第62話 徘徊型強エネミー

 セレナの魔力が全回復したら次の部屋に向かう。


「『火球ファイアーボール』!」


 今回の部屋は風属性の魔法陣が敷かれている。そのため魔女も風属性の魔法しか使わないため、エレナは火魔法で対抗する。


「!?『輝晶剣』」


 だが多勢に無勢で、すべてを魔法で迎撃はできない。そのため背後からの風魔法を、生み出した剣で防ぐ。


 慣れてきたのか、それからの戦闘でもほんの少しだけ余裕ができていた。


「はぁはぁはぁ」

「さて、つぎはユニークスキルを使いながら挑戦してみろ」


 俺の言葉に未だに疑った目をしているが次でわかるだろう。











 最後に青色の魔法陣の部屋に来る。


「『小雷ショック』『輝晶剣』」


 セレナは流れるような動きで接近して、切りかかり、同時に魔法で遠距離の敵に対処する。


「……すごい」


 セレナの口から感想が漏れ出た。なにせ自身でも今までの戦闘よりも格段に強くなっていると感じているからだ。防ぐ魔法は『輝晶剣』や相殺できる魔法を正確にぶつけて、隙があれば恐れず前進して剣を振るう。そして倒し終えたら油断せずに次の獲物に狙いをつけてスムーズに動けている。


(これでひとまずは合格点と言えるだろう)


 セレナは戦闘の余韻に浸りながら魔法陣のコアを壊すと俺たちの目の前に見慣れた魔法陣が現れた。


「これって?」

「ほらいくぞ」


 魔法陣の上に乗ると恒例のあの部屋に連れてこられた。


 ―――――

 Congratulations!


 おめでとうございます。貴方はダンジョンの踏破者となりました。


 功績に基づき報酬を用意しました。


 ダンジョンクリア報酬。


 1階隠し扉発見報酬。


 計2つの報酬を受け取れます。

 ―――――


 ―――――

 受け取る報酬を選んでください。


【武具箱】

【装備箱】

【装飾品箱】

【消耗品箱】

【素材箱】

【ランダム箱】


 残り【2回】


 ―――――


「二回か、どうするか」


 素材は論外、欲しい素材などは無く、消耗品も現在必要と感じない。武器もバベルがある。となると残るはランダム、装飾品、装備品の3つだな。


(装備も装飾も特段欲しいとは考えない、ランダムでいいな)


 二つともランダムを選択する。


 ―――――

 コール・オブ・ジャック

 ★×3


【明るき灯】


 ジャック・オー・ランタンを呼ぶベル。超嘘つきのジャックは天国にも地獄にも行けずにランタン片手に夜中の道を彷徨い続けて、いずれは収穫祭の名物ともなった。

 ―――――


 ―――――

 魔女の鍋

 ★×4


【2種合成】


 2つのアイテムと組み合わせ1つのアイテムにする不思議な壺。ただし一回使ってしまったら壊れてしまう。

 ―――――


 出てきたのは一つベルで、もう一つは片手で持てるサイズの壺だった。


「……まぁ、いずれ使い道があるだろう」


 ひとまず亜空庫にしまい、この空間を後にする。









 魔法陣に再び乗り外に出ると何やら高い場所に出た。


「……時計塔の上か」


 背後を見てみると大きな時計が見える。


 シュン!


