第49話 子を思うが故の危険性

 僕たちはまずはルーアの場所を探す。そのためにはまずはルーアの宿を探さなくてはいけない。


「あのすみません、ここにルーアという少女が泊まっていませんか」

「すまんがそういうことは言えないんだ、友人か?」

「そうです」

「もし顧客にいるなら伝えとくけど、お前たちの名前は?」


 僕たちはいくつかの宿を訪れると自分の名前を教え、もしいるならば伝言を伝えるようにお願いしていた。


「やっぱり教えてくれないね」


 その後も何件も宿を回るが、泊まっているかどうかすら教えてくれる宿は無かった。


 できる手段といえば泊まっている、又は泊まりに来たら伝言をお願いするぐらいだけだ。


 キュ~~~~


 ソフィアを見ると顔を赤くしてうつむいていた。


「おなか減ったね、そろそろ戻ろうか」


 いい感じに空が赤くなってきたので教会に戻ることにした。


「二人とも~おかえり~」


 教会に戻るとリズがいた。


「デートはどうだった~」

「ええ、楽しかったですよ」

「それはよかった~」


 これに二人の会話に入るとややこしくなりそうなので何も言わない。


「そういえばオルドとカリナは?」

「エルダさんの買い出しを手伝っているよ~」


 部屋にいない二人はエルダさんと共に市場に行っているらしい。


「アーク、ソフィアが元気になってよかったね~」


 リズもソフィアを心配していた。


「リズ少し手伝ってほしいのですが」

「いいよ~」

「内容は聞こうよ」

「ソフィアが無茶な頼みをするわけないじゃ~ん」


 まぁそうなんだけどさ。


 ソフィアはルーアの弟探しを手伝いたいことをリズに伝える。


「いいよ~」


 二言要らずでリズもエルフ探しに協力してくれる。






「戻ったぜ」

「ただいま帰りました」


 しばらくするとオルドとカリナが部屋に戻って来た。


「おかえりなさい」


 ソフィアの声にオルドとカリナは安心した顔をした。


 カリナはソフィアの元にオルドは僕の首に腕を回す。


「うまくやったようだな」

「まぁね」

「で、どんな悩みだったんだ?」


 僕はソフィアがエルフのことを憂いていることを説明する。


「そっか」

「それでオルド達にもエルフ探しに協力してほしいんだけど」

「いいぞ、こんな話を聞いて無視できると思うか?」


 オルドは快諾してくれた。


「無論、協力する」

「ありがとう、カリナ」


 向こうも話が付いたみたいだ。


「じゃあ、みんなでルーアの手助けをしよっか」

「「「「お~」」」」









 それからルーアがどこにいるか話し合っていると教会の子供がご飯ができたことを教えてくれる。


 僕たちは食堂に移動して神光教の祈りを真似してから食事を始める。


「それで、シスターソフィアはいつ王都に帰還するのですか?」


 シスターエルダが聞いてくる。


「それなのですが―――」


 ソフィアが困っている人がいるので手助けしたいという旨を告げる。


「そうですか。本来なら王都に戻り巡礼の報告をするのが正しいのですが、そういう理由なら何も言いません。その方の問題が解決するまでここを使ってください」

「ありがとうございますシスターエルダ」


 シスターエルダが許してくれたので僕たちは宿に困ることなくアズバン領に滞在できるようになった。


「それでその方はどのような問題を抱えているのですか?」

「それは―――」


 ルーアの弟が人さらいに合ってここまで探しに来たこと、もちろんエルフの部分は言わずに伝えると、エルダさんの顔色が変わった。


「人攫い………ごめんなさい、ここまで大きい問題だとは」


 エルダさんは何やら考え込む。


