第61話 セレナの葛藤(超くだらない)

 宝箱の回収や、セレナの訓練を終えると、最初の着き当りまで戻り、扉に緋色、藍色、萌黄色の宝石を当てはめていく。


 ゴゴゴゴゴ


 宝石を嵌め終えると自動で扉が開き、上に向かう階段が現れた。


「行くぞ」

「はい」


 階段を上ると何やら薄暗い墓地に出た。先ほどまで石造りの通路だったのだが、この階層は普通の地面に、空には薄紫色の煙が渦巻いており、そこから鉄柵が下りてきて迷路を形作っている。一番奥の場所には真っ暗な林が見えるがおそらくはそこまで行くことはできないだろう。


「ここは墓地の階層ですね、ここでは単純に上に行く階段を探すだけです」

「簡単そうだな」


 柵は穴だらけでどこに階段があるかがすぐわかる。


「魔物は?」

「先ほど1階で見かけた3種類と新たに血吸い蜘蛛ブラッドスパイダ―死肉喰烏ネクラファジー闇猫スプーキーキャットが出ますね」

「なるほど……」

「それよりも行きましょう!!」


 セレナが一歩踏み出すのだが


 リィン!


 音を聞くとすぐさまセレナを引っ張る。


「ぐぇ!?」

 ヒュン


 セレナがいた場所を何かがよぎる。


「え!?」


 かなり早いが俺なら余裕で捕らえられる。


 ガッ、バサバサバサ!!


 手の中では何かが暴れ真っ黒い羽が周囲に落ちる。正体は30cmほどのカラスだった。


 嘴はかなり鋭く、爪は分厚くなっていてかなりの切れ味を持っている。


 グシャ!


 生かしておく意味もないのでとりあえず、頭を握りつぶす。


「大丈夫か?」

「は、はい」


 どうやらまだ全方位を警戒できないのだろう。


「こいつが死肉喰烏ネクラファジーだな」

「はい、それとフクロウタイプもいるはずです」


 魔物の中には同じ種族なのに違う形を持つ種族がいる。人の肌や骨格が違うようなものだといわれている。


「とりあえず、進むぞ」

「はい」


 その後は檻の隙間から襲ってくる魔物を倒しながら墓地を進む。


「あっ!宝箱!」


 この階層は柵で道が決められているが視界は開けている。そのために違う通路にある宝箱なども容易に発見できる。


 ただどこのルートを通ればその場所にたどり着くのかは分からないので、普通は・・・時間が掛かるだろう。


「『飛雷身』」

「え?!」


 だが視界が開けているなら移動には何ら問題ない。


 見えている宝箱の場所まで移動し、中身だけをもらっていく。


「ズルい………それで、中身はどうでした?」


 文句を言いかけたがすぐさま話を逸らすセレナ。


 俺は無言で手の中にある物を見せる。


 ―――――

 鉄鉱石

 ★×1


 鉄以外にも不純物を含んだ鉱石。

 ―――――


 宝箱の中にあったのは手の中に納まる程度の大きさの鉄鉱石だった。


「…………」


 セレナは何とも微妙な顔をしている。おそらく俺も見た瞬間はそんな顔をしたはずだ。


 分かりやすく言うと大外れ、例えるとたわしの類だった。


 大外れを引き、なんとも変な空気になりながらも進んでいく。












 あれからいくつもの道を行ったり戻ったりしてようやくゴールにたどり着いた。


 道中では拳サイズの蜘蛛が体に纏わりついていたり、暗闇からずっとこっちを見ている黒猫がいたりして少し騒がしくなったが、怪我らしい怪我もしないでここまでこれた。


 次の階層はどこかの屋敷の中だった。床は高級木材にじゅうたんが敷かれてある。壁には光源となるランプやそのほかの装飾品が飾ってある。たまに見える窓は開くことが出来なく、外を見ることしかできない。そして窓の外も、二階層にあった森が見えるだけだった。


