第92話 救いの手、憧憬を添えて
僕が起こした行動の結果は大爆発だった。
だがその反面すさまじい衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「げほっげほっ」
叩きつけられた衝撃で様々な物を肺に吸い込み、咳き込む。さらには体のいたるところが火傷を負い、ヒリヒリと痛みを訴えている。もし身体強化すら使えなかったらこの爆発で死んでいただろう。
(どうだ、これで少しは)
「いや~冷やっとしたよ」
だがローブの男は未だにその場で立っていた。
「屋根を落として僕を下敷きにするのはいい考えだね、ただ、この力が無ければだけどね」
男の頭上では一番大きな瓦礫が傘となっている。
そのせいで全くと言っていいほどダメージを与えられてない。
対して僕は少なくないやけどを負っている。下手すればどこかの骨にひびが入っていることだろう。
「ここまで痛めつけると見た目が悪くなるな~」
男の俺を目る目は希少な生物を見る目だった。
「っっっっ」
動こうとしても体が言うことを聞いてくれない。
焼けた肌が痛み、関節が動きにくくなっている。
立ち上がるだけでも気を失いそうだ。
「きゃあ!」
ルーアさんもこちらに吹き飛ばされてくる。
「おっ、上手く加減できたみたいだね」
「ああ、だが少し腕前が上がっていた」
「魔法が使えないとなればそうなるのも当たり前だよ」
二人は軽口をたたき合う、僕たちなど眼中になかった。
「それじゃあ、バレるとまずいから気絶させて」
「了解だ」
近づいてくる足音が聞こえてくる。
「っ」
「もう終わりだ」
いつの間にかすぐ目の前に双剣の男が迫っていた。
「眠れ」
その言葉と共に拳が迫ってくる。
「アーク!!」
横からルーアの声が聞こえ、駆け寄ろうとする姿が見えるが間に合わない。
「よくやった、アーク君」
頭上から声がするとともに何かが振り下ろされた音と金属音が響く。
「……また邪魔が入ったか」
現れたのはラインハルトさんだった。
白をベースにした鎧を着こみ、開いた屋根から入ってくる日の光で金色の髪が輝いていて、まるでこれから起こる悲劇に間に合った主人公のようなシーンだ。
「どうして……ここが?」
「ん?さっきの爆発が目印じゃなかったのか?」
不意に宿での言葉を思い出す。
『いいかい、危険だと思ったらすぐさま目立つような行動をしなさい、そうすれば私がどんな時でも駆け付けますから』
思いがけないことに先ほどの爆発が合図となり、ラインハルトさんは約束をどおりすぐに駆けつけてくれた。
「ほらこれを飲んで」
いつの間にか近づいていたガルバさんが何かを手渡してくれる。
「これは?」
「
瓶を受け取り、飲む。すると傷が急速に癒えていく。
そしてかすかながら魔力も回復しているのがわかる。
「ありがとうございます」
「じゃあ頑張ってね、私には戦う力がないからこれぐらいしかできないけど」
「充分です」
僕は再び剣を取り構える。
「っち、子爵め、なんで邪魔が入ってんだよ」
「どうする?」
「………全員殺す、急がないと人目についてしまう」
「了解だ」
言葉が聞こえると主に先ほどとは違い、殺気が濃密になる。
「させないよ」
ラインハルトさんが双剣の男に向き合う。
「こいつの相手を私がしよう」
「……」
二人は共に双剣で構え合う。
「アーク君とルーアさんはそっちを相手にしてくれ」
そういうと二人の姿は掻き消え、金属音だけが響き渡る。
「ほぉ~あの状態になっても切り合えるなんてかなりの使い手だね」
視線の先では影が動いたと思ったらいくつもの金切り音が聞こえる。
「さて、じゃあこっちもやろうか」
僕とルーアさんは黒ローブに向き合う。
「二対一か~ここは正々堂々一対一でやらない?」
「どの口がそういうの!!」
ルーアが接近する。
「ほい」
「くっ」
例に漏れず腕を向けられると、ルーアさんが浮き上がる。
だがその隙に僕が迫る。
「あんまり複数は得意じゃないんだけど……」
ルーアさんに向けていた手が僕に向けられる。
それと同時に僕の体も浮き上がる。
今回も地面に叩きつけられると思いきや中途半端な位置でまた落下していく。
「理解したわ、あなたのその力は一人にしか通じないのね」
「……どうだろうね」
着地後、何が起こっているか確認すると、ルーアさんが短剣で鍔迫り合いをしていた。
「形勢逆転ね」
「果たしてそうかな」
黒ローブは後ろに飛ぶとそのまま空に上がっていく。
そして体を反転させると屋根に着地する。
「僕は接近戦は強くないから考させてもらうよ」
そして腕をとある部屋に向ける。
その部屋は最初に僕たちが入った部屋で中にはざまざまな武具がある。部屋の扉が勝手に開き中からすべての武具が彼の周りに展開する。
「ほら避けられるかな!」
手を振り上げると剣が、槍が、斧が、矢が雨のように飛んでくる。
様々な武器が雨のように飛んできており、一見すると危なっかしい技なのだが……ただ
「え、えぇ~~」
目に見える攻撃など簡単に避けられる。全部避け切った僕とルーアさんを見て、口を開けている黒ローブ。
(こんなもの知らないうちに打ち上げられるのに比べたら簡単すぎる)
「……もしかして戦い慣れてない?」
ギクッ
僕が放った言葉が図星だったのか一瞬だけ黒ローブの体が揺れる。
「「「……………」」」
僕たちはお互いに沈黙する。