 頭上から音が聞こえてくる。


「うわっ!」

「おっと」


 頭上から落ちてきたので受け止める。


「けがはないな?」

「あ、ありがとうございます」


 セレナも戻って来たので戻るとする。


 時計の作業用の扉を開き、梯子を下りるのだが


「暗いですね」


 屋上は月明かりで少しだけ明るかったが搭の中は完全に真っ暗となっている。


「……これは使えるか?」


 先ほど手に入れたコール・オブ・ジャックに【明るき灯り】というスキルがあるのを思い出す。それを取り出すと鳴らす。


 リンリン


 スゥッ

「ひゃ!?」


 いつの間にか背後にかぼちゃの被り物をした幽霊が現れた。


「お前か?」


 コクリ


 幽霊は返事はなく仕草だけで会話をしようとする。


「明かりは?」


 スッ


 どこからかランタンを取り出すと何もしないのに火が付き始めた。


「これ一つか?」


 ランタン一つだけで明るいとは言えないため落胆していると、幽霊は心外だという仕草をする。


 スッ


 ランタンを振ればそこにあった火が外に出て漂う。


 もう一度火が付くと再び振り、火を飛ばしを何度も繰り返す。こうして周囲には計7個の火が灯って明るくなった。


「これで十分だな」


 灯りも確保できたので時計塔を下りていく。


 そして薄暗い時計塔を下りていき、一番下の扉までたどり着いた。扉を開くと時計塔の外に出ることが出来た。


「感謝する」


 コクン


 こちらの声に幽霊は満足そうに頷くと音もなくぼやけていきやがて消えていった。


「これが今回の報酬ですか?」

「ああ、ほかにも『魔女の壺』という物が手に入った。セレナは――」

「本当ですか!!!!」


 セレナがこちらの言葉に喰いつく。


「どうした急に?」

「ぜひ譲ってください!!それがあれば装備強化ができます!!!」


 その後、詳しく聞くとこのアイテムは武器の強化に使えるらしい。


 例えば普通の変哲もない剣と魔石を組み合わせるとレア度は低いが魔剣となる。このように合成する物によってある程度合成先は決まっているとのこと。


「これでお前は何を作る?」

「魔法強化のアクセサリーを」


 詳しく聞くと比較的に手に入りやすいアクセサリーと、とあるものを組み合わせると出来上がるらしい。


「ほぅ」

「ですが、欠点もあります。それが―――」


 だがこのアイテムには不便なところもあり、合成してできる物は壺のレア度による。つまりは最大でも★×4しかできない。


「仕方ない、とりあえずはやる」


 現状に満足しているのでそこまで必要とは思えない。なによりこういった知識ではセレナに分がある。


(しかし、ダンジョンよりも祭りの方が疲れが大きいとはな)


 そんな感想を抱きながら、少し疲れる今日が終わった。















 そして次の日、リンと共に昨日と同じように祭りを周り、夜には時計台の元にやってくる。


「こんなところにダンジョンが」


 リンはこんなところにあることに驚くがすぐに気を取り直す。


 準備が整うとさっそく侵入するのだが。


 ギャア!

 ゴゥ!

 アガ!


 俺もリンもかなりのスピードで移動しながら敵を切り伏せていく。


 もはや衝突事故と言ってもいい。


「それでこの階はこれで終わりですか?」


 全てのエリアを回り、宝石を集めて扉の前に来ている。


「一応は隠し扉もあるが、俺がいるからか既に開いていた」


 おそらく二人のうち一人でも開けた人物がいたらその状態を維持するのだろう。


「しかし歯ごたえないですね」

「そうだな」


 セレナの時のようにゆっくりと移動したわけではないので信じられないくらい速く終わった。おそらく5分も掛かってない。


 続けて二階もあっさりと階段を見つけることができ、上に上がる。


「ここはどこかの屋敷ですか……」


 急に屋敷の中となりリンは何とも不思議がっている。そんなリンにこの階層は7つの魔法陣を破壊することを伝える。


「わかりました」


 それからも下の階同様に部屋を見つけてから秒で全滅させていく。


「しかし、本当にダンジョンですかここ?」


 リン同様にそう言いたくなる気持ちはわかる。今までで経験したダンジョンと比べると生ぬるすぎるし、特殊すぎた。


「早くに終わらせて帰るぞ」

「了解です」


 気楽に歩を進めていく、なにせこんなビギナーなダンジョンに苦戦するなんて考えもできなかった。









 それから6つ目の魔法陣を破壊したときそれは現れた。


 パッキン!


 黒い水晶を壊すと床に描かれていた黒色の魔法陣が消えていく。


「これであとひとつだ」


 最後の水晶に意識を向けようとすると、突如として背中に刃物が突き付けられた。もちろん実際に刃を突き付けられたわけではい、感覚を想像できてしまうほどの殺気を浴びた故だった。


「!?」


 リンも即座に振り向き刀を構える。


 殺気の元を見てみると大鎌を持った真っ黒いローブがこちらの方を見ている。


(セレナの言っていた“死神”リーパ―か)


 即座にユニークスキルを全開にして、バベルを構える。


「……バアル様、あれが何かわかりますか」

「セレナの話だと俺でも勝てない魔物らしいぞ」


 リンも俺の言葉で気を引き締める。


 リーパーは唯一ある出口を塞ぐように佇んでいた。


(俺だけなら逃げることは容易だが)


 リンは正直厳しい、だが俺なら『飛雷身』連続使用で即座に逃げることができる。


(一当たりして無理そうなら見捨てるのも視野に入れるとしよう)


 最悪は一人だけでも生き残る選択肢を用意しておく。








 それからどちらが合図をしたでもなく動き出した。


 まずは『飛雷身』で俺が背後から一撃入れようとする。


 ガキン!


