第93話 収束と冬の終わり

 ルリィの救出から一週間が経つ頃、ラインハルトさんやガルバさん、デッドさんがせわしなく動き騒動が終結へと向かっていた。


 倉庫を封じた後、僕たちは宿に戻りみんなと合流。その後、いつの間にか近衛騎士団がこの屋敷を囲むと次々に中に押し入り制圧していった。


 そして現在、僕たちは領主の館で成り行きを聞いている。


「今回は助かったよ」


 僕たちの目の前にいるのは近衛騎士団長のグラス様だ。


「そして今回のことは済まなかった」


 そういってエルフのみんなに頭を下げる。


「……頭を上げてください」


 エルフの代表から言葉を受け取るとゆっくりと頭を上げるグラス様。


「それで、どうなったかを説明してくれますか?」

「もちろんだ」


 まず騎士団の調べた結果子爵は完全に黒だった。


「奴らの手順はこうだ」


 まずはノストニアからエルフの子供攫い、洞窟にある拠点を抜けて、ネンラールのある地点でアルア商会の馬車と合流。


 協力者であるウニーア子爵の倉庫にてエルフを監禁。


 その後、アズリウスまで運んでいた。


「ウニーア子爵はオークションの利益の3割で手を貸していたそうだ」


 そしてオークションの状況に応じてエルフを流す作業を受け付けていたらしい。


「でも、アズリウスにはどうやって侵入していた?」


 エルフの質問にも答えてくれる。


 なんでもあの二人が関係するようだ。


「ああ、アズリウスから少し離れた地点でエルフを入れた積み荷を降ろし、自由に飛ぶことができるあの二人組が夜中に空中から侵入していたようだ」

「そんな方法で?」

「ああ、しかも魔力反応もなかったため誰も気づかなかったみたいだ」


 こうして一つの謎が解けた。


「それでこれからはどうなるんでしょうか」

「ああ、私たちはこのまま子爵領で調べものだ。そしてエルフ達だがな」


 ジッ


「えっと何か?」

「実はエルフの戦士達にはまだ協力してほしいことがある。なので子供の輸送を君に任せたい」

「?!僕にですか!?」

「ああ、幸い良好な関係だろうからな」


 これにはエルフ達も反対意見が出ずに僕たちが担当することになった。


「えっと、グラスさんたちは何をするのですか?」

「……ここから先は子供は知らない方がいいよ」


 そういうとやんわりとした言動で僕たちを宿に戻す。









「ということで僕たちがみんなをノストニアに案内することになったんだけど」

「そう、じゃあお願いね」


 宿に戻るとオルド、ソフィア、カリナ、リズ、ルーアに説明する。


「いや、ここは大人に任せた方が」

「その大人が忙しいんだろ?」

「そうだな、別に私たちもまだ暇なのだから」

「そうそう」


 結果的に誰からも反対意見が出なかったため僕たちがエルフの道先案内人を務めることになった。








 そして数日後にはすべての準備を終わらせてノストニアに向けて出発するのだが。


「なんでいるの?」

「いや~ルリィが一緒に来てほしいっていうからさ~」

「言ってない!」


 そう言ってルリィに殴られるローグ。


 ローグは自分もノストニアまで行くと言い出し始めた。


「だってよ、お前らだけだと少し不安だからさ」


 そうは言うがルリィのことが心配なのはこの場にいるみんなに伝わっている。


 ルーアやみんなから反対の声が出なかったので、一人を追加してそのまま馬車に乗りノストニアに向かうことになった。








〔~グラス視点~〕


「行ったか」

「……はい」


 領主の一室でグラスとデッドが対面している。窓からは10人ほどの近衛騎士と、エルフの戦士が護衛した10台ほどの馬車が見える。


