第54話 以前の態度では考えられない……
「まずはオークションの説明をしたいのですが」
エルダさんが話を進めようとするが。
「エルフ側は貴女だけですか?」
「ここには私だけですが、私の目を通して皆が見ていますので問題ないです」
「ほぅ、便利な魔法がある物だな」
「ええ、使い魔の感覚を共有する魔法があります。それを私に使用しているので、仲間が視覚と聴覚を共有していますので向こうにも伝わっていますよ」
ということでルーアさんがみんなの代表で合っている。ただエルフの言葉はルーアさんを通してでないと伝わらない。
「では問題ありませんね」
「ええ、オークションの説明をお願い」
それからエルダさんの口からオークションについて話される。
まず裏のオークションはその身元がしっかりしている者のみしか入ることができない。
これは一見矛盾しているようだがこれは裏の世界での身元だ。
オークションは年に大きいものが2回、小さいものが4回開催され、今回は大きい方のオークションだ。
それゆえに裏の組織の伝手を使い参加している貴族は数多くいる。
「で、ここからが本題だ」
ベルヒムさんの情報で、ある建物がオークション会場になっているらしい。
場所はとある商会が所有している屋敷で名目は商業祈願パーティーとのこと。
「表向きは一見普通のパーティーだけど、その屋敷のどこかでは裏のオークションが開催されてるってわけだ」
屋敷の内部はさすがの情報屋でも知らない。
すると壁際にいた男性が紙を一つテーブルに置いた。
「内部の設計だ」
「さすがはボス、いい仕事をしていますね」
「お前は詰めが甘すぎる、情報はどこにでも転がっているのだぞ」
「へい、すいやせん」
「さすがねデッド」
男は予想の通りデッドだった。エルダさんの称賛に何も答えずにまた壁際に戻っていく。
内部のつくりを見てみるとごく普通の屋敷だった。
「これのどこでオークションが」
「それにオークションに出すものが運び込めるスペースがあるとは思えません」
この館は倉庫などは一切なく舞踏会などの催し物でしか使えない造りになっている
なら誰にも見られずに商品を運び込むなどはまずできないし、そこまで多くの物を運び込んだら怪しまれるだろう。
「なら、どこから」
「……それは分からない、地下にトンネルでも掘られていたらさすがに無理だ」
構造の情報はここまでが全部らしい。
次に話されるのは警備状況だ。
「配置されているのはBランクレベルが数は最低でも100人、しかもこれが最低レベルだ」
「それは、侵入はまず無理だな、にしても冒険者がこんな依頼を受けるのか?」
「数は少ないがな、大半は元だったり裏で有名に成った者たちだ」
「なぁBランク戦闘者ってどれくらいだ?」
三人の会話を聞いていると横にいるオルドがそう尋ねてくる。
「AランクはBランクが10人集まっても勝てないぐらい差があって、BランクはCランクが10人集まっても勝てない」
つまりはあるランクの奴は上のランクには10人そろっても勝てないが、下のランクには10人で挑まれても勝てるぐらいの力量だと規定ではなっている。
それでいうならAランクのジェナさんが居てもこの守りは突破できないということだ。
「ということで、オークション前に強奪などの手段は我々には取れない、でエルフ側の意見も聞きたいのだけど」
「……あなたたちは穏便に済ませたいから協力をしたいんでしょ?」
ルーアは暗にエルフだけなら何とでもなると言いたいようす。
「ええ、だけど現状では私たちは力業には出られない。だからもし失敗したときはお願いしたいの」
エルダは戦闘手段は最後にしてほしいとお願いする、そうでなければ今回ルーアに協力してもらっている意味がない。
「……わかったわ、じゃあ力業は最後の手段って考えでいいのね?」
「ええ、ごめんなさい私たちの力不足で」
次に僕たちの現状を話す。
オークションに参加するにあたって僕たちが闘技場に出ることなったこと、オークションで買い戻すのに多大なお金が必要なことを、それでどこかの商会から融資を受けようとしていること。
「……それで私にどうしてほしいの?」
「その商会の顔を覚えておいてほしいの」
「???」
これには僕たちもルーアも首をかしげている。
「そんなことで商会から援護を得られるの?」
「ええ、間違いなく」
頭に浮かんだ疑問はさらに多くなる。
「どうやらわかってない人が7人もいるようね」
僕、オルド、ソフィア、カリナ、リズ、ルーア……あとは誰だ?
