第70話 秋の終わり

 いつの間にか俺は仰向けに倒れていた。


(あぁ、空は青いな)


 洞窟だった天井だが神罰の光で穴が開き青空が見えている。


「バアル様!ご無事ですか!!」


 横たわっているとリンが駆け寄ってくる。


「巻き込まれなかったか?」


 一応、できるだけ距離を縮めて発動したのだが。それでも巻き込まれていない確証はない。


「ええ、十分に距離が離れていたので」


 体を起こし周囲を見ると、周りにはエルフの森の時のような跡になっている。その中にサルカザの装備も落ちていた。


「セレナは?」

「バアル様が生きているのがわかったのでアレの解析をお願いしています」


 セレナは白い杖とその周囲の魔法陣を調べている。


 俺も起き上がりセレナに近づく。


「どうだ何かわかったか?」

「あ、バアル様、目を覚ましたのね」


 ひとまず無事を喜んでくれる。


「ああ、それでどうだ解呪の仕方は分かったか?」


 セレナは二コリと笑う。


「はい、使われているのは簡単な呪いです」


 セレナの説明では、使われているのは【反転の呪式】と言うもので、ある程度強力な魔具の触媒と膨大な魔力さえあれば発動できる簡易的な呪いらしい。


「魔力に関してはあの王冠で賄えるからな」


 それほどまでに『死の王冠』の魔力回復は強力だった。


「で、触媒になったのは……」



 ―――――

 豊穣の儀式杖

 ★×7


【豊穣ノ大地】【地ノ祝福】


 そこにあるだけで周囲の大地を豊かにする杖。この杖を持つ者には大地の祝福があるだろう。

 ――――― 


「…使えるな」


 おそらくこれも教会から盗んできたんだろう。


 そして【反転の呪式】により効果が真逆になったのが、今回の不作の原因。


(サルカザはモンスターになった。そのモンスターが死んでこの装備を残したのならドロップアイテムと言える。ならば)


 これはもらってしまおう。


「で、どう破壊する?」

「……破壊した際に発動する魔術式もないので普通に破壊すればいいだけです」


 ということで早速破壊して杖を回収する。


「バアルさま、これは……」


 セレナがもってきたのは『死の王冠』だ。


「…………使い道に困るな」

「ですよね~」


 とりあえずは『亜空庫』に仕舞っておく。








「狼はどうなっている?」


 黒い液体にしっかりと浸かっていた、何かしらの症状が出てもおかしくわない。


 だが予想に反して狼は何事も無いように近くに座り込んでいた。


『問題ない………だけど』

「(問題ない?)……だが?」

『じいちゃん、反応が』


 何やら悲愴な感情が念話と共に送られてくる。ひとまず、もと来た道を戻ろうとするのだが。


 ズズズズズズズズズ


 来た道から嫌な音が聞こえてくる。


「……バアル様」


 リンもとても暗い声をする。


 本能的に強敵の気配を感じているからだろう。狼も背中の毛も逆立ち全力で牙をむいている。


 そして入り口から現れたのはとてつもない大蛇だ。


 もはや敵対は避けられないので即座に鑑定のモノクルを使用する。



 ―――――

 Name:

 Race:山巻大毒蛇バジリスク

 Lv:2710

 状態:普通

 HP:54218/54218

 MP:22454/22454


 STR:542

 VIT:843

 DEX:242

 AGI:219

 INT:344


《スキル》

【蛇王牙:145】【森薙尾:154】【王威圧:291】【毒霧吐き:243】【身体強化Ⅱ:457】【駿蛇行:249】【暗視:876】【隠密:75】【潜水:242】【超伸縮:138】【振動感知:348】【熱感知:667】【超自然回復:245】【過食:686】【消化強化:333】【魔力視:―】【限界突破:417】

《種族スキル》

【蛇ノ王】【蛇眼】【脱皮】

《ユニークスキル》

【総呑ノ毒蛇】

 ―――――



「っ!?」


 どう考えても対処できる相手ではない。


「全員逃げろ!!!『飛雷身』!?」


 俺が全員に言うと同時に蛇は飲み込もうとしてくる。


(でかいにもほどがあるだろう!!!)


