第89話 手掛かりはそちらから

〔~アーク視点~〕


「なんか普通の町ですね」


 ウニーア子爵の町、ウアルシアに僕たちはたどり着いた。


「ここはアズリウスの中継地で発展した場所だからね、あまり特産などはなく宿屋が多いんだ」


 ウアルシアは宿と倉庫が多く発展しているが、それ以外は意外と普通な町だと一緒に来たガルバさんが説明してくれた。


「……宿はこっちだ」


 デッドさんが先行し、大通りの宿屋には入らず、少し離れた宿屋に案内された。


「……邪魔するぞ」


 表に馬車を停め、無遠慮に店にはいるデッドさん。


「いらっしゃ、なんだデッドか」


 そんなデッドに驚くことなく対応する店主。全身黒ローブのデッドさんを怪しまずにいられるくらいの仲のようだ。


「今回はどっちだ?」

「……普通に世話になる、いや、正確には彼らを頼みたい」

「ほぉ~」


 店主の視線が僕たちに向く。


「よろしく、ここの宿屋をやっているジェクスだ」

「ラインハルトといいます、よろしくジェクスさん」


 僕らを代表してラインハルトさんが二人と握手する。


「で、人数は全員か?」

「はい、ただ6名は近いうちに、この街を出るの継続して泊まるのは19人ですね」

「了解だ、値段は一人部屋が大銅貨7枚、二人部屋が大銅貨6枚、四人部屋が銀貨1枚と大銅貨1枚だ」

「わかりました」


 そう言ってラインハルトさんは金貨を店主に手渡す。


「旦那?」

「私たちはいつまで滞在するかわかりません、なので宿を出る際に差額分を帰してもらえば」

「わかりました、それでは部屋割りはどうしますか?」

「そうですね―――」








 考えた結果部屋割りは


 僕とオルド。


 カリナ達+ルーア。


 ラインハルトさんとガルバさん。


 エルフの8人が4人部屋二つ。


 ガルバさんの部下3名が4人部屋。


 デッドさんはここじゃないどこかに泊まるようだ。


「……はぁ、俺もカリナ達の部屋が良かったな~」

「ちょっ!?オルド!?」


 部屋に荷物を置きながらオルドがぼやく。


 その気持ちは分からなくはない。だがそれを彼女たちに言ったら凍えるような視線で睨まれる。


「にしても普通の町だな~」


 窓の外を見るとこの街を見ることができる。


 ここは大通りから離れてはいるが少し高いところにあるので景色がいい。


 しばらく外を眺めていると扉がノックされる。


「アークくん、オルドくん、少し話があるから下に来てもらってもいいかい?」

「あ、わかりました」


 ということで僕たちも下に降りる。







「さて、集まってもらったのは今後のことについてだ」


 集まったのは食堂になっている場所だ。


 時間が微妙だということで俺たち以外に人はいない。


「まずこれからの動きとしては三つある」


 そういうとこの街の地図に配置を書き始めた。


「まずはエルフの諸君だ、八人にはアズリウスへの道とネンラールの国境へと向かう道の門の見張りをしてもらう」

「私たちなら馬車を見れば一発でわかるからか」

「そのとおりです、門番みたく一々確認はできないのである程度遠目からも確認できる貴方たちにお願いしたい」

「わかった」


 ルーアさんを除いたエルフ達は門の近くで張り込む。


「次にアーク君たち」

「「「「「はい!」」」」」

「君たちにはルーアさんと一緒にギルドで雑用を」

「えっと……情報収集?」

「その通り、何か変わったことがないか聞き込みをお願いしたい」


 そういうことなら僕たちからは異論は出ない。


「最後に私だが、ガルバが領主に挨拶するのに同伴する」

「そんなことをして怪しまれませんか?」

「もちろん多少は怪しまれます、ですが動きを抑制させることができます。いつも通りだったら発見できない事態でも動きにくい場面では発見することも容易になることがあります」


