第55話 裏オークションの開幕

 会場に着くとまずは紹介状の確認される。


「―――ありがとうございました、どうぞ中にお入りください」


 その後は、中に通されるとまずは控室に案内される。そこで荷物を置き、パーティーの時間になるまで時間を潰すように言われる。


 ある程度時間が経つとメイドがやって来てもう一つの紹介状を見せてほしいとやってきた。


「ありがとうございました、ではもう少しで使いの者が来ると思います、その会場では仮面を着けることが容認されています、もし仮面が必要な場合はお申し付けください」


 そう言ってメイドは去っていった。


「今のって」

「ああ、裏オークションの事だろうね」


 おそらくこの段階で通常のパーティー客と分けているのだろう。


「さてさすがに私も含めて全員が素性を隠す必要がある」

「僕たちもですか?」


 僕たちは隠す必要がないと思うけれども。


「あるよ、君たちが無事に買い戻せても力のないただの平民だということがばれたら強引に奪ってくる可能性があるからね」


 これが貴族や豪商であれば問題ないのだけれど、とガルバさんはつぶやく。


 ということで全員分の仮面をもらいにガルバさんはさきほどのメイドに会いに行った。


「どうしたのですか?」


 ソフィアの声でルーアの方を見ると。


 ルーアは目を見開いて固まっている。


「……けた」

「ん?」

「見つけた!いまの女性!弟の魔力が微かにだけどこびりついていた!!!」


 そうして荷物の中から弓を取り出して駆けだそうとする。


「待って」

「どいて!!アーク!!あいつの後をついて行けば弟に、アイルにたどり着くことができるの!!」


 だけどここは譲らない、ルーアの腕を掴み身動きの取れないようにする。


「ダメだ、今動いたらきっと場所を移される、オークションにも参加できないかもしれない!!」

「そんなのどうでもいい!!!」


 すると僕の体が浮く。


「カハッ!!」


 背中に強い衝撃を受ける。


 どうやら無理やり投げ飛ばされたようだ。


「おい、待てってルーア!」

「ルーアさん!!」


 ルーアは皆の制止を振り切り飛び出していく。


「どうする?!」

「ルーアを探そう、ここには強い人たちが多くいる、ルーアさんだけならもしかして捕らえられるかもしれない」


 ここはジェナさんでも攻め込めないほど人員がいる。ルーアさんの一人では到底勝てるとは思えない。


「お~い、仮面をもらって……どうした?」

「ガルバさんルーアさんが!!」


 ちょうどガルバさんが戻って来るので、先ほど起こったことを説明する。


「まずいな」

「どうすれば」

「……とりあえず、俺たちはオークションに集中するしかない」

「ガルバさん!?」

「今追いついてもどうするつもりだ?お前たちはルーアを止めることができなかったんだろう?」

「それは……」


 全力では、なんて言えない。今は目立つ行為ができないそれはルーアも同じだ、この条件では僕たちはどうやってもルーアを止めることはできない。


「なら無事を祈るしかない、エルフならそうそう危険な目には合わないだろうからな」

「でも!!」

「私たちもエルフを追えばいずれルーアに会えるはずだ、その時に説得やら強引に連れ戻せばいいだろう」


 僕たちはガルバさんに説得され、オークションを優先することになった。








「会場の準備が整いました………もう一人の方は?」

「実は体調を崩しましてね、少しほかの場所で休憩しています、それよりも会場の案内をお願いします」

「かしこまりました」


 いぶかしげにしているが、僕たちは一つの部屋まで案内された。


 メイドが何やら壁を触るとその分が無くなり道ができる。


「どうぞお進みください」


 中に進むと階段があり、下りると大きな扉にたどり着く。


「お待ちしておりました、ここから先は会場になりますが、オークションについてご説明しましょうか」

「ああ頼む」




 まずオークションは釣り上げ式で行われ、持ち込んだ、もしくは預けたグロウス金貨のみを使うことができる。


 そして落札した商品は夜の晩餐会が終了し、帰る時に馬車に積み込まれる。


「そして持っていない金額を提示したりした場合は次回オークションの参加権剥奪される可能性があり、どのような手段をとっても金額を回収させてもらいますのでご注意ください」


 冷たい声でそう告げられると、そのまま扉が開けられる。中に入ると同じようなメイドに席に案内された。


「へぇ~こんな風になっているんだ」

「ガルバさんも初めてなのですか?」

「ああ、ここまで大きい裏オークションは初めてだね」


 僕たちの後にも続々と人が入ってくる。


「どうしたんだ?」


 なにやらオルドがある方向をみて睨んでいる。


「いや、なんでもない」


 僕もその方向を見てみると頭の総てを包む薄気味悪い仮面をしている大男とその傍にいる男がいる。


「なんか気味悪いね」

「……ああ」


 なにか因縁があるのかオルドの声が固い。









(あいつがか………)











 オークション始まる。


「最初の商品はダンジョンで発掘された、この剣であります。」


 すると詳細がステージに開示される。


 ―――――

 万斬剣“イズラ”