 以前見たワイバーンですら簡単に飲み込めるだろう。


 出口は蛇の胴体で埋まりつくしており使えない。


「(となると)リン、上に逃げろ」


 俺が開けた部分から逃げてもらう。


 リンは頷くとユニークスキルを使い、セレナと狼を浮き上がらせる。


 リンはこの二年、度重なる修練を重ね、ある程度の風を操ることができるようになり、『太刀風』というアーツを使えるようになっていた。もちろん護衛の観点から他者の体を持ち上げることもできるようになっていた。


 ズズズズ


 蛇はリンたちの方向を向く。


「(まずい)『天雷』」


 注意を引くために眼前に電撃を当てる。


 ギョロ


 目がこちらの方を向く。


「!?」


 目が合うとそのまま体が凍り付いたように動かなくなる。


 ジャア!!


「!?『飛雷身』!!!!」


 かろうじてとびかかってくるのが見えたので瞬時に『飛雷身』で回避する。


(目が合った瞬間から体が動かなくなった……)


 おそらく【蛇眼】の効果だろう。


(リンたちはあと少しか)


 穴の下から見るが外まであと少しというところだろう。


「もう少し時間を稼ぎたいところだけど……」


 魔力が底を着きそうだ。


 外までの『飛雷身』用の魔力は確実に温存しておかないといけない。


「こんなことならマナエリクサーを置いてくるんじゃなかった」


 研究用にするために俺の工房に置いてある。だが今回はそれが悔やまれる。


 ジ


 蛇は俺のことを見つめている。


「そろそろだな」


 時間的にリンたちも外に出た頃合いなので『飛雷身』で瞬時に外に出る。









 外に出るとすでに三人は穴の淵に逃げおおせていた。


「バアル様!!」

「リン、穴の周りを削って埋めろ!!」

「了解!【嵐撃】!!」


 俺が告げるとすぐさまリンは刀を抜き、【嵐撃】を穴に向けて放つ。


 ガガガガガガガ


 岩が削れ、穴に落ちていく。


 そしてかなりの足場を削り、ようやく穴が埋まった。


「はぁあ~~~」


 どっと疲れた。


「あんな生物が潜んでいるとは思わなかった」

「本当ですね、生きている心地がしなかったですよ」

『まったくだ』


 俺、リン、狼はぐたっとする。


「あれってそこまで強いんですか?」

「「『……………………』」」

「な、なんですか?」


(((鈍感はいいな『わね』)))


 三人(二人と一匹)は同じ感想を抱く。









「そういえば、あの樹がどうしたんだ?」


 蛇が現れる前の狼の態度が気になる。


『そうだ!?急いで戻らないと!!!!』


 何やら焦燥感を含んだ念話が伝わる。


「お、おい」

『急いで戻る!!!!!』


 そういうと俺たちを強引に押し、連れていく。










 それからまた1日かけてあの森に戻って来るが。


『じいちゃん、!?』


 二日ぶりに見た樹は枯れ果てた姿になっていた。


「どうしてだ?あと三日は大丈夫のはずだろ?」


 多少読み違えるとしてもここまで大幅に読み違えはしないはずだ。


『………俺のせいだ』


 話を聞くと、狼と樹は契約で繋がっている。それは魔力の受け渡しをしたり、呪いなどの肩代わりすることができるということ。


 そして疑問に感じてた黒い液体に触れても無事だった理由、それがこの契約にあった。


「つまりはあの黒い液体の影響を肩代わりしたせいで樹がこんなになっているわけか」

『ああ………』


 狼は悔やみきれない顔をしている。なにせ助けようと出かけたのに自分のせいで死にかけている。


『……おぉお、戻って来たか』


 意識が戻ったのか念話をしてくる。


「大丈夫なのか?」

『………』


 無言なのが答えだ。


『ごめん、じいちゃん』

『いや、これも定めじゃよ』


 弱々しい声には満足げな感情が混じっている。


(狼を守れたんだ、悔いはないということなんだろう)