「正直に話してほしいのですが、その人は外国の方ですか?」


 これには少し迷ったが頷くことにした。


「そうですか………シスターソフィア、この問題に関わらないことをお勧めします」

「なっ!?」


 シスターエルダの言葉にソフィアは驚いている。


「おそらくこれは一学生、貴族でもない子供が関わったらどんなことが起こるか」

「シスターエルダは放っておけと!!!」

「そうではありません、この件は何の力もない子供には荷が重いということです、国に任せてあなたたちは関わらないようにすべきです」


 エルダさんの言い分も理解はできる。


 なにせ子供が危険なことをしようとしているのだそれを阻止しようとするのは当然だ。


「それでも私は彼女に協力します」


 これにはエルダさんも観念したのか


「………意志は固いようですね、わかりました、私も手を貸せる限りで協力しましょう」


 ソフィアの曲げない意思にエルダさんは折れてくれた。







「それであなたたちはその人たちに会ったらどうするの?」


 エルダの言葉に僕たちは顔を見合わせた。


「……ノープランなわけね」

「はぃ」


 ソフィアの声は消えそうなほどだった。


「仕方ない」


 そういうとエルダさんは紙を取り出し、そこに名前と住所を書いた。


「ここにいる人に会いなさい、そうすれば力になってくれるわ、私からの紹介ってことも忘れずに伝えなさい」

「ここには誰がいるのですか?」







「この街一番の情報屋よ」










 翌日、僕たちはエルダさんに教えられた場所にやってきた。


「ここだよな?」

「そのはずなんですが……」

「ぼろいね~」

「口が悪いですよリズ」


 僕たちがやってきたのはボロボロの店だ。つぶれているのか営業しているのかは外見だけでは判断できない。仮に営業しているとしても入りたいと思うものは皆無だろう。


 そんな店中からはお酒の匂いが漂ってきている。


「ごめんください」

「あ~あぁ?ここはガキの来る場所じゃねぇぞ」


 中に入るとカウンターに足を置いているガラの悪い店員が一人いるだけだった。一応棚らしきものはあるのだが、商品などは一切入っていない。何の店なのかは中に入っても不明なままだ。


「この場所にデッドさんはいますか?」


 するとさきほどまでこちらを見下ろしていた雰囲気がガラリと変わる。


「おまえ、どこでそれを」


 ガラの悪い店員から威圧が放たれた。ただ、その威圧はトロールほどの強いものではなく、僕たちは簡単に耐えることができた。


「教会のエルダさんからです」

「おめぇは教会のシスターか」

「まだ見習いですが」

「なるほどな、だがそいつは今は留守だ」

「そうですか……ではまた改めてご挨拶に来ます」


 ソフィアに続いて店を出ようとすると店員が頭を掻いて困惑した雰囲気を出し始めた。


「おい、お前たちはエルダから何も聞いてないのか?」

「はい、この街一番の情報屋だとしか」

「他には?」

「????何も聞いていませんよ」


 すると店員はめんどくさそうな顔をする。


「はぁ、仕方ねえ」


 店員は近くに人がいないことを確認すると深く座り込む。


「いいか、ここはデッドに依頼を行う場所だ」


 それはなんとなくわかる。


「で、さっきのは符号だ」

「符号?」

「そうだ、デッドは多忙でな、受ける依頼はある程度絞っているんだ。エルダの紹介だから説明するが他言するんじゃねぇぞ」


 僕たちは頷く。


「留守と言うことを伝える、そのあとはお前たちの方が金額と依頼のことを俺におおざっぱでいいから伝えるんだ。まぁ子供の頼み事なんてたかが知れているだろうから受けないと思うがな」