 ★×7


【万斬】


 ありとあらゆるものを切断する宝剣。これを持つものは自信を切らないように細心の注意を払わなくてはならないだろう。

 ―――――


「さて宝剣と呼べる代物です、説明に書いてある通りすべてを切断することができる・・・剣です」

「すごいな!!」


 オルドは出てくる強い武器に興奮している。


「ガルバさん、資金はいくらほどなのですか?」

「グロウス金貨は400枚まで用意したよ」

「「「400?!」」」


 僕たちはその金額に驚く。そこまでの大金を見たことがない。


「そんなにあるなら余裕かな~」

「な訳ないですよ」


 リズが楽観的なことを言うがガルバさんは険しい顔をする。


「なんでですか?今出ている物なら余裕だと思いますが」

「たしかに今出ている物なら全く問題ないけどね、これから始まる人身売買では金額が跳ね上がるから」


 物品のオークションが終わるとステージに司会者が上がる。


「それでは人身売買部を開催させていただきます」


 司会者の声で続々とステージ脇からシーツをかぶせてある人間が入ってくる。


「まずはオードブルから、こちらはとある滅びた農村で手に入れた商品でございます」


 一人のシーツが取られる。


「名前はレティア、年は19、近くの農村でも有名に成り果ては領主からも婚姻が届くほどの美女でございます。そして処女でございます。さらには4つ下の妹も同時出品でございます………ただ誠に申し訳ないのですが妹の方は処女ではありませんのでそこはあしからず」


 もう一つシーツが取られると、先ほどの女性よりを少し幼くした女性が出てくる。


「価格は二人合わせてから金貨70枚からです」

「75!」

「110!」

「130!」

「150!」


 そこからは値段がすさまじい勢いで上がっていく。


「これって……」

「ここまで上がるのか」


 武具や薬は超えても150程度だけど4人目でその数字を簡単に超えていった。


「わかりましたか?」

「で、ですがエルフは男なんですよ、そこまで値段が上がらないのでは?」


 ソフィアの言葉通りだともう一度気を取り直したが、ガルバさんの表情であり得ないのが理解できてしまった。








「では次に移りましょう、同じく滅びた農場からの商品です」


 司会者がシーツを取るとまだあどけない少年が現れた。


「この少年はとある里の生き残りです、さまよっているところを私たちが確保しました」


 明るい茶髪で僕たちとほぼ同じ年齢だ。


「それでは金貨40枚から始めです」

「55!」

「63!」

「67!」

「75!」

 ・

 ・

 ・

 ・



 子供は仮面の婦人に金貨173枚で買われていった。









「どうですか、男でもかなりの値段で買われていくんですよ」


 これには僕たちは何も言えない。


「言い方は悪いですが、エルフという種族自体が珍しいですから男の子でもかなりの値段が出てくるんですよ」

「……金貨400枚で足りますか」


 ソフィアは少し不安になる。ここで競り落とせなければ全員が悲しい結末を迎えてもおかしくなかった。


「まぁそこは神に祈るしかないね」


 だがガルバさんの言葉は無情だった。







 それから何人もが出品され、売られていった。


「こんなことが平然と……」


 ソフィアは青い顔をしている。


 それもそうだろう、同じくらいの少女の叫び声を聞けば気分も悪くなる。


 僕もみんなもその瞬間に腰を浮かしたほどだ。


「次の商品は今回最後の商品で比較的に手に入りにくい商品となっています」


 シーツを取るとそこには耳が長く、髪が長いエルフの男の子・・・がそこにいた。


 おそらくあれがルーアさんの弟だろう。


「ご存じの通りエルフはノストニアから出てきません、ですが今回不法に我が国に侵入したことで捕えることになりました」


 この言葉を聞いて僕は怒りを覚える


(違うだろう!お前たちが攫って来たんじゃないか!)


 この場にルーアが居なくて正解かもしれない、あの言葉を聞いて冷静でいられるとは全く思えない。


「では金貨70枚から始めます」


「ガルバさん」

「任せてくれ」


 僕たちも参戦する


「110!」

「130!」

「145!」

「160!」

「170!」

「200!」


 瞬く間に金貨200枚まで上がっていく。


「220!!」


「225!」

「230!」

「237!」

「240!」

「243!」

「245!」


 250前後で勢いは収まってきた。


「270!」


「273!」

「280!」


「300!!」


 ガルバさんの程よく数を飛ばすやり方で人数が減ってきた。


「310!」

「315!」

「325!」


 だんだん僕たちの限界に近付いてきた。


「350!」


「360!」

「367!」

「372!」


「400!!」


 これは僕たちの出せる最大の金額だ。


 これで手を上げる人がいなければ……


 僕らは願うように周囲を見回す。


「さぁ!金貨400枚出ました!これよりも上のお客様はいらっしゃるでしょうか!!!」

「「「「「………………」」」」」


 声が上がらない。


「このまま競り終わってくれ」


 ガルバさんの声が切実な願いであった。


「ではこれによ「500枚」出ました金貨500枚!!」


 とある一角から声が上がる。


「……負けましたか」

「そんな!?」


 これではルーアさんの弟を買い戻すことができなくなってしまう。


「なんとかなりませんか!!」

「……手がないこともないですが」

「教えてください!!」

「……裏カジノ」


 ポツリと出てきた言葉が僕たちの耳に入ってきた。

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