第69話 それぞれに信念があり

「リン、少しの間代われ」

「!?わかりました!!」


 リンはすぐさま意図を組み、ユニークスキルで空を飛び、俺の元までくる。


「攻め続けて相手に攻撃の手段を持たせるな」

「承知!!」


 今度は『飛雷身』でセレナと狼の元へ飛ぶ。


「いいかよく聞け、今からスケルトンを一掃する」

「え?でもバアル様は光魔法は使えないんじゃ?」

「確かに魔法は使えないが手段ならある」


 バベルの『怒リノ鉄槌』を解き、バベルを前に向けて


「『聖ナル炎雷』!!」


 特大の『聖ナル炎雷』を使い薙ぎ払う。




 基本的に『聖ナル炎雷』はなかなか使う機会がない。威力と魔力のコストパフォーマンスはユニークスキルの『天雷』のほうが格段にいいからだ。だが今回はアンデッドだ、それに比べて火属性と光属性を持つ『聖ナル炎雷』の方が良く効く。





『聖ナル炎雷』でスケルトンを薙ぎ払うと全員がバラバラに崩れる。


「『慈悲ノ聖光』」


 最後に一度も実戦で使ったことのない技を使う。


『慈悲ノ聖光』を浴びると崩れたスケルトンたちは灰になって消えていった。


「……こんなのがあるんならさっさとしてほしかったのですが」

「仕方ないだろう、リッチが結構強かったんだからな」


 本来なら俺がリッチを押さえている間にリンたちがスケルトンを片付けて、援護に来てもらう考えだったが、予想以上に手こずっていた。


「それにしても最後の光は何ですか?」

「『慈悲ノ聖光』と言うものだ」


 正直、戦闘面では使い勝手がかなり微妙だ。





 『慈悲ノ聖光』これは全方位の無差別回復。つまり戦闘中に使えば敵すらも回復し、戦闘以外で使う場合数によるが普通に回復魔法を使うほうがコスパはいい。


 今回のようなアンデッド、それも【不死】を持っているから使えた手段で、普通は戦闘でほぼ使う機会などない。






「さてこれで最後の一体になったな」


 残りは元凶であるリッチのみ。


『くっ、もう一度呼び出せばいいだけで』

「させませんよ」


 再び詠唱しようとするのをリンが邪魔する。


 刀を光の盾で防ぐのだが、続けて風の斬撃が襲い掛かり、リッチは詠唱を中断せざるを得ない。


「もうあきらめろ、ここまできたらお前に勝ち目なんてねぇぞ」

『……本当にそうだと思うか?』


 その言葉を聞くと背中が冷たくなる。


『私の目的はバアル・セラ・ゼブルスの破滅、ただ一つだ』


 この空間に死に際の叫び声らしきものが聞こえてくる。


「リン、セレナ、全力で防御しろ!!!」


 声を出すとともにリッチの体が崩れていく。


『私はこれで終わりだが、お前も終わりだ!!!『冥府への道連れ』』


 すると崩れた部分から真っ黒い液体が流れ出し、この空間すべてを埋め尽くす。


「ッチ」


 すぐさま『飛雷身』で天井まで移動し、バベルを突き刺し宙吊りになる。


 リンとセレナは一緒に固まっている。


(ユニコーンリングの効果なのか黒い水は二人を避けている………残念だが狼は助からないな)


 狼は黒い水に飲まれてしまっていた。残念ながら現状では助けることは不可能となる。


 安堵しているのもつかの間、黒い水が何百もの腕の形となり、俺に向かって伸びてくる。


「『飛雷身』『飛雷身』『飛雷身』」


 執拗に伸びてくる度に『飛雷身』で躱す。


(………どうする)


 攻撃しようにもユニークスキルの技だと普通の技と相殺になるぐらいだ、捨て身の攻撃は防ぐことはできないだろう。


『おぉぉおおおおおおおおお』「おおぉぉおおおお!!」


 しばらく躱し続けていると黒い水の中から半裸の男性が姿を現す。


「……サルカザか?」


 少し若返っているようにも見える。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」


 目や口、耳などから黒い液体をまき散らしながら叫び手を伸ばしてくる。


「……会話はもう無理か」


 表情、言葉、言動から先ほどまでの知性があるとは思えない。


(……やっぱり自爆技の可能性が高いな)


 でなければ知性を無くす必要性がない。


(となると、どうするかな………)


 モノクルを取り出し、逐一観察すると一つわかったことがあった。










 ―――――

 Name:サルカザ

 Race:怨念魔骸骨リッチ

 Lv:75

 状態:死亡

 HP:0/―

 MP:45762/7588


 STR:27

 VIT:45

 DEX:96

 AGI:35

 INT:578


《スキル》

【火魔法:50】【水魔法:50】【風魔法:50】【土魔法:50】【雷魔法:50】【闇魔法:97】【魔力超自然回復:78】【暗視:73】【魔法耐性:98】【魔力視:―】【眷属召喚:75】【限界突破:17】【魔法強化:46】