「ここは?」

「『魔女の館』よ。出てくる敵は―――」


 セレナの話だと、魔物の種類は下の階の6種類と、この階で出てくる魔女の7種類らしい。


「クリア条件は、!?」


 会話をしていると横から氷の槍が飛んでくる。


 そちらを見ると青い仮面を着け、とんがり帽子をかぶった、いかにも魔女といった存在が杖を向けていた。


 次はセレナに向かって氷の槍を飛ばし始めるので、すぐさまバベルを取り出し、すべてを砕く。


 そして『飛雷身』で斜め後ろに飛ぶとそのままバベルで魔女を両断する。


「それでクリア条件は?」

「え~と、クリア条件は魔女の魔法陣を破壊すること」


 それからの話では、魔女は魔法陣から無尽蔵に生み出されてくるらしく、早くに倒さないと、どんどん難易度が上がっていくとのこと。


「あと魔女の魔法陣は7つあって、それぞれ属性ごとに分かれているわ」


 ということで行動するに限る。














 それから出てくる魔女やほかの魔物を倒しながら進むと、一つ目の魔法陣のある場所にたどり着いた。


「これがか」


 部屋の奥の床に魔法陣が書かれており中央に水晶が置かれている。


「あれを破壊すればいいな?」

「はい」


 早速水晶を割ろうと歩を進めるが、その瞬間に魔法陣の中が炎で包まれた。


「あと、この部屋の中にいるすべての魔女を倒さないとあの炎は燃え続けるます」

「それは先に言うべき、だろう?」

「お、おっしゃる通り、です」


 だが、セレナの話通りなら簡単だ、さっさと殺しつくせばいい。


 すぐさま『飛雷身』で魔女の隣に飛び、バベルを振り下ろす。もし、魔法陣の中に魔女が居れば水晶を壊せないのではと思ったのだが、魔女の死体が魔法陣に転がり込むと燃え上がるのが見えた。つまりは魔女もあの魔法陣の中では無事では済まないということだった。


 その後も『飛雷身』からバベルにて両断を繰り返すだけで一分もしないで部屋の中の魔女はすべて消滅した。


 全ての魔女が消滅すると魔法陣の炎が消えていく。そして水晶はクールタイムを待つように紋様が少しづつ下から描かれていた。もちろん魔女が作り出されてもめんどくさいのでさっさと壊す。


「これで一つ」


 周囲には水晶の欠片と魔女の魔石が散らばっている。


 それを総て集める終わると部屋を出ようとするが。


「どうした?」


 セレナは部屋を出ようとはせずに止まっている。


「私……役立たず………」


 何やら悲壮な顔をして呟く。


「おい」

「はい!?」

「さっさと行くぞ」


 今度は素直についてきた。







 それから3つ同じように破壊をしたが、その際にどんどんセレナの顔が悲壮感が増していった。


「さっきからどうした、まるでまずい飯を食べた時の顔だが?」

「………だって」


 するとダムが決壊した時のようにしゃべりだす。


「だってこれ!完全な寄生じゃん!コアゲーマーとしてはこんな事態は屈辱なのよ!なによ、そのユニークスキル、チートじゃない!!!雷の速度で移動する、そんなの人間の目で追えるわけないじゃない!!ほかにもステータスの数値からまずおかしい!!なんで成人男性で10程度なのにその10倍ほどの数値なのよ!!しかも知能の部分だけやたらと高いし!!私ももっと強いユニークスキルが欲しかったわよ!!!!」


 それからなにやらわからない言葉などが飛び出してきたが、すべての鬱憤を吐き出すことができたのだろう。


「はぁはぁはぁ」

「……すっきりしたか?」

「はい」

「じゃあ続きと行こう、と言いたいがこれから後はセレナお前にやってもらう」

「……同情ですか?」


 先ほどのことと考えるとそう捕えられてもおかしくないだろう。


「違うといって信じるか?」

「……」

「確かにステータスの差は存在する。だけどそれを埋めるようにするのが技術だろう。見た限りではお前はまだユニークスキルを使いこなせてない」

「……どうしてそう思うんですか」

「前にお前が言った、思考を二つに分けることができると」

「そうです」

「今やっているのは二つの脳で一つの体を動かしているだけだろ?」

「……はい」


 セレナは接近戦に弱い、だから接近戦にすべてのリソースを割いている状態だ。


 代わりに軽快に想像通りに動きやすくなるが、それはそのユニークスキルの真骨頂じゃないだろう。


「なら今後からはユニークスキルを使わずに戦え」

「え?」


 セレナを引っ張り、次の魔女の部屋に放り投げる。となると突然入り込んだ邪魔者セレナにその部屋にいる魔女たちは魔法を打ち出す。


「へ!ヘルプ!?」


 セレナは必死で魔女の魔法を避けながらこちらに助けを求めてくる。


「いいか、ユニークスキルを使わず、魔女を全滅させろよ」

「無茶を、ひぃ!?」


 飛んできた岩塊をセレナは避ける。


「それと一つだけ、さすがに危険になったら助けるが、ユニークスキルを使ったなら一切助けない」

「そんな!?」


 ということで必死になりながら躱し、そのまま魔法で戦う。


(剣よりも魔法の方が今のところは戦いやすいだろう、と『飛雷身』)


 無論、俺も攻撃される対象だ、攻撃されては距離を取りを何度も繰り返す。


(そろそろ限界か?)


