第132話 借金地獄
それからムジョンからの話で、今回の騒動の全容が明らかになった。
まず、ムジョンの正体だが、やはりアジニア皇国に敵対する国の間者だと判明。
そしてセレナを狙った理由だが。アジニア皇国との国交を結ばせるのを邪魔したかったとのこと。セレナを殺すことで、フォンレン側の目的の人物を殺し、さらにはゼブルス家に泥を塗る。そして殺しをうまくロンラン商会、もっと言えばフォンレンに擦り付けることであわよくばこの国で裁かれることも期待したらしい。
この形では全てがすっぽりと収まる。成功したらフシュンが殺され、真実は闇の中に消えこちらまで手は伸びてこない。ほかにも仮に失敗してもフォンレンとフシュンがより対立することになるだけだ、そうなればアジニア皇国の敵国はどちらにしろ得となる。
まぁ最後のこの接触は予想外だったらしいが、敵国の友好国から情報がリークされるのでムジョンからしても渡りに船だろう。
そしてこの度使った暗部だが彼らはすべてその敵対国出身の暗殺者だった。ではなぜそんな彼らがロンラン商会の暗部に属しているかというと、実は数年前の革命の際に出自などが曖昧になって仕舞い、細部まで目が届かなくなってしまったとのこと。これによりロンラン商会という皇帝の御用達商会に他国の暗部が紛れ込んでしまう事態になっていたというわけだ。
最後にこちらの要求だが、主にアジニア皇国の情報、それもできるだけ他国に流したくない部分を重点的に。
見返りに
ちなみに連絡手段としてはムジョンはグロウス王国の仕入れ担当に立候補、それが無理でも部下を潜り込ませることで、グロウス王国に到着した際に夜月狼と密会情報の受け渡しという段取りが決定した。
「こちらとしてはいい話でありました」
「こっちもだ」
こうして俺はアジニア皇国の敵対国からもアジニア皇国の情報を得られることになった。
セレナ襲撃の騒動から数日後、ゼブルス邸にはロンラン商会が最後の挨拶にやってきた。
「それではバアル様、我々は国に戻ります、こちらで国交の手はずを整えるので、ぜひこちらでもお願いします」
「ああ、わかっている」
俺はゼブルス邸の応接間でフォンレンとフシュンと話し合っている。
「もしなにかアジニア皇国の件でご入用の時は私にご相談ください、ウィンスラ子爵に言伝を預けてもらえればこちらに届く手はずになっております」
「その時はよろしく」
まぁ頼ることはほぼないだろうが。
フォンレンのそばに仕えているムジョンが耳打ちする。どうやら無事にグロウス王国仕入れ担当に滑り込むことができたようで、先ほど紹介された。
「では申し訳ないですが私共はこれにて」
「無事に祖国に帰れるように願っているよ」
フォンレンとフシュンは礼をして家の前の馬車に乗り込む。
これでひとまずは騒動は終結した。
二人が王都を旅立った後、借家の方に移動するのだが
「うっうっうっうっうっ」
リビングのソファでセレナが泣いている。
理由はテーブルの上にある一枚の紙にあった。
「「………」」
内容を見るとリンもこれには何と言ったらいいかわからずに同情している。
なにせ内容が。
「家の修繕費グロウス金貨10枚、都市破壊の罰則金貨50枚、街道の修繕費金貨30枚、さらには」
これだけなら今までの給金や諸々を合算すれば払えなくはないだろう。
だが
「地面を操作したことによる、地下水道の破壊……罰則に金貨200枚、修繕費に同じく200枚」
「うわぁあああああああああああああああああああああああああーーー!!!!!!!!!!」
クラリスが読みだした内容を聞き、セレナがもう一度泣き出す。
運が悪いことにセレナの家の下には地下水道があった。
そして戦闘でそれが壊れてしまい、連日あの辺りでは地下水道が使えなくなっていた。
「そんな!あんまりよ!なんで私がこんな借金を負わなければいけないの!?」
「それは敵を殺したからだ」
「私も殺されそうだったんだけど!?」
「それでもだ、生け捕りだったらお前に一切の罰則を負うこともなかったのに」
もし相手側を生け捕りにできていたらすべての罰則や罪を相手側にあることになる。
もちろん殺してもしまっても証拠やらがあればいいのだが………
「あんな薄暗いところでさらには防音の障壁を張られていては証言者も集まりませんね」
クラリスの言葉の通りだ、あの破壊行動が相手側にすべて責があるなら全く問題ない。ただ今回はその責を判断する材料がないので、セレナに罰則が来たわけだ。もちろんこれだけなら国に対して不満がぶつかりそうだが、修繕費の総計からしたらセレナの罰金など微々たるもの、さらには故意ではないということで安くはないが罰金の身で済んでいるわけだ。これが故意だった場合は本人の財産没収に加えて、第三親類すべてに罰金が加えられて、当人は当然のように死罪だ。なので罰金のみと言うのはある意味では温情なのだが、セレナからしたらとばっちりでしかないため、そこに気付くことはないだろう。
「それにしても計グロウス金貨490枚、か」
現在セレナの給金は月に金貨1枚と大銀貨5枚、もしこれを年利1パーセントから借りたとしよう。
給金の全額で返済にしたとして、単純計算だとしても32年かかることになる。
「はぁ~~」
本当にこいつを雇ってて意味あるのかって疑問が出てきそうだ。
「セレナ」
「なんですか!!!!」
