第126話 現状の把握と強くなる手段

「あ~~シャバの空気は美味しいぜ!」


 次の日、セレナを迎えに行くと出所した犯罪者のようなつぶやきを言いながら出てくる。


「なんですかそれは?」

「あ、いえ、言ってみたかっただけです」


 わかってないリンが問いかけるが、別段意味がないとのこと。思わずノリで言っただけのようだ。


「セレナ早速で悪いが、話がある、そのまま俺の家まで来てもらうぞ」

「は、はい」


 俺の雰囲気を感じ取ったのかセレナは少し緊張する。











 借家に着くと全員がソファに座る。


「さて、まず質問だ、なんでセレナが襲われたのか理解しているか?」

「え?通り魔じゃなかったの?」


 タイミングを考えて、それはないだろう。


「襲って来た奴らは何か言っていなかったか?」

「え、え~~………そういえば『俺たちのために死んでくれ』って言ってたような」


 それを覚えているならなんで通り魔って発想になるのか。


「その言葉の意味の通り、お前を殺すのに目的があったんだよ」

「目的………私を襲って何になるんですかね?」

「なにかあるのだろう」

「なにか………なんですかね?」


 セレナの能天気さに思わず、気が抜けそうになる。


「あるだろう、少し前に接触してきた存在が」

「…フォンレンさんですか?」


 その通りと、俺たち三人は頷く。


「まず、俺が知りえた情報だが―――」


 セレナにフォンレンとフシュンの確執、アジニア皇国の現状、スラムでの出来事、暗殺者の動向を教える。


「つまり……アジニア皇国の争いに巻き込まれている訳ですか?」


 コクン×3


 ようやく、セレナも話を飲み込み始めた。


「だから、また襲撃される可能性がある」

「そんな!?」


 もちろんすぐにとはいかないが、一度目があったのだ二度目があると考えてもおかしくない。少なくともセレナを襲うことに意味を出している連中がいるのは確かだ。


「まぁだから取れる手は3つほどだな」

「なんですか?」

「まず一つ、当分の間ゼブルス領に戻り、そこにいること、もちろん学園は休んでもらう」

「休学するのはいいんですが、進級はどうなります?」

「もちろん留年してもらう」


 ほとぼりが冷めるまでは領内でおとなしくするとなると最低でも一年は必要になる。


「じゃあお断りです」


 セレナは学園にこだわりがあるようで断るのは予想で来ていた。


「二つ目が登下校に護衛を付けること」


 そうすれば向こうも手出ししにくい。


「だが、これはあくまで手出ししにくいだけだ、護衛の実力以上の襲撃者が来たら何の意味もない」

「それ、選択肢に入ります?」

「普通は入らない、ある程度安全を保障する案というだけだ」


 肩をすくめて、俺ならこの選択肢を取らないと伝える。


「三つめが、セレナが強くなることだ」

「強く、なる……」


(お、案外食いつきがいいな)


「そしてこれに関してだが、当分の間はお前の家族には身を隠してもらうことになる」


 問題が解決するまでは護衛を付けてゼブルス領のどこかで療養でもしてもらえばいい。そうでもしなければ人質に取られて無理やり脅されるなんてことも十分にあり得てしまう。


 三つの選択肢とメリットとデメリットを総て伝えてセレナに選択させる。


「私は………強くなりたいです」


 なにかがあったのかセレナの目には強固な意志があるように感じた。


「わかった、だが今のところ、俺たちにできる修行は武芸を鍛えるしかない」


 一番効率がいいのはダンジョンに潜ることだが、潜るには冒険ギルドの認可が必要で、俺達の年齢では冒険ギルドに登録ができない。


 もちろん、野にいる魔獣を倒すのも手の一つだが、魔獣の群れを見つけるには時間がかかる。当然ながら相手が動き始めるまでにセレナが強くなるのはかなり難しい。


「そこでセレナ、一つ提案がある」


『亜空庫』を開き、一つの実を取り出す。


「それって」

「ああ、神樹の実だ」


 取り出したのはアルムから受け取った『神樹の実・焦茶』だ。


「強くなりたいのなら、今のところこれが手っ取り早い」

「たしかにね、色もかなり似通っているからちょうどいいわ」


 クラリスが納得する。


 実際、俺とクラリスはその効果を体感している。


 計ってみたら大体700ほど最大MPが増加していた。後から聞くと神樹の実の色が自分に似通っているほど増加魔力量は増えるとのこと。


 これをセレナが食べれば相当な強化となるだろう。


「でも、そんな貴重な物をいいんですか?」

「もちろん、それなりに契約をさせてもらうぞ」

「……どんなですか?」

「最低でも10年は俺の部下でいてもらう」



 それから契約書を作成する。


 内容は下記の通り。


 ・セレナ・エレスティナは対価である『神樹の実・焦茶』を受け取る代わりに10年間、バアル・セラ・ゼブルスの部下として作業に従事する。


 ・バアル・セラ・ゼブルスはセレナ・エレスティナを一部下として扱い、不当な扱いはしない。


 ・セレナ・エレスティナは指示がない限り、グロウス王国から出ることを禁じる。これを破った際にはいかなる罰を求刑されても無条件で飲むこと。


 ・セレナ・エレスティナがこの契約を終えるには、10年間仕事に従事し満期完了するか、グロウス金貨3000枚をバアルに支払うこと。上記同様、破った際にはいかなる罰を求刑されても無条件で飲むこと。


