第128話 見えてくる真相
「反応がありませんでしたね」
リンが帰宅途中の馬車の中で言う。
「ああ、本当に通り魔の可能性が出て来たな」
信じたくはないが、そんな偶然もあるかもしれない。
「それで一つ気になっていることを聞いていいですか?」
「なんだ?」
「バアル様の落としどころはどこなんですか?」
リンは、俺の意図が読めないという。
「再発防止なら今回の聴取で十分釘を刺せたと思います、ですがバアル様はそれで終わらそうとは微塵と思っていない様子。これ以上何を望むのかと」
リンは俺を見つめ返す。
「そうだな、俺としてもこれで終わらせてもいいとは思っている、だがな」
俺は皇帝から受け取った書状を見る。
「これに隠された意図が友好的なものだとは限らない」
俺と、この皇帝が殺し合う可能性がないわけではない。もしあったとして、相手側は俺の情報を持っているが俺が持っていないじゃ不利になってしまう。
「だから俺は向こうの情報源となる存在を作ろうとしている」
「それがあの二人だと?」
「いや、一人だな」
現状、情報源となりえそうなのは一人しかいない。
「フシュンですか」
俺は肩をすくめる。
影の騎士団が協力するのは他国の争いを持ち込んでほしくないことと国益につながる有益な情報を入手すること。それに対して俺の目的は襲撃を阻害することと、敵になるかもしれない皇帝の情報を集めること。目的は違えど取るべき手段は同じ。
「さて、セレナの襲撃が誰なのか知りたかったのだが、完全に
「ですね」
二人への容疑は晴れたが、微妙に納得がいかない。
「とりあえず、フシュンと接触する」
次の日、俺は再びフシュンを呼び出す。
今回は王城ではなく、王都にあるゼブルス家の屋敷にだ。
「今回は何の御用でしょうか?」
呼び出されたフシュンは若干嫌そうな雰囲気を出している。何度も呼び出しをしているので俺への印象はあまり良くないのだろう。
「実はフォンレンから皇帝に会ってほしいと要請がきた、そのことについての話だ」
一瞬フシュンの顔に驚きが走った。
「どうやら知らなかったようだな」
「お恥ずかしながら」
「だが、政務官である貴方がこの話を知らないということはフォンレンの独断による話なのか?」
フシュンは答えづらそうにする。
彼は国に尽くすが現皇帝に尽くしているのではない、むしろ未だに前皇帝に対して忠誠心を持っていると言っても過言ではない。それゆえに現皇帝からは厄介者のラベルを張られているので意図的に教えていないということもあり得る。
「それは分かりかねます、本当皇帝がそのようなことをおっしゃったのかは……書状などあるなら話は別でしょうが」
「現皇帝からお褒めの書状は受け取ったが、招待に関してはフォンレンの口からしかきいてない」
「では、やはり確証とは言えませんね」
政務官ではなく、商人が話を持ってきた、それも書状や招待状もなしでの話、さらには政務官がその話を知らないとなると、この話が本当か判断がつかなくなる。
さすがのフシュンでもこれにはどう話せばいいのかわからなくなるのだろう
「なるほど、他国からの、それも皇帝からの要請を政務官ならいざ知らず一介の商人が持ってきたのですか」
言葉の裏に不確かな招待に乗るわけがないと伝える。
「この際だ、正直に言うと俺はフォンレンが信用できない」
「!?」
こういえばある程度はフシュンも理解しやすくなるだろう。
「もっと言えば俺は現皇帝も信用できない」
「不敬と考えないんですか?」
この言葉に思わず吹き出してしまう。
「は、この国でフォンレンを殺そうとたくらんだ奴が何言っている」
「!?……気づいておいででしたか」
「やってきて数か月もしない者が長年この国で根を張った奴らにかなうと思っているのか?」
「そうでございますね」
そう言うとフシュンは恰好を正す。
「バアルさまの言う通り、私は政務官でありながら、現皇帝をよく思っておりません」
フシュンも腹を割って話しても問題ないと判断してくれた。
「だから、現皇帝に近しいフォンレンを殺そうと?」
フシュンはゆるぎない瞳で頷く。
「それでバアル様、
フシュンも俺の本心をなんとなくだが理解している。
「じゃあはっきりと言おう。俺と手を組め」
屋敷から離れていくフシュンを窓から見る。
「………こういった形に持って行くつもりだったんですね」
護衛であるリンも話を聞いている。
「まぁな、これで向こうの情報もある程度は入ってくるだろう」
「そうですね」
俺の申し出にフシュンは手を結ぶことを同意した。
「アジニア皇国の大使をフシュンに認めるということですか」