 プレッシャーを与えるのが目的だとラインハルトさんは言う。


「なにか異論はあるか」


 誰も声を上げず、各々が動くことになった。









 方針が決まれば、早速僕たちはギルドに向かう。


「ねぇギルドってどんなところなの?」


 道中でルーアさんは訪ねてくる。


「そっか~ノストニアには無いものね」

「では、説明しますね」


 まずギルドには大きく三つの部門に分かれている


 一つが戦闘部門。


 二つ目が商人部門。


 三つ目が生産部門。


 さらに分化して、戦闘部門から傭兵ギルド、そして僕たちが所属している冒険ギルド。


 商人部門からは行商ギルド、商店ギルド。


 生産部門では鍛冶師ギルド、薬師ギルド、木工ギルドとなっている。


「今行くのは冒険ギルド?」

「そう、ほかのところに行きにくいからな」


 オルドの言う通りだ。


 傭兵は論外、商人も僕たちには意味がない、生産も僕たちでは意味がない。


「それに他のところだと僕たちでは登録できないからね」

「そうなの?」


 ほとんどギルドには年齢制限があり傭兵ギルドと冒険ギルドは15から、商店ギルド。行商ギルド、商店ギルド、鍛冶師ギルド、薬師ギルド、木工ギルドも通常は15歳からだが後継人があれば見習いとして12歳から登録が可能だ。


