第127話 手っ取り早い取り調べ

 フシュンが憲兵に連れられて入室する。


「こちらにどうぞ」


 ルナの言葉で、フシュンは俺とルナの対面にあるソファに座る。


「では聴取を開始します」


 フシュンがこの場にいる理由。それは憲兵の調査でスラムでの戦闘に関与する疑いがあったためだ。


 ただ外国の商人ということで、やや強引に話を聞く方法を取った。そのため多少なりとも心証は悪いだろう。


「ではお名前と提示できる身分を教えてください」

「アジニア皇国の政務官のフシュンと申します」


 ルナがそういうとフシュン本人であるかを確認する。


 政務官とは言葉の通りまつりごとを管轄する文官だ。


「それでここに呼び出された理由に心当たりはありますが」

「何もない、と言いたいのですが、一つだけあります」


 そして本人の言葉からスラム街という言葉が出てくる。


「その通りです、我々は少し前に起こったスラム街での戦闘を重く見ております、なぜだかわかりますか?」

「心当たりはないな」


 そういうとルナはポッケから一つのかけらを取り出す。


「戦闘があった場所と思わしき場所には大量の小さな穴が開いていました」

「……」

「一つ二つならレイピア使いが誤って刺してしまったなどがあるかもしれません、ですが数百を超えるほどの間違いをしますか?」

「その戦闘だけではなく過去に何度も戦って付いた後ではないのか?」

「それもありません、調べてみると、あの店は一か月前に改装したばかりです、それに突きあとはあっても斬撃の跡がないのはおかしいですよね?」


(………………………こいつだれだ?)


 思わず心の中でそう思いそうになるほどルナはきっちりとしていた。


「そこで我々は穴を詳しく調べましたら、そしたら」




銃弾・・があったのですか」



 フシュンが観念するように言った。


「これはお前たちの国で使われている銃弾であると認めるんだな?」


 ここで口をはさむ。


「少し疑問なのですが、なぜ、子供たちがこの場にいるのです?」

「俺が強引に割り込んだんだよ、少し聞きたいこともあったからな、それで、それはアジニア皇国で使われている銃ということで間違いないな?」

「残念ながらわかりかねます、本当に私の国のものなのか、はたまた他国が同じようなものを作ったのか?」


 フシュンは曖昧な返事をする。


「んん、それとフシュン殿、あなたはその日にスラム街に出かけていますよね」

「ええ、少し苦しいとは思いますが、私どもはこの国に来るのは初めてです、なので多少触れてはいけない部分について情報を得ようとしていました」

「別に表にいる奴らにでも聞けばいいだろう」

「そうはいきません、たとえ表のルールを知ったとしても知らず知らずに裏のルールを破っていたら危険ですから」


 本当によく口が回る。実際問題、前世でも外国の触れてはいけない部分にいつの間にか触れて大問題に発達したケースも少なくはなかった。そう考えればあながちおかしいことでもない。