 というものだ。


「休み給金などは今のところ変わらない、この条件でどうだ?」

「………うん、はい、お願いします」


 こうしてセレナと俺との間で契約が結ばれた。








「では、いただきます」


 前世で聞いた挨拶を告げて、セレナは切り分けた神樹の実を食べる。


「どうだ?」

「……違和感がすごいです」


 俺が渡した実は形が洋ナシなのだが色が名前の通り焦げ茶色だ。


「形と色も合ってないのに、味は柿で………変な感じ」

「でも、まずくはないでしょ?」


 クラリスの言葉にセレナは頷く。


 ごくん


 実を総て食べ終わると、セレナの様子を観察する。


「……魔力は増えているか?」

「徐々にだけど増えているわよ」


 鑑定のモノクルで見てみると。


 274→281→290→297→309、とどんどん上がっていく。


「この調子だと明日の朝には終わってそうね」

「どれくらいになると思う?」

「そうね、元の4倍近くはなるんじゃないかしら」

「???」


 クラリスの目やモノクルがある俺はセレナの変化を把握しているが当の本人はよくわかっていない。


 俺の時もそうだったが、色が似通っているときは無痛なので、特に何の感覚もなく上がっていくからわかりづらい。


「それで、これからどうするのですか?」

「ん?それはな―――」












 翌日は学園を休み、俺は王城に向かう。


「―――では、お願いできますか?」

「急に訪れて、アレを貸せといわれてもな」


 俺がいるのは近衛騎士団長の執務室だ。


 となると必然的に会っているのは。


「では手はず通りお願いしますよ」

「これも貸しだぞ」

「ご冗談を、影の騎士団の協力者として妥当な要請ですよ、グラス殿」

「……いいだろう、手はずは整えよう」


 グラスに計画してもらい、ある手はずを整える。


「それで、今回の落としどころはどうするつもりだ?」

「さぁ?向こうの誠意次第ですかね」


 まぁ表立って被害を被ったわけでもないが、面倒ごとは持ち込まないようにしてもらうつもりだ。











 数日後、学園が終わると用意してある馬車に乗り、王城に向かう。


「あの、私が来て良かったんですか?」


 今回連れてきたのはセレナとリンの二人だ。残念ながらクラリスに関しては関係が薄いということで連れてきてはいない。


「問題ない、それとリン」

「なんですか?」

「少し頼みたいことがある」


 あらかじめある指示をリンに出す。









「お待ちしていました、バアル様」


 城門をくぐるとグラスの部下が迎えに来る。


「呼び出しはできているか?」

「はい、すでに控室でお待ちいただいています」


 グラスの部下の先導で、俺は城の一室に案内される。


「お待ちしていました、バアル様!」


 その部屋には正装したルナが待ち構えていた。


「……お前の正装ほどに合わないものはないな」

「へ?」


 一応きっちりと着こなしできる女に見えるが、中身を知っている側としては奇妙としか思えない。


「それで用意は?」

「はい、すでに万端です」


 部屋の中には真ん中にテーブルとソファーが二つ、それと部屋の壁際に様々な調度品が置かれていて、一見すれば洒落た部屋に見えるだろう。


「それで、どこにある?」

「はい、あそこに」


 ルナが指示した場所は片方のソファからしか見えないところだった。


「できれば、俺も一つ欲しいな」

「だめですよ、これはこの国に一つしかないのですから」


 俺たちが指示しているの以前、ノストニアで裏切り者のあぶり出しに使った像だ。


 ―――――

 審嘘ノ裁像

 ★×7


【真ナル部屋】


 すべての偽りを見抜く像。一日のうち二回使用することができ、効果は一刻しか持たない。時の権力者は裏切り者をあぶりだすためにこの魔道具に多大なる費用を掛けたという。この像のある空間では真しか答えられぬと知れ。

 ―――――


 説明文にある通り、裏切り者をあぶりだしたりするのには最適な魔道具だ。


 準備が完了するとルナの腰につけている通信機が反応する。


「バアル様、そろそろ来ます」

「わかった、では起動させろ」


 ルナが魔道具を起動させて1分もしない間に扉がノックされる。


「スラム事件での被疑者であるフシュンをお連れしました」

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