第87話 ごみ掃除

 リィン、リィン


 いつも通りジャック・オー・ランタンを呼び出し灯りを出してもらう。


「今回はまだ消えないでくれ」


 ………コクン。


 出口を探すにつれて灯りが多数必要になる。


 ちなみにだが光っている鉱石を鑑定した結果。


 ―――――

 碧輝晶アヴィレガス

 ★×5


 地底の奥深くに眠る輝晶の一種。この輝晶が出来上がるにはいくつかの珍しい条件が重なった場合のみで、かなり希少な鉱物。さらにはミスリルなどと同様に魔力を含んでいるため、魔術触媒としても使える。

 ―――――


 この鉱石はかなり希少な物だと判明した。もちろんそれなりに価値がある輝晶なのである程度の数を回収する。


 だがいかに淡く輝く鉱石が光源の代わりになっているとはいえ、探索するのには少々心もとない。なのでジャック・オー・ランタンを主軸に使っている。


「さて、落ちてきた場所は………無理だな」


 灯りを落ちてきた穴辺りに浮遊させて確認するが。土砂で埋め尽くされている。


「となると、ほかの部分なんだがな」


 灯りを周囲に満遍なく広げているけど出口らしいものが見当たらない。


「上にはない、横にもない、となると……」


 澄み切っている水の底を観察する。


「やはり潜ってみないとわからないか」


 パンツだけ残して服を脱ぐ。


(まさか寒中水泳する羽目になるとは思わなかったぞ)


 足先からゆっくりと体を水の中に入れて、寒さに慣らしていく。しばらくたち問題ないと判断すれば、寒さを感じながら水の中を泳いでいく。


(さすがに灯りが少ないから見えにくいな)


 一応、水面上に灯りを置いて見やすくはしているのだが、効果はあまりなかった。


(にしても本当にきれいな地底湖だ)


 水中にもうっすらと発光している部分がありそれがほんのりと水の中を照らしている。


 それらを頼りにどこか横穴があったりしないかを探す。











「っはぁああああ~、ふぅ~出口なんて見つかりもしないな」


 何度も素潜りし、何かないか探すが何も見つからない。


 あるのはひたすらに岩と輝晶だけだった。


 グゥウウウウウウ


 ある程度動いたら当然お腹もすいてくる。


「たく、亜空庫が無ければ餓死しているぞ」


 小島に上がり、灯りで暖を取ると亜空庫から作り置きしておいた牛串を取り出す。


「んぐ」

(しかしどうするか、やはりもと来た道を戻るか?道中の土砂はバベルをスコップ代わりにして掘り進めて………だめだな多分開通する前に餓死する)


『真龍化』で駆けた道はかなりの長さがあった。


 あれがすべて埋められているなら時間がかかりすぎる。


(食料からしてだいたい10日ほどそれまでに脱出するようにしないとな)

「ほんとうにどうしよっと」


 食べ終わった串を水に放り投げる。串は木で出来ているため水に浮く。


 そして俺の視線の先でゆっくりと流れていく。


「…………?」


 俺は一つの可能性に突き当たる。


 もう一度潜り串を追っていくと、ある場所で回り始める。


「すぅうう~~、ふっ」


 そのまま一番下まで潜る。


 するとその周辺だけ微かにだが水が流れていくのがわかった。


(ここから水が流れて行っている……となると)


 確信を得るために水面に上がる。


「するとどこかに」


 亜空庫から牛串を何本か取り出し、急いで食う。


 そして何もなくなった串をいろんな方向に投げて、流れていく方向を確認する。


(水が流れて行っている。けど水位は変わった感じはない、だとすると必ずどこかから供給されているはず)


 水は当然ながら上から下に流れていく。なら水が供給されているところから登っていけば必ず上のどこかに出るはず。


 しばらく串の流れを見ると規則的に流れて行っているのがわかる。


「あそこか」


 もう一度潜り串が流れていく反対方向をくまなく調べる。


(……ここか!?)


 とある岩場の影に穴が開いているのが分かった。


(光が届かない場所だから、気づかなかった……)


 光っている石を手に取り穴をよく観察する。


(方向的には斜め上に上がっている……少し長いな)


 となると若干の準備が必要だ。


 一度島に戻り、様々な金属と携帯用に作っておいた錬金板を取り出す。


「『改編』」


 錬金板の上にそれぞれの金属を乗せ、一つの機械を作り出す。


「早速試してみるか」


 二つある取っ手の部分を掴み、水の中に入れる。


 そしてこの状態で【轟雷ノ天龍】を使う。


 ゴポ、ゴポポポ


「よかった成功か」


 俺が作ったのは水から酸素を作り出す機械だ。原理は電気分解を使っていて、水素と酸素を作成する。


(たしか海外のスキューバでもこんなのがあったっけな)


 無論外見は塗装などは一切してないためメタリックな外見となっている。普通なら漏電対策に様々な塗料や素材で絶縁コーティングをする必要があったが、幸いにも俺のユニークスキルには電気に強い耐性を持っているためその必要がない。


 お次に光っている鉱石を集めるそしてこれらを簡単にはめ込める鉄の棒を作る。


 これはライト代わりにするための物だ。形も工夫し全体を照らし出せるようにする。


「本音はウェットスーツでも欲しいところだがな」


 無いものを欲しがっても意味がないので早速行動に移す。













〔~クラリス視点~〕


 バアルと別れてからしばらく進んでいくと例の魔力が濃くなっていった。


 ガハハハハハハハ!!


 そして遠くから太い笑い声が反響して聞こえてくる。


 私たちは頷きあい、音のする方角へと向かう。


「ガハハハハ、笑いが止まらないなこれは!!」

「そうですね!!」

「まさかエルフのガキがこんな簡単に攫うことができるとは思いませんでしたよ」


 私たちの視線の先では簡易に作られた扉の前にいる小汚い男たちが笑い合っていた。


「クラリス殿、あいつらは」

「真っ黒、攫った子供たちが警戒の魔力を付けているわ」


 握り締めた手がギチギチと音を立てている。


「それよりリンさん、あいつらの他に敵はいる?」

「………あの三人の奥に15人ほど、そこから少し離れた場所に7人ほど反応があります」


 リンの足具の事はすでに道中にて聞き及んでいる。道中に応用し常にバアルを探していたほどだ。


「ではあの三人は切り捨てましょうか」


 そこからの行動は早かった。


 リンが『風迅』で一人を殺し、それに驚き固まっている二人に矢を放つウライト。


 こうして三人は音を一切立てずに事切れた。


「お見事」


 そのまま三人を踏み越えると扉を前に来る。


「開けるわよ」


 扉を開けて中に入る。


 先ほどの空間よりも広く、明るく、中心には光を出す魔道具が置いてあり、炎を使わずに光源を保っていられる。壁際には幾つもの水が流れている場所があり、水には困らなそうだ。


「ガハハハハハ、呑め呑め!!!」


 中心では15人が集まって樽から酒らしきものを飲んでいた。


 光源を囲うように座り込んでいるからか、それぞれの体が視線を遮り私たちには気づいていない。


「にしても頭領、なんでエルフのガキばっかり攫うんですかい」

「ああ?そりゃ簡単だからだよ」

「ですが、あっしもエルフの女を抱いてみたいですぜ」


 私の中で怒りがこみあげてくる。


「バ~カ、大人と子供じゃ難しさが違いすぎる。それに仮にも捕らえることができても大切な商品だそんなことさせられっか」

「へ~い」

「まぁ近々村を襲いに行くからそこで調達しろ」

「うぃ~す」


 確かめるまでもないこいつらが誘拐の件に関わっている。


「どうします、殺しますか?」

「いえ、奥の様子を確認してから頭領含めて数人を捕縛します、それでいいですね、リンさん」

「もちろんです」


 扉を塞ぐようにウライトを残してから、私とリンだけで物陰を伝って奥の空間に移動する。


 奥にある空間は檻と物置となっていて、檻の中には隅にうずくまっている影があった。


 ザッ

「「「「「「「!!!!」」」」」」」

「し~」


 足音に反応し、声を出しそうになる子供たちを止める。


「安心して、助けに来たから」


 声を聞けて安心したのか子供たちが今にも泣きそうな顔になる。


「少しだけ待っていてね、すぐに終わらせるから」


 この空間を見渡し、奴らがこっちに来れないことを確認する。この部屋は先ほどの空間から派生したようにできており、こちらに来るにはわたしたちが入ってきた場所からのみだった。


「では、リンさんはこの場所を守ってもらえますか」

「わかりました」


 この位置を守りさえすれば子供たちに危害は無い。そのためにリンをここに配置して私は一度、ウライトのところに戻り説明する。


「では憂いなくあの害虫どもを処すことができますね」


 綺麗な笑顔でウライトは答える。その言葉には全面的に同意するわ。さっさとあのごみくずたちを片付けなければいけなかった。


「同感ね、あんなの生きている価値ないわ」


 早速実行に移す。まずはウライトが地面に手を置き。


「『縛れ』」


 ウライトの言葉と同時に地面が動き、土の腕と呼べるものがゴミ共を縛りあげる。


「な、なんだ!?」

「うろたえるな!!」


 頭領を縛りあげようとした土の手は剣で切り落とされる。その動きから彼らの中で一番の腕利きであることがわかる。


「てめぇら!ガキどもを人質に取れ!!」


 頭領はすぐさま配下の拘束を解き、そう叫ぶ。その声を聞いて数人のゴミが子供たちの方へ走っていく。


「させると思っていますか」


 声が聞こえると同時にごみは崩れていく。


「っチ、もう一人いやがったか」

「頭、こいつらエルフだ」

「なら『封魔結界』を使え」


 頭領の声でごみの一人が何かを取り出す。


「お頭!」

「速く作動させろ」


 なにかの欠片が地面に叩きつけられる。欠片から何かしらの魔力が駆け巡ると、土の手が崩れて拘束が解かれる。


(これって)


 ルーアからの報告にあった魔法を封じる術なのだろう。


「おし、やっちまえ!」

「「「「おおおお!!!」」」」

「ゴミが、数をそろえれば何とかなると思ったら大間違いよ!!」


 振るわれた剣を避けると殴り飛ばす。


「へ、こんなガキに吹き飛ばされても、ッグパ」


 殴られた男は起き上がろうとすると大量の血を吐く。その量は決して軽傷とは思えないほど。


「他にこうなりたい奴はいる?」


 先ほどまで粋がっていたごみは動きを止める。


「うろたえるな、奴らに使えるのは身体強化ぐらいだ、遠距離から攻撃しろ!!」


 その声に従いゴミは弓や投石などで攻撃してくるようになった。


「『刃布の舞服』」


 飛んでくる矢や石を振るった袖で何度も弾き飛ばす。


「ウライト」

「わかってます」


 ウライトは弓を構えて速射する。


「が!?」

「う!?」

「痛ぇ!?」


 額や、胸、腕を射抜き遠距離の攻撃をできないようにする。中にはその攻撃で死んだ者もいるようだがもとより殺すつもりなので何も問題ない。


「クラリス様、矢はこれで最後です」


 本当なら全員を矢で殺し切りたいところだが、道中の百足の大群で消費されており、そこまで弾数は無い。そのためウライトが矢を撃ち切ると剣を取り出し、接近戦に移動する。


「近づいてくるぞ!?」

「こっちの方が数は多い、囲め!!」


 私たちはそれぞれ囲まれ動けなくなる。


「こういった時のための手段もあるのよ『赤ノ演舞』」

「なんだ~」

「はっ、服に模様が入っただけじゃないか」


 侮っている声が聞こえる。


「なら試してみれば!」


 目の前にいるゴミを殴り飛ばす。


「「もらった!!」」


 その隙をついて後ろにいる二人が切りかかるが。


 ボォウゥゥゥ!!

「「ギャアアア!?」」


 背中から炎が噴き出て二人のことを焼き殺す。


「今回は模擬戦じゃないから遠慮なく使えるわね!」


 っするとごみ共がうろたえ始める。


「ど、どうしてだ!?」

「魔法は使えないんじゃなかったのか?!」


 事前にルーアからこの結界のことは聞いていた。


(予想どおりね)


 この結界は体外での魔力操作を阻害する機能があり、それゆえに精霊魔法などが使えなくなる。だが逆を言えば体内での魔法はそのまま使用することができる、さらに『赤ノ演武』のように体の表面で発動させる場合もできなくはない。


(でもやっぱり全力とは程遠いわね)


 本来なら一瞬ですべてを灰にするほどの炎が噴き出るはずなのに、ギリギリ焼き殺すほどしか出ていない。


(それでも問題ないけどね)


 私の『赤ノ演舞』は私が意識していない攻撃に反応して自動的に反撃する。これは言い換えれば大多数と戦う時に周囲を気にせずに眼前の敵に集中できることを意味する。


 ウライトの方も気になるが、腐っても赤葉の一員だ、これぐらいで危険だという認識はないだろう。


「がは!?」


 最後の一人を吹き飛ばし、残りの頭領に向き合う。


「っち、使えない奴らだな!!」


 私たちの後ろにある扉でもなく、リンのいる方向でもない場所に走り出す。


「なにを、!?」


 頭領は散らかっている木箱の中から一つを開けると何かを引きずり出す。


「痛い!!!」

「暴れるな!!」

「ひっ」


 取り出された少女・・の首に剣が付きつけられる。


「~~~っ」


(油断したまさかあんな場所に一人いたなんて)


 おそらくはここから間もなく連れ出す予定だったのだろう。だからあの子だけがあんな場所にいた。


「武器を捨てて下がれ!」


 私は静かにユニークスキルを解除して、ウライトは剣を捨てる。


「そっちのガキも剣を捨てろ」


 リンも刀を捨てる。


「よし、そのままじっとしていろ」

「うぅっうっ」

「黙れ!!」

「!?」

「やめなさい!」

「動くな!!!」


 エルフの少女を連れながら少しずつ出口に移動する。


「まさか、こんな悪いタイミングで襲撃を受けるとはな」


 まるで今では都合が悪いような言いようだ。


「貴方たちが誘拐をしている組織なのね」

「まぁそうだな、でも案外時間がかかったな。もっと早く見つかると踏んでいたんだがな、存外優秀でもないみたいだな」


 そういってこちらを見下ろす。


「いいか、そこで動くな」


 頭領は水場がある壁際に沿ってゆっくりと出口に向かい始める。


 ゴポ


「たく、用心棒がいない時に来やがって、手駒が死んじまったじゃねえか」


 ゴポポ


「こうなれば、さっさとずらかるにかぎる」


 ゴポゴポゴポ


「なんだ、さっきから」


 ザパァ!!!


 頭領の後ろの湧き水が盛り上がり、何かが出てくる。


「なにが!?」

「邪魔だ」


 出てきたものの腕が頭領を吹き飛ばす。


「今よ」

「はい!!!」


 瞬時にウライトが動き少女を確保する。そしてすぐさま水場から現れたモノの正体を確かめるのだが。


「………何やっている、バアル?」


 現れたのはずぶ濡れになったバアルだった。


「………何だ、この状況」

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