第90話 救出部隊始動

「さぁここだよ」


 僕たちは少年に合流した後、一つの食堂に連れてこられた。


「それじゃあ、出会いを祝して乾杯!」


 それぞれ持ったジョッキを当てる。もちろん中身はジュースだ。


「それにしても初めて見る顔だけど、旅人?」

「ううん、知り合いの用事で少しここに来たのです」

「へぇ~どうりで見たことないはずだ」

「君はずっとここにいるのか?」

「そうだよ、生まれも育ちもこの街」


 そういうと注文していた串肉を食べる。


「いや、でも助かったよ。最近は依頼がめっきり無くなっていてさ、この倉庫の依頼がないなら餓死しそうだったんだ」

「親御さんは?」

「……俺は孤児、スラム育ちだよ」


 彼は今までに見たことのない表情になる。


「ごめんなさい」

「なにが?孤児なのを聞いたこと?そんなの数多くいるさ」


 謝罪など必要ないと言ってように笑いのける。


「そういえば、君たちはなんでギルドに?用事ってギルドの?」

「ちがうよ~、用事は付き添いできたんだけど少しの間ここにとどまるから、小遣い稼ぎだね~」

「へぇ~じゃあ、今はいいタイミングだな」

「それはどうしてだ?」

「いまは貴族が依頼を出しているんだけど、それの報酬がいいんだよ」

「それって倉庫の整理か?」


 カリナの問いに少年は首を振る。


「そう、でももっといい依頼もあるよ」

「どんな?」

「僕も気になる」

「ん?…………まぁ付き添いならいいか」


 少年は何かを考えこみ、顔を上げる。


「ここだけの話だぞ」


 僕たちは顔を近づける。


「実はな、長くここのギルドに世話になっている奴だけに特別な依頼が舞い込んでいるんだよ」

「特別な依頼?」

「そう、お前たちが言っているのは新しい倉庫の整理だろ?」


 僕たちは頷く。


「だけど俺が言っているのは違う。旧倉庫のほうなんだ」

「そっちだと報酬がいいの?」

「ああ、一日で銀貨七枚になる」


 確かにそれはかなりの違いが出る。それも新しい倉庫と古い倉庫で賃金にかなりの違いがある。怪しい匂いがかなり漂ってくる。


「そういえばなんで、この時期に荷物を移すんだろう?」


 僕は気になっていたことを聞く。


「俺が聞いた話だと、どうやら害獣が倉庫に現れてやられたからって聞いたけど」

「それなら駆除だけで済むんじゃないの?」

「いや、なんかその害獣が毒を持っていたらしくな、倉庫が使えないからって急いで新しい倉庫を建てたって聞いたぞ」


 少年の話を聞いている限りでは怪しいところはない。むしろただの少年に都合のいい言い訳しか教えていない様子だ。


「そういえば、いまアズリウスでエルフの噂が持ちきりにいなっているよね」


 エルフの話題を出して揺さぶってみる。


「……そうなのか?」

「うん、なんでもエルフは子供が攫われると、さらった町すべてを破壊するんだって」


 さてどうだろうか。


 少年の様子を窺うと気分が悪そうになっている。


「その話は本当か?」

「本当よ、一度アズバン領の最北の村に行ってみたんだけど、そこでエルフに会う機会があってね、聞いてみたら本当だって」


 ソフィアも僕たちの意図に気づいたのか乗ってくる。その話題が始まればさらに顔が青くなる。