「それに私は今回は仕事専門の部下しか連れてきていません、なので何かあって標的にされては」

「ロンラン商会にも護衛はいるはずだろう」


 するとフシュンの眉が少しだけ動く。


「残念ですが、彼らは私を守ってくれません」

「なぜだ?」

「それについてはアジニア皇国の革命の話をしなければいけません」

「革命については大雑把に知っている、核心だけを話せ」


 それすらも本当は知っているのだがな。


「一言で言うと私は前皇帝に仕えていたものだからです」

「ふ~ん、じゃあ今回のスラムの件はロンラン商会がお前を殺す企てだったんじゃないか?」

「可能性は大いにあり得ますね」

「じゃあ、やはりアジニア皇国が原因で今回の件が起こったと考えますが、よろしいですか?」

「確たる証拠があるなら」


 暗に認めると言っていると同時に証拠を持ってこいとも言っている。


「ルナ、もういいか?」

「ええ、こちらとしては聞きたい情報は聞けました」


 こう言っているが本来、こんな聴取をする必要すらなかった。


 これはあくまでこの場を作る口実を強引に作っただけに過ぎない。


「さて、じゃあ次は俺が話をさせてもらう」

「君は誰なんだい?」

「俺はバアル・セラ・ゼブルス。名前くらいは知っていると思うが」


 フシュンの表情を観察するが驚きがない。


「君がですか、道中にかなりのうわさを聞きましたよ、君がいればグロウス王国は安泰だと」

「世辞はいい、いくつか質問するそれに『はい』か『いいえ』で答えてくれ」

「いきなりだね」


 少し印象を悪くさしたが、これぐらいしないと揺さぶりにならない。


「まず一つ、ロンラン商会が俺に面会をするのが大部分の理由だと知っていたか?」

「ええ、皇帝は魔道具の製作者にひどく関心を持っておられましたから」


 像の反応なし。


「次に俺は皇帝にとある書状をもらったのだが、あれには何かあるか知っているか?」

「いいえ、お褒めの書状ではないのですか?」


 これも反応がない。


「では次にスラム街での件でお前は何か後ろ暗いことをしていたか?」

「いいえ、さきほどもいいましたが―――」


 先ほどの理由を言っているが後ろの像が震えてフシュンを指さす。


(無事に作動しているな)


 なんで音が聞こえないかというとリンに頼んで像の周囲を真空にしてもらい音が漏れないようになっている。


「ああ、わかった。では少し、こっちの話をしていいか?」

「私としても忙しい身、要件が無いのでしたら」

「フォンレンが何度か俺に接触しようとしてきている」


 こういうと開きかけていた口を閉ざし続きを聞こうとする。


 どうやら、この話に興味を抱いたのだろう。


「まず、俺がフシュンを怪しんだのは書状を渡された時だ」

「というと?」

「書状を渡されたときフォンレンは俺を観察していた。思い過ごしとかではないと思い、そのあとに部下に何かに気付いたふりをしろと命令してみた、そしてら見事にフォンレンの興味が俺から部下に移った」

「…つまりフォンレンの目的はその部下であると?」

「もっと言うと、書状に反応した者だろうな、知らなかったのか?」

「はい」


 後ろの像を見てみると反応がない。つまりはフシュンは本当に何も知らされていないことになる。


「その数日後にスラムでの例の件が起きた。ここまではいい、問題はそのあとだ、スラムの数日後、部下がフォンレンと接触し、その後その部下が何者かに襲われた」

「…………!?私を疑っているのですか?!」

「当たり前だろう」


 フシュンも大体の構図が浮かび上がってきただろう。そうなれば一番黒い人物は誰になるのか、バカでない限りはすぐさま思い浮かぶはず。


「バカな!そんなことはしない!」


 これには面白いことに後ろの像が反応していない。


「それを今すぐ信じられるほど、お人良しじゃない」


 表情を隠し、そう告げるが水面下では俺もある程度は動揺している。


(セレナを襲ったのがフシュンではないことが判明、となるとフォンレンかはたまたもっと違う奴か)


「もう一度聞くがお前ではないのだな?」

「当たりまえです!」

「ならいい」


 その後はルナ主体で事件のあらましを聞き、俺とフシュンの話し合いは終わった。









 フシュンが部屋を出て城を出ていくのを部屋の窓際で見る。


「若、あんな揺さぶってどうするんですか?」


 ルナがそういってくる。


「「???」」


 リンとセレナはなんのやり取りをしていたのかはっきりとは理解していない。


「とりあえず一つの仕込みは終了した」

「てことは、まだなんかやるんですか?」

「ああ、次はフォンレンにも聴取を受けさせる環境を整えてくれ」

「はぁ~」


 ルナはしんどそうな顔を浮かべながら部屋を出ていく。


「バアル様、全容を教えてもらったりは……」


 当事者であるセレナは不安そうに聞いてくる。


「安心しろ悪いようにしない」


((そんな顔で言われても))


