第58話 ようやくの終幕、そして動き出す影

〔~バアル視点~〕


「驚きですね」

「賭けといて正解だっただろう」


 観客席は騒然としている。


 それもそうだろう勝利が確定だと思っていたのが覆されたのだから。


(持ち金を全部使ったアホもいるみたいだな)


 数人は目が血走りながら叫んでいる。


 闘技場では仮面を着けた人たちがアークたちを回収している。


(ほとんどセレナの言う通りになった、なら)


 俺はさっさと換金を済ませるとキラを王都に移動させる。










〔~アーク視点~〕


 目が覚めると見慣れた天井が目に入ってきた。


「ここは……教会か……」


 今いるのは数日間オルドと共に使っていたベッドだ。


 傍に用意されている服に着替え、ベッドから下りる。


「……オルドもいたのか」


 隣のベットで気持ちよさそうにオルドは寝ている。


 部屋を出るとその足で礼拝堂の方に向かう。


「アーク!!!」


 礼拝堂ではソフィアが掃除をしていた。


「もう大丈夫なのですか!?」


 ソフィアは僕に気付くと速足で駆け寄り、傷がないかをチェックする。


「大丈夫だよ」

「なら安心です」


 ここで疑問になっていることを聞く。


「えっと、なんで僕は寝ていたの?ワイバーンに勝ったよね?」

「それは「よう、元気そうじゃねえか!!」」


 礼拝堂にジェナさんがやってきた。


「ジェナさん」

「怪我は全部エルダが治したんだが、なにか違和感はあるか?」


 そう言われて改めて体を確かめる。


「いえ、無いです」

「そうか、それとそろそろやっこさんたちが到着する、例の部屋に集まってくれ」










 僕たちはいつもの部屋に訪れる。


 中にはエルダさん、ジェナさん、ベルヒムさん、デッドさん、それと僕たち五人とルーアさんだ。


「ルーアさん」

「よかったわ、無事で」


 ルーアさんも心配してくれたようだ。


「体はもういいの?魔力を使いすぎて生命力を削っていたのよ?」


 MPが0になった状態で魔力を使うと生命力、つまりはHPを削ることになる。


 空になった水瓶から水は掬えないように、どこかで無理が来て生命力が減っていく。


「アレくらい平気だよ、それよりもあの魔法はありがとう」

「…………私にも責任はあるから」

「それでもルーアさんは戻って来てくれたじゃないか」


 ワイバーンの戦闘中に聞こえた声、それはルーアさんだった。


「お礼ならジェナに言って、彼女のおかげでアークたちがピンチだと教えてくれたから」


 そうはいうがルーアが僕たちの命を救ってくれたのだお礼を言って当然だろう。


「どうやら来たようだな」


 デッドさんの声でみんなの視線が扉に集まる。


 バン!


「やあ!やあ!待たせたね!!」


 扉から現れたのはいつも通りのガルバさんだった。


「おい、例の子は?」

「もちろん連れてきているよ」


 ガルバさんが道を譲るとルーアさんを幼くした女の子・・・がいた。


「「「「「え?!」」」」」


 攫われたのはルーアさんのだったはずじゃあ……


「アイル!」

「おねえちゃん!!!」


 ルーアさんとアイルくん(ちゃん?)は抱き合う。


「良かったわ、無事で」


 するとアイルは安心したのか泣き始めた。


「……で、これはどういうことだガルバ」

「いや、ほらさ、こんなきれいな男の子ってなかなかいないじゃん、でも綺麗な女の子なら貴族とか特殊な事情を持つ子供とかで結構いるだろう?」


 カモフラージュのつもりであんな格好をさせているらしい。










 この場がひと段落すると全員が席に着く。


「まずはエルフとして、そして姉としてお礼を言います」


 ルーアさんは立ち上がり全員に頭を下げる。


「問題ないですよ、こちらとしてもアズリウスが標的にされてはどれだけ被害が出るか」

「こっちとしても身を守っただけだしな」


 エルダさんとジェナさんは礼は不要という。


「う~ん!!私としては個人的な取引が成立したから全く問題ないよ!!!あと今夜ディナーでもどうだい?」

「俺も情報屋として動いただけだしな」


 ガルバさんは相変わらずで、ベルヒムさんも仕事をしただけだという。


「みんなも手伝ってくれてありがとう」


 ルーアは僕たちにも頭を下げる。


「よかった!よかった!これにて一件落着だね!!……ただ」


 ガルバさんの顔色が変わる。


「一つだけいただけないことがあるんだけど」

「なにかあるのか?」


 ベルヒムさんやここにいるみんなはガルバさんの言おうとしていることが予想できない。


「まず確認だけど、ノストニアにおける商業の補助という便宜を図ってもらえることになっているよね?」

「ええ」

「それは組織・・で?それとも……個人・・でかい?」

「……」


 このやり取りで数名が何かに気づいた顔をした。


「一つ引っかかっていたんだ、なんでこの場に君しかいないんだ?受け渡しをするなら護送するために数名は必要だろう?」

「それは……」


 たしかに、いくら何でも護送するにしてはルーアさんだけで足りるとは思えない。


 もし仮に近くにいたのならこの話し合いに参加するのが普通だろう。今回の件で味方、とは言い切れないが、敵ではないと知れたのだから。


「それにだ、オークション最中の行動が変だった」

「そんな時あったか?」


 オルドは理解してない。


「ルーアがメイドを見てなぜ動いた?普通なら仲間にその女を見張らせて自分はオークションに参加して無事を確かめるべきだろう。仮にルーアの暴走だとしても味方の声すらも忘れるほど我を忘れていたのかな?」