「っち、いいからさっさと話してくれ」
「ジェナはなぜだかこういう話は知らないのよねぇ」
どうやらわからなかったのはジェナさんのようだ。
「エルダ!!」
「はいはい説明するわよ」
エルダさんはデッドから聞いたと前置き、ノストニアの王家の現状を話し始めた。
「来年新王が即位するのは知っていますか?」
「ええ」
ルーアは知っていて不思議はないけど僕たちは知らなかった。
エルダさんの話によるとその新王は前王とは違い積極的に交流をしていく方針だそうだ。
そしてそれには交易なども含まれる。
「そして交易にはノストニアの特産も含まれる、それが商人の狙いよ」
「なるほどな数が少ない特産を売るなら、知らない人物よりも同胞の知り合いを優先するだろうしな」
「そう、現状鎖国状態のノストニアに先んじて伝手を持つことができるの、商人ならのどから手が出るくらい欲しいのよ」
つまりノストニアと交易が始まったときに便宜を図るようにしてくれということ。
「それで本当に協力してくれるの?」
「確実に」
ルーアさんは未だに疑っているようだがエルダさんやベルヒムさんは確実にと頷く。
「わかったわ、じゃあどこと交渉するつもり?」
ルーアが疑問を呈すると同時にドアをノックする音が聞こえた。
「ようやく到着したな」
バン!!
大きな音を立てながら扉が開けられる。
「アーゼル商会の次期会長のガルバ・アーゼル様の助けを求めてきたのはここで合っているかな!!!」
なんと現れたのは市場でルーアをナンパしていた人だった。
金色の髪は程よく伸ばされ、長時間手入れをされている。服装もラフな格好ではあるがどこから見ても小奇麗にしており、清潔感を漂わせている。
そんな彼、ガルバはポーズを決めながら中に入ってくる。
「ん?君は市場にいたあの子じゃないか?それに君たちも」
向こうも僕たちのことを覚えていたようだ。
「紹介するわね彼は」
「おおっとエルダ、自分で言うからいいよ」
すると佇まいを直してルーアさんに向き直す。
「では改めまして、私はアーゼル商会の第二席を預かっております、ガルバ・アーゼルと申します。ぜひエルフの救出にご協力させてもらいたい」
胸に手を当てて腰を少し折り慇懃に自己紹介をする。それはさながら自分が貴族や王族だと錯覚しそうになるほどだ。
これには僕たちは唖然とする、なにせ先ほどの遊び人のような態度がガラリと変わったのだから。
ルーアさんも固まっている。
「おいおい、外でナンパされたのってお前かよ」
「ははは、プライベートでは綺麗な花を愛でるのが趣味でね」
「はぁ~その癖さえ直せば完璧なんだけどな……」
「無理だね、これが無くなれば私は死んだも同然になってしまうからね、なにせ稼ぐ理由も女性をもっと愛でたいからだしね」
仕事はできるがとてつもなく女癖が悪いのだろう。けど会話を聞いている限りそこまで悪い意味ではないようだ。
「えっと……」
「おお、失礼を、目の前に美しい花々がいるのにこんなむさくるしい馬鹿な男と会話してしまうとは」
「毎度のこととはいえ、お前を殴りたくなるぞ」
しばらく茶番が続くとエルダさんが話を元に戻す。
「さてガルバ、状況は分かりますか?」
「大体はベルヒムから事前に」
「ならば問題ありません、貴方には資金提供をしてもらいます」
「見返りは?」
エルダさんはルーアさんに視線を向ける。視線は先ほどまでの浮ついた感じではなく、どこまでも冷静に見極めようとしていた。
「私が自分の伝手を使い商談などで便宜を図ります」
「ふむ……なるほどそう来たか」
この部屋に静寂が広がる。
「うん、そうだね」
「じゃあ協力をしてもらえるかしら」
「……もう一度確認だけどノストニアにおける商業の補助という形で便宜を図ってもらえるんだね?」
「ええ」
「……よし、手伝うとしよう」
この言葉にエルダさんたちは安堵の息を吐いた。
「そういってくれて助かるぜ」
事前に聞かされてはいたがこの案に乗らない可能性も十分にあった。なにせ現時点はどこまで言っても空手形に過ぎない、確かな利を選ぶ商人なら乗らなくてもおかしくない。
「なに、商売には多少の賭け事も必要なのさ」
こうしてガルバも協力してもらえることになった。
それからはオークション当日まで僕たちはジェナさんに訓練を着けてもらう。その度合いは本当に死ぬギリギリ、半分地獄に足を入れていたほどだった。
そしてオークション当日。
オークション開催日、僕たちはガルバさんの用意した馬車に乗っている。
「みんなよく似合っているよ!!」
僕たちはガルバさんが用意した服に着替えている。
経緯はオークションに潜入するにあたってそれなりの服装に着替える必要があったのだが僕たちは持ち合わせがなかった。
『パーティーに参加する服はもっているか?』
『持ってないです……』
『ならこの服を着たまえ』
ということでガルバの持ち合わせの服装(なぜ女性用の服を持っているかは誰も触れない)に着替えている。
「う~~ん、綺麗な女性が4人もいて僕の目はどうにかなりそうだ」
ソフィアは白色のドレスで、カリナは赤色のドレス、リズは黄色のドレスを着ていて、とてもよく似合っている。
「
ルーアさんは萌黄色のドレスを着ており、とてもよく似合っている。
「さて、じゃあこれからのことを話そうか」
僕たちは馬車の中で最後の注意点を確認する。
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