第56話 彼らは舞台に上がる
今までのガルバさんとは違い、その声は弱弱しかった。
「もし金額を超過して競り落とした場合はどうなると思いますか?」
「それは無理やり取り立てられるんじゃないですか?」
「ええ、ですが追加で資金を用意し、取り立てが始まるまでに金額を納めれば全く問題ないのです」
ですが短期間でかなりの金額を用意するのはまず無理ですがね、とガルバさんはつぶやく。
「つまりはとりあえず支払いを待ってもらい、金貨400枚をそこで賭けて、勝つそれならば」
「……ですが負けたら?」
「もちろん、無理にでも取り立てられます、下手すれば今度は自分たちがあの場に立つことになります」
僕たちは買われていった人たちの表情を思い出す。
「正直これは私は関われない、つまりは君たちの決断がすべてを決める」
「僕たちが?」
「ああ、賭けは私の400枚を貸し出す」
つまりは僕たち自身を賭けの対象にするようなものだ。
「裏カジノってどんなのがあるんだ?」
迂闊に頷いたことを反省したのかオルドは情報を聞き出そうとする。
「実は裏カジノで大きなイベントが告知されていてね、なんでも闘技場にワイバーンが出るようだ」
この話を聞いて僕たちは顔を見合わせる。
「裏カジノは私も何度か入ったことがあるが、あの闘技場でワイバーンとなるとほぼ賭けが決まったものだからな、少しは金額を増やせるだろう」
「もしワイバーンの相手に賭けて、それが勝てばどうなりますか?」
「レートはかなり跳ね上がる、だがハイリスクになるね」
僕たちは頷きあう。
「ちなみにレートはどのくらいかわかりますか?」
「確か今はワイバーンが1.2倍で相手側は11倍だ、ワイバーンの方は1.1まで下がるかもしれないが相手側はいくらでも跳ね上がるだろうね」
「わかりました、ガルバさん僕たちに投資をお願いします」
「了解だよ。しかし勝ててもせいぜいが480枚、それでは足りないが?」
「実はそのワイバーンの相手は僕たちなんです」
「!?初耳なのだが」
「多分あの爺さんのことだからその方が客入りが良くなるとでも考えたんだろう」
オルドはクアレスのことを言っているのだろう。そしてこの考えはあながち間違ってはいない。
(人は知らなかったら知りたくなるからね)
集客の方法としては有効的ではある。
「僕たちならワイバーンに勝てます、勝ちます!なのでお願いします」
「「「お願いします」」」
「……わかった」
するとガルバは立ち上がり。
「560!!!」
「「「!?」」」
500前後で緩やかに上がっていったのを一気に高く積み上げる。
「出ました!560枚!ほかに上の金額のお客様はいますか?…………………いないみたいですね、では本日最後の商品は本日最高額560枚で落札です!!!」
そういって司会者は木槌を叩く。
「これで僕たちは一蓮托生だね」
「ガルバさん……」
「そんな顔をしないでくれよ、僕は君たちに賭けた、ただそれだけだよ」
ガルバさんの表情には恐れという感情はなく、むしろワクワクしていた。
「僕たち、絶対に勝ちますから!!」
オークションが終わるとガルバさんは一室に連れられ、戻ってくるのだがその表情は気負った風には見えない。
「いや~まいったね、商品は金額が払ってからじゃないとダメだってさ」
「ガルバさんは大丈夫なんですか?」
「はは、金額をそろえないと八つ裂きにされるってさ」
さらっと怖いことを言う。
「ほら移動しようか」
僕たちは会場を出るとその足で乗ってきた馬車へと向かう。
「よう、遅かったじゃねぇか」
馬車には既にジェナさんが乗り込んでいた。
「で、どうだった?」
「それがあまり、いくつもの問題が起こってね」
「どんなだ?」
ルーアさんが行方不明になったこと、オークションで金額が足りずに超過したこと、裏カジノを当てにしていることを説明する。
「なるほどな……とりあえずカジノに移動しよう」
裏カジノに着くとそこにはクレアスの爺さんが待っていた。
「尻尾撒いて逃げたかと思ったぞ」
「うるさい爺さんだね、ほらさっさと案内しな」
「せっかちじゃのう」
僕たちは裏カジノに入る。
「じゃあ僕は君たちに賭けてくるよ」
ということでガルバさんとは別行動になった。
控室に着く。
「さて、この三日間でお前たちを鍛えた、あとは全力でぶっ潰してこい」
ジェナさんがいい笑顔でそう告げる。
「そろそろ時間です準備をお願いします」
係りの者がそう告げると僕たちは準備してある防具と武器を持つ。
「そうだ、エルダからこれを預かっている」
ジェナさんが渡してきたのは5つの仮面だ。
「お前らの顔が広まるのはまずいだろうからってさ」
仮面は顔の下半分を隠すようにできている。素顔を隠すのならこれで十分だ
「それとだが、私はルーアを探しに行く、さすがに先走って弟のところに行かれたらあいつまで捕まってしまいそうだからな」
「そうですね」
あの状態だと弟の姿を見ただけでどんなに敵が居ても突撃しそうだ。
「……死ぬなよ、死にさえしなければ絶対に助けてやるから」
そういってジェナさんは闘技場から出ていった。
「……やれるかな」
「やれるさ、何弱気になっているんだよアーク」
「そうですよ、死にそうになってまでジェナさんに鍛えてもらったじゃないですか」
皆に励まされて僕も顔を上げることができた。
「では皆さま、時間です」
係りの人が来て、僕たちを闘技場まで案内する。
『急遽開催したにもかかわらず多くのお客様にお越しいただき誠にありがとうございます。それでは今宵の対戦はかの有名なグロウス学園の生徒です!!』
闘技場に出るとライトが照らされる。
「アーク」
「わかっているよ」
僕たちは気を引き締めなおす。
『そして対する相手は亜竜と呼ばれますが、紛れもなく竜の1種であるワイバーン!!』
反対側にある扉が開くと大きな檻が出てくる。
ギャァアアアアアアアア!!