 だが振り下ろされたバベルは大鎌で受け止められた。


(やっぱり強敵と言われるだけあるな)


 バベルから伝わってくる手ごたえでは、俺の筋力じゃあ到底敵いそうになかった。


「はぁ!」


 俺の攻撃を大鎌で防いでいる最中にリンは【風迅】で切りかかる。


 だが


「!?」


 リンの刀はボロく薄いローブを切り裂くことはできなかった。


「避けろ!!」


 標的が俺からリンに代わり、大鎌が振り下ろされる。


「っ!!」


 リンは大鎌を受け流そうとしたが、受け止めようとした刀をすり抜けそのまま腕を切りつけられた。


 幸いにもほんのだけ少し刃がかすり傷を作った程度だった。


「距離を取れ」


 俺とリンはそれぞれ『飛雷身』【風迅】で距離を取る。


「……やっかいだな」

「なにがっ!?」


 回避した先でリン様子を観察すると切られた左腕がだらんとなっている。


「動くか?」

「……いえ、力も入りません」


 ほんの少しの情報を繋ぎ、いくつかの答えを考える。


(重要なのは切られた左腕という点だな)


 かすり傷程度なのだが、切られた周辺の部位は動かなくなっている。だが様子を見るに動かせなくなるだけで、生体機能の停止まではない。


「リン、防御するな回避のみだ」

「わかりました」


 リンの刀をすり抜けた、この事実を考えるに防御には意味がないと予想できる。なら防御ではなく回避に専念するべき。












 早速行動に移し、そして何度か攻撃をするとわかったことがある。リンの攻撃は無視するが、俺の、もっと言えばバベルの攻撃は防ぐ。つまりは俺の攻撃の方を重要視している。


 ならば


「リン、アシスト」

「わかりました」


 リンもそのことに気づいている。なので攻撃の形として、俺がメインでリンがそれをアシストしている。


 だがその攻撃もあまり機能できてない。なにせ本来なら『飛雷身』で飛び、攻撃をするのだが、この敵はどうやってか『飛雷身』の行き先を察知している。さらにはリンの攻撃は無視しておりほんの少し体勢を崩すぐらいしかできることがないからだ。


 だから基本は自身のステータスのみで攻撃を仕掛けに行く。


 ギィン!


 バベルはやすやすと防がれてしまう。それでも何度も繰り返し観察する。


(力はあっちが上、速さはこっちの方が上)


 それゆえに相手の攻撃をかわしながら攻撃できる。


「くっ!?」


 リンの方は死角から切りつけているのだが、全くと言っていいほどダメージにならない。


 本来なら剣が通じないならユニークスキルを使えばいいのだが、この部屋の中では俺すらも巻き添えになってしまう。


(!?)


 考え事をしていたら一手間違え、大鎌を躱し損ねた。


(ダメだ、視界もほぼこいつに塞がれている)


『飛雷身』で躱そうにもどこに飛んでもこいつの懐の中だ、すぐさま軌道を変えて攻撃してくるだろう。


「っ!?」


 となると体の一部を犠牲にして躱そうとするのだが。


 ギィン!


 なんと軌道上にあるバベルにぶつかり、鎌を防ぐ。


「!?『パワークラッシュ』」


 鎌が止まっているうちにバベルを構えなおし、重い一撃を入れる。


 衝撃でローブがひるがえり、ローブの中が見える。それにより決着の糸口が見えたのかもしれない。


「『飛雷身』」


 すぐさま距離をとり、リンと合流する。


「リン、耳を貸せ」


 リンに方針を伝える。










「いいな?」

「はい」


 準備が整うと俺はリーパーの眼前に立つ。


 ブンッ!


 素早く鎌が振り下ろされるがバベルで弾く。


(バベルが透過しないなら都合がいい)


 それから何度も打ち合い、癖を見抜く。


(縦の振り下ろしから左から振りぬき、そしたら柄で突き距離を取らさせられる、この動きが軸になっているな)


 ある程度動きが読めたら本番だ。


「さて上手くやってくれよ、『真龍化』」


 まずは劇的な強化を促す『真龍化』を発動する。


 ギィィン!


 本気で打ち合ったが若干力負けしている。


(この状態でも若干力負けしているか………違うな、この感覚はさっきと同じ)


 ステータスが大幅に強化されたのにも関わらず先ほどと同じ感覚がする。


 おそらくこれは


(相手のステータスに合わせて変化する形か)


 だが素早さは力ほどに変化させられないのか明らかに俺の方が速い。


 それから何度も打ち合い、ほんの少しの隙を探していると待っていた大振りで右から振りぬかれる。


「『パワークラッシュ』!!」


 鎌を真下から強引に打ち上げる。


 さすがに鎌を放すことはなかったが腕を上げることには成功した。


 そしてその瞬間


「【嵐撃】!!」


 リンが放った風がローブを翻す。


「『怒リノ鉄槌』」


 最後にローブが翻り剥き出しになった一瞬、バベルの『怒リノ鉄槌』を発動させ、ほんのり透けている体に打ち込む。

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