 そう言って笑う。


「エルダの紹介ならあまり無下にもできないな………それで何の情報が欲しいんだ?」


 ようやく本題に入る。


「僕たちが依頼したいのは人攫いのことなんですが」


 すると店員はギョッとした顔をした。


「……それはお前たちの友達か?」

「いえ、少し前に知り合った方が弟を攫われたそうなので」

「手伝うってか……かぁ~~~めんどくさい案件持ってくるじゃねぇか」


 そういうと難しい顔をする。


「依頼の件を伝える代わりに教えろ、どの国の奴が攫われた?」


 僕たちは何も言ってないのにルーアが他国の人だって見抜いている。


 だが僕たちは顔を見合わす。なぜならルーアはエルフなのだ、伝えることはできない。


 ただでさえエルフは珍しく、現れても辺境の村に20年に数度程度だとホーカスさんに教えてもらっていた。


「待て、その反応………っ~~~~~~あ゛~~~~」


 店員の顔がすごいことになっている。


「そいつはエルフか?」

「「「「「!!」」」」」

「その反応で理解できた」


 そういうと店員は考え込む。


「今日は帰れ、明日教会の方に顔を出すから」


 そう言って僕たちは店を追い出される。


 今日はそのまま教会に帰ることにした。













 翌日、朝早くから僕たちはエルダさんに呼び出され、教会の一室に入ると。


「よう待たせたな」


 そこには昨日の店員が既にいる。


 僕たちとエルダさんは席に着く。


「まず、結論から言おう、今回の件でデッドは手伝うことになった」

「そう、意外ねデッドのことだから受けないと思っていたんだけど」

「今回は事がことだからな」


 エルダと店員は親しそうに話を始める。


「なにせ攫われたのがエルフだ、場合によっちゃ国が動く案件だ」

「…………はい?」


 店員の言葉にエルダさんが固まる。


「ベルヒム、それ本当なの?」

「ああ、本当だ、そこの少年たちの反応で確信できた」


 この二人の反応に違和感を覚える。


「あのさ~あのさ~なんで国の介入を怖がっているの?王国が動けば一発で解決じゃん」


 リズの言葉はまさに僕が抱いた疑問そのものだ。


「まぁガキだからそこんところはよくわかってないか」


 そういうとガラの悪い店員、ベルヒムさんが説明してくれた。









 まずはエルフについてだ、彼らは人よりも強く賢い。ヒューマンとの一対一ならほぼ確実に勝つことができる。だが生物として優れている半面、繁殖力がとても弱い。彼らは長い寿命もあるし、戦闘以外で数を減らすことはなかなかない。だからか彼らは結束力が高く、子供は国全体で守る宝という認識をしている。








「過去に人さらいが原因で戦争が起こったことがあるんだよ」


 今回のように人さらいが原因で戦争になった歴史がある。その結果は悲惨としか言えかったとのこと。


「領主が誘拐に関わったことが判明したら、奴らは小さな領地総ての人々を殺しつくしたんだよ」


 ここまでの話を聞いて冷や汗を感じた。


「本当にそこまでするんでしょうか?」


 ルーアの様子から決して人殺しができるようには思えない。


「断言できるわ」


 エルダさんが同意したことにより真実であることが理解できた。


「ですが戦争になるなど……」

「理性があるならそんなことをしないと思うが」


 ソフィアとカリナは未だにこの話が信じられないようだ。


「なぁなんで死刑なんてものが存在すると思う?」

「……それはそこまでの罪を起こしたからです」


 ベルヒムの質問にソフィアが答える。


「じゃあなんで一族総てを死刑にした記録があるんだ?全員が罪を犯したわけじゃないだろう?」

「………そうしなければ再び罪が起こる可能性があるからです」


 この答えを聞いて僕はベルヒムさんの言いたいことが理解できた。


「そうだ、再び馬鹿なことを犯さないようにするために奴らは皆殺しにするんだよ」


 そこまで脅せば手を出す危険性が嫌でも理解できる。毒を持つ存在に安易に近づこうとす者がいないように。


「それほどまでに彼らは仲間が不当な目に合うのが許せないのよ」


 エルダさんの言葉にすべてが詰まっていた。エルフたちはどんなことをしてでも攫われた子供を取り戻す気でいると。たとえ国が協力する姿勢を見せてもだ。


「理解できたかガキども」


 全員が頷く、僕たちはようやく事の重大さに気づいた。

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