第124話 セレナの奮闘
〔~セレナ視点~〕
事の起こりは昨日にさかのぼります。その日はクラブがあったので学園後、バアル様とは別で、帰りました。
私も特待生なのでバアル様と同様に学園から一軒家を貸し与えられています。本来なら王都出身の私は家族が家を持っていたので普通はそっちに帰るのですが、私がゼブルス家に仕えることが決まった際にバアル様が既に話を付けていたらしく既に家族はゼウラストに引っ越ししていました。そのために帰る家がないのでバアル様のすぐ近くの家を借りているのが現状です。
学園からの帰り道には小さい路地ではなく多少遠回りをしてもこの大通り沿いを通っていました。なぜなら人が多いということは安全にもつながるため、大通りを通る必要があるのです。
また浅い夜の内は様々な屋台が出ているため、おいしそうな物があればたまに買い食いして帰ったりもしていました。
(あれ、この匂い)
家に近づくと一際いい匂いを出す屋台が目につきました。興味本位で店をのぞいてみると。
「おや、貴方は」
「フォンレンさん?」
屋台の横には以前バアル様といた商人さんがいた。
(そういえば、この人に注意しろって言われているんだった)
少し身構えしてももう遅く、懐かしい匂いに釣られて近づいてしまっていた。
「こんにちは、以前お会いしたのですが覚えていらっしゃいますか?」
「は、はい、フォンレンさん……ですよね?」
「はい、その通りですよ」
フォンレンさんの笑顔には
「失礼、貴方のお名前は何ですか?」
「……セレナと言います」
「セレナさんですね、あの場ではバアル様、それとリンさんという方のみしかお話ししなかったもので」
「いえ」
思い返せば確かに自己紹介などをした覚えはない。
「セレナさんは学園帰りですか?」
「はい」
「ではお近づきの印にこれをどうぞ」
紙に包んで差し出されたのは香ばしい匂いのする茶色の三角形だ。
「私の国ではヤキオニギリといいます」
(……やっぱりそうなんだ)
差し出されたものはどこからどう見ても前世の名前と一致する食べ物だった。
「こちらでは馴染みがないですが、これはコメというもの穀物が使われた、わが国では代表的な食べ物ですよ」
(名前も一緒なのか……となるとやっぱり………)
「どうしましたか」
「い、いえ、とってもおいしいです」
こんな大通りで、しかも一般に流通していないコメを使って毒殺などフォンレン自身がやりましたと言っているようなもの。そんな状況下で毒はないと踏んで口に含むと懐かしい味がした。
「それは良かったです、実は我が商会でコメや漬物を売ろうとしているのですがあまり芳しくなく、もしよろしければ宣伝いただけませんか?」
「……それくらいでならば」
バアル様の食事に出すのもいいかなと思っているとフォンレンさんがすこし真面目な表情になる。
「失礼ですが、セレナさん、少しだけお話があるのですがいいですか?」
「な、なんでしょうか」
「あの書状をバアル様から渡された際に気になる部分はありましたか?」
この時、自身でも動揺していたのがわかった。
「い、いえ、ありま」
「実は陛下から同類にのみわかる暗号を示している、と言伝があったのです」
この言葉で皇帝が同じ転生者であることがはっきりした。
「私にはわからないですが、おそらく傑物の類のみがこの暗号を理解することができるのでしょう」
「………」
「もう一度聞きます、暗号を解くことができましたか?」
このときどうしてかわからないけど自然と首が縦に振るってしまった。そしてそれが終わった後意識がはっきりとした。
(まずい!?注意しろって言われていたのに)
私は血の気の退く感覚を覚えながら、フォンレンさんの顔を窺う。
「それはよかった!!」
だが、フォンレンさんの顔は本当にほっとしている顔だった。その表情から危害を加えようとする意志は微塵も感じなかった。
「へ?」
先ほどの雰囲気の違いにこの声を出してしまったのも無理はないだろう。なにせ冷静に獲物を追い詰める表情をしていたのに今は本当にホっとしたような顔をしているのだから。
「実はあなたにお願いがあります」
「……なんですか」
警戒しながら話を聞く。
「一度でいいので陛下とお話ししてください」
「……はぁい?」
思わず変な返答になった。
「陛下は国のために幼くして王位につかれました」
その話は聞いたことがある。
「彼には不思議な力と知恵を持っていましたので、皆がその力に頼り祭り上げました、より良い国になるために………いえ彼を犠牲にしてですね」
話を聞くと、王様は国の不満を一人で一心に背負い国を頑張って動かしているらしい。
「お願いです、彼をあそこまで祭り上げてしまった大人の贖罪なのです、どうか」
頭を下げられる、屋台の方も見てみれば作業している数人も同じく頭を下げている。この状況に何も言えず曖昧な返事をしてから屋台を離れた。
話を終えて大通りから家への細道を通る。
「はぁ~」
ため息も吐きたくなる。
『両親もいますし、今の私は雇われている身です相談しないことには』
そう返答し保留にしてもらった。そのあとに期待していますと返事をもらったがこれにはどうも言えない。なにせバアル様はすでにフォンレンを怪しんでいる、こんな状況で国に来てくれと言われても断ると思う。
「バアル様に報告しなくちゃ」
そう思いながら家への道を通る。
「相変わらず暗いな~」
バアル様に雇われてから借家を探したので、かなり遠い場所か不便な場所、何か訳ありな場所しかなかった。
私の家は学園に近いのだが路地の入り組んだ場所にあり、日が昇っている時でもかなり暗い、日が暮れた時は灯りがなければ本当に真っ暗になる場所だ。もちろんバアル様も知り合いの不動産屋を紹介してもらったのだが、運悪くいい物件のほとんどが契約された後だった。
(あの時、頷いておけばよかったかな…………)
ろくな物件が無いと分かった時、バアル様の家に来るかと誘われもしたが、向こうに他意はないとしても男性の家に転がり込むのはなんだか気が引けた。
「こいつがか?」
「みたいだね」
暗い路地を通りながらもやもやと考え事をしていると背中から衝撃を受ける。
「グッ!」
そのまま衝撃で地面を転がっていく。
「すまんな嬢ちゃん、俺たちのために死んでくれや」
近づいた男が剣を振り上げる。
「なめ、るな!!!」
非常事態だと理解するとユニークスキルを起動させて3つの思考を同時に行う。
一つは体の制御、一つは五感を使用した状況把握、一つは精霊に魔力を流して顕現させる。
一つを完全に体の制御に回したおかげで、即座に立ち上がり剣を紙一重で回避する。
「およ」
「バカ、俺がやる」
「『輝晶剣』!」
即座に剣を抜きスキルを発動させる。
「おいおい、普通の子供じゃないのか?」
周囲に3つの剣が浮かび上がり、近づいてくる存在を迎撃するのだが。
「前もって言っただろう、こいつもユニークスキル持ちだ」
「あ~寝てて聞いてなかったわ」
二人はなんということもなく、私の輝晶剣を軽く流し、雑談する。
(意外に強い)
その剣術を見れば、接近戦では到底かなうはずもない存在だった。
「なら魔法で!!」
急いで魔法を構成して距離を取る。
「お、いける口だね」
「おい、さっさと片づけるぞ」
「へいへい」
二人とも輝晶剣をはじき、迫ってくる。
「こいつらの間に土壁をお願い!!」
精霊に魔力を渡しお願いをする。
それに呼応するように精霊は震えるとあいつらの進行先に土壁が出来上がり、邪魔をする。
「っち、邪魔なんだよ」
一人は体に赤いオーラを纏わせながら壁を突き破り迫ってくる。
「『
今度は抜けられないように火の壁を造る。
「弾丸!」
次は以前精霊に説明した土の弾丸を作り発射する。
(これなら)
土の弾丸は火の壁を突き抜けて暴漢二人に飛んでいく。
だが予想と反して、一人は体を滑らかに動かしすべての弾丸を受け流し、もう一人は剣ですべてを切り伏せる。
「うっそ!?」
その動きはアニメの中でしか見たことないものだった。
「オラ、それだけか!!」
「所詮はガキだな」
そう言うと剣を持った方が一振りすると火の壁が切り裂かれて私のことが丸見えになる。
「っ!?」
背中を見せて逃げるのだが。
「逃がすと思うかい?」
既に逃げようとした場所には軽薄な男が先回りしていた。
(どうしよう……魔力もないし)
こんな時自分の魔力が少ないことが恨めしい。
以前【精霊王の祝福】で増加した魔力は精霊と契約するためにほとんど使っていた。
(あの時の魔力が今あれば、!?)
飛んできた短剣を転がって避ける。
「ありゃ、勘が鈍ったか?」
「いや、この少女が上手いだけだ、まるで体と頭が別の生物みたいにな」
(!?気づいている?!)
彼らも完全に見破ったわけではない。状況判断能力と表情による感情のずれからなんとなく予想しているだけに過ぎない。
「まぁいい、さっさと済ますぞ」
「はぁ~い、オラッ!!!」
「やば!?」
背後の剣持ちが手に持っている剣を大きく振りかぶり投げてきた。
(剣士が剣を投げないでよ!!)
変な考えをしながら自分に迫ってきている剣を見ていることしかできない。その速度は矢よりも速く飛び、どう動いても避けることができないのが嫌でも理解できる。
(あ、本当にまずい)
脳内でこの世界での記憶がよみがえっていく。
(これでゲームオー……バー…………嫌、嫌!!!!!!!)
何度もゲームで死んだりしているので大丈夫なはずと思っていたのだが、明確な死を突き付けられると心が拒絶する。
(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)
そして気づいた、ここはゲームの世界じゃない。
紛れもなく現実で私は
『
何かが発動すると、そこからは自身でも考えられないくらい頭が動く。
(考えろ考えろ、どうにか生き延びる方法は)
あまりにも集中しているからか、周囲がスロー再生しているかのようになっている。
(動いて避けることは無理、MPは10かそこらしかないから魔法での防御もできない、どこかの部位を犠牲にして躱したとしてもそのあとすぐに殺される)
様々な可能性を模索するが取れる手段があまりにも少なく、結論から言うと一人でこの場を生き延びることはできない。
(…………どうしよう)
頭の中で詰んだとしか結論を出すことができない。
剣先が手の届く範囲にまで近づくと、もはやどう道ずれにしてやろうかとも考え始める。
だがあと数十センチというところで何かがそれを掴んだ。
「………危ないぞ」
いつのまにか横に真っ黒いローブを被った存在が剣を掴んでいる。
「え!?」
さっきまでいなかったとところに人がいるのだ、当然驚く。
「あ、貴方は?」
「……善良な市民だ」
(((いや…無理だろう)))
不本意ながら私は襲ってきた二人と感想が一致したのがわかる。
なにせ現れたのは真っ黒いローブを被り顔すら見せない存在なのだから。
「……無事か?」
「ええ……貴方は味方だと思ってもいいの?」
「……ああ」
私を殺すのが目的なら飛んできた剣を防ぐ必要もないし、姿を現す必要もない。
(と言うことは少なくとも明確な敵ではないのね)
「……魔力は残っているか?」
「ないわ」
「……ならこれを飲め」
そう言って腰に付けてあるポーチから小さな瓶差し出してくる。
「……安心しろ上級のマナポーションだ」
「対価は?」
「……こんなとこで戦闘になっている理由を後で教えろ」
「わかったわ」
瓶を受け取り、飲み干す。
「ぷはっ、ありがとう助かったわ」
「……とりあえずこの二人をどうにかするぞ」
そういい、一人の方に短剣を構える。
となると必然的に私は剣持ちの方になる。
「お~い、どうする?」
「退くぞ」
「はぁ?まだ何とかできるだろう?」
私側にわけわかんない男が付いたけど、強さが未知数なので普通に押し切られる可能性もある。
「無理だ、お前の耳は飾りか?」
「なに………あ~なるほどな」
一人が何かを伝えると、もう一人も納得した表情になると共に横道に入り、逃げていく。
「待て」
助けてくれた男も二人の後を追っていく。
「助かった、の?」
死にそうになって、助けられ、逃げられ、置いてかれる。だが助かったことはわかったので自然と腰が抜けてへたり込む。
このあまりにもな変わりように茫然としてしまった。
ザッザッザッザッ
「君!!」
「え?へ?はい」
「この場で何をした!!」
大通りの方から10人ほどの憲兵がやって来ていた。
「実はそこで戦うことになりまして」
「……君が?」
「はい」
正直助かったと安堵しきっていてこの時の憲兵の表情なんて確認してなかった。
「つまりはこの破壊に関与しているんだな」
「……え?」
視線の先では土の弾丸により壊された家の壁や土壁を生み出したことに道がボコボコに成っていたり、
「子供とはいえこれは無視できないな」
「ですね」
ガシャン
「………は?」
私の腕が鎖で縛られる。
「これから話を聞かせてもらうぞ」
「ちょっ!?」
私は市街地で暴れたということで憲兵に連れて行かれた。
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