第53話 五人だとしても

 翌朝、いつも通り朝食を取り終わるといつもの部屋に呼び出された。


「お前ら、オークションの日時が分かった」


 部屋中には既に三人が待っていた。


「いつなのですか?」

「裏のオークションは三日後の正午から開催されるようだ」

「参加はできそうなのですか?」

「ああ、アークとオルドの計らいで問題なく受けられるようになった」

「まぁ代わりにお前たちが体を張ることになったけどな」


 三人の目線がこちらに向く。


「ねぇアーク、聞いていないのですが」


 笑顔ではあるのだが一種のすごみがあるソフィア。


「じ、実は―――」


 僕は昨日の経緯を話した。


「―――つまりはオルドが勝手に話し合いに参加したと?」


 僕の隣でオルドは正座させられている。


「まったく、私でも手に余りそうなものを………ガキども今日から三日間は私が戦闘の指導をする」

「ジェナ、手加減してあげてね」

「わかったと言いたいが、今回は無理だ死ぬギリギリで鍛えないとマズいだろう」


 これらは僕たちのまいた種だ不満を言うつもりはない。


「「「お願いします!!」」」


 こうして僕たちはジェナさんに指導してもらうことになった。








「さて昨日はこの二人を見たが、お前たちは何を使うんだ?」


 僕たちは昨日の訓練場に来ている。今回はジェナさんの特権で人の出入りはなしにしてもらっている。


「私は主に神聖魔法を」

「私は精霊魔法に剣を使います」

「弓と短剣で~す」

「遠距離は専門外だな、仕方ないカリナ、最初はお前の腕前を見る、来い」


 そう言って二人は離れていき模擬戦を始める。


「ひゅ~すごいね~カリナをああも簡単にあしらうとは~」


 リズの言う通り、カリナは頑張っているが昨日の僕たちのように扱われている。


「お前は二人と違いきちんと剣術を習っているようだが、それでもまだまだだ」

「は……はぁい」


 模擬戦が終わるとカリナの息が上がっている。


「おい、神官娘さっさと癒してやれ」

「は、はい、神霊よ彼の者に癒しを『回復ヒール』」


 ソフィアの魔法でカリナは回復する。


「神聖魔法に関しては中級ぐらいか」


 ジェナさんはソフィアの腕前を計る。


「おい、ほかには何が使える?」

「えっと、初級神聖魔法の回復ヒール聖ナル矢ホーリーアロー、それと中級神聖魔法の自然の祝福プネウマ炎霊宿りフレイミング聖壁セイクリッドウォールです」


 神聖魔法とは光魔法の上位版とされており、その力のほとんどは回復や支援強化バフのみしかない。


「なるほどな、次にカリナ、お前も精霊魔法が使えるって言っていたな、どんなだ?」

「はい、私が契約しているのは『泉の奔流ルカルーサ』という水精霊の一種です」


 精霊、それは魔力に意志を持った存在のことを指す。この種族については謎ばかりで正直なところよくわかっていない。


 ただ一つ言えることは契約をすると力を貸してくれる存在という点だけ。


「どんなことができる?」

「それは……ん、んーー!!」


 カリナは手を前に出すと水が生み出され、それが自由自在に動き回る。


「こんな感じにできます」

「ほぉ、規模はどのくらい大きくできる」

「数分でいいのであれば大体家一つ分くらいです」

「分裂させたりは?」

「できなくもないですが、多くすればするほど小さくなっていきます」


 ジェナさんは次々にカリナに質問していく。


「ねぇ~私は~?」


 その間、リズはほったらかしになっていた。


「ああ、すまんすまん、じゃあお前は私に向けて矢を撃ってみろ」

「え……でも…」


 矢は先端を布で包んであるけど当たれば結構痛い。ちなみに実体験したオルドの答えだ。


「問題ない、お前みたいなひよっこの矢なんて当たるはずがないからさ」

「むっか~!」


 リズは矢を番え代わる代わる早打ちを行うが矢はすべて躱されていく。


「う~ん、まぁ普通だな」

「っ!!!!!!」


 さらに速度を上げ矢を放っていくが先ほどと同じように躱されていく。最後には矢が無くなり、リズは何もできなくなった。


「そんな……」


 珍しくリズは落ち込んでいる。


「お前は弓についてなんか勘違いしていないか?」

「……勘違いですか?」

「ああ、お前の矢を見ていたら分かったけど、アレは獣を射る時と同じ感じだったぞ」

「!?」


 リズは猟師の父親から弓を習っている、それも当然と言えば当然だろう。


「お前が今まで相手にしてきたのは知恵の無い獣だけだっただろう?」


 ジェナさんの問いに頷くリズ。


「だがこれからはそれだけじゃだめだ、知恵のある生物は矢の軌道から自分が誘われることを推測できるようになる、さっきの私みたいに」


 リズはジェナさんの動きを予測して矢を放っていた、だがその予測が読まれ対策されたら先ほどのように当たることは無くなる。