救世主を見たような表情で見上げてくるが、そこまで俺はお人良しじゃない。
「がんばれ」
「バアル様の鬼!!!!!」
再びソファで泣き始める。
「バアル様、遊ぶのもほどほどに」
「はいはい、じゃあ本題に入ろう」
「ほ、んだい?」
涙を流しながら顔を上げるセレナ。
「罰金は俺が肩代わりしてやる」
「本当!?」
「ああ、お前が働いている間は利子無しだが、俺との雇用関係が終わった瞬間から年利7パーセントが発生するようになる」
「た、高くないですか?」
「雇っているうちになんか副業でも見つけて頑張って稼げるだろう?」
俺との雇用関係が継続する限り取り立ても利子も発生しない、いい条件だと思うがな。
「ちなみにだが、そこまでの大金となると平民であるセレナにはどこも貸してくれないぞ」
「うっう、お願いします」
とりあえずはセレナの件は片付いた。これによりより一層、ゼブルス家から離れづらくなるだろう。
「本当にありがとうございます。頑張って返します」
「ああ」
まぁ正直、戦闘を見ていただけの俺にも少しは責任があるからなこれくらいはするとしよう。
「では問題ないならこの契約書にサインしてもらうぞ」
先ほどの条件の契約書に自分の名前を書き、セレナの借金はとりあえずは肩代わりすることになった。
その日の夜。
「うひゃ~~やっぱり、お酒おいしい~~~~」
契約を交わし終わり、金銭を納め終わるとセレナは安堵したのか俺の家でどこからか買ってきたワインをがぶ飲みしている。
まぁ当然ある程度のアルコールを一気に飲んでしまえばどうなるのかは
「うきゅう~~~~~、すぅーーーーーー」
ソファで酔いつぶれる。こうなるのは自明の理だ。
「はぁ~」
ソファに横になり、そのまま眠っているセレナを見る。おそらく思っていることは全員同じだろう。
「こいつ絶対またやらかすぞ」
ため息を吐きながらそう言うとリンもクラリスも頷く。
「それで、本当に借金を肩代わりするためだけに集まったの?」
「な訳ないだろう」
当然ながらそんなどうでもいい問題ではない。
「とりあえずクラリス、お前にはアジニア皇国の危険性について話しておこう」
「危険性?」
「ああ、少し待っていろ」
俺は3つの物を取り出す。
「筒と鉄の球、それと黒い粉?」
「これはアジニア皇国で新しく開発された武器だ」
既にキラで武器を確保し、こちらに横流しをしてもらっていた。
「これが?」
「待て」
無造作に火薬を摘まもうとする腕を止める。
「なによ?」
「下手に扱うと爆発するぞ」
「これが?」
クラリスはいぶかし気な表情をし、手を引っ込める。黒色火薬は静電気に敏感で、無造作に触れるときに爆発することがある。
「証明するさ」
本当にごく少数の火薬を紙で掬い、石の上に置く。
「『
パァアン!
雷魔法に反応して少量の黒色火薬が破裂する。後には独特の硫黄化合物の匂いが立ち込める。
「とっこんな風に……何しているんだ?」
クラリスは耳を握っている。
「あのね、私たちは
つまりは音にびっくりとしたらしい。
「次からはもっと音が出ないようにして」
「無理言うな」
とりあえず二人に火薬が爆発することを教えた。
「それで?」
「まぁようするにだ」
銃身に黒色火薬を詰め、球を装填し、縄に火をつける。
準備が終わると庭に出て実践することになった。
ドン!
衝撃が体に伝わっていく。といっても強化された体にはキャッチボールをしているほどの衝撃しか伝わってこなかったが。
「これがジュウの威力だ」
銃弾は残念ながら的にした樹を貫通することができず埋まっているが、二人は驚いている。
「リン、見えた?」
「私はぎりぎり、反応しろと言われればまず無理ですね」
クラリスは銃弾を見ることができなく、リンはぎりぎり視界を横切っていくのが見えたみたいだ。
「でも、樹すらも貫通できないなんて、案外弱いのね」
そう思うのも無理はない、なにせクラリスは裏拳で木々をなぎ倒すことができる。
「ああ、だがこの速度は脅威だぞ」
不意打ちに眼球でも狙われたら、危険だ。
「反応するのは無理ね、ユニークスキルを使って身体能力を上げれば何とかなるかしら?」
「私は……『風妃ノ羽衣』か『神風』を使えば切ることはできそうです」
二人とも素面の状態ではついてくのは無理ということ。
もう一度家に戻り、自室からある物を取り出す。
「だから対策にこれを渡しておく」
俺が引き出しから取り出したのは二つの腕輪。
「これは?」
クラリスは疑問が上がるが、リンは見たとことがあるので素直に腕に嵌める。
「これは『守護の腕輪』といって飛び道具に対して勝手に魔力を使用し防いでくれるってものだ」
これは俺がエルドの注文を受けて作った魔道具だ。
「ふぅん」
「まぁこれがあれば不意打ちはとりあえずは大丈夫だろうな」
「なるほどね、これを渡すということは敵対する可能性もあるということなのね」
肩をすくめて何も言わない。
「俺はジュウに対する防衛策を教えただけだ」
「そう言うことにしておくわ」
これでノストニアにもアジニア皇国にジュウという物が伝わるだろう。
「それとこれはもらっていいのよね?」
「ああ、二人にやる」
リンとクラリスは嬉しそうな顔になったのが記憶に残った。
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