第125話 生じる矛盾
〔~バアル視点~〕
「それからここに連れてこられたわけです!!」
泣きながらに話すセレナ。
「まぁ、ドンマイ」
「軽いわね!?」
怨みがましい目で見てくるセレナを見ながら考える。
(セレナを襲った?なぜだ?)
今回の奴らがスラムの件での襲撃者ならフォンレン側であることになる。だが、それならフォンレン側がセレナを襲ったことになる。
(会話を聞いていた限りではフォンレンは友好的に接したいと思っているはずだ)
なのにセレナに襲撃をした。フォンレンの言葉が本当なら矛盾が出てくる。
(待て待て、頭がこんがらがる)
そこから思考を巡らせるがどうやっても明確な答えが出てこない。
「…………」
「バアル様?」
「ああすまない、何の話だ」
「私はどうなるのかって話です」
「ああ、まぁ話からして襲われて反撃しただけだから、明日には解放される」
そういうとセレナは安堵したような顔になる。
「そろそろ面会終了のお時間です」
「ああ」
「バアル様!」
「なんだ?」
「もう少しだけ料理の質が良くなるようにお願いできません?」
「……わかった」
帰りに憲兵に金を握らせて料理の質を上げさせた。
「何を悩んでいるのですか?」
借家のリビングでお茶を飲んでいるとリンが問いかけてくる。
「…まぁ…な」
今この空間には俺とリンそれとクラリスがいる。
(部外者であるクラリスに話すのはな…)
婚約者という地位にいるが、飾りでしかなく実態はノストニアから送り込まれた諜報員みたいなものだ。そのクラリスを巻き込むのは少しためらわれる。
「なになに、なんか悩んでいるの?」
「………まぁ、な」
「説明してよ、力になれるかもしれないわ」
少し考え、教えてもとりあえずは問題ないと判断する。
「まず問題が起きたのはフォンレンとの面会だ」
この問題の最初はアジニア皇国の皇帝が俺に書状を渡してきたのがきっかけだ。
「フォンレンは交易という名目で俺に面会、そして皇帝の指示で書状にとある細工されており、それに気づくかを調べていた。だが」
「それにあなたではなくセレナが引っかかってしまった」
「そのとおり」
正確には皇帝の読みは正しくて、俺がミスリードを誘いセレナに焦点を当てた。
「それで話は変わり、スラムの戦闘に関与する」
憲兵(影の騎士団リーク)の調べた情報ではその先頭にアジニア皇国のジュウという兵器が使われていた。この時点でアジニア皇国関連の連中の仕業が確定する。
「つまりフォンレンが関与しているということ?」
「おそらくな」
先日、スラムでフォンレンと共にアジニア皇国からやってきたフシュンという人物が関わっていること、襲撃者がアジニア皇国のジュウという武器が使われていたという点からフォンレンの関与が考えられる。
「それとアジニア皇国だが―――」
2年前に平民による革命が成功し王侯貴族が処刑されたことを教える。
「フシュンは前皇帝に仕える存在だったらしく、人手不足と言うことで今の皇帝に仕えているようだが、いい感情は持ってない」
「ということは」
クラリスもスラムでの襲撃にどんな意図があるかを理解しただろう。
「理解したわ、何であなたが悩んでいるか」
クラリスもどう悩んでいるか分かったようだ。
「え?!」
だが俺の後ろで、未だにわかっていない声を上げる人物が一名。
「簡単に説明するとだな―――」
まず前提にフォンレンとフシュンが対立している。
「スラムでの襲撃はフォンレンがフシュンを狙ったものだと推測される、ここまではいいな?」
「はい」
で次に問題なのは、セレナの襲撃だ。
「???そこがわかりません。ただセレナがフォンレンの目的の人物とわかり、フシュンが暗殺しようとしたのでは?」
「そこなんだがな」
俺はルナからもたらされた情報(ソースは俺)を二人にも教える。
「重要なのは三番目のこれだ」
『去り際に何かをやらかすことをつぶやいていたこと』
「もしこれがセレナの暗殺だったら?」
「………????暗殺者はどの陣営なのですか?」
リンの言葉の通りだ。
フシュンを暗殺しようとしたのはフォンレン陣営、そしてセレナを殺そうとしたのはフシュン陣営。これなら別段おかしくもない、むしろしっくりくる。
だがフシュンを殺そうとした暗殺者とセレナを殺そうとした暗殺者が同じだったら、どうだ。矛盾していることになる。
「ですが、この指し示すことがセレナのことをじゃないとしたらどうですか?」
「それはあり得ないと思うがな」
なにせスラム街での使用された武器が銃であると確定している、そのためほぼ確定でフォンレン陣営の暗殺者であるとわかる。
そして今回ジュウを使わなかったのは、身内のゴタゴタといういいわけをが使えないことと、おそらく連想させてしまうがゆえだろう。その点で言えばセレナは助かったともいえる。
