第91話 強き敵、再び
〔~オルド視点~〕
俺達は牢屋を破壊しガキどもを連れて来た道を戻っている。
「それでどうする?外には大勢いるぞ」
倉庫内には労働する冒険者たち、外には見張りの門番と衛兵が多くいる。魔法が使えない子供を連れて逃げるのは難しすぎる。
「そうですね……リズ、貴方ならだれにも見つからずに外に抜けることはできますか?」
「できるよ~」
今回はリズがいてくれて助かった。なにせリズの技術は凄腕の猟師である叔父さんから習ったもの。その中には気配を消して動くことや、見つからずに移動する技術も当然含まれていた。
「でしたら私、カリナ、オルドはこの通路で待機、その間にリズが外に出てエルフの人たちを連れてくるでどうでしょう?」
「エルフの大人を連れてどうなる?」
まさか全員殺すわけじゃないだろう?
「彼らは魔法が得意です、一度ここに戻って来てもらい、何とかしてもらいましょう」
「……そうだな、私たちがここに居ても何もできないからな」
ソフィアの言葉にカリナが同意する。これにはリズも異論はないようで方針は決まった。
まずは床下の板を少しだけ開け、倉庫の中を確認する。
「うん、大丈夫みたい」
隙間から除くがまだ人は入ってきていない。
「ごめんなさい、リズ。危険なことをさせてしまって」
「ううん~問題ないよ、これが最善なのはわかるから~」
そう言うと外から床が閉められる。
「じゃあ、みんな少しの間待っていてね」
リズは身軽さを生かし、倉庫の窓から抜け出し、門へと向かう。
その後、無事にエルフと合流したリズはエルフに説明、その後現場周辺の人すべてを眠らせて無事救出成功した。
〔~アーク視点~〕
僕たちはルリィさんが連れて行かれたとされる道を進む。
「眩し!」
出口を過ぎると太陽の光に照らされる。先ほどまで暗いところにいたせいかいつも浴びている太陽の光がまぶしい。
視界が戻ったので周囲を見るとどこかの岩場にたどり着いた。
「ここって」
どうやらウニーア子爵の屋敷の敷地内にたどり着いたようだ。証拠に少し先にはウニーア子爵の屋敷が見える。
「ほら行くぞ!」
ローグが先走る。
屋敷に近づくと、岩場からまるでガーデニングされた森に入り、そして石が敷き詰められた道に出て大きな倉庫が現れる。領主の館に密接して作れれている倉庫は、大きさは新しく作られた倉庫の3倍はあった。
「どうやらこの中のようね」
ルーアさんは断言する。もちろん確証はその目に映っているであろう魔力だ。
「でもどうする?さすがに門から堂々とはできないよ?」
今は倉庫のすぐそばにある茂みに隠れているおかげか、見つかってはいないが、当然ながらこの敷地内にも警備の人たちがいる。それに見つかればどんどん応援が呼ばれることになり、さらには連れ去られたルリィというエルフの少女がまた別の場所に隠されることになるだろう。
「二人とも手を出して」
どうやって侵入しようか考えているとルーアがそう告げてくる。
不思議に思って手を出すと思いっきり引っ張られる。
「ハァア!」
体が宙を浮く感覚がするとそのまんま放り投げだされる。なんと僕たちは倉庫の屋根の上に目掛けて投げ出されていた。
「え………!?」
「!?!?!?!?!?!?」
僕とローグは転がりながら屋根に着地する。
「怖!?なんだあの怪力!?」
「先に何か言ってくれてもいいのに」
ローグはルーアさんの怪力に驚いていると、ルーアさんは軽やかに木に登り飛び移ってくる。
「仕方ないでしょ、魔力を無暗には使えないんだから」
何にせよこれで倉庫に入ることができる。
屋根の一部を破壊して中に潜入する。潜入した部屋には大量の武器が置かれていた。
「すげぇ」
「ほらさっさと行くわよ」
武器には目もくれずに中を進んでいく。