 当然ながらセレナは多数を相手にしているのだ、じり貧になるのは当然だろう。


「期待外れだな」

「っ!?」


 この一言で、セレナの動きが変わり始めた。








〔~セレナ視点~〕


「期待外れだな」


 その言葉にとてつもない怒りを覚える。


(やったろうじゃないの!!!!)


 ユニークスキルを使わずに魔法を使う。


(今回は土属性の魔女、だから!!)


風刃エアカッター』の魔法を組み立てて発動させる。


(同時に3つしか使えない、ならできるだけ回避しながら攻撃して、避けられないのは打ち消すしかない!)


 動きながら魔法を使う。


 先ほどまでは痛いのが嫌で、できるだけ距離を取るのだが、今は少し擦り傷が付くのは承知で攻撃しやすい場所を取る。


「っ!『エアカッター』!」


 よけきれずにぶつかりそうになった岩塊に魔法をぶつけて相殺する。


(これじゃだめ、じり貧になるだけ)


 本来ならユニークスキルを使えばもっと魔法が使えるのだが、使ったが最後、バアル様は助けてくれなくなる。


 バアル様に視線を向けるとこちらを見ている。その視線は観察しているものだった。


(見てなさい!あなたの力なんか借りない………あれ、借りないなら)


 ユニークスキルを使っていいんじゃない?


 もう一度視線を送り、その意図を読み取ろうとする。


(なんでバアル様はユニークスキルを使用させないの?ユニークスキルを鍛えるなら使うのがいいはず)


 頑張って頭をフル回転させながら戦闘をこなしつつ考える。


(……こうしなければ強くなれないから?)


 なんで強くなれないの?


 もう一度自分のユニークスキルを思い出す。


『多重ノ考者』は自分の思考を二つにするスキル。


 パソコンで言うとシングルコアからデュアルコアにできることだ。そこまでくれば答えは私でもわかる。


(………私自身のスペックが足りてないのね)


 たとえ思考が二つに増えても、一つでいくつのも思考プログラムできる脳と違い、二つあるが合わせて一つの思考プログラムしか使えないなら意味がない。


「こんにゃろ!やるわよ!やってやるわよ!!」


 根気を入れなおして戦いに集中する。










〔~バアル視点~〕


 セレナの戦いはかなり奮闘した方だろう。


 なにせ7割ほどの魔女を殲滅してのけたのだから。


 だがさすがに全滅させるに至らなかった。


「ご苦労」


 床でうつ伏せになっているセレナをねぎらう。


 ――――――――――

 Name:セレナ・エレスティナ

 Race:ヒューマン

 Lv:16

 状態:普通

 HP:42/84

 MP:24/274


 STR:19

 VIT:14

 DEX:24

 AGI:23

 INT:39


《スキル》

【剣術:3】【火魔法:3】【水魔法:3】【風魔法:4】【土魔法:3】【雷魔法:3】【光魔法:2】【闇魔法:2】【料理:4】【家事:3】【算術:12】【化粧:8】【礼儀作法:9】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【多重ノ考者】

 ――――――――――


 モノクルを取り出して鑑定する。


(狙い通りINTを重点的に鍛えることができたか)


 これならば先ほどよりも戦闘が楽になっているはずだろう。


「………」

「どうした?」


 セレナは膨れっ面で見てくる。


「……ご指導、ありがとうございます」

「そんな顔でお礼を言われたのは初めてだ」


 INTを伸ばしたのは理由がある。


 あの神は知能指数は関係なく、記憶に関係していると言っていた。だがこれだけではなく、INTには情報処理能力も含まれていた。つまりこれを伸ばせばどんな状況下で自分がどんな行動をすればいいのかよりわかりやすくなる。


 それとここまで無茶をさせたのはセレナの戦闘に向けての意識改善も含めてだ。たとえ経験したことがあるゲームでもこれは紛れもない現実で、命のやり取りだ。相手は死に物狂いで殺しに来るしこちらも全力で殺しにかかる必要がある。


(死生観が元から違うから荒療治になったがな)


 平和な日本で生きた記憶があるなら、それもしょうがないが、ここは簡単に命が無くなる世界だ。まず一番に死生観を直す必要がある。


「とりあえずこれを渡しておくぞ」


 以前手に入れたマナポーションを渡しておく。


「……え?回復量350!?」

「いざとなったら使え」


 ポーションは希少品だ、それも回復量が100以上となると金貨が必要にもなる。なのでよっぽどがない限りは自然回復を待つのが賢明だ。

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