正確にはそう根回しを済ませておくこと、そうすれば確定でフシュンはグロウス王国から認められた大使と言うことになる。もちろんアジニア皇国は了承はしてないが、こちら側がフシュンを公証人として望めば嫌でも指名することになる。
「フシュンはグロウス王国との繋ぎ目になることによりアジニア皇国で一定以上の実力を持つ」
「さらにはグロウス王国の要人に招待をしたいとなればフシュンを通してのみとなり、バアル様やセレナを招待したいフォンレンや皇帝からしたら、手が出しづらくなるですか」
建前としてはこうだ。
フシュンは持ち前の実力を生かし、俺、ひいては王族との関係を築くことに成功する。そうすればグロウス王国としてはフシュンを大使にしてもらいたいと思うし、そんな国の願望を無視してまで大使をほかの奴にすることはまずない。
「付け加えればフシュンを通して情報が手に入れやすくなる」
「そうだ」
フシュンに皇帝や前皇帝を嫌っている存在からした守られる立場という盾を渡す代わりに、アジニア皇国の、もっと言えば皇帝の情報を流してもらう。
「ですが、フシュンを全面的に信用できるのですか?」
「……国に被害が出ないという点では信用できる」
皇帝に不信を思っているフシュンでも国自体には思い入れがあるみたいで、国民に害が及びそうな情報には注意を払う必要がありそうだった。
さらには不安要素もある、新皇帝がフシュンを抱き込むことに成功したのなら情報が一切信用できなくなるという点だ。
だがそれでも魔道具が広がれば解決する。
(イドラの魔道具が普及すればフシュンもいらなくなるが、それには時がかかりすぎる)
現状の広がり方だと、国境沿いのネンラール、クメニギスのいくつかの村がギリギリ。そこから導き出されるのは順調にいけばあと4年もしないうちにアジニア皇国の端っこに到達する予想だ。
「さて、少しだけ忙しくなるぞ」
なにせ、一国の大使を確定させる動きをしなくてはいけない。
「………学園を休む口実ができてよかったと思っていませんよね」
「これは学生以前に国益を生み出す貴族の義務だ、なら学園なんて小事は無視するほかない」
「………」
リンから冷たい視線が送られるが気にしない。
それからグラスの伝手を使い、王家、外務大臣などに手を回し、大々的にフシュンが面会する場を用意することができた。
そして本日、フシュンとフォンレンが陛下と面会することになる。
「バアル殿」
王城の廊下を歩ていると先のほうからグラスがやってくる。
「どうかしましたか?」
「少し話がある」
グラスの表情を見ると進展があったらしい。だれもいない部屋に案内される。
「それで要件はなんでしょう?」
「お前の従士のセレナが襲われた件だ」
「何かわかったのですか?」
影の騎士団でなにかをつかんだようだ。
「セレナの話で途中に助力してくれた者がいるだろう?」
「いましたね」
「それは
「……なぜ黙っていたのですか?
時間差を考えれば意図的に隠蔽されていたことになる。
「それは謝罪しよう、こちらとしても他国との付き合いは結構な案件なのでな」
他国との付き合いに影響が出る可能性があるので伏せていたとのことだ。
「で、何を隠しているのです?」
「セレナの襲撃者はフォンレンの部下とコンタクトを取っていた」
「……へぇ~」
頭の中で一つの情報を埋め込み、どんな事態なのか想定する。
「一つ質問です、『審嘘ノ裁像』の影響を消す方法はありますか?」
「……私たちが確認している上では、ない」
グラスの答えにより、もしあったとしてもとてつもない希少性を持つ
(偽装されたのなら、普通に考えられるのはユニークスキル、もしくは希少性の高い魔具)
★7に対抗できる魔具など同ランクぐらいしかない。
そうなると国に数個あればいいほうになる。
「バアル殿はフォンレンが何とかして欺いたと判断するか」
このグラスの言い分で一つの可能性がでてきた。
「部下の独断ですか?」
「その可能性だと我々は踏んでいる」
長年、人の暗い部分をいてきたグラスだ、そういう読みあいではまだまだ敵わない。
「だが、意思が一貫していない」
フシュンを襲撃するのは邪魔だからとわかるが、セレナの襲撃は利点がないはずだ。
「バアル殿、物事は何も中だけのものだけではないのですよ」
グラスはそういうと、面会の準備があるからと離れていく。
(中だけじゃない………………となると、そういうことになるな)
確たる証拠はないのだが、そういうことなのだろう。
「まぁ同情するよ」
俺は皇帝となった転生者に少しだけ憐れみを覚える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます