第50話 変な人

「それでこれからどうするつもり?」

「まずはそのエルフに接触したい、協力してもらえるか?」


 エルダさんとベルヒムさんがこちらに協力を求めてくる。


「もちろんです、僕たちはまず何をすれば」

「まずは俺たちもその攫われた弟を助けるのに手を貸すというのを伝えてほしい」


 そうすれば少なくとも皆殺しにはならないだろう、とベルヒムさんはつぶやく。


「でも僕たちは居場所がわかりませんよ」

「そこは大丈夫だ、容姿や名前を教えてもらえればこちらで調べる」


 ということで僕たちはルーアの名前と容姿を伝える。


「エルダ、すまんが俺はすぐに動く」

「私も動くとするわ」

「それはいいが、その前にガキたちに説明はしてやれ」


 そういいベルヒムさんはすぐに出て行ってしまった。











「さてじゃあこれからのことを話すわね」


 ベルヒムさんのいなくなった部屋でエルダさんが話を始める。


「えっと僕たちは?」

「今はこの場で待機、そして現状を理解してもらうわ」


 そういうと紙と筆を持ってくる。


「まず、一番に行わなければいけないのはエルフたちと協力関係になること。これは分かるわね」

「え?でも信用してくれないんじゃないの~?」


 リズの言うことも確かだ。先ほどの話が本当ならすでにエルフは人族を目の敵にしており、話が通じる相手ではないことになる。


「そうね、リズちゃんの言葉も確かよ、でもね、今回はあなたたち・・・・・がいる」

「「「「「???」」」」」


 よくわからないと僕たちは首をかしげているとエルダさんは微笑む。


「そうね、もし君たちがある人と友達になりたいときはどうする?」

「話掛けて、遊びます」

「正解、ではその子が君たちを信用していなかったら?」

「そりゃ~信用されるように行動するだけだ」

「「「!!」」」


 オルドの当たり前の言葉で理解できた。


「そう、信用はしてくれない、けどそれは今までの話、これからの態度次第でいくらでもそれはわかるわ、だから君たちが必要なのよ」

「ルーアさんと協力して、信用を積み上げるということですか」


 ソフィアの言うことにエルダさんは微笑みで答える。


「あなたたちは自分の思うように行動しなさい、そうすればきっといい結果になるから」

「はい」


 もともと僕たちは手伝おうとしていたので異論はない。


「さて、話を戻すわよ。もし協力関係になれたら次に攫われたエルフの子を探すことになるわね」

「ですがどうやって探すのですか?」


 カリナの疑問にエルダさんは答えてくれる。


「まず人攫いの目的は何だと思う?」

「……攫う目的ですか?」

「女性であればただ犯したいだけで攫うって可能性もあるけど今回は男と言うことでその線はほぼない、だとすると」

「依頼された、もしくは換金目的ですか?」


 ソフィアの指摘にエルダさんはその通りと答える。


「他にもこの都市を攻撃するためにわざと攫って標的にしたりもあるけど、そこは追跡力のあるエルフよ、バレるリスクが高いわ。ほかには報復なんて線もあるけど森から出てこないエルフと揉めるなんてまずありえないからこの可能性もないわ。となると残りはシスターソフィアの言う通り依頼か人身売買による金目当てね」

「目的は理解できたけどそれが?」


 オルドの言う通り目的は分かっても探せなければ意味が―――


「君は気づいたみたいね」

「……人身売買の場所にエルフの子がいる?」


 そういうとみんながはっとする。


「正解、もっと正確に言うならば売り出される場所には必ずその子は現れる、ね」


 たしかにエルフの子を売りに出すならその場にいないと商談が成立しない。


「でも~場所がわからないよ」

「大丈夫よ、それもベルヒムが調べているはずだわ」


 エルダさんはベルヒムさんを信頼している。


「それよりも私たちはしなければいけないことがあるわ」

「それは?」




「協力者を見つけることよ」











 エルダさんは昼になると出かける。


『私は少しの間いなくなるわ、その間にベルヒムが来るはずだからその時はお願いね』


 それが僕たちに告げられた指示だ。


 だがみんなの表情は少し暗い。


「……結局は留守番じゃないか」


 オルドの言葉が全員の気持ちを表している。


 なにせ、動いているのは主だってエルダさんとベルヒムさんだけ、僕たちは何もできない。だからとても歯がゆく感じてしまう。


(僕たちに実力があれば………)


