第60話 超特殊型ダンジョン

 収穫祭では夜になっても明るく、屋台の人たちは酒を飲んだり談笑したり、腕相撲やらなんやらで楽しんでいる。


 そんななか俺たちは学園のダンスホールまで来ていた。中では盛装をした貴族が多く集まっており、例に習い俺たちも着替えていた。俺は青をベースとした服に、リンは深い緑色のドレスを、セレナは淡い黄色のドレスに。


「で、これで最後だな?」

「はい、ここで踊った相手とダンジョンに入ることができます」


 この情報は初耳だった。


「……踊った相手と?」

「はい!今回のダンジョンは男女のペアで挑むダンジョンです」


 セレナの言葉を聞くと、俺はセレナのほっぺを両方向に引っ張る。


「痛ひゃい!痛ひゃい!!」

「今すぐ知っていることを包み隠さずに全部話せ」

「わ、わかりました」


 このダンジョンは学園祭を一緒に回った男女のペアでしか挑めないもので、その選定がこのダンスホールで踊った者となる。


 ついでに俺の好感度をあげたくてダンジョンの話をしたそうだ。


「こ、これで全部じぇす!!」

「なるほどな」


 ほっぺを放すとその部分をさすりながらブツブツと言っているセレナ。


「それは今日だけか?」

「いえ、収穫祭は一日一回挑めます」


 その言葉に俺は考える。


(連れて行けるのは一人だけか……)


 戦闘力の優れているリンか、少し微妙だが知識を持っているセレナ、どっちを連れていくべきか。


(これが未知のダンジョンならリン一択だが……)


 知識があるのとないのでは全く違う。


「セレナ、ダンジョンはどのタイプだ?」

迷宮型ラビリンスです、階層は全部で3階まで」


 迷宮となるとより悩み始める。


「道はランダムか?」

「はい、日にちごとに内部は変わっているはずです」


 ならリンを連れていくのが一番だと考えに傾く。


「他には一階層は石造りで二階層は墓地で、三階層はどこかの屋敷のような場所です」


 だがこいつの知識も捨てがたい。なにせセレナが居なければわからない仕掛けもあるかもしれない。


「……最初はセレナを連れていく」

「やったー!!」


 思考の末の答えにセレナは喜ぶが、リンはなにやら難しい顔をしている。


「次の日はリンと行くこれでいいな」

「はい」


 ということで二人と一曲踊るのだが、のちにこれが間違いだったかもしれないとも思った。


「バアル様、次は私と!」

「ずるいわよ!バアル様、わたくしとも踊ってくださいませ」


 なにせ二人と踊ったが最後、続々と貴族令嬢がダンスを申し込んでくることとなった。


(全員と踊る羽目になりそうだ)


 二人と既に踊ってしまったので断るのが難しい。しかも両方が平民となれば余計に。


 その後は結局、ダンスパーティーが終わるまで踊り続けることとなった………










 収穫祭も終わり、学園には一人もいない中、俺はセレナに連れられてダンジョンに向かう


「えっと、大丈夫ですか」


 セレナに心配されるほど疲れているように見えているらしい。


「……問題ない、それでダンジョンはどこに出現する?」

「時計台です!!」


 この学園にはひっそりと建っている時計台がある。


 時計台は鐘を鳴らすこともないし上に登ることもできない、ただ本当に建っているだけなのでほとんどの生徒はその存在を知らない。


「で、このどこにダンジョンがある?」


 時計台に着いたはいいのだがダンジョンらしき場所はどこにも見当たらない。


 あるのは搭の修繕作業用に作られた鉄の扉だけだ。


「だから、ここですよ」


 セレナは目の前の鉄の扉を指し、近づくと扉が独りでに開く。


「ほら、あったでしょ」


 セレナはない胸を張る。


 中を見てみると石造りの道が長く続いていて、明らかに時計台の大きさ以上の長さが存在していた。


「なるほど、では行くぞ」

「はい!!!」








 ダンジョン内は石造りの廊下になっており、壁には光源として光り続ける石がはめ込まれているため暗くもない。大きさも十分バベルを振り回せる広さがあった。


 そんな通路を進むと大きな扉に突き当たる。また扉とは別に左右に分かれる道もあった。


 扉には鍵穴は無く、代わりに3つの窪みがあるだけだった。


「セレナ」

「見てわかると思うけど、この階層にある三つの宝石を探してこの窪みに当てはめればいいの」

「他には情報は?」

「ええと、まず一階層にいる魔物はゴブリン、ゾンビ、マミーの3種類、そして注意してほしいのは徘徊強エネミーである“死神”リーパーよ」

「強いか?」

「ええ、終盤辺りになってギリギリ勝てる相手だったわ」


 その例えではよくわからなかった。


「具体的に」

「簡単に言うと今の私たちじゃ手も足も出ないわ」

「見つかったらどうする?」

「足が遅いからとにかく逃げるのよ」


 ということでリーパーに注意して進んでいく。










「『火球ファイアーボール』!!」


 ギャアア!!