部屋を出て倉庫の中を把握する。倉庫の中はまず門を入ると中央に大きな通路が存在するしている。そしてその道に沿うようにいくつかの部屋が設置されており、種別ごとに仕舞えるようになっていた。また二階も存在するが、そこは門の横にある階段から登る必要がある。ほかにも運搬が簡単にできるように中央の通路は天井と一直線でつながっており、二階から荷物を下ろすこともできる。
僕たちはそのうちの二階の一室に侵入していた。
「なぁルリィの居場所は分かるか?」
「ちょっと待って、いろいろな魔力があって調べるのに少し時間がかかりそう」
幸いなことに倉庫内には見張りなどはいないので自由に動き回ることができる。
「じゃあその間に僕たちは他の部屋を探してみるよ」
手分けして一階と二階の小部屋を探す。
まずは一階の部屋を探すが一つの部屋には服が、一つの部屋に鎧が、一つの部屋には生活雑貨が置いてある。
続いては二階の部屋だが、こちらはほとんどが空き部屋だった。
「そっちはどうだ?」
「なにもな……何を食べているの?」
再び一階に戻りまた探し直そうとすると、違う部屋を調べていたローグは何かの果実を食べていた。
「いや、少し腹減ったからさ」
「……助ける気あるの?」
「あるさ、でも、焦りすぎてもダメだろう?」
「だからって」
「程よく力をぬくのは悪いことじゃないさ」
ローグはそういってほかの部屋を見に行く。
「程よく力を抜くか」
ふぅ~~~
深呼吸し、背伸びをする。
(見落としがあるかもしれない……もう一度調べなおそう)
既に調べた部屋をもう一度調べる。
だがそれでも普通の倉庫だということしかわからなかった。
二回調べていないのは一階の奥の大きな部屋だけだ。既に一度調べたが別段怪しいところはなかった部屋だ。
「アーク」
「うわ!?」
いつの間にかルーアが背後にきていた。
「びっくりした~」
「普通に話しかけただけじゃない。それよりも魔力を辿ったらあの部屋に着いたのよ」
そういって調べようとしていた大きい部屋に入っていく。
僕も続いて中に入ると中には先ほど度と変わらず大量の布が置いてある。
「こっちね」
ルーアは一番高く積まれている布の前に移動するとその大量の布をどかす。
「お~い、何やっているんだ?」
「ちょうどいいわ、手伝いなさい」
ローグもやってきてルーアさんの作業を手伝ってくれる。
「ここね」
床の布をどかし終わると、床の一部に触れる。
ギシッ、ギシッ
強めに押すと音を立てて軋む。
「ふん」
ルーアが短剣で床を突き刺し、持ち上げると簡単に床の一部が持ち上がる。
「また隠し通路……」
ルーアはげんなりとつぶやく。なにせ持ち上がった先は再び地下に降りるための階段となっていたのだから。
僕たちは階段を下りていく。
「!?ルリィ!!」
階段を下りた先には小さな檻があり、その中に縛られているエルフの少女がいる。
「おい、しっかりしろ」
気絶しているのかピクリとも動かない。
ローグは持っている短剣で檻の鍵を壊し、様子を確認する。
「ルリィ、ルリィ!!」
「う~、なぁに、うるさいわね」
起き上がる拍子にローグは頭突かれる。鈍い音がして、ローグがのたうち回る。
「って~なんだよ心配してやったのに馬鹿が!」
「ん~~……あれ?なんでローグがここに?」
ルリィの意識がはっきりとしてきたようでローグの事を認識すると、今度は僕たちに視線が向く。
「同胞!?」
「そう、助けに来たわよ」
ルーアさんも中に入り拘束を解く。
「怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「そう……貴方、魔力を操作できる?」
「……できません」
首にあるのはどうやらアネットに嵌められていた首輪と同じで魔法を使うことができないらしい。
「それじゃあ逃げるわよ」
長くここにいる必要がないためさっさと逃げるに限る。
階段を駆け上がり、部屋を出るのだが。
「!?」
ギィン!!!