フォンレンの目的はフシュン暗殺と俺が転生者か確かめに来た事の二つ。もちろんそれ以外に商談もあるが、報告ではこちらは当たり障りのない者ばかりで主目的でないのは明らか。さらには俺を探りに来て、セレナが反応したことから、目的の一つが転生者の確認なのがわかる。
そしてフシュン側だが、これは明確な目的が一つ。フォンレンの暗殺だ。
だがここで一つ疑問が出てくる。
「では、なんでフシュンはスラム街に出ていたと思う?」
俺がリンのような考えをしないわけ、それはキラを操作していて気付いた部分にある。
「??????用事があった?」
「その用事ってのは何だと思う?」
「暗殺者を雇うため、もしくはその下準備をするため?」
「ああ、だがそうだとしても普通は本人が出るか?普通は部下に任せて自身は疑われない場所に身を置くだろう?」
俺だったらそうする。
ニーチェの言葉よろしく。『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』、情報を得ようと動くと、その動きも相手に知られてしまう。ここでフォンレンを殺すためにフシュンが動くと、フォンレンの陣営に気取られて下手すれば簡単に粛清される可能性もある。
そのために普通は足がつかない駒を使い情報を集めるのが定石だ。
俺も裏の情報を得ようとするときはキラを使っているのもこれが理由だ。最悪、自爆でも何でもして有耶無耶にしてしまえば言い逃れは簡単になるのだから。
だがフシュンはそうせずに自らスラム街に入っていった。
「……それもそうですね、ではなぜフシュンはそんな危険なことを?」
「簡単だ、自分で動くしかなかったから、だ」
「………あ!!!」
リンもようやく気づくことができただろう。
「そうフシュンは今回、付き添って来たに過ぎない、そしてここで自身がスラムに赴いた理由が重なる」
「「「フシュンには動かせる部下がいない」」」
俺達は声を揃えて言う。
もちろん最低限の部下はいるだろうが、そこに暗殺者などをまぎれさせることはできない。信頼している部下には当然ながらフォンレンの監視でもついているはず。仮に監視を振り切って動けるとしても自身を含めて近くにいる数人だろう。
だがそれでも監視の目を完全に潜り抜けるできるとは限らない、現にスラムで密会の最中に襲われたわけだしな。
(まぁ本人も巻いたつもりで来たのだろうけど、無理だったな)
「なるほど、ですが現地で暗殺者を雇ったのでは?」
リンはフシュンがすでに暗殺者を雇いセレナに差し向けたと考えるがそれは確率が低い。
「仮に雇ったとしてもこの国の暗殺者なら公爵家に手出しはしてこないだろう」
凄腕の暗殺者ってのはほぼ全員が貴族に雇われているし、野良の暗殺者でも公爵家、もっと言えば俺の部下を暗殺する危険性は把握している。仮にセレナを普通の少女と偽っても、そんなのはろくに情報を精査しない暗殺者しか集まらない。そんな暗殺者が危険であるとは到底思えない。
「だから雇われたという線も低い」
ほかの理由として裏の世界にも秩序というものがある。もし公爵家に手を出せばこの王都の裏の世界に公爵家の一斉粛清がはいることになる。暗殺者集団からしたらそんなことは受け入れられず、デメリットの方が多いだろう。
「さてここまで説明すれば、悩んでいる理由もわかるだろう?」
フシュンを襲った暗殺者がフォンレン陣営だと確定している。
だが矛盾はそのあとだ、普通ならセレナを襲ったのがフシュン陣営だと予想できる。だがフシュンにはそんな手駒を持っていなく、フォンレン本人ならいざ知らずセレナを標的とするとまず暗殺者を雇うことはできない。ならばセレナを襲った暗殺者はどの陣営に属しているのかがわからなくなっている。
「だから予想がつかないんだよ」
フォンレン陣営内の離反なのか、それとも元々フシュンなど暗殺する意図がなく全く別の組織なのか、本当にフォンレンがセレナを殺そうとしたのか、考えれば考えるほど可能性が出てくる。
「それで悩んでいる訳ね」
「ああ、この問題を放置するのは危険そうでな」
現にセレナが襲撃に会っている。そして貴族のメンツ的に襲撃した奴らを探し出して罰しなくてはならない。
「あぶり出しに効率的なのは、セレナを餌にすることだな」
どこの陣営でどんな狙いを持っているか知らないがセレナを狙ったのはゆるぎない事実、うまくやればもう一度おびき出せる。
「だけど、一度失敗したんだから、そうそう姿を現すとは思えないわ」
「ああ、だからうまく釣り上げるんだよ」
幸いにも餌はまだまだ元気がある。
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