 セレナの魔法でゴブリンが倒れる。


「やりました!レベルが上がりました!」


 セレナのレベルは低いのでかなりの速度で上がる。既にレベル8だ。


 さらにはリンやラインハルトにしたようにほどほどにステータスが上がるやり方を教えたおかげかいくつかのステータスは15を超えている。


 こうして魔物を倒しながら進むとなにやら大きな空間が見えてきた。


 中にはゾンビがうようよと彷徨っていた。


「……あれか?」

「そうです」


 ゾンビの中心にまるで見せつけるかのように存在している宝石があった。


「どうしますか?」

「決まっている」


 そのまま堂々と進むとゾンビがこちらに気づいて、向かってくる。


「え、えぇ!!」

「お前は魔法を放っていろ。あと、わかっていると思うが俺には当てるな」


 通路を守るように立ちそのままゾンビが近づいてくるのを待つ。


 オォオオオオ


 ゾンビは子供女の姿もあり、すこし匂いも漂ってくる。


(臭いが仕方ない)


 あと数歩と言うところでバベルを取り出し振り払う、それで消えるものもいれば再び立ち上がり近づいてくるものもいる。


(ゾンビが死ぬ……という表現もおかしいか)


 くだらないことを考えていると最後のゾンビもセレナの魔法で灰になった。


「レベルは上がったか?」

「はい、今ので11になりました」

「……よかったな」

「ありがとうございます!!」


 部屋の中央にあった宝石を取り、来た道を戻ろうとするのだが。


「少し待ってください」

「ん?どうした?」

「確か……ここに」


 セレナは部屋のガラクタをどかすと扉と同様の窪みが出てきた。


「やっぱりあった!!」

「……一応聞くがそれは?」

「見ての通り鍵穴で、嵌めてはだめです!!」

「なぜだ?」


 するとセレナは熱弁する。


 この鍵穴に宝石を埋め込むと壁が動き、その先に宝箱があるらしいが、嵌めた宝石によって中身が変わるらしい。


「手間はかかりますが、全部の宝石を手に入れたら再びここに戻ってきます」









 その後、セレナの熱意に負け、全部の宝石を手に入れるとまた大きな部屋に戻って来た。


「さてでは藍色の宝石を渡してください」


 言われた宝石を渡し、セレナが嵌めこむと壁の一部が開き道ができた。


 中を見るとあの白い部屋・・・・・・で見た宝箱が一つ出てくる。


「中は……やっぱりこれね!!」


 箱の中には白いレイピアが入っていた。


 ―――――

 輝晶剣リアシスロクス

 ★×5


【輝晶剣】【晶魔法】


 貴重な鉱物、光結晶ルクレジュアを使って作られた魔剣。名工が光結晶を鍛え上げ、輝晶として剣と成した。長き時を得て剣は魔力を取り込めるようになり、さらにつよい輝きを生み出すことができる。ほかに魔力を含んでいる結晶を使用することで魔法が使える。

 ―――――


 鑑定すると、このような結果が出た。


「これが目当てか?」

「はい、メイン武器はこれを使っていました【輝晶剣】」


 早速、剣を手に取りスキルを発動する


「ほぅ」


 魔剣から、光の粒が出てくると同時に、粒は魔剣と同じ形に集まっていく。そして魔剣から光の粒がでなくなれば、セレナの周囲に二本の剣が浮き上がる状態となった。


「やっぱり最初は2本か」


 説明してもらうと、使い続ければこの数が増えていき最大7本になるそうだ。


「では次に行きましょう!!」


 ほかの部屋に移動し、残り二つの回収する。













 ―――――

 親魔のブレスレット

 ★×3


【魔力回復強化】


 着けているだけで自然魔力回復が上がるブレスレット。

 ―――――



 ―――――

 強化薬

 ★×3


【ステータス強化】


 飲むと一時的にステータスを上げる薬。

 ―――――


 残りの場所を探索した結果はこの二つだった。


 正直残り二つはショボいと思ったがどうやらそうではないらしい。


「これが一番豪華な組み合わせなのよ」


 この組み合わせ以外には最高でも★×4が一つの組み合わせしかないのだとか。熱意のあるゲーマの豆知識なのだろう。


「これでさっきよりも動けるようになるわ!!」


 セレナはそう言うが、ゴブリンを前にしたら。


「ひっ!【輝晶剣】!!」


 近づく前に先ほどの剣を作り出し串刺しにする。


「接近戦は苦手か?」

「……はい」


 こちらの問いかけにセレナは落ち込みながら頷く。


 理由を聞いてみると、魔法で遠距離でしか戦ったことがなく近距離だと怖くなるらしい。


(……このタイプか)


 実はこの手の人種は結構いる。


 そうなると遠距離に徹してもらうのが普通なのだが。


「お前は魔法戦士を目指している、そうだな?」

「……はい」

「なら訓練あるのみだ」

「ほぇ?」








 それからの戦闘で徐々に距離を縮めながら戦わせた。


 無論、最初は怖がって魔法や剣のスキルで攻撃しようとしたがすべてを俺が止め、一定の距離から攻撃させるように強制した。


 すると20匹ほどでとりあえずは近距離戦ができるようになっていた。


(逃げ腰だが、近くで戦えるようになった分進歩した方か)


 これでも大きな進歩だ。それから剣の性能に助けられながらもゴブリンを切り伏せることができた。


「よっしゃーーー!」


 拳を上に掲げながら叫ぶセレナ。


「……馬鹿が、そんなことをしたら」


 ドドドドドドドド


 今のセレナの声を聞きつけ周囲にいるであろう魔物が押し寄せてきた。


「ひっ!?」

「はぁ、『天雷』」


 とりあえず向かってくる魔物全て倒し、扉に戻る。

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