずなのだがなぜか、できるだけ傍にいてくれている。もちろんこんな状況で私も護衛に専念できるわけがなく、今は護衛をしなくていいと言われている。
(過保護すぎだと思うけどね)
聞いた話だけどフシュンとバアル様が繋がったことによりフォンレンが動けなくなったらしい。
そんな状況で襲撃なんて
(ないわよね~~)
フォンレンもフシュンもすでに動く理由がない、さらには今までの騒動で様々なところに目が存在する。
こんな状況で動けばどの組織か一目瞭然となるだろう。
「ではセレナ、私はここで」
バアル様の借家と私の借家への分かれ道に来るとリンさんとは別方向に分かれることになる。
「相変わらず暗いな~~~」
私が借りている家は学園に近い代わりに入り組んだ路地の裏側にある。
(まぁ普通に考えたらこの道が一番襲いやすいわよね)
腰の剣を意識しながら家へ向かう。
(昔は少し怖かったけど、ここまで慎重になることはなかったのに)
変なことに巻き込んだ張本人に恨み言を言い。歩く速度を遅めながら家まで進んでいく。
(とりあえずは大丈夫そうね)
家の目の前までくるが何事もなく終わることができた。
ガチャ
「!?」
ドアノブを触ると嫌な予感が頭をよぎり、すぐさま離れる。悪い予感が当たり手に触れた瞬間に扉の向こう側から剣が突き出てくる。
「あれ?引っかからなかったか~」
ドアの裏側から出てきたのは以前襲撃してきた一人だ。
「なんで?!」
警戒はしていたけどいざ襲撃が起こると頭が混乱する。
だが、目の前の敵は殺しに来ているのだ、下手に考えるのをやめて戦闘に集中する。
「『輝晶剣』」
すぐさま剣を抜くと周囲に展開する。幸い先ほどの攻撃によるけがはないので万全に戦える。
「俺ばかりに集中していると危ないよ~」
男の言葉とともに真下から尖った岩が出てきて突き刺そうとしてくる。
だがそれは悪手。
ぐにゅ
岩の攻撃も周囲の土が変形し覆いかぶさるようにして防がれる。
「ありがとう!!」
私は自身のすぐそばにいる相棒にお礼を言う。
(本当にすごいわね、精霊って)
ノストニアで契約した精霊は学園に帰って来てからも、何度も顕現させて、何度も話しかけて、何度も触れあっている。そしてこれらの行動は精霊に感情を抱かせる要因になる。
(ってクラリスに聞いたわ)
そして感情が芽生えれば意思が目覚め、いつかは対話も可能になる。もちろん今はできないが、攻撃から身を守ってくれるだけでも十分だ。
「ありゃ~、おいミスってんじゃねえぞ~」
「うるさい」
私を挟んで反対側から一人の男が出てくる。そうなれば当然挟まれて逃げ道がふさがれる。
「お前が、殺せないのはこれで何人目だ~~、前回もへまやらかしたし」
「黙れ殺すぞ」
二人は私を挟んで言葉を交わす。
「なんで、ここ数日はいろいろなところで衛兵が見回っているのに……」
「ああ、そうだな~だが、すべてじゃない」
「その通り一部にある細工をしてやれば、すぐさま暗殺の場が完成だ」
どんな方法を使ったかわからないが、衛兵がこの場に来ないことを理解した。
「どうする大声で助けを求めてみる~~~?」
「意味ないだろうがな」
まさにそれをしようとしていたが、どうやらそれすらも防ぐ手立てがあるようだ。
「ふぅ~~~『多重思考』」
となると取る道は一つ。
(戦って勝ち残ること!!)
