第88話 因果応報、悪人に慈悲はなし

「なるほど、じゃあこいつらが当たりか」


 俺はウライトの作り出してくれた炎で冷え切った体を温めながら報告を聞く。


「で、どうやって吐かせる」


 生き残った5人はウライトが作り出した土で拘束されている。そして彼らに様々なことを問いかけても何も話そうとしなかった。


「どうする?見せしめに何人かむごく殺す?」


 ビクッ×5


 クラリスの言葉で生き残った五人はわずかに身を震わせる。


「できれば情報源は多い方がいい」

「なら拷問?」

「でも、こいつら見ている限りなんか希望を持っているんだよな~」


 こいつらの表情が絶望していない。なにかしらの脱出手段があるのだろう。


「………そうだな」


 俺は亜空庫からある物を取り出す。


「それって……」

「こいつならいずれ話すようになるだろう?」









 五人にある物を使い、縛ったまま放置する。


「……あのバアル様」


 檻のあった空間を探索していたリンが戻ってくる。


「なんだ?」

「……来てもらえますか」


 リンに従ってついて行く。檻がある空間は倉庫を兼ねているのか様々な大きさの木箱が積まれている。そして檻は土壁にはめ込めるように造られており大人数が収容できるようになっていた。


「これを見てください」


 一番奥にある檻を見るのだが。


「なにもな………ん?」


 檻には湧き水の飲み場とベット用のワラのみ。そしてよく見渡すと、何もないと思ったワラの中に肌色の物体が見える。


 檻を開けて、中に入り確認する。


「……死んでいるな」


 そこにあったの一人の死体だった。さほど時間が経過していないのか肉体は腐っていないが、それゆえになぜ死んだかがわかるぐらい凄惨な傷跡が付いている。


「むごいな」

「そうですね」


 肉体には多数の青あざ、片腕は深い切り傷があり、首には絞められたような跡すらある。


 そして死体のすぐそばの藁の中には手記が一つ隠されてあった。


「どうしましょうか」

「クラリスたちに伝えよう、隠していてもいいことはない」


 別段隠すことでもないので二人を呼び寄せる。それにこの死体が予想通りならば、隠しておくことで少々を悪くさせるかもしれなかった。こんな些細なことで亀裂が入るのはできるだけ避けたい。







 二人を一度呼んで死体を確認させる。


「こいつが例の女性か」

「はい……………そうです」


 今にも泣きそうな顔でウライトは頷く。


「それとこの手記があった」


 手記をウライトの胸に押し当て渡す。


「俺たちは中身を見ていない………リン、奴らの様子を見に行くぞ」

「はい」

「私も様子を見に行くわ」









〔~ウライト視点~〕


 ――――――――


 盗賊団に攫われた。


 村は焼かれて、兄や両親は殺された。


 メリーもラルクもウィアも全員。


 許せない、許せない、許せない、許せない、許せない


 ――――――――


 どこかに運ばれ閉じ込められると何やら白い粉を嗅がされた、粉を嗅ぐと心地よくなり両親と家族に会うことができた。


 たとえ幻覚とわかっていてももう一度会いたいと思うようになった。


 だがアレを嗅ぎ続けると復讐する心が薄れてくる。それだけは絶対に嫌だ。


 ――――――――


 ダメだ、あの薬から離れられなくなってくる。


 ――――――――


 薬が欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい


 ――――――――


 薬が欲しいならある仕事をしろと言われた。


 私は逃げるのに絶好の機会だと思い承諾する。


 内容はその場に着いたらと言われた。


 ――――――――


 洞窟を抜けると、どこかの山に出た。


 見えるところに人の住んでいそうなところはなかった。


 道中に冒険者と出会えば叫んで助けを求められるのに


 ――――――――


 数日掛けて移動するとどこかの森にたどり着いた。


 お腹が減る、洞窟から出てから水しか飲まされていない。


 ――――――――


 目的の場所に着いたと言われたが、何もない場所だ。


 ここで何をするのかと聞いてみると、ここで行き倒れ、エルフに保護してもらうように言われた。そしたら持っている白い粉を使わせろと言われた。


 何も知らない人にと思ったが、もう私は逆らえない。


 ――――――――


 言う通り、エルフの男性に私は保護された。


 怖いほどきれいな顔のエルフだった。


 予定通りお礼として薬を嗅がせることができた。


 ――――――――


 エルフの名前はウライトと言った。


 両親からエルフは怖い存在だと聞いていたのだがそうだとは私には思えなかった。


 それに彼は家が無いという理由で小屋まで建ててくれた。


 ――――――――


 彼は兄に似た雰囲気を持っていた。


 だからかわからないけど、彼のそばでは薬なんて要らずに快適だと思えるようになった。


 ――――――――


 だめだ、もう仲良くなっちゃダメだ。


 彼は私が薬を手に入れるだけの存在だ。


 ――――――――


 ごめんなさい、純粋なあなたを騙して。


 なんど謝っても許される事じゃない、けどやっぱりあなたといる時間はとても楽しの。


 ――――――――


 彼がおかしくなっていくのがわかる。


 だんだんとイライラしやすくなっていて、薬をもらう回数も増えてきた。


 ――――――――


 いつも薬を運んでくる人が今回は条件を付けてきた。


 その条件がウライトにエルフの子供の誘拐を手伝わせるというものだった。


 そんなことできるわけがない。


 ――――――――


 私は薬欲しさに彼に言われた通りに要求してしまった。


 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい


 ――――――――


 何度死のうと思っただろう。


 彼はもはや薬から抜け出せなくなっている。


 そんな彼は誘拐に関わらせてしまった。


 ――――――――






 それからいくつもの謝罪のページが続く。





 ――――――――


 10日もウライトが来ていない。薬はもうとっくに無くなっているはずなのに。


 何かあったのかな?


 けど私はこの場を動けない。


 心配は尽きないが、いまさら私がウライトを心配する資格なんて


 ――――――――




 ここまでが小屋で見つけた手記に書いてあった内容だ。





 ――――――――


 私は急に洞窟に連れ戻された。


 幸い、日記の一部を隠すことができたのは良かった。


 自己満足だけど誰かにあの日記を読んでもらいたい。


 私がどんなにひどい女なのかを。


 ――――――――


 あいつらの会話を聞いてウライトがエルフの王子に捕まったと聞いた。


 それを聞いて安心した、彼は操られていたとわかれば死ぬようなことはないと思う。


 そしてここに連れ戻されて私は良かったと思っている。


 もう二度とウライトを騙さずに済む、それだけで私は満足だ。


 ――――――――


 ここに戻されてからは私はおもちゃのように扱われている。


 攫われたエルフの子供たちは商品価値が下がるから、不満は私に押し付けられる。


 これが私への罰だろう。


 ――――――――


 もう長くないことがわかる。


 受けた暴力でお腹の痛みが消えない。


 少しづつ力が入らなくなっている。


 ……最後にウライトに会いたかった。


 ――――――――


 ウライト愛しています。


 いかにあなたが私を憎悪しても、それでも私のことを覚えてくれるだけで私はうれしい。


 願わくばウライトの記憶に私の存在が根付いてくれるように。


 ――――――――



 最後のページは文字が崩れて、血のような跡がついていた。


「そうですか………忘れません、貴女のことは絶対に」


 私はこの秘めたる思いを忘れないことを誓う。


 そして二度と私と貴女みたいな存在が作り出されないように根源を滅ぼすと胸に刻む。














〔~バアル視点~〕


「様子はどうですか?」


 あの女性を入れていた檻からウライトが戻ってくる。


「見ての通りだ、大量に摂取させたおかげかもう効果が出始めている」


 他の檻には足元でもがきながら床を舐めている盗賊共がいる。ある物を使った後に全員をここに移し替えた。


「さて、お前たち、これが欲しいか?」


 すると全員がこちらを見上げる。


「ゲハッ、ガハッ、……いるか」


 頭領は吐血しながら拒否する、だが視線は俺の手にある白い粉に向かっている。


「あ、そう、じゃあこんなのいらないね」

「「「「「!!!!」」」」」


 地面に白い粉を撒く。


 そして芋虫みたく這いながら、粉が巻かれた地面を舐める盗賊共。


「さて残りは素直に言うことを聞いてくれた奴にやろうと思うが」


 ちらりと横目で見ると頭領以外が我慢できなさそうになっている。


「さて、どうする」

「俺が!」

「いや、俺が!!」

「俺がここのことに一番詳しいぞ!」

「古参の俺が一番詳しい!」


 四人が争うように這い寄ってくる。


「じゃあ一人ずつ話を聞く、一番情報を話した奴に粉を全部やろう」


 一人ずつ別々の檻に連れて行って、情報を吐かせる。










「よし、ある程度情報はそろったな」


 全員に話を聞き終わる。ここから出るルートや組織の全体像、エルフの出荷先、ほかにも様々な情報が出てきた。


「さて、諸君は素直に話してくれた」


 俺は檻に入れた四人をみる。ちなみ何もしゃべらなかった頭領は一度檻の外に出し、拘束しなおしている。理由はこの先どのような扱いになるか見せておくためだった。


「残念ながら出てきた情報はすべて似たようなものだった」


 そしてら薬を貰えないと思ったのか檻の中で騒ぐ騒ぐ。


「安心してくれ、俺も嘘をつくのは本意ではない、だからこの粉はお前たちでよく考えて分けてくれ」


 白い粉を入れた袋を檻に投げ入れる。


「寄越せ!!」

「ふざけるな!」

「ここは年上を優先させろ!!」

「年寄りは邪魔だ引っ込んでいろ!!」


 檻の中では醜い争いが起こる。


「さて、どうだ、お仲間があんな姿になって悲しくないか?」

「………あいつらはどうなる」


 頭領は静かに檻の中を見ている。


「さぁな、仲良く薬を分け合うのか、はたまた自分以外を殺してすべて独り占めにするのか、飯は与えないから餓死するのは確定だ」

「……悪魔め」


 俺はこの言葉に大笑いをする。


「自分のしたことに自覚が持てねぇのかな?エルフにした仕打ちはこんなものじゃすまないよ」


 俺は頭領の目をのぞき込むがそこに映っているのはとてもいい笑顔で笑っている自分の顔だった。


「……俺はどうなる」

「ん~、まぁここに残った方がましだという扱いにはなるだろうな~」

「っく!?」

「おいおい、暴れるなよ、変に動いたらここで殺さなければならなくなるからな~」


 なんとか逃げようとするが縛ってあるので地べたを這うことになる。


「おい、おい、そんなに急ぐなよ、楽しい時間はもっと後だからさ」


 とりあえず猿轡を嵌めて転がしておく。


 そして檻の中を見ているウライトを見る。


「ウライト、檻の中の奴らはどっちみち死ぬ、だから」

「好きにしてよい、と?」

「ああ、怒りのまま嬲ろうと俺たちは関与しない。好きにしろ」


 ウライトに四人を好きにする権利をやった。


 死ぬのは確定している、それなら有効活用するに限る。








 しばらくすると檻のある場所からウライトが出てくる。


「終わったか?」

「はい、一思いに殺しました」

「……それでよかったのか?」


 薬漬けにされたのだからやり返しても文句は言われないだろう。


「いいのです、エレナの思いを知れただけで」

「そうか」


 ウライトは何も言わずにクラリスの元に戻る。


「どう終わった?」

「ああ、にしても嫌われたな……」


 クラリスの周りにいる子供たちが怯えた目を向けている。


「いや、まぁね……(あんな顔をすれば幼い子は怯えるわよ)」


 エルフの子供たちには先ほどの景色は見せてない。見せたのは土で五人を拘束した時と、頭領を引きずって檻のある場所から戻ってきた時だけだ。


 なにせ三人からやめろと言われていた。


(クラリスと少ししか違わないと思うんだが)


 攫われたエルフの子供たちはクラリスと身長は5センチほどしか変わらない。


 長寿のエルフと言うことを加味すれば俺の方が年下まであり得そうだ。


「バアル様、賊の荷物をすべてまとめました」

「ご苦労」


 リンの後ろにある木箱を亜空庫に仕舞う。


「それじゃあここに用はない戻るぞ」


 残念ながらこの先はあまり干渉しない方がいいだろう。不安は残るが俺が動いている本分を忘れるわけにはいかない。

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