第59話 販路拡大と動き出す殿下達

 それから数日が立ち、王都に戻る時が来た。


「皆さんお世話になりました」


 僕たちの見送りに様々な人が来てくれた。


「ではシスターソフィアこれにて今回の巡礼は終了です」

「はい、ありがとうございました」


 エルダさんはソフィアに証拠の書状を手渡す。


「向こうでも元気でな、これ道中で食えよ」


 マークスさんはドライフルーツを包んで渡してくれる。


「ほらジェナも」

「っち、あ~あれだ、確かにお前のユニークスキルは強力みたいだ。だが覚えていろ、この世界にはそんな力が効かない相手もわんさかいるってことをな」


 ジェナさんはそっぽを向きながら強くなるアドバイスをくれる。


「はっはっは、相変わらず素直じゃねぇな」

「うるせえ、ベルヒム!」

「っ痛~~、まぁなんだ今度こっちに来た時に知りたいことがあったら俺を訪ねな。割引してやるからよ」

「その時はよろしくお願いします」


 残念ながらデッドさんは仕事で来れないみたいだ。


「お~い、アーク、そろそろ出発するぞ~」

「うん。では皆さん今回はお世話になりました」


 すると見送りに来てくれた人たちは笑ってくれる。


「また来いよ」


 そんな声を聴きながら馬車が出発する。


 ゴトゴトゴト


「いい街だったね」

「だな」


 馬車に揺られながら街道を進むと、何やら手紙が馬車の中に入り込んでくる。


「なんだろうこれ?」


 手紙を開けてみるとルーアさんからの手紙だった。


「アーク、ルーアから何だって?」

「今回の件は本当にありがとう、今度は私が力になるって」


 ルーアさんはパーティーの翌日には弟を連れてノストニアに戻っていた。そのため別れの挨拶は昨日で済んでいた。


(また行こう)


 こうして僕たちの夏休みは終わった。












〔~バアル視点~〕


 学園再開まであと少しの時期は普通の日常が続いた。


(………報告書を見る限りだと、セレナの話と食い違う場所がいくつかあるな)


 自室にて、影の騎士団から届いた報告書を見ているのだが、あらかじめ聞いていた話と多少食い違う部分があった。


(この状況だと俺も動いた方がいいか)


 せっかくできた機会だ。手紙を書き、リンにイドラ商会に届けさせる。


「……このチャンスを見逃す手はないだろう………よし」


 魔道具を取り出し、魔力を流す。


「父上、聞こえますか」

『ガッシャーン!!』

(……割れた音?)


 仕事をさぼってティータイムでもしていたのだろう。そして急にかかってきた連絡に驚いて持っていたコップを落とした、こんなところだろう。


(………………ここまで予測できたのがなんとも………)


『バ、バアルかどうしたんだ急に?』

「今、イドラ商会に卸す魔道具の在庫はどれくらい残っていますか?」

『まってくれ確かめる、すまんエリーゼ、途中ですがいいのですか?、ああバアルの件が終わったら続きを頼む、ええ』

(……やはり、仕事をサボっていたか)

『確認したぞ、大体4割ほど残っている。詳細を教えようか?』

「いえ、大丈夫です」

『……今度は何をやるんだ?』

「すこし新しい販路が出来そうなので噛みたいと思っていまして」

『……あんまり派手なことをするなよ』


 在庫を確認すると次は王都イドラ商会に向かう。


「い、今からですか!?」

「ああ、アズバン領で活動しているアーゼル商会に接触してくれ」

「ですが、何の要件でですか?」

「ノストニアのことは分かるか?」

「ええ、エルフの国の事ですよね、ですがあそこは鎖国状態で…………!!!」


 王都の支配人も気づいたようだ。


「もう言わなくても分かるな?」

「一つだけ、ほかにもエルフの伝手を持てた人物は?」


 この問いに笑顔で答えた。


「わかりました、では早速アーゼル商会の伝手を構築する準備に入ります」

「ああ、それと第二席は若いらしいぞ」

「……それはすごいですね」


 これで準備は大丈夫だろう。


 ここの支配人はかなり頭が回るから、俺の言葉の裏も理解できただろう。


(……学園が無ければすぐにでも俺が出向くのだが)


 このようなタイミングで学生なことに苛立ちを覚えそうだ。学園生活を送りながら来年のノストニアへの商業準備をする。










「このように王家であるグロウス家は4つの家と共にこのグロウス王国を興しました」


 今やっているのは歴史の授業だ。


 黒板にはこの国が書かれており、そこに王家と四つの公爵家が書かれている。


「北は二国との交易が盛んなアズバン領、南は広大な農地があるゼブルス領、東は多くの鉱脈が眠っているハルアギア領、西は広大な草原と家畜が多いキビクア領、そして中央にはそれらが最も集まる王家直轄地がございます」


 正直、学園が始まる前から教えられている内容なので新鮮味もない。









 授業が終わると食堂に移動し昼食になる。


「すごいですね」


 共に昼食をとっているセレナが感嘆を漏らす。


「なにがだ?」


 こういった歴史はむこう地球ではそう珍しいことじゃないはずだ。


「いえ、設定がとても細かく作られていることにです」

「……」


 まだゲームの中だと思っているのかと呆れる。


「バアル様、お話ししたいと言う者が来ているのですが」


 リンの視線を追ってみるとエルドが供回りを連れて近づいてきた。


「やぁ、最近はよく動いているみたいだね」


 何しているんだ、という声も同時に聞こえた気がした。


「いえ、イドラ商会の品が好評なようで少し数を増やそうとしているだけですよ」

「そうか、では少し面白い話があるのだが聞くか」

「……伺いましょう」


 裏ではイグニア陣営にいるが表では中立を保っている、これぐらいなら問題ないだろう。


「実はエルフ関係で動きがあったらしい」

「ほぅ、ノストニアにですか」

「ああ、アズバン家でエルフが出たと王宮で耳にした、そしてノストニアが王位交代する」

「つまりは交易できる可能性が出てくると?」


 問いかけると同時にエルドは影の騎士団を知らないのかと疑問が浮かんだ。


「それはそれは」

「どうだ、この一件に噛まないか?」

「具体的にどうすると?」

「近々、使節団を派遣しようと思う。それに参加しない?」


(目的は取り込みか)