三つの思考を以前のように、体の操作、魔法の構築、『輝晶剣』の操作に分ける。
「さて、今度は時間をかけるへまはしないぜ」
「ああ」
二人はそのまま私に襲い掛かる。
「『
まずは後ろの敵を分断、一人でも技量は負けているのに二人だともはや生き残ることはできない。
「行け!!」
その間に二本の『輝晶剣』を後ろの敵にまとわりつかせる。
「およ」
「はぁ!」
その間に私は目の前の敵に集中する。
ギィン
「っ」
「まだまだガキだな~」
当然ながら私は非力だ、『身体強化』を使っても、相手側が同じように使えば意味ない。
「『
一つの思考で魔法を構築し、接近しながら魔法を放つ。
「わぁは」
だが敵は滑らかな動きで魔法を躱す。
ギィン
さらには躱すと同時に切りかかってくるが『輝晶剣』を動かし防ぐ。
「おいおい、短期戦なのはわかるがこのペースだと、お前の魔力が持たねぇぞ」
以前の私ならこの言葉を受け取り、後ろの敵に対して魔力を温存しようとしただろう。
「はぁ!!」
「はっ、素人がよ」
確かに以前のMPだとこの男の判断が正しい。
現に後ろで
「(だけど!)今はそこまで関係ないわよ」
――――――――――
Name:セレナ・エレスティナ
Race:ヒューマン
Lv:25
状態:普通
HP:436/436
MP:1180/1350
STR:19
VIT:13
DEX:27
AGI:15
INT:52
《スキル》
【剣術:13】【火魔法:7】【水魔法:7】【風魔法:8】【土魔法:14】【雷魔法:4】【光魔法:6】【闇魔法:6】【精霊魔法・土:3】【料理:7】【家事:8】【算術:25】【化粧:10】【礼儀作法:24】
《種族スキル》
《ユニークスキル》
【多重ノ考者】
――――――――――
バアル様からもらった神樹の実のおかげで以前のステータスとは劇的に変化し、MPが元の4倍近くまで跳ね上がっている。
なのでいままで何とか節約して使っていた魔力も温存する必要がなくなった。
さらには
「沼!」
「は、!なんだこの地面!?」
精霊に魔力を渡し指示することによって男の足場が悪くなり、体勢が崩れる。
「はぁ!!」
「なめんな!」
剣を振り下ろすのだが、片手で防がれる。
「私の剣だけ見ていいの?」
「なに、がぁ!?」
敵の腹からうっすらと輝いている剣が突き出てくる。
「がはぁ!?……ああ~なるほ、ど、こりゃ魔剣の、一つでも持ってないと無、理だわな」
そういうと男は血を吐き倒れる。
目の前の光景に気が遠くなりそうだが、やらなければ私が殺されていた。
自業自得と割り切る。
「次、?!」
二つの『輝晶剣』が折れていくのがわかる。
シュン!
剣風だけ火壁が壊され、もう一人の姿が見えるようになる。
「死んだか」
「ええ、どうする逃げる」
何とか怯まずに構えるが、先ほどの男よりも強い威圧が飛んできている。
「できれば使いたくなかったのだが」
そういうと持っている剣のほかに1つの短剣を取り出す。
柄を握ると、鍔の先が闇と形容しがたい黒いものに覆われる。
「ではいくぞ」
剣を振るうと、闇の部分が鞭のようにしなり襲い掛かってくる。
「足場伸ばして!」
すぐさま精霊に指示し足場を盛り上げてもらい回避する。
「!?」
横薙ぎに振られた闇は伸ばした足場を溶かしていく。
「まだだぞ」
もう一度短剣を振るい、私がいる空中めがけて迫ってくる。
「守るように壁!」
もう一度指示を出し、私のいる空中まで土壁を伸ばしてもらい、何とか防ぐ。
ジュル、ドパン!
完全に防げたわけではなく、土壁で振り抜かれる速度を遅くしたに過ぎない。証拠に壁は徐々に溶かされて最後には振り抜かれた。
だがその数秒で無事に地面に降り立つ事ができた。
「『輝晶剣』」
三つすべてを生み出し、そのまま射出する。
「もうそれは無駄だ」
闇の部分で防ぐと弾けるわけもなく、そのまま溶かされ飲まれていく。
「!?」
「どうした、もう抵抗しないのか?」
あの鞭で接近戦に持ち込むのは無理、というかまず接近戦じゃ勝てない。『輝晶剣』は先ほど見た通りすぐさま無力化される。精霊魔法もとりあえず壁にはなるが完全に止めきることはできない。
「(となると、とれる手段は魔法遠距離戦)近づけさせないで!」
精霊は意図を組みすぐさま多くの土を操り、幾重にも土を隆起させて何重にも壁を作り出す。
「無駄だとなぜわからない?」
すぐさま鞭が振るわれるが、その場所にはもう私はいない。
「『ショック』!」
「っち」
そこからは壁に隠れては魔法を使い、また隠れるというヒット&アウェイを繰り返す。
「くそが」
頭に血が上ってきたのか、かなり乱雑な攻撃を繰り出すようになった。
ガッ
「あっ」
つまずき転ぶと真上を鞭が通過していく。
(あぶっな!!!)