「ご苦労だったデッド」

「はっ」


 その言葉を受けてデッドは跪く。


「これでひとまずは問題が解決に向かってくれるだろう」

「……ですが真犯人はそのまま野放しですがね」


 真犯人とはあの二人のことも含めている。何しろ、ほとんどの工程をあの二人が賄っていた。


 ノストニアでエルフの子供を攫うのに二人が必要になり、アズリウスに輸送するのに必要にもなる。逆に言えばあの二人がいなくなれば組織を壊滅に追いやったと言っていい。


 だが


「そちらはどうだった?」


 ここ数日でアルア商会のことをデッドに調べさせていた。


「子爵の証言通り、アルア商会は足としてのみ使われていたようです」

「ふむ、それでも一つの疑問・・・・・がまだ残っている」


 解決されたとされている事件にまだ一つだけ謎がある。


「早急に見つけろ」

「御意」


 事件はすべてが解決したわけではなかった。










〔~クロネ視点~〕


「にしても、良かったのか?」

「何が?」

「未だに使える組織は多くあるだろ?」

「まぁね、でもだめだよ。既に手段が知られているから何かしらの対策がされるから。バカばっかりなら簡単なんだけどね~」


 私の相棒は空を仰向けのまま飛行しながらそういう。


「にしても、面白い子たちだったね」

「……あの子供か?」

「うん、いいガッツを持っていたよ」


 そう言うと相棒は頬を緩ます。


「そういうクロネも全開・・にしても押し切れないなんて、彼は何者なんだろう」

「さぁな……だがこいつは知っているが話したくないそうだ」


 私は腰につけている片方の剣を触る。


「話したくなければしょうがないね、それより今度はどこに身を寄せようか」

「そういえば東で紛争が起こりそうなのは知っているか?」

「お、いいねいいね、じゃあまた荒稼ぎしよっか!!!」


 そう言って彼女たちは飛んでいった。













〔~バアル視点~〕


「さて、これで下準備が終わったぞ」


 アルムの執務室にてグラスからの報告を受けている。その情報からひとまずは事態が収束したとみていい。


「ありがとう、だけど未だにすべてを解決したとはいいがたいよね?」


 アルムの言う通り、あの二人がいる限り、同じ手段で攫われる可能性がある。


「だが手段がわかったんだ対処を講じることはできるだろう?」

「確かにね」


 所々にやぐらを設置し、空を監視すればいい話だ。


「まぁそうだね、魔法を使えなくする結界の方は?」

「いや、接近戦も鍛えればいいだけの話だ、アレは身体強化は邪魔できないのだから」

「それもそうだね」


 基本的な対策はこのように進めていく。


「あとはそっちの方だぞ」

「わかっている、それと使節団のことだが」

「ああ、実行犯以外は解放してくれないか」

「では実行犯はどうする?」

「こっちの法で裁いてくれて構わないよ」

「了解だ」


 こうしてお互いのやることがひと段落した。









〔~アーク視点~〕


「すげぇ~」


 隣のオルドが感心している。


 だがその気持ちもわかる、なにせ今僕たちは虹の橋を渡っているのだから。


「でも、なんで僕たちが…」

「いいんじゃない、陛下もアルム様も君たちの顔が見たいっておっしゃっていましたし」


 エルフの子供たちをフィアとハウのいる里に届けたら『青葉』と名乗る集団が僕たちを招待してくれた。


 そしてエルフの礼服に着替えさせられると馬車に乗せられ現在に至る。


 橋を渡り終わると何人ものエルフに連れて行かれる。これだけでも困惑するのに、連れてこられた場所には王冠を被ったエルフと女性のエルフ、そして少し年若いエルフが王座に座っていた。