 こうしておいて行かれることもなく協力することができたのかもしれない。











 エルダさんが出かけてから数時間後、ベルヒムさんが戻って来た。


「おい、ガキども、居場所が分かったぜ」


 なんとベルヒムさんは数時間でルーアさんを見つけることができたらしい。


「ほらさっさと行くぞ」


 ベルヒムさんに連れられて僕たちはとある宿屋にやってきた。


「ここだ、お~い」


 ベルヒムさんは中に入ると宿屋に併設してある酒場の主人に話しかけた。


「ベルか、例の奴なら外に出ているぞ」

「どこに行ったか分かるか?」

「市場に行くって言ってたな」

「ありがとよ、ほら行くぞ」


 酒場の主人の会話が終了すると、僕たちを連れてまた移動する。


「どこに行くんですか?」

「ん?店主が言っていたろ、市場に行くんだよ」

「なぜですか?宿で待っていれば出会うのでは?」


 ソフィアの疑問の通りだ。


「馬鹿か、エルフの奴らがなんでこの町に集まっていると思っているんだ?」

「たしか仲間と会うために……」

「そうだ、つまりは今頃報告やら相談やらを行っていると予想できる……そしてその相談でこの街を襲撃するか決まる可能性もあるんだぞ」


 そうか、だから話し合いのうちに参加したいのか。







 僕たちはベルヒムさんの意図が理解できたので、急いでアズリアスで一番大きな市場にやってきた。


「ここからは二組に分かれて探してもらうぞ」


 規模から全員でまとめて動くのは非効率と言うことで班を作る。


「アークとソフィア、オルドとカリナとリズで動いてもらう」

「ベルヒムさんは?」

「俺か、俺はあそこで待っている」


 ベルヒムさんが指差したのは居酒屋だった。


「「「「「……」」」」」

「なんだ俺がサボっていると言いたいのか?」


 まさにその通りです。


「待て待て考え方を変えろ、お前たちが例の奴に出会ったらどうするつもりだ?」

「それは協力を申し込むんじゃないですか?」

「そうだな、だがそのことを俺やほかの奴ら無しで話し合うつもりか?」

「それは」


 確かに、その時は全員で話し合いたいし、大人の意見も聞きたい。


「そこで俺だ、俺が一か所にとどまっていれば見つけた時に一人だけ寄越して知らせてくれればそこに行くことができるし、ほかの班の奴らを探しにも行けるってことさ」


 ということで僕たちは渋々ながらもベルヒムさんを置いてルーアを探すことになった。


「では行きましょうアーク」


 僕はオルド達と別れてからソフィアと市場を周っている。


 それからいくつもの屋台や市場を周るがルーアの姿は見つからなかった。


「……見つかりませんね」


 ソフィアがつぶやくぐらいルーアが見つかる気配がない。


「………ん?あれなんだろう?」


 なにやら人だかりができている場所を見つけた。


「なぁいいだろう~」

「しつこいわね、私はいいって言っているの」

「ははは、でも今は暇でしょ?」


 どうやら悪質なナンパを受けている人がいるようだ。


「あの子も気の毒に」

「まさかあいつに捕まるとは」

「それにしても綺麗な子だな~」


 周囲の人は心配はするが助けようとはしなかった。


「あれ?」

「あれって」


 僕たちも興味本位で見に行ってみるとなんとナンパに合っていたのはルーアだった。


「ルーア?」

「!ルーアさん!!」

「あら、アークにソフィアどうしてここに?」


 ルーアの方も僕たちに気づいたようだ。


「実は少し話がしたくて」

「おいおいおい、横から入って来るなよ」


 ナンパしていた男性は僕たちよりも少し年上なくらいだ、それが今度は僕の方に突っかかってくる。


「気にしなくていいわよ、しつこくて困っていたの」

「おい、私が誰だかわかっているのかよ」

「だれ?」

「私を知らないのか!?いいだろう教えてあげるさ、僕はアーゼル商会の次期会長のガルバ・アーゼルだ」

「……だれ?」


 僕もソフィアもルーアも分かっていないが周囲の人たちは動揺した気配が伝わってきた。


「知らないのか!?このアズリアスで三本の指に入るほど有名な商会だぞ!!!」