 バアルは自身が黒い笑顔を浮かべていることに気付いていない。










 翌日、同じようにフォンレンを呼び出す。


「お久しぶりです、バアル様」

「そちらもな」


 向こうは俺の肩書を知っているのでここにいることに疑問を持たない。


 それとだが、今回はセレナは置いてきた。下手な接触は望ましいとは思えないからだ。


「それで、今回はどのような用件で」


 ここからは昨日と同じようなくだりが始まる。


「フォンレン、ロンラン商会外部仕入れ担当。今回王都に入った主な目的は魔道具の仕入れと皇帝からバアル様に書状を送るため、商会の商品を売りに出すの三つで合ってますか?」

「はい、そのとおりです」


 すると後ろにある像が反応する。


(やっぱりフシュンを殺す目的もあったのか)


 当然ながら、フォンレンが自らそれを告げることなどない。


「では質問です、先日スラムで戦闘があったのはご存じですか?」

「いいえ、ですが日常茶飯事ではないのですか?」


 像の反応アリ。つまりは知っている事。


「我々の聞き込み結果、その場にはフシュンと思わしき人物がいました。彼を殺す目的で暗殺者でも放ちましたか?」

「そんなことはしないですよ、それにしてもすごい人ですね。そんな直球で聞くとは」


 それからルナにいろいろ言っているが後ろの像が反応している。


(やはり、フシュンを襲ったのはフォンレンの差し金、残る疑問はセレナを襲った奴らだな)


「では、スラムの件には心当たりはないと?」

「そのとおりです」


 当然、俺に見えているということはルナにも見えている。


 それなのに淡々と作業のように詰問していく。


「では、その時刻は宿の食堂で食事していたのですね?」

「はい、長旅で疲れている部下たちのために食堂を貸し切って宴をしました、その日の給仕に話を聞けば無実が証明されますよ」

「わかりました、では次に―――」


 それから今日にいたるまでの行動を聞く。


「昨日はアクリ商会で帰路に必要な食料を買い込んでいました」

「へぇ、帰るのか?」

「はい、7日後には」


 と言うことはできるだけ早くに動かないといけない。


「ではバアル様、こちらは終わりました、あとはそちらの番です」

「ああ、ご苦労」


 話し相手がルナから俺に代わる。


「じゃあ早速だが、一つ聞こう、少し前にセレナが襲われたこれについて何か知っているか?」

「え?」


 驚いた反応があるが、演技の可能性がるのでこれだけでは判断できない。


「聞くところお前がセレナと会話した後に襲撃に会った、すぐあとらしいが、まさかお前が手引きしたんじゃないだろうな?」

「まさか!?私との会話内容をセレナさんから聞いているなら、ありえないとわかりますよね?!」


 俺は心の中で残念に思う。


『審嘘ノ裁像』は問い掛けにに言い切る場合の「yes」「no」、もっと言えば断定の言葉にしか反応できない。なので今のような相手に問いかけるような返答には全く反応しない。


「さぁな、本当にそうなのか、それとも疑惑が及ばないためにあんなことを言ったのかわからんからな」

「私はセレナさんを襲わせてはいません」


 後ろの像を見るが反応がない。


(となると、リンの言う通り本当に通り魔か何かなんだろうか)


 ごくわずかにその選択しもあったが、まさかの可能性だった。


「それもそうなんだが、少しタイミングが良すぎてな」


 なにせフォンレンがここ来た目的が、持ってきたあの書状の隠された内容に気付いた者の抹殺という可能性もあった。


「誓って私はセレナさんに危害を加えようとなど思っていません」


 これには像が反応する。だがこれの判断は難しい。なにせ力ずくでも連れて行くつもりだったら該当してしまう。


「じゃあもう一度聞くが、セレナを襲ったのはお前ではないのだな?」

「はい」


 後ろの像を見るが反応がない。


「これですべてですか?」

「ああ、ご苦労」


 こうしてフォンレンの聴取は終了した。

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