第129話 力を持たせること
陛下との面会の準備が済むと、外務系の貴族が呼び出され王座の間に集まる。
ちなみにだが、俺はその中に参加せず少し離れた場所からそれを静観している。今いる場所は王座の間の門のすぐ横に造られている秘密の小部屋だ。ここは貴族の子弟に見学させる場として作られている。王座の間からはとても見えづらい場所であり、防音性にも優れていて拝謁者がこちらに気付くことはまずない。見学にはうってつけの場所だ。
本来は並んでる貴族の子弟などがここにおり、どのような会議になるかを見させるのだが、今回はグラスに頼んで俺以外がいないようにしてもらった。
「アジニア皇国、外交政務官フシュン殿がお見えになりました」
衛兵がそう告げると扉が開いていく。
そして、アジニア皇国の伝統衣装に着替えたフシュンとフォンレンとその部下数人が入り、王座の前まで進むと跪く。
「陛下におきましてはご機嫌麗しゅう、私はアジニア皇国外交政務官フシュン・セン・ギジュンであります」
定例の口上を述べる。
もちろん、その他も同じように名前とどのような身分かを説明する。
「長旅、ご苦労」
陛下の口があくと同時にとてつもなく大きな気配を感じる。
(王の威厳か)
長年、王座に君臨してきた重さを感じさせる。
「それで、フシュンよ、此度我が国を訪れたのは魔道具を買うためのみか?」
「いえ、もう一つ、魔道具の製作者にお褒めの書状を渡すように言いつけられております」
「ほぅ、では、もう会ったのか」
「はい」
すると陛下の顔がほころぶ。
「どうだった、アレは次世代の傑物だったであろう」
「真に」
(………毎度思うけど、なんで陛下は俺に対して好印象なんだよ)
陛下の高い評価に疑問を感じながらも話は進み、道中での食事や風景、アジニア皇国での生活での雑談をいったん挟む。
そしてついに本題に入った。
「バアルに聞いたのだが、お主たちはバアルを国に招待したいらしいな?」
「残念ながら、私はそのような言を陛下より賜っておりません」
二人の視線が跪いている、フォンレンに向く。なにせ本来外交の役目を負っているはずのフシュンが知らないとなれば効力を発揮しない。それに加えて言い出した張本人であるフォンレンの信用を失墜させてしまう。
「発言をお許しください」
当然、その事態を受け入れられないフォンレンが陛下に発言の、もっといいかえれば言い訳の許可を取る。
さらにはこの場ではフォンレンは一介の商人でしかないため、このような場ではいちいち許可を取る必要があった。
「話すがよい」
「はい、我が皇帝は魔道具の製作者に甚く興味をお持ちです、なのでもし機会があれば我が国にとのことです」
「では招待したというわけではないのだな」
「こちらにぜひ来てほしいという意図があるのはご理解お願いします」
フォンレンはそういい陛下に物申す。あくまで意向を伝えただけという形にしたいとのこと。そうすれば正式な要請でもないし、フシュンにあらかじめ知らせておかないことに不自然さを感じさせることはなくなる。
「では国からの正式な招待ではないのだな?」
「ええ、
もちろん、場合によっては国から正式に招待されるだろう。だが先ほども言った通り今は意向を伝えただけで、招待ではない。
「さて、先ほど言った通りバアルはこの国の大事な宝だ」
「お聞きしました」
「はっきりというがお主の国の現状が知れないまま、要請を許可できない」
これにフォンレンは何かを言おうとするが、再び口を閉ざす。心証を悪くしてでも擁護するタイミングではないと思ったのだろう。
「だが、もちろん交友を取りたいとする部分はやぶさかではない。そこでだ、こちらからも大使を派遣しようと思う」
「それでは!」
「待て、こちらとしても大使の選定やなどで時間を取られるゆえ、すぐにはとはいかん。だから、こちらが準備を整ったときに
これで俺の予定通りに話が進めることができた。
ここまで友好的に接した国の王に言わせたのだ、もはやアジニア皇国側の大使はフシュンに決まったも同然だろう。
「陛下一つだけよろしいですか?」
フォンレンが陛下に声をかける。
「なんだ?」
「フシュン殿のみですと万が一にも連絡取れない場合があります、私も窓口に加えていただけないでしょうか」
当然ながらフォンレンからしたらフシュンが力を持つことは歓迎しない。
だが
「お主は商人だろう?」
この言葉にはフォンレンは何も言えない。
それほどまでに立場というのは大事なのだ。正式に国務についているフシュンとは違い、フォンレンは一商人でしかない。これが大事な国の役職を任されている、もしくは他国に通用するそう相応の地位であるならば問題なかったが、残念ながら両方ともフォンレンは持ち合わせていなかった。
「フォンレン殿、貴殿の国の現状はある程度調べている、ただでさえ人手不足な中で貴重な人材を事故や病でなくすことを良しとするのかね」
今度は宰相が話しかける。
この言葉には、『自分たちの首を絞めると分かっていて、
グロウス王国も馬鹿ではない既に影の騎士団経由で革命やフシュンの立ち位置、アジニア皇国の内情をある程度把握していた。当然ながらそこには人員不足でフシュンを処罰できないことも含まれている。