先頭にいたルーアが飛んできた短剣をはじく。
「やぁやぁやぁ、また会ったね~しょうね~ん」
「お前は!!!」
ノストニアに向かい最中に出会ったあの黒ローブがそこにいた。
「まさか、こんなところまでくるとはね~と言うことはかなりのところまで調べられているのかな?」
僕たちの通路を塞ぎ通せんぼしている二人。
「アーク、何とかして二人を逃がしたい」
僕は二人を見る。
確かに戦力でいえばルーア、僕のみ。ローグは戦闘手段を持ってないし、ルリィは魔力を封じられて戦えない。
対して相手はソフィアたちが居ても普通に勝てるほどの実力者。
「そうだね、ローグ、ここは僕たちが抑えるから逃げて」
「!?だがな」
「そしてオルドに伝えて、助けてって」
「!!わかった」
「させないよ」
ローブの男が腕を振ると荷物が浮き上がり退路を塞ぐ。
「っ!?」
二人は逃げ道を失う。
「そいつは返してもらうぞ」
「させないわよ」
双剣の男が二人を狙うが、ルーアがそれを邪魔する。
キィン!!!
双剣と短剣がぶつかり合い澄んだ音が響き渡る。
「ルーアさん!」
「ついでにこれも『封魔――」
「!?」
そういって腕を振るおうとするので、僕は走り邪魔しに行く。
「ほい」
「ぐっ!?」
掌が僕の方角に合わさり、腕が上に振るわれると僕の体が浮き地面に叩きつけられる。
(またか!?)
何が起こっているかが全く理解できない。
「邪魔しないでね~『封魔結界』」
魔法を封じる結界が敷かれる。
出来ればこれだけは阻止したかった。
これじゃあ前と同じ状態に、いやもっと悪い状況だ。
「それじゃあ彼女は相棒がやってくれるみたいだし、僕は君の相手をするよ」
そう言うと腕が振るわれる。
「がっ!?」
今度は真横に吹き飛ばされ壁に激突する。
(なんだこれは、魔法は結界の中じゃ使えない、僕のユニークスキルも発動しない、なんなんだこれは!?)
思考が乱れる。なにせ魔法が使えないのに、相手は魔法の類の攻撃を行っているという矛盾したことが起こっている。
「かはっ」
「君も高値で売れそうだから傷つけたくないんだけどな」
また腕を振るおうとする。
「やめろ!!」
横からローグが何かを投げつける。
「邪魔しないでよ」
腕を軽く振るとそれは天井まで行って破裂する。
「っ」
「君は要らないね」
冷ややかな視線がローグを捉えると、今度はローグに向けて腕が振られる。
「!?」
「ローグ!?」
壁に叩きつけられるローグ。その速度は僕の時とは比べ物にならないほど速かった。
僕たちは彼らの言葉通りなら僕たちには商品価値があるということで殺さない、大きな傷をつけない程度に力を振るっているがローグにはその価値が無いと判断されてしまっている。そのためあいつはローグに殺すつもりで攻撃をしている。
「うぅうぅぅぅ」
幸運にも激突したローグはまだ息がある。
「もう一回かな」
「っやめろ!」
もう一度振ろうとするのだが。
「ローグはやらせないわ」
ルリィがローグを庇うように立ちふさがる。
「……しかたない、そこで動かないならば命は助けるよ」
ルリィがローグをかばった甲斐があり、ローグへの攻撃はなくなった。
だがそうなると次は再びこちらに腕を向ける。
「気絶してくれれば簡単に済むんだけどな」
そう言うと再び浮遊感に見舞われる。
今度は長く、目を開けると屋根まで届く。
「あがっ!」
屋根に叩きつけられて、そのまま落下していく。
「かはっ!」
地面に叩きつけられると肺の中の空気がすべてなくなる。
「手も足も出ないだろう、なら降参してほしいんだけど、怪我が多いと金額が下がるんだよね」
「はぁーーーーはぁーーーー、しない」
「じゃあ素直になってもらうため、しつけが必要だね」
もう一度屋根に向かって打ち上げられる。
(ここだ!!)
亜空袋からある物を出す。
実は先ほど屋根に叩きつけられたときにある物に気づいた。
先ほどローグが投げたのは小麦粉の麻袋だった。それが天井に叩きつけられて破裂し、天井に充満している。さらに言えば打ち上げられた小麦粉自体に力が掛かっているのか、重力に逆らって天井に押し付けられているようになっていた。そしてその場所はちょうどローブの男の真上だった。
僕は取り出した火の魔石を屋根に向けて思いっきり投げる。
魔石が屋根にぶつかると砕け、炎が生み出される。
そしてその結果巻き起こるのは
ボォォオオオオン!!!!!!!
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