「でもアークたちは登録できているわよね?」

「うん、冒険ギルドだけ10歳から登録できるんだよ」


 例外として冒険ギルドはランクが最下位から上がらないという条件で10歳から登録ができる。


「ですが、もちろん制限があって成人するまでランクGで固定されます、さらには受けられる依頼も制限が掛かるんです」

「そうだな、おかげで簡単な小遣い稼ぎにしかならない」


 カリナは不服そうにしているが、こればかりはしょうがない。


「……そういえばルーアの年っていく」


 オルドがルーアの年齢を訊ねようとするのだが変な威圧を感じて慌てて口を閉じた。


 無神経なオルドが口を閉ざす時点でどれほど圧が掛かっているかが予想できる。


「つ、着いたよ」

「お、おう、ほらさっさと行こうぜ」


 ギルドの看板が掲げられた建物に到着したので助け舟を出すと、オルドは救世主を見たかのような表情になる。


「はぁ、まぁいいわ」


 ルーアは顔を振り、中に入っていく。








 僕たちがやってきたのは総合ギルドと言って施設はないがすべての部門の手続きができる場所だ。


「とりあえず、ルーアさん登録なんだけど………」

「なに?」


 僕が言いにくそうにしているとソフィアが何かに気づいてくれた。


「アーク私たちはルーアの登録に行ってくるのでクエストを見てもらえますか」

「わかった!!」


 ソフィアにルーアを任せると、僕とオルドは冒険者部門のクエストボードに移動する。


「なぁ、さっきはどうしたんだ?」


 先ほどのやり取りが不自然だったのかオルドが興味深そうにしている。


「えっと、ほらエルフって長命でしょ」

「そうだな」

「ならルーアさんも見かけ通りの年齢じゃないだろうなと思ってね」


 僕たちより少し上の外見で25歳とかいったら怪しまれるに決まっている。


「なるほどな~」

「ソフィアたちなら上手くやってくれるよ、ほら依頼を探そう」


 僕たちは依頼を探す。








「アーク、いいのは見つかったか?」

「ああ、カリナ、ちょうど良さそうなのがあったよ」


 僕は一つの依頼票を見せる。


 ――――――――――

 ランクG:倉庫の手伝い


 報酬:一日一人に付き銀貨1枚。働き具合により変動有り

 依頼人:フィリップ・セラ・ウニーラ

 期間:残り2日


 新しい倉庫を建設したので荷物を移し替える、その際の手伝いを頼みたい。人手は多い方が助かる。

 ――――――――――



 まさに今回にぴったしの依頼だ。


「それよりそっちは問題なかった?」

「ああ、問題なく登録できた。いや、まぁ驚きはしたが」


 ここで何に驚いたかは聞いてはいけないと本能が告げている。


「それじゃあ早速受けに行こうぜ」

「そうだね」













「でっかいね~」


 僕たちは依頼を受諾すると、新しく建てられた倉庫の前に来ている。


「君たちは依頼を受けてくれた子かな?」

「はい」


 僕たちは依頼票を見せる。


「じゃあ君たちはこっちの荷物を運んでね」

「「「「「はい」」」」」


 僕たち総出で馬車に積んでいる荷物を倉庫へと運ぶ。もちろん人員は僕たちだけではなく、小遣い稼ぎの子たちや、暇になった主婦などもいた。


「どう、ルーア、何か見つかった?」

「……ええ」


 どうやら話しにくいことのようで倉庫内の死角で話を聞く。


「ノストニアで出会った二人は覚えているわね」

「……もちろん」


 僕とルーアが戦ったけど手も足も出なかったあの二人だ。


「その二人が近くにいるわ」

「!?」


 思わず周囲を見渡す。だが二人がいるようには見えなかった。


「ここには居ないわ、あくまで荷物にこびりついている魔力に二人のがあるのよ」

「じゃあこの荷物をどこかで触った?」

「ええ、しかも鮮明に残っていたから結構最近よ」


 これには言葉も出ない。


 つまり少なからずこの領地にあの二人が来ていた証明になる。


「とりあえず作業を終わらせよう、僕もできるだけ調べてみるから」


 長い時間話し込んでいたら怪しまれるどころか同じ依頼元からのクエストが受諾不可になる場合があるので作業に戻る。











 それから何かないかと注意して作業するが、結局、今日の分が終わるまで何も見つからなかった。


「はい、じゃあ、ありがとうね」


 現場監督者から依頼票にサインをもらうとギルドへと戻る。


「ほとんど手掛かりがつかめなかった」


 ギルドへの道中お互いに分かったことを報告し合うが、結局のところ依頼でつかめたものは二人の痕跡だけだった。


「とりあえずラインハルトさんに報告しようぜ、明日子爵に挨拶に行くみたいだし、何か掴めるんじゃないか?」


 それからギルドに戻り報酬をもらう。


「はい、ご苦労様、坊やたち、これが報酬よ」


 受付のお姉さんから銀貨6枚を受け取る。


「しばらくはあの依頼が出てくるから、もしよかったら今度も受けてね」

「機会があれば」

「だな一日で銀貨一枚はおいしいしな」


 Gランクのクエストはせいぜいが大銅貨が2、3枚出てくかどうかだ。


 それに比べたらうまいなんてもんじゃない。


「じゃあもど、ッタ!?」

「グエ!?」


 ギルドを出ようとしたオルドが外から入ってきた人とぶつかった。


「って~なんだよ急に」

「お前こそどこをみてんだ」


 オルドとぶつかったのは僕たちとさほど変わらない少年だった。


「ああ?ぶつかっといてその態度かあぁあ?」

「同じ言葉を返してやるよ、馬鹿が」


 両者とも引かずに胸ぐらを掴みメンチを切る。


(あ~あ~オルドの悪いところが出た)


 言い方は悪いがオルドは町のチンピラのようなところが多々ある。


(根はやさしいって事は分かるんだけど………これさえ治ればな)