《種族スキル》

【死霊魔法】【太陽虚弱】【不死】

《ユニークスキル》

 ―――――


(……HPの数値がゼロになっている)


 その代わりに何倍にも魔力が膨れ上がっていて、その後もかなりの勢いで魔力は減っていく。


 今までの情報を鑑みて可能性として挙げられる予想を立てる。


(体力を0にする時点で自爆技なのは明白、ではなんで動けているかだ。【不死】のスキル……にしてはその後の復活が少し違う)


 先ほどの左腕は砕いた後ある程度したら元に戻った。


 なのに今回はその兆しがない。


(何より自爆技なのに自爆技ではないことになる。となると体力を犠牲にし魔力を増大させ、それらすべてを消費するまで使う………)


 それなら辻褄があう。


 知性がないもの、すでに魂はないからではと考える。


(魂の有無、なんて以前では考えもしなかったが。実感したからな………)


 すでに転生やあの空間で神にも会っている。それが魂の有無の答えだと言っているようなものだ。


「あ゛ぁあ゛あ゛あ゛ああああ」


 瞳は俺だけを見て、必死に腕を伸ばそうとしてくる。


「あそこまでいくと哀れだな」


 総てを引き換えに俺を殺すことを望んだのだろう。


 魔力が2万を切るとさらに攻撃は過激に増していった。


(だめだな、このままだと俺の魔力の方が先に尽きる)


 先ほどの広範囲の『聖ナル炎雷』と『慈悲ノ聖光』でかなりの量を使ってしまった。


(いっそ攻勢に出るか?………いや、敵が自滅に向かってくれているんだ、無理に攻める必要がない)


 考えを巡らせていると黒い液体の中にある物が見えた。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「これなら挑発する必要がないな」


 視線を誘導しようとしたが、そんなことをしなくても俺を対象に攻撃してくる。


 視界にあるものがサルカザに十分近づく。


「王冠を取れ!!!」


 ガァアアアアア


 黒い湖から白い体が躍り出る。


 サルカザは狼には目を向けず俺のみを見続ける、それゆえに簡単に王冠を弾き飛ばすことに成功した。


「よし!!」


 黒い液体は見る見るうちに動きが鈍くなり、量も減っていった。


「バアル、お前だけは!!!」


 人間の姿だった部分が溶け出し、すべての液体が迫ってきた。


「うっとおしい!!!死人はさっさと地獄に戻れ!!『天雷』」


 迫ってくる黒い液体を『天雷』で対抗する。


「往生際が悪い!!」


 最後の攻撃なのか雷の中を突き進んでくる。


(よし、リンたちはある程度離れているな)


 ギリギリ範囲外にいることを確認するとバベルを引き抜き、天に掲げる。


「『神罰』」


 洞窟にも関わらず天井を突き抜けて光の柱が下りてきた。


「あ゛ああああ!?」


 光の中ではサルカザも徐々に姿が削れ小さくなっていく。


「わ、た、どん、おも、で」


 黒い液体が掻き消える間際に言葉が聞こえてくる。


「お前の気持なんか知るか」

「き、さまに、なにが、わかる!!わたぅしがどぅなおもぃできょうかいを変えようとしたか!!!」


 最後には見覚えのあるサルカザの姿になった。


「それこそ知るか、ただ俺の敵になったからつぶしたそれだけだ」

「貴様の魔道具が争いの元になるとは考えないのか?!」

「どこに争いの種があるんだよ」

「あの技術を武器に転用したらどうする!!お前が生きている間はいい、だが時間が過ぎればどんな馬鹿が武器に転用し、戦争などを引き起こすか!!」


 ……………一応考えてはいたんだな。


「知るか、それになあんなちんけな技術で出来る武器なんてたかが知れているんだよ」


 この世界にきて、分かったことがある。


 この世界の技術は遅れていると当初は考えていたがそんなことはない。


 なにせ自分の中にある魔力という万能のエネルギーを自由に使える。それは電線やガス、などを使わなくても火を興したりできるということ、それならコンロなどを作る必要も無くなり、無理して発展させる必要がなくなる。


 例えば銃なども火薬などの爆発を利用して弾丸を打ち出し、それで攻撃する。


 だが実を言うとこの世界ではあまり意味がない。なにせ2メートルほどの水の壁を生み出し盾にすれば、弾丸など止められるからだ。ましてや土の壁を作り出せば土嚢と同じ役割などが出せる。


 それに比べて俺の魔道具は魔力を電力に変換し前世の仕組みで動かしている。たとえ、アレの仕組みが分かったとしても、ただ科学法則を理解するだけ。それだけで純粋な魔法に対抗するのは難しかった。


「それにお前だって俺の魔道具は金になるとわかったら、手を出しただろうが」

「それは他の派閥が考え出したことだ!私ではない!!」


 だがきっちりと協力して俺に圧力をかけて来た。その時点でお前もその考えに賛同したも同然だ。


「まぁいい、俺とお前はどこまでも分かり合えない」

「お前のその技術はいずれ人の害になる、そのことを覚えて置け――」


 最後にそう言い残し、光の中に消えていった。

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