 残念ながら来たばかりの僕たちはよくわかっていない。


「まぁそんな商会の次期会長である僕が食事に誘っているんだ、受けて当然だろう?」

「「その通りです、ガルバ様」」


 取り巻きの二人がアホ次期会長を持ち上げる。


「で、アーク私に何か用だったの?」

「そうだ!!少し話したいことがあってさ」


「おい!僕を無視するな!!!」


 僕たちで会話をしているとガルバが入ってくる。


「すみません、大事な話があるので後にしてもらえませんか」

「む、重要な話なら仕方ないな、誘うのはまたの機会にするとしよう、おい行くぞ」


「「はい」」


「「え?」」


 ここなら普通もっと難癖を付けそうなものなのだが、なにやら納得してガルバは去っていった。


「なんだったんだ?」

「さぁ」


 何か釈然としない事態に僕たちは少しの間呆然となる。





「それで話って?」


 人混みを抜けて空いているテーブルに座る。


 広場には落ち着いて話し合いができるようにテーブルが設置されている。


 僕が軽く話をしている間にソフィアはベルヒムさんを呼びに行っている。


「あとで本格的な話し合いになるんだけど」

「じゃあ要点だけ言って」

「わかった、僕たちはルーアの弟探しに協力したいと思っているんだ」

「いらないわ」


 すぐさま返された返答に僕は固まる。


「なんで?」

「確かにありがたいわ、でもねこれからは私と仲間たちと協力して捜索に当たるの、そこにヒューマンである貴方たちが関わると情報が漏れる可能性が出てくるのよ」


 ルーアの言う通り、僕たちが原因でエルフ側の情報が洩れる可能性がある限り、信用はしにくい。いやそうでなくても人族との確執が出来上がっているのだ、協力とは信じられないのだろう。


「それになんで協力したいの?親切心?同情?それならむしろ邪魔になるから関わらないで」

「……ルーアの手伝いをしたいって言ったら信じてくれるかな?」


 しばらくルーアは固まる。


「少し前に会ったばかりよ?」

「……ソフィアがね君の弟のことを考えたんだ」


 ソフィアが屋台の少年を見てルーアの弟の現状を考えとても悲しんだことを伝える。


「そぅ、彼女らしいわね……分かったわ、手伝いたいって言うんなら話は通してみるけどおそらく信用はしてもらえないと思うわよ?」



「それなら心配ない、俺たちも目的があるからな」



 後ろから声が聞こえてくる。


「ベルヒムさん」

「おう、待たせたな」


 ベルヒムさん達が合流した。


「それでこいつがそうなのか?」

「はい、弟を探しているルーアさんです」


 ベルヒムさんもルーアもお互いに警戒している。


「アーク、この人は?」

「俺はベルヒム、この街のしがない情報屋さ」


 お互いが相手を探ろうとする。


「それで目的って?」

「おう、こっちの事情でエルフにこの街を襲撃されるのは少し勘弁してほしいんのさ」

「弟の件にこの街が関わっていると?」

「十中八九な、それも正確に言えば裏の組織の一つがだ」

「ふぅん、で、なんでそれが襲撃されると困るの?」


 これには僕たちも疑問に思う。


 裏の組織、つまりは犯罪組織ならば潰れても問題ないのでは、と。


お前エルフたちの襲撃が組織一つで収まるか?それにな、いくつかの犯罪組織はアズバン家が絡んでいるんだぞ」


 これには何も言えなくなる。


(確かに、それだとエルフが都市その物を対象にしそうだ)


「確かにね私たちが本気で暴れるなら、かなりの被害が出るでしょうね。それにこの領地を治めているアズバン公爵家が関わっているならば領地に属するものすべてが敵になる可能性があるわ」


 事前に聞かされてはいたけどルーアさんの口から聞くと衝撃が違った。


「俺はそんなことを望んじゃいない、だから協力してその組織を差し出そうとしているのさ」

「なるほど……いいわ、話を通しておいてあげる」


 この言葉にベルヒムさんは安堵の息を吐いた。


 それからルーアは仲間に話を付け再び話し合いの場を設けることになった。

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