もし転んでいなかったら今頃は体が真っ二つになっていただろう。
(さて、どうしましょう)
かなり頭に血が上っているようでほんの少しの物音でも私だと勘違いする。
となれば簡単だ、うまく奇襲を行い、一撃で終わらせること。
(となると、あれをやったほうがいいかしらね)
あの鞭がある限り一方向からの攻撃は防がれる、よって全方位からの攻撃がベストだと判断する。
「『輝晶剣』」
移動しながら発動させる。
そして十分距離を取ると一つの思考以外を、魔法構築に回す。
「協力してね」
精霊にお願いすると私の周りを回り始める。
(この時だけは体が小さくてよかったと思うわ)
安全であろう場所に座り込み、今使える最大の魔法を構築し始める。
コン
「そこか!」
コツン
「出てこい!」
カッ
「死ね!」
動き回る輝晶剣が様々なところで音を出して翻弄する。
そして数分が経過するとようやく魔法が完成する。
『
〔~???~〕
ここまで暗殺対象にコケにされたのは初めてだ。
カッカッ
ブン!
ジュウ!
今は音の出ているところをしらみつぶしにしている。
なにせ今目の前には無数の土壁があり、奴の体を隠している。
俺が探知系のスキルを所持していればよかったんだが、残念ながら持っていたのは相棒のほうだ。
(にしても、急激に魔力が上がったな)
以前の奴ならこんな芸当は到底無理だったが今は目の前でそれができている。
(俺と同じく、アレでも貰ったか)
俺は魔力が貯蔵できるアクセサリーを様々なところに装備しており、MP800ほどまでに上がっている。
奴がたとえ上がったとしてもここまではないはずだ。
なので俺は片っ端から壊して、やつが魔力切れするのを待っている。
カッ
ブン!
ジュウュ!
壊れた土壁はすぐに修復されていく、継続的に魔力を消費している証拠だ。
それを幾度の繰り返すと徐々に修復が遅くなっていっている。
「はは!そろそろだな!!!」
そろそろ魔力が尽きると分かる。
すると突然音が聞こえなくなる。
「どういうことだ?」
逃げたにしては足音がない。
「となると隠れたか」
魔力切れになったのなら、もはや戦えない、ならば少しでも時間を稼いで誰かが来ることを願うしかなくなる。
「さて、一応とはいえ相棒の仇を取らねばいけないな」
なぶり殺しにしようと動こうとすると
『
すべての土壁が引っ込み、奴の姿が現れる。
「そこか、!?」
殺そうと動こうとするのだが片腕が何かにつかまれていて動かない。
振り向き何が起こっているかを確認すると腕を掴んでいたのは土で出来ていた触手だった。
「くそ、この土くれが!!」
すぐさま引き剥がすが、同じような触手が足元から生み出され、再び掴み掛ってくる。
「うっとうしい」
1潰したら2に、2を潰したら3になっていく。これでは埒が明かない。
ズズズズズズズ
触手を潰していると俺を中心に地面に無数の牙が出てくるのが見える。
「なにが!?」
徐々に前と後ろで土が盛り上がり、まるで大きな口で俺を食い殺そうとしているように閉じようとしてくる。
「こんな大魔法を使うのかよ!?」
普通、大規模な魔法は数人で協力して発動させなければいけない。だがここには奴しかいない。ということはこれは奴の実力ということになる。
そして嫌なことに【危機感知】が警鐘を鳴らしまくっている。
「っち、仕方ねえからあきらめてやるよ」
すぐさま逃げるためにある魔道具を発動させようとするのだが。
ガシッ!!
「なっ!?」
何本もの土の触手が左腕をつかみ動かないようにしてくる。
ズズズズズズズズズズズ
周囲の地面がめくれ上がり口を閉ざすように迫りくる。
「こんなときに!!!!!!!!!!!!!!」
ガシャン!
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