「ま、まぁ僕はどちらかと言うと頭脳派だからね」
「「………」」
「そんな目しないでよ!」
また腕を振ると散らばった武器が集まって迫ってくる。
だが降ってくる武器は間隔が空いているので簡単に避けることができる。
「くそっ、ん?……使われた?……ということは」
攻撃が収まると再び腕を振ろうとするのだが、何かに気づいて止まる。
「アーク!!」
「え、ちょっ」
「た、の、ん、だ、わよ!」
ルーアが僕の手を取ったと思ったら回転して投げつける。
(……もう少しやりようはなかったのかな……)
二度目ともなると少し冷静に考えることもできるようになっていた。
「――急がないと、って飛んできている!?」
黒ローブは動き出すと急いで腕を振り、武器を僕の方に向かわせるけどもう遅い。
「はぁあ!!」
飛びながらの僕の一撃はフードの部分に当たり、そのまま落下していく。
僕はそのまま転がりながら着地する。
「痛った~い!!」
「「!?」」
僕は耳を疑った。
ルーアでもルリィでもない女性の声が聞こえてきた。
「ちょっと頬に傷が出来たんだけど~!!」
声の元を確認すると天井のあの男性からだった。
フードの部分が切れていて、素顔が見える。
「……女性?」
「あ、え、やば!?」
慌ててローブを被るがもう遅い、見えたのは薄緑の髪をした女性だった。
「あ~あ~………もうこれはダメか」
そう言うとローブを脱ぎ捨てる。
「たく、こんなことでバレるなんてね~」
「………何で男のふりを」
「この世界だと女ってだけで舐められるからね、『変声のローブ』で声だけ変えて深くかぶっていれば背の低い男って勘違いしてくれるから楽だったよ」
すると瓦礫を飛び越えて何かがこっちに来る。
「フィアナ、ダメだ、殺しきれない」
「え!?」
なんともう一人も女性だった。
背が高く、特徴的な真っ白い髪とそれに相反する褐色の肌、麗人と言って整った顔。
二人ともかなりの美しさを持つ。
「おい、待てやゴラ!」
「「「!?」」」
追ってきたラインハルトさんはさっきと違って真っ黒に髪が染まって、正義の味方から悪党みたいな顔になっている。
「ら、ラインハルトさん?」
「おう、すまねぇな邪魔して、もっと早くカタつけるはずだったんだがな」
これには僕らは茫然とするが、フィアナと呼ばれた少女も茫然としている。
「クロネ、あれ誰?」
「最初に邪魔した金髪……のはずだ」
双剣の男、じゃなかった女性も悩みながら答える。
「というかクロネもローブが壊れたんだ」
「ああ、すまない」
「いいよ、あれはまた作れるから、それより―――――」
逆さまのまま下に降りてきてクロネに耳打ちする。
「…それは本当か?」
「ええ、だからそろそろ切り捨てた方がいいかもね、それに」
二人の視線が門に向くと同時に外に続く門が開けられる。
「これはどういうことだ!!!!」
外には多くの兵隊と、太った男性がそこにいた。
「ウニーア子爵」
「お主は小僧と来た者か、お主は何やっているかわかっとるのか!!」
「ガタガタうるせぇ、それより、こいつらはエルフの誘拐者だ、捕らえるのを手伝え」
「………おい」
子爵の声で兵が動き出した
「何をやっている」
「なにとはなんだ、我々は勝手に倉庫に盗みに入ったエルフとそれを手伝っている不届き者を逮捕しようとしているのだよ」
これには怒りが爆発しそうになる。
つまりはこの子爵は分かっていながら手を貸していることになる。
「いや~助かったよ子爵」
「ふん、お主らにしてはずいぶんと手間取ったの」
「………まぁね~」
「こやつらはどうする?」
「さぁ~それはそっちに任せるよ、僕たちはこれから帰るから~」
「待て、依頼はどうなった!」
「アレね、アレはキャンセルで」
「なんだと!?」
子爵は剣を抜き二人に付きつける。
「理由を言え!!」
「そう怒鳴らないでよ、普通に話すからさ」
そう言うとフィアナは何かを子爵に伝える。
「―――なん、だと」
「ということでエルフを仕入れる場所が占拠されちゃっているよ、どう考えてもノストニアが本腰を入れたに違いなくてね~、だからここも危なくなるよ」
だから私たちは今のうちにいなくなる、と二人は言う。
「そんな勝手なことを!許すわけなかろう!!」
「じゃあどうする?」
すると剣が振り下ろされる。
それがわかっていたのかクロネが剣をはじき距離を取る。
「あ~やっぱりそうなるか」
子爵は二人も殺し、罪を擦り付けるつもりだろう。もちろん口封じのために僕たちも殺すはずだ。
「フィアナ」
「うん、逃げるよ、ここに居ても生贄にされかねないからね」
二人はそのまま浮遊し、空いた屋根から外に逃げていった。
「じゃあね~また機会があったら白黒つけようね~」
「くそっ早くそやつらを殺せ!!!!」
その言葉と共に風が巻き起こる。
だが、魔法の出所はあの二人ではなかった。
「やっぱりあの二人がいなくなったから魔法が使えるのね」
ルーアさんは確かめるように風を巻き起こすと、僕たちを空へと連れて行った。
「ああ、それと」
ルーアさんが指を指し示すと倉庫が土で覆いつくされる。
「少しそこでじっとしていなさい」
ルーアのは魔法を使い。分厚い土で倉庫を覆い子爵と兵士たちを閉じ込めていた。
こうして僕たちはルリィ救出に成功したのである。
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