 そう思っていると二人の剣呑な雰囲気が漂ってきた。


「ちょっと~」

「そこまでにしてくれ」

「そうです出口で暴れたら迷惑ですよ」

「なんだ!……と……」


 オルドと喧嘩しようとしていた少年は止めに入ろうとしたソフィアたちを見ると固まる。


 そして何も言わずにオルドと肩を組むと。


「どういうことだ?お前みたいのにあんなかわいい子たちが」ボソッ

「てめぇ喧嘩売ってんのか」

「だって考えてみろ、どう考えても不良のお前じゃあの子たちと釣り合わねえだろう?」ボソッ

「なぁ、本当にその口閉ざしてやろうか」


 怒りをあらわにするオルドを放っておいて、少年はソフィアたちに向き合う。


「こんばんわ、すみませんねこっちの不注意で、お詫びに食事でもどうですか」

「いえ、あの、今から宿に戻るので」

「おや、では俺が見送りますよ」

「え、いや、大丈夫です」

「遠慮せず」


 綺麗な転身にあっけに取られる僕たちだがそんなものお構いなしに少年はぐいぐいとくる。


「おい」


 今度はオルドが少年と肩組む。


「うちの奴らを困らせるんじゃねぇよ」

「なんだお前の恋人でもいるのか?」

「……いや、いねぇけど」

「なら、そういわれる必要はないな」

「あいつらは困ってんださっさと失せろ」

「なんにもないなら邪魔すんな」


 僕は呆れた目で二人を見ていると後ろから服を引っ張られた。


「………アーク」

「どうしたの?」

「あの子エルフと接触しているわ」

「!?」


 ルーアの言葉で思わず少年のことを見る。まさかこんなところでエルフについての情報は出で来るとは。


「しかも警戒の色じゃない」

「……どういうこと?」

「わからない、けどあの子がエルフと接触したのは確かよ」


 どういうわけかわからないけどとルーアさんは言う。


「なぁ頼むよ」

「やめろ、引っ付くな」

「ほら、強敵と戦った後、友になるだろう?」

「戦ってもいないし、お前とダチになんてなりたくねぇよ」


 少年は何とかソフィアたちと近づこうとする。


 そしてオルドがそれを防ぐ。


「(……なら)あの、君は僕たちに謝罪としてご飯に誘いたいんだよね」

「そう、あ、でも男は要らないから」


 ブチッ


 せっかく助け舟を出そうとしていると、うっとおしくなってきたオルドからなにかが切れた音が聞こえた。ちなみに僕も今の言葉にはかなりイラッときた。


「アーク」

「あ……うん………分かっているよ」


 ルーアの声で正気を取り戻す。


 声が掛からなければオルドと一緒にこいつを蹴飛ばしていたかもしれない。


「ふぅ~~~、ソフィアたちをご飯にさそうなら絶対に僕たちはついて行くよ、それでもいいなら考えるけど」

「……………仕方ないか」


 上手く席を分ければ一人くらいうんぬん、と少年つぶやく。


「じゃあ、早速行こうか!!」


 そういってソフィアの手を引こうとするがそれを止める。


「少し待って、せめて宿に荷物を置かせて」

「わかったよ、俺も報告があるからギルド前で待ち合わせだな」


 そう言うと少年はギルドの中に入っていく。


「なんだ、あいつ」

「さぁ~?」


 カリナとリズはあいつ興味はないみたいだ。


「アーク、なんで話を受けたのですか?」


 ソフィアが少し怒りながら詰め寄ってくる。


「別にあの人の話に乗る必要はなかったのでは?適当にあしらって宿でラインハルトさんと今後について話し合わないと」

「それがね―――」


 ルーアはあいつにエルフの魔力が付いていたことを説明する。


「なるほど」

「だから少し彼を探りたいのよ」

「……私たちを囮に使って、ですか」


 げんなりとした表情でソフィアは言う。


 王都でもこのような事が度々起こるのでめんどくささを理解しているのだろう。


 急いで宿に戻りラインハルトさんに報告する。


「……君たち、引きが強いね」


 僕たちの報告を聞くと呆れながらにその言葉が出た。


「わかった、けどあまり遅くならないようにね」


 許可をもらい、僕たちはそのままギルドにトンボ帰りする。

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