「どうしたの?」

「いや、その……」


 すると何かを決めたかような顔になる。


「なぁお前たちはエルフに知り合いはいるか?」


 僕たちは顔を見合わせる。


「説明してもらえるかしら」

「絶対にしゃべらないって誓えるなら」


 僕たちは頷く。


「実はな……俺はエルフと会っているんだよ」


 僕たちはあらかじめルーアさんから教えられていたから驚きはしなかった。


「お前らあんまり驚かないな」

「まぁね……それは奴隷?」

「首輪をつけていたからそうみたいだぞ」

「どこで?」

「………なんでそこまで知りたいんだ?」

「それは」

「待ってここは私が言うわ」


 ルーアさんは周囲を見渡すと何かの魔法を使う。


「これでいいわね」


 するとルーアさんの変装が解けていく。


「……は?」

「私がそのエルフだからよ」

「いや、その」


 驚きすぎて何も言えない少年。


「で、どこなの?」

「……街を滅ぼすってのは本当か?」

「本当よ、証拠がつかめれば私たちは容赦はしない」


 ルーアから直接言葉を聞くと、なにかを考えこむ少年。


「一つだけ条件がある」

「聞くだけよ」

「孤児院だけは壊さないでくれ、頼む」


 そういって深く頭を下げる。


「ねぇ、なんでエルフの知り合いがいるか聞いたの?」

「……あいつらが原因でこの街がつぶされるくらいなら、俺が何とかして逃がそうと思ったからだ」


 ルーアは少年を見極めようとする。


「そう、分かったわ、もしこの領が報復の対象になったら孤児院だけは見逃してあげる、けどその代わりにどこでエルフにあったか教えなさい」


 彼はこの言葉に頷く。


「ああ、彼女を助けてくれ」

「ええ………そういえば名前を聞いていなかったわね」


 そういえば名前を聞いた覚えがない。


「俺はローグだ。よろしく」

「私はルーアよ」

「僕はアーク」

「俺はオルド」

「ソフィアです」

「カリナだ」

「リズだよ~」


 それぞれ自己紹介をする。


 その後、詳しい話を聞き、宿に戻る。










「…………本当に引きが強いな」


 宿にて一度聞いたセリフをもう一度聞くことになった。


 僕たちはローグから聞いた話をラインハルトさんに説明する。


「なるほど、君たちはどうするつもりだ?」

「明日にはローグにその場所に案内してもらうつもりです」

「明日か……」


 明日はラインハルトさんとガルバさんはウニーア子爵に面会する予定だ、なので僕たちについてくるなんてことはできない。


「エルフのみんなも出払っているし……」


 なんとか護衛を付けたいと思っているラインハルトさんだが今は人手が足りない。


 エルフの八人は二つの道に二人ずつ配置されて、ローテーションで動いている。


 ガルバさんも偽装工作でこの街の商人に挨拶に行ったりしているし、部下も忙しそうに動いている。


 ラインハルトさんは明日のウニーア子爵の面会に備えて準備をしている。


 自由に動けるのは僕たちのみだ。


「……いいかい、危険だと思ったらすぐさま目立つような行動をしなさい、そうすれば私がどんな時でも駆け付けるから」

(ラインハルトさん…………ただの痛い人じゃないんだ)


 道中、たまに独り言が多い人だと思っていた。


「わかりました」

「じゃあ、今日は寝なさい、明日は忙しくなる」


 僕たちは明日に備えて早めに寝ることにした。











 翌朝、早速して準備をするとギルド前に移動する。


「来たか、依頼票は用意してあるぞ」


 ローグの話によると、とある依頼を受けないとその場所には入ることができないのだ。


「じゃあ、これお願いします」

「え?この子たちも?」

「そうっす、俺が責任取りますんで」

「う~~ん、ま、大丈夫か」


 受付のお姉さんは適当に考えて、受理した。


「ほらさっさと行くぞ」


 ローグは急くようにギルドから出ていく。


「なんで急ぐの?」

「後で説明する」





 ギルドからある程度離れるとローグが話してくれた。


『ミレイアさんは適当で有名なんだよ、だからなんかある時はあそこに並ぶんだ』


 代わりにそこに訪れた奴らはマークされるけどとローグは言う。


「ほら着いたぞ」


 旧倉庫は新倉庫と違って街の外側にあった。


 大きさは三分の一程度なのだが数が3つある。


「おい、ローグそいつらは?」

「ああ、昨日意気投合してな今日だけ手伝ってもらうことになった」

「だが」

「問題ない、信用できるのは保証するから」


 そういうと渋々だが先にきていた同業者は倉庫の方に向かっていく。


「いいのか?」

「ああ、俺からしたらエルフにこの街が壊される方がヤバいからな」


 まぁいられなくなったらネンラールにでも行くとする、とローグは言う。


「集まった冒険者は報告してくれーーー」


 役人がそう言うと全員が列になって並ぶ。


「いろんな人がいるんだね」

「そうみたいですね」


 僕たちと同じくらいの年もいれば成人したてほどの人も、おじさんと言っていい人もいる。


「次!」

「はい」

「ローグか……その後ろの6人は?見ない顔だけど」

「昨日意気投合してな、この仕事を紹介したんだよ、なに今日だけだからさ」

「はぁ~今日だけだぞ、次からはお前ごと追い返すからな」


 ローグの説得で僕たちもこの仕事を受けることができた。


「よし、倉庫の中の物を馬車に運べ」


 この声と共に皆が動き始める。


「ルーア?」


 ルーアさんは外に配置してある馬車に視線を向けている。


「……なんでもないわ」

「???」


 僕たちも中に入って作業を始める。


「それでローグ、どこでエルフに会ったんだ?」

「倉庫の中のある場所でだ、今は動けないから昼めしの時に動くぞ」


 ローグの先導で僕たちは昼食時間まで働く。


 カン、カン、カン


「昼食だ、お前ら一度戻ってこい」

「今だ行くぞ」ボソッ


 僕たちは人混みの中、ローグに従って倉庫内の壁際に移動する。


「ほらここだ」


 ローグが床に何かをすると板が外れる。そしてその先には階段とどこかへ続く道がある。


「ここを進んだところにいたんだよ」


 ローグは入り口を閉めてむき出しの土の道を先に進む。


「にしてもこんな道、良く見つけたな」

「いや、それがな」


 ローグは以前に同じ依頼を受けたのだが昼飯の後に昼寝をしたらしい。


「で、気づかれないようにしたせいで倉庫に置き去りにされていたんだ」

「「「「「「…………」」」」」」

「で、何とか出ようとしても正面の扉はかんぬきが掛かっていて開けられないし、窓から出ようとしても、高すぎて飛び降りれなかった、で必死に何かないか探すとこの場所を見つけたんだ」


 あきれて声も出ない。それは僕だけではなくみんなもだった。


「おい、進むぞ」


 暗い道を進むと先に光が見えてきた。


「ここからはあんま物音立てるなよ」


 ローグの言う通りにできるだけ足音を立てないで道を進むと、開けた空間にたどり着く。先ほどの光の正体はこの空間を照らすために立てられていた松明だった。


 僕たちは通路からのぞき込むと、視線の先には壁を削り取って作られた牢屋とその脇で何かをやっている二人組が見えた。


「……アーク」

「ああ」


 牢の中には10人を超えるエルフの子供が捕まっていた。


「どうする?」

「証拠が見つかったのよ遠慮する必要がないわ」


 そう言うとルーアさんが飛び出し、二人を殴りつける。


 ボグッ、グギャ


 人の体から出る音とは思えないくらい鈍い音が鳴り、そのまま二人は地面に倒れこむ。


「助けに来たわ」


 そういうとエルフの子供たちは理解できなかったのか少しの時間固まる。そして次第に泣く声が聞こえてくる。


 怖い思いもしたから無理もないだろう。


「なぁルリィはどこにいるんだ?」


 ローグは一人に一人の子供に話しかけると今度は悲しそうな泣き顔になる。


「る、ルーおねぇ、ちゃんは連れ、ていかれた」

「っマジか」


 ローグは悔しそうな顔になる。


「おにいちゃん、お願い、るーおねぇちゃんを助けて」


 一人がそういうのを皮切りにローグに子供たちが懇願する。


「安心しろ、ルリィは俺が助けてやるから」


 そういうと子供たちは安心した表情になる。


「…好かれているのね」


 ルーアさんはとても意外そうな表情になる。


「まぁ1週間毎日顔を合わせればある程度信用してくれるさ」

「それだけじゃないよ、ローグ兄ちゃんは毎日絶対助けてやるって言ってたから」


 子供の言葉にローグは照れ臭そうに横を向く。


「……俺は何もできなかったけどな」


 どうやら彼も彼女たちを助けようとはしていたみたいだ。


「それでルリィがどこに連れていかれたか知っているか?」

「え~と、りょうしゅの場所だって」

「変な二人組がルーねぇを抱えて出ていったんだよ」

「どっちに行ったかわかるか?」

「あっち」


 指差されたのは僕たちがやってきたのとは反対側だった。


「どうするアーク」

「二手に分かれよう」


 この子たちを連れて戻る組とルリィさんを探す組に分かれる。


「無茶すんじゃねえぞ」

「そっちも気を付けてね」


 ルリィを探す組は僕とルーア、ローグ。


 子供たちを連れて来た道を戻るのはオルド、ソフィア、カリナ、リズだ。



 それぞれがお互いの役割を理解し動き出す。

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