「これで揃ったな」

「そうですね、父上」


 ふと横を見ると自分たち以外にも人族ヒューマンがいた。


「それでは名乗ろう、我はノストニアの森王、ルクレ・ルヴァムス・ノストニアだ」


 全員が跪いたので僕たちもそれに習う。


「うぬ、楽にしてよい」


 王がそれだけ告げると横から大臣みたいな人が出てくる。


「さてグロウス王国の使節団よ、今回のことはお互い文化が違いすれ違っていた故の事態だ、それなのに長期に拘束して申し訳ない」

「いえ、私共も初めての他国ということを失念しており、知らず知らずに無礼を働いたことを謝罪申し上げます」


 それからも長い口上が頭の上を行きかう。


「俺達なんで呼ばれたんだろうな」ボソッ

「さぁ」ボソッ


 王太子の視線が僕たちを見ていた。僕たちの私語が聞こえたかと思いヒヤヒヤとした。


「それでは表彰に入りたい、アーク・ファラクス、オルド・バーフール、ソフィア・テラナラス、カリナ・イシュタリナ、リズ・アーラニル、前へ」


 急に僕たちが呼び出された。だが突然の事で誰も動き出すことができなかった。


「ほら、アーク」


 ルーアがそう言い、ようやく僕たちは立ち上がり王座の階段前まで進む。


「この者らは、幼い身ながらも数多くの同胞を助けてくれた、その献身を嬉しく思う」


 エルフの一人が何かを持ってくる。


「指輪?」


 僕たちそれぞれに指輪が渡される。


「これは『宝魔の指輪』と言う、これにはノストニアの通行許可でもある大切にせよ」

「「「「「ありがとうございます!!!」」」」」


 頭を下げてお礼を言うと何かほっこりした視線を感じる。


「それから使節団には――――」


 それからいろいろと難しい話をするためにこの場はお開きになった。







「「「ふぅへ~~~」」」


 僕とオルド、リズは案内された部屋でぐたっとなっている。


「まぁ二人ほどじゃないですけど」

「疲れた……」


 こういう場に強そうなソフィアとカリナも森王の前だと緊張したようだ。


「…………ゴメン、アーク」

「ルーア?」


 ルーアが申し訳なさそうに部屋に入ってくる。


 ただその後に入ってきた人物を見て僕たちはすぐさま飛び起きる。






「そんなに緊張しないで」

「い、いえ、そ、そんな、わ、わけには」


 ダメだ緊張して震える。


 なにせ前にいるのは先ほど出会った、ノストニアの王太子、ルクレ・アルム・ノストニアだった。


「気軽にアルムと呼んでくれ」


 フレンドリーに接してくれるが僕たちは緊張してピクリとも動けない。


「まぁこうなるか」

「アルム様、お戯れはそこまでで」


 ルーアが窘めると、笑いながら許せと言った。


「それよりも君たちは僕の期待する動きを見事こなしてくれた、礼を言う」


 すると先ほどのヘラヘラした雰囲気ではなく威厳ある王の雰囲気になる。


「き、期待する、う、動き?」

「そう、君たちがエルフと人族ヒューマンのかけ橋に成りうる存在に」


 そういうとどこかで見たことのある黒い顔を見せてくれた。


「あの、それはどういう」

「……そうだね、君にはある程度話しておこう」






 バアル様が使節団の代わりに交渉しに来たこと、国交樹立にはエルフの人族ヒューマンに対する嫌悪感がすごいこと、そのための策を考えていると僕たちがアネットを連れてきたこと。


「この時点で君たちを利用しようと考えたんだ」


 策として僕たちがエルフの誘拐事件を解決させるように仕向けた。


 そしてそれが成った今、人族ヒューマンにもこういう人がいると宣伝することができる。


「解決するのはバアル様でも良かったのでは?」

「彼が貴族でなければそれでも良かったんだけどね」


 それだとただ自分たちの失敗を隠しに来たようにしか見えないため、意味がないらしい。


「まぁこれはその報酬みたいなものだよ」


 そういうと様々な武器が運ばれてくる。


「……これは?」

「好きな物を一つ選んでくれ、この中でそれを報酬として渡そう」


 王太子の、その笑顔はどこかで見たことがあった。





〔~バアル視点~〕


 アークたちが武器を選び終わるとルーアに連れられて、グロウス王国に帰っていった。


「それでどうだった会議の方は?」


 アルムの執務室にて詳細を聞く。


「ああ、問題なく終わった」


 もちろんこれはアークたちの事ではなく使節団の事だ。


 既に両国間の会議は終了して、それぞれが動こうとしている。


「で、君はいつ帰るの?」

「俺は使節団と一緒に帰るつもりだ」


 俺の本来の目的は使節団の救出なのだ。なので一緒に王都に戻らなければいけない。


「そっか寂しくなるね」

「……連絡はいつでも取れるだろ?」


 俺はアルムから『飛ばし文』を貰っている、これを使えばいつでも連絡を取ることができる。


「まぁこっちでもいいんだけどね」


 逆に俺からはアルムに通信機を渡していた。これがあれば魔道具が復旧した際にいつでも連絡を取り合うことができる。


「これから魔道具が買えるようになるからより使いやすくするでしょ?」

「その通り」


 魔道具が魔力を介しているのはすでにバレている。魔力が見れるエルフからしたら一目瞭然だろう。


「それと、これを渡しておくよ」


 なにかの手紙を渡してくる。


「君に対しての報酬だよ」

「……ありがたくもらっておくよ」

「それじゃあ、また縁があれば」

「厄介ごとの縁ではないことを祈っているよ」


 こうして俺は使節団を伴いグロウス王国に帰ることになった。





















 それからアズリウス、王都を経由し、ゼブルス領に帰ってきた。


「はぁ~~~~」


 自室のベットに寝ながら長い溜息を吐く。


(疲れた)


 既に王家に貴族たちを無事届け、今回かかった費用を王家に請求し、影の騎士団に今回の報告書を提出し終えた。


「ふぅ~~~~」


 今回の騒動にはさすがに疲労を隠せない。


「バアル様、リチャード様が呼んでいます、年越しパーティーの準備が整ったそうです」


 そんなつかの間の休息さえリンが俺を呼びに来たことで消えてなくなる。


「わかった今行く」


 来年はゆっくりとしたい願いながら大広間に向かい、こうして長い冬が終わった。

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