檻の中でワイバーンが暴れまわっている。
『それでは~~~~はじめ!!』
声と共に檻が開かれる。
「行くよ皆!」
「おう!!」
「ああ!!」
「ええ!!」
「うん!!」
〔~バアル視点~〕
「連携は上手いな」
「そうですね、トロールを倒した実績があるのも納得です」
俺は観客席から五人の様子を窺っている。
(咆哮はあらかじめ知っていたのか)
耳を塞ぎ、咆哮を防いでいた。あらかじめの行動を予測できないと取れない行動だ。
(まぁすべてを防げたわけではないだろうがな)
証拠に少しだけ動きが鈍っている。
『泉の精霊よ、我が声が聞こえるならば力をお貸しください“
少女の一人が詠唱すると水の固まりが五人の周囲に展開する。
「なんでしょうかね」
「おそらく支援用だろう」
水系の精霊魔法を使い、緩衝用の壁にしている。もちろんブレスにも対応できる。
(そうでもしなければ一撃で死ぬだろうな)
「あの二人は良く躱しますね」
アークとオルドがワイバーンのヘイトを貰い、カリナとソフィアが支援と回復、リズはワイバーンの目などを狙い行動の阻害と少しずつのダメージ蓄積といった具合だ。
「ですが、あれぐらいではワイバーンに勝てないのでは?」
「まぁ普通ならそうだろうな」
だがユニークスキル持ちなら普通のくくりに入ることはまずない。
「おお!!」
闘技場を見てみるとワイバーンが吐き出した炎が五人を飲み込む。
「アレくらいは平気だろう」
次第に炎が弱くなると五人は動き出す。
アークはワイバーンの足から駆けあがり背中を移動する。
オルドは逆に足元からお腹の部分に潜り込み、殴りかける。
「これなら、掛け金が無駄にはなりそうもないですな」
アルガはそう言うが果たしてどうなることか。
〔~アーク視点~〕
それなりに順調に戦えている。
『いいか、まず最初にやるのは咆哮への注意だ』
ジェナさんの言う通り、ワイバーンは最初に咆哮を繰り出してきた。
『ワイバーンは咆哮を強者の選別に使っている。だから完全には防ぐな、程よく喰らって逆に油断させろ』
助言通りに咆哮の声を完全に遮断せずにある程度軽減できるように耳を塞いだ。
「ジェナさんの言った通りですね」
「ああ、それじゃあカリナ頼むぞ」
「わかっている。泉の精霊よ、我が声が聞こえるならば力をお貸しください『
カリナが水精霊を呼び出すと、僕たちの周囲に水の塊を作り出し、周りに浮かせる。
『ワイバーンで肝になるのはカリナ、お前だ』
『私ですか?』
『ああ、お前の精霊魔法はワイバーンに相性がいい、衝撃を和らげることができてブレスの炎を受け止めることもできるからな』
ワイバーン戦の要はカリナと言ってもいい。
動けるようになるとワイバーンは先ほどの咆哮で動けない僕らを見て笑ったような気がした。
いたぶるような動きで距離を詰めてくる。
『そしてアーク、オルド、お前たちは絶対に攻撃を回避しろ』
『なぜですか』
『お前らの防御力ではどんな鎧を着たとしても衝撃で死ぬ、だから避けろ』
「万物の御霊よ、彼の者に大いなる力と祝福を授けたまえ『
ソフィアが強化魔法を使ってくれたタイミングで僕とオルドはワイバーンに迫る。
『だが、それは攻め込むなと言う意味じゃないぞ、むしろお前たちがワイバーンの気を引かないと後ろの三人が危険になる』
攻め込みながら攻撃をかわし、僕たちを攻撃対象にするのが目的だ。
何度か攻撃しているとワイバーンが距離を取り始めた。
「これはっ!」
カリナが手を突き出すと、僕たちの周囲に浮いていた水の塊が大きくなって僕たちを包み込む。
ガァアアアアアアアアアアアア!!!
ワイバーンの口から炎がまき散らされ、僕たち全員を飲み込む。
あらかじめ対策できたおかげで炎でのダメージはほとんどなかった。
『ワイバーンだがな、攻めるべきタイミングは二つ、着地した瞬間とブレスが弱まり始めたタイミングだ』
ワイバーンのブレスは何も無尽蔵に放てるわけではない、ブレスはあくまで息を吐きだすとともに炎を吐き出しているだけ、つまりブレスが切れるということは息が途切れることと同義だ。ブレスが終わると息継ぎの為、数瞬だが動きが止まる。
ブレスの炎が弱まると水の膜を突き抜けて、弱くなった炎の中を走りワイバーンの足元に近づく。
僕たちの姿は炎で見えにくくなっているのでワイバーンは簡単に見失った。
「アーク!」
「うん」
僕とオルドは視線を躱してお互いの意図を確認し合う。
翼と融合している腕に近寄り、足場にして背中を駆けあがっていく。
僕は背中でオルドはそのまま腹の下に潜り込み攻撃する手はずだ。
「ガァアア!!」
ワイバーンは何とか僕たちを払おうとしているが、排除することができない。
(ジェナさんの言った通りだ)
『いいか、魔物にはインファイトに強いものとそうでない者がいる。その点では竜ならまだしも腕と翼が融合しているワイバーンだと懐に入られると相当弱い……それでも力業で振り払われることが多いがな』
ワイバーンは動き回り何とか僕たちを振り払おうとしているが、振り払いで言えばトロールの方がまだ手強かった。
ギンッ!!
剣で無理に切りつけると鱗で弾かれる。
(やっぱり関節や鱗の間を狙わないと)
オルドのように衝撃を中に通すことは剣ではできない。
(仕方ない、使うしかないか)
ユニークスキルと使うと僕たちがどこの誰かがわかってしまうため極力使わないようにしようとしたのだが、攻撃が通らないなら勝つことすらできない。
なので仕方ないと思いつつもの自身の力を―――
「アーク!!」
「!?」
考えているうちに尻尾が迫っていた。
「くっ!!」
何とか身をよじって躱そうとするが尻尾が腕に当たってしまう。
ゴギャ!!
「っっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
僕は三人の元に吹き飛ばされる。
「アーク君!!」
ソフィアが駆け寄って来てすぐに『
「これではアークは……」
「っ大丈夫、まだいける!」
幸いやられたのは利き腕ではない左腕だった。
急いで剣を取る。現在はオルド一人でワイバーンの気を引いている、長く待たせると今度はオルドが危ない。
「まって、アーク」
リズが呼び止めると一つの草を渡してくる。
「これを噛んで、そうすれば少しは痛みがなくなるはず」
「ありがとう」
草を噛むと渋みが広がって舌が痺れたが、次第に腕の痛みが無くなっていく。
「でも時間が経つと痛みは戻ってくるから注意してね」
「ああ!!」
痛みが無くなるだけでも十分だった。
僕が駆けだすと水の塊がワイバーンの顔を覆うようにし、僕に視線がいかないようにしてくれる。
「オルド!!」
「おせーぞ!!」
オルドの体にはいくつのも擦り傷が出来ている。深い物ではえぐられた傷もあった。
「アーク交代だ!!」
「え?!でも!!」
「腹の下なら目立たない!!」
僕はオルドの言いたいことが瞬時に理解できた。
「ありがとう!!」
オルドは場所を変わると背中を駆けあがっていく。
そして代わりに僕はお腹の下に潜り込む。
「ここなら『太陽ノ光剣』」
トロールの時のように大きくすればいいのだが、今回はさすがに時間がない。
出来たのは短剣並みの大きさだ。
「はっ!!」
作り出した光剣で切りかかると固い鱗ですら簡単に切り裂くことができた。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ものすごい叫び声が聞こえてくる。
さすがのこれは痛かったのだろう。
「うわっ!?」
先ほどとは比べ物にならないほど暴れまわる。
僕たちは迫りくる尻尾や足を何とか躱す。
すると風が巻き起こる。
「!?飛んだ!!」
ワイバーンは軽く飛びあがり僕たちから距離を取る。
僕の横にオルドが下りてきた。
「どうする、飛び上がっちまうと俺たちの攻撃手段がないぞ」
滞空しているワイバーンは大きく息を吸いこむ。
そして
ゴォォオオオオオオオオオオ!!
上から火焔が降り注いで、闘技場すべてを炎で包んだ。
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