 あの場面だとオークションに参加しやすいルーアさんがそのまま潜入し、味方のエルフにあの女性を見張らせるのが一番のはずだった。


 もし仮にルーアさんの暴走でも仲間のエルフが止めているだろう。


「僕の考えでは、ルーア、君は組織で動いていない、違っているかな?」

「………」


 ルーアは何も言わずに目を閉じる。


「その通りよ」


 僕たち五人は驚く。


「詳しく話してくれますね」


 エルダさんが促すとルーアは静かに話し始めた。









 まず、ルーアさんの弟を救出されるのは決定事項だ。


 だけどここで問題なのが新王の方針らしい。


「新王は来年から各国と交流を持つつもり、でもそれをよく思わないエルフもいる」


 それらのエルフがアイルが攫われたことを理由に交流を撤回させようと考え始めた。


「私は『樹守』、だから王の考えや意見を聞いたことがあるの」


 それからの説明で樹守とは貴族のようなものだと教えられた。


「新王はこのままではエルフが衰退していくことがわかっていた、だから何とかしようと外との交流を盛んにしようとしたの、でも頭の固いエルフはこれを機に人族に大規模な報復をすることで交流を断とうと考えているの」

「それでルーアが一人で」

「そう、できるだけ穏便に事態を済ませ、反対派に付け入るスキを与えないようにするためなの」


 これで全員が納得した。


 エルフが集団で動くとなると確実にその頭の固いエルフが横やりを入れてくる。そうなれば救出できない事態にまで発展しかねない。そして救出できなくなれば人族は悪だと高らかに宣言させる口実になってしまう。


 そんなことにさせないためにルーアさんは一人で救出に赴いた。


「まぁ、弟が心配で飛び出してきたのは私の独断だけどね」

「「「「おい!」」」」


 でも納得した。


 つまりはルーアさんだけで弟だけではなくエルフ、それに僕たちヒューマンのことも考えて動いていたのだ。


「ということで組織としては協力できないけど、私自身はそれなりの地位にいる。私のできる限りは協力するつもりです」

「ふぅ、なら安心だね。王の考えを聞けるならそれなりの立場にいるようだし」


 ガルバさんは支援を受けることができるのがわかって安心している。


「そんなことをしなくても今回一番得したのはお前だろうが」

「何のことかな?」

「まずはエルフ交流の先駆け、裏オークションの伝手を作って、裏カジノでの金貨4000枚以上の利益、さらには商売敵を唆し裏カジノで破産させた。最初以外でも十分おつりが帰って来るほどだ」


 これには僕たちは全員が口を開ける。


 全員が、いつの間に、という感想しか出てこない。


「はは、商人たるもの一つの機会でいくつもの利益を得なくちゃ」


 油断できないとここにいる全員が再認識した瞬間だった。


「一応確認だけど、エルフとの交渉に君が参加してもらうことはできるんだよね」

「もちろんよ、それなりに伝手があるから問題ないわよ」


 ということでガルバさんの懸念はなくなった。


「でもどうやってルーアと連絡を取るのですか?」


 僕は疑問になったことを聞く。


「それは俺が手はずを整えよう」


 これにはデッドさんが立候補した。


「俺は王宮の役人の伝手がある、それを使う」


 デッドさんの話だと僕たちがルーアさんと出会った村にエルフと連絡できる要員を置き、双方から連絡できるようにするらしい。


「そのために力を貸してほしいのだが」

「わかったわ」


 この場での話し合いは終了した。











 話し合いが終わり、夜になるとガルバさんが貸し切った店で祝杯をみんなで上げる。


「それにしても来年から交流が始めるのか~ノストニアに行くこともできるのかな?」

「おそらくだけどね、ただ限定的になるとは思うけどね」

「何かノストニアしかないご飯とかはあるの?」

「あるわよ、来た時に案内するわね」


 それからノストニアにはどんなのがあるのかやお互いの生活のことを話していった。










 そんな店の裏側では二人の影が重なっていた。


「来たか」

「今回はどんなのだったの?」

「経緯はここに記してある」

「さすがね~とても細かいわ、にしてもこんなことが起こっているなんて、若に指示されるまで全く知らなかったわ」

「……もう若は知っているのか?」

「ええ、本当にどこから情報を手に入れているのだか」


 二人は身震いをする。


「それとだが今回の件でアズバン家が横やりを入れてくると思う、そこで」

「王家の力を借りたいのね」

「ああ」

「多分大丈夫だと思うわ、事が事だから」

「助かる」

「……ねぇ私もあの料理が欲しいんだけど」


 一人が店内を見ながらよだれを垂らす。


「馬鹿を言うな、さっさと届けてこい」

「うぅ~あんなおいしそうなのに、くれなければゼブルス家での痴態をさらすわよ」

「してみろ、その時は私と隊長でさらに何倍も恥ずかしい話をまき散らすからな」

「う~~、さよなら私のご飯」

「さっさと行け、ルナ・・

「そっちもへましないでね、デッド・・・

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