「もちろん、我が国からしたら数人選んだほうがいいだろう。だが、要人一人守ることができないで他国の要人を招待できると思っていないであろうな」
この言葉により、アジニア皇国はグロウス王国とつながりを持つためにフシュンを殺すことができなくなった。もっと言うのであれば反対勢力のフシュンがいない限りグロウス王国と
ひいては俺と友好を保つことは難しくなったということだ。
「それでは、フシュン殿、後程に陛下より書状が送られますのでお残りください」
その後は予定通り謁見は進み、フシュンに力を持たせることに成功した。
それから王座の間から王城の応接間に場所は変わり、ひそかに陛下と面会する。
「これが書状だ」
陛下の護衛として同伴しているグラス殿から書状を渡される。これはアジニア皇帝にフシュンを大使に推すという旨を記した書状だ。
「ええ、ありがとうございます」
「それにしてもかなり大掛かりな手取っているもんだな」
奥にいる陛下が声を掛けてくる。
「そこまで警戒すべき存在なのか」
陛下は鋭い視線を向ける。なにせ陛下からしたら東方諸国の中の小さな一国に過ぎない。国同士の関りは薄いので事細かに内情を知ってはいないとしても、それでも国力はそれ相応しかないはずだった。
「そうですね、東方諸国で台頭する最有力候補だと思っています」
「………そうか、台頭する、か」
そういうと陛下は何かを考え始める。
「まぁよい、これで今回の件は仕舞か?」
「すべてがとは言いませんが、これで一区切りでしょうね」
後は裏で動いて終わりにするつもりだ。
「では、フシュンにこの書状を渡しておきます」
「あとは自分でやるのだぞ」
「わかっております」
陛下のいる部屋を退室して、そのままフシュンが待っている部屋に向かう。
「いや、なぜお前がいる」
俺がフシュンが待っている部屋に入るとそこにはフォンレンもいた。
「お久しぶりです、バアル様、ご機嫌はどうですか?」
「………肝が据わっているな」
さっきの謁見で俺がフシュンと繋がったのは見て取れたはずだ、なのにフシュンに同行して俺に会いに来るとはな。
「ほら、これが皇帝陛下に渡すべき書状だ」
「ありがたく」
フシュンはそれを胸元に仕舞う。
「さて、これで終わりに」
「少々お待ちください」
しようと、言おうとするがフォンレンが口を挟む。
「バアル様がフシュン殿と繋がったのは理解しました」
フォンレンが俺の目をまっすぐに見てくる。
「それの意味を理解しておいでですね?」
これは暗に皇帝陛下の反感を買うということだと言っている。
「理解しているさ」
「そうですか、残念ですね」
少しがっかりした表情にはなるが、すぐさま表情は戻る。
「バアル様、一つお尋ねしていいですか?」
「なんだ」
「我が国は国交を交わした際に、バアル様を招待するつもりでいます、それに応じるつもりはありますか?」
「今のところは考えられない」
考えるまでもなく即答する。
「訳を伺っても?」
「理由は二つ、一つは貴国が安定していないこと」
この安定には二つの意味がある。
一つ目はフォンレンとフシュンの関係を見れば、国の上層部が統一化されていないこと。俺を招待したはいいが、内部分裂で面倒ごとにでも巻き込まれたら双方にとっても都合が悪い。
二つ目は、東方諸国は戦乱状態にあり、いつ戦争が始まってもおかしくない事だ。訪れた矢先に戦争がはじまりました、戦争の流れ矢で死んでしまいました、では笑えない。
そのような状態の国に行きたいとは到底思えない、たとえ皇帝が正式に招待してもだ。
「なるほど、ではもう一つの理由をお聞かせ願いますか」
「皇帝のことをよく知らないからだ」
当然ながらどんな陛下かわからない以上すぐさま行くのはためらわれるからだ。下手すれば外国人は排除するという方向性すら持ち合わせていそうだ。日本でも外国人のことを受け入れられない人物など数多くいた。皇帝が俺がいたような前世の存在なら、その考えをしても何もおかしくない。
「もっともな理由でしょうね、ではそれが解決した際には我が国に、ひいては皇帝にお目見えしてもらえますか」
「それならばこちらとしても異存はない。ただもちろんこちらにも都合はあるのでそこは考慮してもらうことになるがな」
いざ招待できる状態になっていてもこちらで都合が合わなければ当然ながら延期となる。とはいえ東方諸国で戦争が終結するなどはここ数年では考えられないので、俺たちがアジニア皇国に行くのはかなり先のことになるだろう。
それから政務に関する話をし、それが終わると二人は退室し城を出る。
「さて、リン、これから少しだけ働いてもらいたい」
二人が馬車に乗り込む様子を窓から眺めながらリンを呼ぶ。
「私だけですか?」
「ああ、ほかの人物には他言するな」
俺は一つの指示をリンに与える。
「―――了解しました、ですが安全は確かなのですか?」
「ああ、
それからすべてが終わったのかのように普通の生活が始まる。
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