 この使節団に参加すればエルフの知己を得ることができる、だけど同時に外部からはエルドの陣営に入ったと判断されてしまう。


(一度判断されれば覆すのは難しいな)


 イグニア陣営に疑われた時、エルドがそうだと言ってしまえば、半ば強引に事実が出来上がってしまう。その後、影で取引をしていると思われてしまえばどうやっても覆しにくいので、今回は残念ながら断念せざるを得ない。


「そうか、使節団にはイグニアの陣営もアズバン家もいるがそれでも?」


 暗に乗り遅れるぞと言いたいらしい。


「……そうですね、今回は両殿下にお任せします」


 ここはアズバン家の顔を立てないと後々やりにくくなるだろう。


(貴族の縄張り意識の高さは異常だからな……)


 貴族における暗黙のルールを守らないとあとで報復される可能性がある。なので今回は殿下たちとアズバン家に任せる。


(それに使節団には参加しなくてもほかのルートがあるから問題ない)











 それから程よく季節も流れ、秋の中頃になる。


「バアル様は文化祭に参加しないのですか?」


 休みの日に家でくつろいでいるとセレナがそう聞いてきた。


「文化祭?」


 セレナの言葉に疑問を付けて返したのには理由があった。


(学園の恒例行事にそんなのがあった、か?)


「そうです、狙っているキャラの好感度が高まりやすい好イベントです!!」

「すまん、何を言っているか全くわからん」


 一応ゲームはしたことはあるが一般的なゲームばかりでギャルゲーなどのコアな奴はやったことがない。


「それに文化祭とはなんだ?」


 この世界で文化祭と言う言葉は存在しない。


 現に冬の休みまでで祭と言えば収穫祭ぐらいしかない。


「ああ、ええと、来週にある収穫祭のことです」


 どうやら収穫祭のことを文化祭と認識していたらしい。


 だが


「俺が知っている限りだとそこまで豪華な祭でもないはずだが」


 農家などが学園やその周辺に屋台を出し、広場で演劇などがあり、夜には花火が上がるぐらいしかないが。


「いや、それでも十分でしょう………でもメインはそれじゃあないんです!!」

「メインじゃない?」

「収穫祭にだけ出現するダンジョンです!!」
















 収穫祭当日、俺とリンはセレナと共に様々な場所をめぐり歩いている。


『ダンジョンには必要条件があってすべての施設を周らなければ現れないんです』


 とのことで図書館、教室、演劇場、屋台の出ている広場、訓練場などを巡り歩く。


「本当にこれでダンジョンが出るのだろうな?」

「……もちろんです」


 セレナはもしかしたら違うかもと思ったがここまで来たら信じ切るしかなかった。


 収穫祭は3日間行われていているのだが、セレナの話だとその日その日、一日で総てを周り切らないと出てこないのだとか。


 なので生徒が借りた教室で出している催し物を総て回る。言うのは簡単だがかなり骨が折れる。


 教室では魔法講演会、武術展示場、武器展覧会などがあり、広場などではクラブが剣術体験などもやっていた。










「あのぅ~、もう少し楽しみませんか?」


 ほんの少し楽しんだら出るを繰り返しているとセレナが文句を言ってきた。


「こぅ、もう少し楽しみながらやっても」

「やるだけ無駄だ」


 コンサートの類は楽しめたが、昔から祭りは楽しめない性分だった。


「夜にあるダンスパーティーに必ず参加するので、それまではどれだけ早く回ったとしても意味ないですよ」


 と言う事なので。ペースを落としてセレナ主導で動くこととなった。


「ん?」


 曲道の向こうを見てみるとルナとカルスたちがいた。


「げっ!若」

「……今の言葉は聞かなかったことにしてやる」


 ルナの言葉を聞かなかったことにする。


(貴族に向かって「げっ!」はないだろう)

「お前たちも祭りに来たのか」

「はい、さすがに訓練だけでは持たないですから」


 訓練続きだとかわいそうだから今日を使って祭りに来たそうだ。


「それにしても意外です、若が収穫祭に出回っているなんて」

「意外か?」

「はい、あんな低俗な祭りに関わるつもりなんてない、とか言ってそうでしたもの」


 この言葉でこいつが俺のことをどう思っているか、少しだけ理解できた。


「訓練しているならいうことはない、それと」


 俺は財布から銀貨三枚取り出しカルス達に一枚ずつ渡す。


「せっかくだこれで楽しめ」

「「「ありがとうございます!!」」」


 カルスたちはさっそく屋台に駆けだしていった。


「ああ、もう、では若、私達はこれで失礼します」


 ルナも三人の後を追っていった。


 すると後ろでリンが薄く笑っている。


「なんだ?」

「いえ、相変わらず身内には甘いなと思いまして」

「甘いと思うか?」


 セレナに尋ねると、答えずらそうに。


「す、すこし、ですかね~」


 なにやら目線が泳いでいる。


(『な、なんかおもっていたイメージじゃない』とか考えていそうだな)

「ほら行くぞ、少し早く回りすぎたみたいだからゆっくりとな」


 俺は二人を連れて祭を楽しむ。

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