 だが狼はそうもいかない。


『じいちゃん、じいちゃん!!!』


 何度も何度も呼び掛ける。


『よく頑張ったな、だがこれからは注意しなさい、もう儂は守ってやることはできないのだから』

『いやだ、いやだよ』


 だが狼は樹に体を擦らせて離れないようにしている。


『ではこの子を頼んでも良いか?』

「ああ、だが狼が嫌だというなら世話はしないぞ」

『それでいい』


 俺たちは成り行きを見守る。


『狼よ、一ついいか』

『……なに』

『儂に名を付けさせてくれないか』


 それに狼は静かに頷く。


『ではウルでどうだ』

『…………うん』


 鑑定のモノクルで見ると狼にウルという名前が付いた。


『よかった、これで心残りもない。ではウル、最後にお主の手で介錯を頼む』

『!?』


 これには狼も動揺する。


『誰かの命を繋ぐ、だができればウル、お前の命を繋ぐ役割をしたいのだ』

『………………………………分かった』


 悩みに悩んで狼、いや、ウルは樹の気持ちを受け入れた。


『ではウル』

『……なに?』

『元気でな』

『!?…………うん』


 そういうとウルは樹に爪を立て、先ほどまであった気配が消えた。


「ウル、俺たちは三日後にもう一度ここに訪れる。樹にお前のことを託されはしたが、それはお前が決めろ」


 そう告げて俺は一度泊まった町に戻っていった。









 そして予定の三日後。


 俺たちは再び、あの樹の元に訪れた。


「それでどうする?」

『……世話になる』


 ウルは俺らと共に来ることになった。












 サルカザの戦闘から一月週経つ頃、俺はゼブルス家の自室で今回の件の報告書をまとめている。


「バアル様、お茶が入りましたのでお持ちしました」


 扉をノックしリンが入ってくる。


 その足元には白い狼、ウルがついてきている。


人族ヒューマンの生活はめんどくさいな』


 ウルは近くにある厩舎の一部を改造して、そこで生活している。


「なにか違和感はあるか?」

『ない、言うなら、この紋様だ』


 ウルの足の部分には一つの紋様が入っている。


「リンは?」

「ないですね」


 リンの手の甲にも同じ文様がある。


 これは『従魔契約』の証だ。これは魔法で紋様を刻み、誰の従魔なのかを示すための物だ。


 グロウス王国では魔物を街に入るには従魔契約を結ばないと入ることができない法律になっている。


 そのため誰かと契約する必要があるのだが、やるならリンとしたいという意思の元、ウルはリンの従魔になった。


 契約内容はそれぞれで決めて定めることができるのだが


 ・人の住む街で自己防衛や契約者の許可なく人に危害を加えてはならない。

 ・単独で街に入ることはできない。

 ・また禁止された場所には入ってはならない。


 この三つだけは確実に結ばなくてはいけない。


 ちなみにこの契約はギルド職員に『契約魔法』を使用してもらい契約する必要がある。


「それでお仕事の方は進んでいますか」

「ああ、ほとんど作成し終わった」


 事の顛末を書き記し、ここ2週間の作物の状況を調べたものを書き記してある。


(呪いが収まったのが理由なのか程よく豊作になったな)


 あとは父上に提出しに行けばいいだけ。


 窓の外を見てみれば、セレナがカルス達に魔法のことを教えている。


「はぁ~~~~」


 息を吐くと白く染まる。


 もう少しで冬になる。


「そろそろ暖房を出すか」

「お手伝いします」

『俺は庭で寝転んでいる』


 こうして秋の騒動も終わった。

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