第99話 着せ替え人形の気持ち

 数日掛けて王都に到着するとパーティーの準備に勤しむ。


 のだが


「ねぇ、バアルちゃん、これなんかどう?」

「……………………いいですね」

「そう!…でもやっぱり前の服の方が…」


 現在王都のゼブルス邸にて俺は着せ替え人形になっている。


(王都の有名なデザイナーに任せておけばいいのに………………)


 心の中でそう思うが決して言葉には出さない。


 なぜなら母上が『バアルちゃんの衣装は私が選びます!!』といい、予約していたデザイナーを勝手にキャンセルして服だけ用意させてしまった。


 なので仕方なく、俺はこの時間に付き合っている。


 ちなみに父上なのだが。


『あなたはこれね』

『……………私には選んでくれないのか?』

『あなたのお腹だとどれ選んでも微妙ですから、好みで大丈夫ですよ』


 と言われて撃沈していた。


(いや、まぁ母上も悪気がないのは分かる。実際父上のあの腹だとどれを選んでも無難と言う言葉しか出てこないだろうし)


 父上のしわ寄せも俺に向かって来ている訳だ。


「バアル、わかっていると思いますけどパーティーでは注意するのですよ」

「もちろんです」


 意訳すると、下手に言質を取られるな、というものだ。


 こういったパーティーとなると単なる言葉でもなぁなぁで済ますことができなくなる。年に数人はそういった発言で痛い目を見ている。


「それにしても、やっぱりバアルちゃんの衣装は選び甲斐があるわね~~~~!!」

(いつまで続くんだろう……………………)


 ふと鏡を見ると死んだ目をしている俺が見えた。











「はぁ~~~~」

「今回はどうしたんだい」


 ほぼ一日掛けて行われた服選びから解放されると、俺は久しぶりに骨董店メルカに来た。


「あんたたち、壊れやすいものもあるんだ無暗に触るなよ」

「「「は~い」」」


 今回はカルスたちを連れてきているのだが、あの年頃の子供がじっとしているわけもなく、店の中を探索しに行く。


「で、どうしたんだい?女性の買い物に付き合った男みたいに」

「……」

「まさにそれです」


 俺の代わりにリンが答えてくれる。


「正確には母君がバアル様の服を決めていたのです」

「は~そんなことかい」

「そんなことって………アレは大変なんだぞ」


 決まりそうになったら、やっぱりこっちが、とか、もう少し色合いが、とかで一日全部使って、ようやく決まった。


「にしてもこんなところに居ていいのかい?確か王家が開催するパーティーは明日だろう?」

「問題ない既に準備は終えている、それに今日の来客はすべて父上が対応する予定だからな」


 久しぶりに父上が王都に来ているということで多くの来客が訪問しており、手を休める暇もなく対応に追われていることだろう。そしてそれゆえに俺への来客も気を使って誰も来ていない。なので今日は久しぶりに王都に出かけている。


「そういえばこのお店は何を売っているの?」


 セレナは店の中を見渡して疑問を浮かべる。


「何って、アレだ」


 指差しした先には様々な骨董品、壺や絵画、何かのはく製、古びた木像、見たこともないような置物が並んでいる。


「…………知らないものしかないんですが」


 ゲームの知識を持っているセレナでも知識のない奴ばっかりなんだな。


(いよいよ、怪しいな)

「あ、でも鑑定のモノクルがあるから問題ないわね」

(……バカ)


 思わずといった風に心の中でセレナを罵倒する。


 店中で大っぴらに【鑑定】などしていたら、その店の品物が本物か疑いを持っていると言っているようなものだ。それも鑑定の腕を試される骨董店ならなおの事。


「なんだい若はモノクルを持っているのかい?」


 だが、老婆はセレナの言葉に気を悪くした様子もなく、むしろ物珍しそうに事らを見据えていた。


「なんだ、使っていいのか?」

「儂は偽物は売らないぞ」

(普通は真偽がわかる鑑定のモノクルは嫌な存在じゃないのか?)


 だが店からの許可が出たので遠慮なく使わせてもらう。


 ―――――

 紅巌の壺

 ★×4


 貴重な純粋な紅巌を削りだした壺。純粋な紅巌はかなり希少で大規模の鉱床でもめったに手に入らない。

 ―――――


 ―――――

 絵画『白風の流れ』

 ★×4


 今は亡き巨匠エイル・カヴリシュアの最後の一作。マニアの間ではかなりの高値がつく。

 ―――――


 ―――――

 怪狂音鳥ヴィルビのはく製

 ★×4


 全ての生物を狂わせる怪狂音鳥ヴィルビのはく製。はく製の元となった怪狂音鳥ヴィルビは声を聴くだけで周辺の生物を狂わせる怪鳥で、周囲に何も存在しない時に討伐を推奨されている。このはく製は驚くほど傷が少なく、ほぼ生前の状態で保存できているため価値が高い。

 ―――――


 ―――――

 鬼神武者の木彫り

 ★×3


 ヒノクニの伝説『鬼神武者』の木彫り。千年経過したとされる松の芯材を削り作られたもの。木材だけでも価値があり、さらにはこれを作ったのは様々な木像を作った有名な木工師シテン・イカチツだということも価値に含まれる。

 ―――――


 ―――――

 星差し

 ★×5


 古代に星の方角を確かめるために使われていた道具。使い方は魔力などは使わず手動でで行う。

 ―――――



「……意外だ」


 鑑定したモノクルには偽物が一つもなかった。骨董店なら模造品が置いてあるのが普通、むしろ本物の数の方が圧倒的に少ないと思っていた。


「どうじゃ、偽物はあったかい」


 そう言っておかしそうに笑う。その笑みからは自信しか感じられなかった。


「いや…………ほかの物も鑑定していいか?」

「もちろんじゃよ」


 それから出ている物全てを見ても偽物などなかった。


「………そういえば」


 以前にここで買った祭壇を取り出す。


(これずっと『亜空庫』に入れていたが)


 ―――――

 天獣の祠

 ★×5


【魂混生誕】


 天獣の卵を祭る祠。中央に祭られた卵は命が入っていない卵だが、そこに命が宿るのなら再び生命が生まれる可能性もあるかもしれない。なお、卵は天獣の名に恥じなくあまりにも強い衝撃を加えない限り割れることはない。

 ―――――


 これも嘘ではなく本当に価値のある物だった。


「どうじゃ?」

「この店の品ぞろいはおそらく王都一だろう。だがどうやったらここまで本物を揃えられる?」

「まぁそこは老婆の勘かのぅ」


 ここにあるすべては正直、大枚はたいても手に入れていいものだ。


 そしてなにより


(スキル持ちの道具もあるようだな…)







 スキル持ちの道具、それは言葉通りスキルを持っている道具だ。


 スキル持ちはダンジョンで手に入れるか奇跡的な確率で職人が作成するかのどちらかしかない。


 例えば普通の鍛冶師が鉄の剣を作る、これは鑑定しても剣の名前、レア度、説明しかつかない。だが稀に特殊な素材を用いて作った剣はスキルが付与されることがある。


 スキル付き道具を発見した職人は一子相伝にしてもいいほどの技術。職人は日々研鑽しスキル持ちの道具を作れるのを夢見ているという。













(あとはダンジョンで出たものだけどこれは狙って手に入る物じゃないからな)


 今までの経緯から店主の老婆の目利きはかなりのものだとわかる。


「ほら、そこの道具に触るんじゃないよ」


 俺が様々な品を見ていたら、どうやらカルスが何かに手を触れていたようだ。


「あ、すいません」

「たく、若ここは高価な物がたくさんあるんだ、責任取れない子供を連れてくる場所ではないよ」

「……そのようだな」


 怒られたはずなのだが好奇心に負けてカルスはまたほかの道具に触れている。


 カリンはそれに同調しようとしていて、ノエルだけが忠実に言いつけを守っている。


「それじゃあ、俺たちは戻るよ」

「ああ、また来な」


 窓の外を見るといい感じに日が傾いてきたので俺たちは店を出て屋敷に戻る。













「…………………憂鬱だ」


 翌日、馬車の中で王城を見ながらため息を吐く。


「ダメよバアルちゃん、会場でもそんな顔をしたら」

「わかっていますよ、きちんと会場では笑顔になりますよ」


 堂々とした猫かぶりの宣言だが、両親は何も言わない。これが社交界をあまり理解していない子供なら親は注意をして社交界の重要性を教え込むが、その重要性は理解しているので、俺の場合はこれだけで済んでいる。


「はぁ~」


 もう一度大きなため息を吐く。










 王城に到着すると控室に案内される。


「はむ、う~んやはり腕のいい料理人がそろっているようだな」

「そうですね」


 両親は机に置いてあるクッキーを食べる。


 俺も一つ摘み口に入れる。


(甘みも少なく、ちょうどいいな)


 上品な味が口に広がる。口の中の水分が程よく吸い取られると用意してあった紅茶を飲み喉を潤す。


「パーティーが始まるのに間食を取るのですか?」


 リンは俺のパートナーとして連れてきている。王城なので武装は許されないが、ユニークスキルを持っているので何ら意味ない。ほかにも攻撃性のない装飾品は許されているので、リンの腕に納まっているユニコーンリングはそのままだ。


 あり得ないのだが毒殺の可能性もあるため、護衛として連れてきていた。


「ああ、俺たちは食べにくい立場だからな」


 なにせパーティーが始まると俺たちの周りには貴族が集まってくる。そうするとろくに食事がとれなくなる。


「まぁ、まだ今回は楽な方だけどな」

「楽ですか?」

「今回はエルドとイグニアがいるからな」


 これがどちらかの陣営のパーティーで招待されたのならば陣営に取り込もうとしてくる奴らばっかりだ。


 だがこれは陛下主催の全貴族が招待されたパーティー。まず大胆に行動はできない、せいぜいが友好的にしようとするために近づく程度だ。


「だから今回は中立派閥をまとめていればいいだけなんだよ」


 ある程度世間話をしたらそれで無事に終わるはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る