「こればかりは経験が物を言うからな………」


 つまりは実践あるのみ。


「さてじゃあ最後に全員で私に掛かってこい」


 ジェナさんが僕たち全員を相手にする。


「行くよ!!」

「おうよ!!」


 ジェナさんの実力を知った僕らにもはや遠慮という言葉はない。






 まずは僕とオルドが詰め寄る。


「万物の御霊よ、彼の者に大いなる力と祝福を授けたまえ『自然の祝福プネウマ』」

「泉の精霊よ、我が声が聞こえるならば力をお貸しください『泉の奔流ルカルーサ』」

「『二連速射』!!」


 次にカリナの精霊魔法でジェナさんの三方向に水の壁を作る。


 ソフィアは僕とオルドに支援強化バフを掛ける。


 リズは瞬時に二本の矢を放つアーツを使用し、僕とオルドの間からジェナさんに狙いを定める。


「連携は合格ラインだ」


 矢を躱し、限られたスペースの中で僕の斬撃とオルドの拳を避ける。


「さあ!次はどうする!!」


 ジェナさんは反撃せずに僕とオルドの攻撃を避け続ける。


(だめだ、このままじゃ僕たちの攻撃が当たらない)


 僕とオルドの攻撃は完全に見破られている。


 カリナの魔法で逃げるスペースを狭めようとも、これ以上狭めれば今度は僕たちの方が動きずらくなる。


 リズは僕たちに当てないように矢を放とうとしているがなぜだか矢を放つ気配がない。


「なんだ手立てがないのか?」

「オルド!」

「おう!」


 僕とオルドは一度距離を取る。すると水の壁が狭まりジェナさんを飲み込もうと動き出す。


「そう来たか、だがな」


 ジェナさんは迷うことなく僕とオルドに接近する。


「こうすればいいだけだろう」


 水の壁が止まる、このままジェナさんを飲み込もうとすれば僕たちまで巻き添えになるからだ。


「二人から、離れろ!!」


 リズが何とか僕とオルドから距離を取らせようとしてくるが矢の軌道が解っているのか矢を潜り抜けながら接近してくる。


「はぁこんなもんか」


 強い衝撃が体に巡り、意識が遠くなる。


 ドサッ!!


 僕は横たわりながらなんとか目を開けて様子を見ると、オルドも同じように倒されていく。


 次に魔法を止め剣を構えたカリナが相手になるが、すぐさま攻撃を食らい気絶させられた。


「前衛が全滅すれば終わりだよ」


 その声が最後に聞こえた言葉だった。











 気が付くと訓練場にある木陰に寝かされていた。優しい風が頬を撫で、いまだに鈍い動きの体を無理やり動かし、上半身を起こす。


「目が覚めたか」


 横でオルドが水を飲んでいる。


「負けたか~~」


 やはりAランク戦闘者だなと言うべきだ。


「僕たちならもう少し戦えると思ったんだけど」

「それは俺も考えたんだが、こうもあっさりと負けるとな~~」


 オルドももう少し善戦できると考えていたんだろう。このような慢心が出てくるほど僕たちは順調にいきすぎていた。


「まぁ今回はユニークスキル無しで挑んだ、だからしたかないさ」

「……仕方ない、でいいのかな」


 確かにユニークスキルを使えばもう少し善戦できたのかもしれない、けど……


「お前たち起きたな」


 ジェナさんと三人が近づいてきた。


「ええ、僕たちの実力はどうでしたか?」

「正直言ってガッカリだ、トロールを倒したって聞いたがそれはユニークスキルがよほど強力だったんだろう」


 ジェナさんの言葉が耳に痛い。だがそれが事実だと理解できた。


「と、それよりも一度教会に戻るぞ」

「何かあるんですか?」

「昼からエルフ達との会談があるんだ、お前らも参加した方がいいと思ってな」


 こうして訓練は終了し、僕たちは教会に戻る。









「あら、遅かったわね」


 教会の前に着くと、既にルーアが訪れていた。


「あんたがエルフの使いか?」

「ええ、ルーアといいます」

「とりあえず中に入ってくれ」


 ジェナさんに続いてルーアが中に入っていく。


「なんか少し硬い感じだな」


 オルドの言う通り、以前のルーアとは違い、役割と義務感を感じているのか態度が固くなっている。


 僕たちも中に入ると例の部屋まで向かう。


 部屋に入るとエルダさんにジェナさん、ベルヒムさん、それとフードの被った男性が一人壁に寄りかかっていた。


(あれってエルダさん達が言っていたデッドって人かな?)


「これで協力してくれるのは全員?」

「ええ、確定しているのは今いる人数だけね」

「…少ないわね」


 ルーアさんはそういうが質は十分だと思う。


「さて、時間がないから話し合いを始めるわ」


 こうして僕たちはオークションへ向けての会談が始まる。

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