第48話 一人の目的とそれに寄り添う意思
エルフ、それはノストニアにいる単一種族だ。
伝聞では人よりも高度な魔法を使い、森と共に生きる種族だとか。
ただ正直なところよくわかってはいない、なぜならエルフがノストニアから出てくるのはかなり稀だから。
「どうやらそこの牧師は確信を持っているようね」
「ああ」
「じゃあ素直に話すわ」
そういうとルーアはローブを取る。
「「おぉ」」
思わず嘆息してしまった。
ローブから出てきたのは黄金と呼んでもいいほどの長髪にあどけなさが残るが美しさとかわいさが混在している噂にたがわぬ美貌だった。
「私は弟を探しているの」
「弟?」
「ええ、里から突如としていなくなったの」
「どこかに見つけられないってことは?」
「ないわ、森は私たちからしたら庭も同然、見逃すことはまずありえないわ」
それにエルフには魔力を見る魔法がある。人探しには最適な魔法で見つからないわけがない。
「獣に襲われた可能性は?」
「それもない、詳しくは言えないけど私たちは森の獣には基本的に襲われないのよ、それに決定的な証拠が出たからね」
「決定的な証拠?」
「
つまりは………
「攫われたわけですか……」
ホーカスさんの言葉にルーアは頷く。
「で、でも王国では奴隷などの人身販売は犯罪のはずです!!」
「そうです、シスターソフィア、ですがそれは表だけの話です。裏の世界では平然と行われているのです」
「そんな……」
ソフィアは事実を知ってショックを受けている。
「王国は何をしているんですか……」
「国も頑張ってはいるんだろうけど正直……」
あまり成果が出てないと言いたいのだろう。
「国でもすべてを見張ることはできませんから」
「ですが!!」
「それにこういうのはいくつもの貴族が陰で関わっていますから」
「腐ってやがるな」
「同感です」
オルドとカリナがそんな貴族を軽蔑している。もちろん僕もだ。
「もちろん、いい貴族様もいますよ」
ホーカスさんが擁護する。だが今その言葉を伝えても伝わるわけがない。
「で話を戻すけど、弟がいたかもしれない場所に
「理解できました、その際に一つ聞きたいんですが」
「なんですか?」
「この村を襲う可能性はありますか」
空気がピリッとしてきた。
「この村が関与しているならば……ただ中継地にされただけなら大丈夫よ」
「なら村人が関わってないことを祈るよ」
ルーアがエルフだと判明してから数日、僕らはホーカスさんの出す依頼を終え巡礼の証を受け取った。
「それじゃあシスターソフィア、これにてこの地での巡礼は終了です」
「ありがとうございました」
「いや、少し堅苦しくなったけどお礼を言うのはこっちの方だよ」
ホーカスさんの依頼は教会を掃除してほしいだったり、子供たちと遊んでほしいだったり、屋根を修理するからその手伝いをしてほしいなどの雑用だけだった。
「それと彼女についてなのだが」
ホーカスさんの言う彼女とはルーアのことだ。
ルーアはここ数日で村の人たちが誘拐に関わってないのと、さらにはこの村を通ってほかの村まで連れ去られた証拠が出てきた。
そのことを仲間に説明するために途中まで一緒に行くことになっている。
「大丈夫ですよ、ルーアは」
ホーカスさんはエルフたちの報復をとても恐れている。だがある程度会話をした僕たちはそこまで怖い印象を持ってないので杞憂だと思う。
「だが彼女の気持ちは理解できているつもりだ、だからこの村に危害が及ばない限りは協力すると伝えてくれ」
ホーカスさんもルーアの現状は理解しているのだろう。
「アークくん、僕たちは準備できているよ」
馬車の準備を終えたマークスさんが声を掛けてくる。
「ではホーカスさん僕たちはアズリウスに戻ります」
「ええ、貴方たちが来てくれて楽しかったですよ、機会があったらまた来てくださいね」
「お世話になりました」
こうして僕たちは巡礼の目的地ををあとにした。
「ねぇ、貴方たちはなんでこの地に来たの?」
マークスさんの馬車の中でルーアさんが話しかけてきた。
「俺たちはソフィアの付き添いでここまで来たんだ」
「付き添い?」
「ええ、神光教には巡礼と言うものがありましてね――――」
神光教の説明をルーアにするソフィア。
「また始まってしまった……」
カリナが嘆いているようにソフィアの
僕もこれで半日ほど費やされたことがあるくらいだ。
「でも~盲目的じゃない分まだましだと思うよ」
リズの言う通りソフィアはほかの宗教なども認めている。殺人を強要する悪徳宗教などは毛嫌いするけど。
「俺はマークスさんと外を見張っているよ」
「私も行こう」
オルドとカリナは見張りと名目を付けて逃げた。
「アークにリズも聞いて行きますか?」
「ごめ~ん、昨日あんまり寝てなくて寝不足なの、だから道中に昼寝したいな~って」
(ずるいぞリズ!!!)
思わず生きよいよくリズの方に振り向くが、リズはニタニタとしながらゆっくりと横になり始めた。
「ではアークは」
「ぼ、僕も」
「何かあるんですか」
「……なにもありません」
ソフィアの純粋な瞳に嘘はつけなかった。
その後、日が暮れるまで僕とルーアは神光教の成り立ちについて教えられることになった。
「そろそろ野営の準備をする………どうした?」
「いえ、説法をといてたのですがなにやらどんどん元気がなくなっていきまして」
「そう…………そろそろ日が落ちる、その前にテントを張るらしいぞ」
「わかりました」
カリナが入って来て野営することを伝えに来た。
ソフィアが外に出ると僕とルーアはようやく動き出す。
「ねぇ、なんなのあの子」
ルーアはソフィアに少し恐怖したようだ。
「ま、まぁ、あれで悪気があるわけじゃないから」
「それは分かるけど限度ってものがあるでしょうに」
あれでも善意でやっていてくれているので文句は言いづらい。
外に出るとすでにオルドとカリナがテント作りを行っていた。
「おう、どうだったソフィアのお話は」
平然と逃げたオルドがそういってにやけている。その挑発するような笑みに無性に腹が立つ。
「ソフィア、オルドがあとで僕たちが聞いた話を聞きたいって」
「おい!?」
「あら、いいですよ」
平然と見捨た罰だ、お前も同じ目にあってこい。
「その時はアークも一緒だよな」
(お前も道ずれにしてやる!!)
「僕は一度聞いたから大丈夫だよ」
(そっちが見捨てたのが最初じゃん!!)
それから道づれにしようとするオルドとそれを避ける僕の静かな戦いが始まる。
「また馬鹿なことやっている~」
「本当にな普通に必要ないっていえばやめてくれるのに」
リズとカリナの言葉は醜い争いをしている僕たちには届いていなかった。
それから数日掛けてアズバン領の都市アズリウスに戻る。
「止まれ、身分証はあるか」
街に入ろうとすると門番に止められる。
僕たちはギルド証をマークスさんは商業許可証を出す。
「おい、そこの君は?」
「私だけ身分証がないの」
「では入る際に銀貨一枚を徴収するのだが」
ルーアは道中に狩った獲物を換金してお金を得ていた。
「はい」
「うむ、では入れ」
僕たちはすんなりと町に入れた。
「にしても魔法ってすごいな」
門番がルーアを見ても不審がらなかったのには訳がある。
「『
ルーアの使っている魔法で人族の耳に見せている。エルフは基本的には耳さえ同じであれば綺麗なヒューマンにしか見えない。
「お前ら、おれはこれから自分の店に戻るけど、どうするんだ?」
「私は知り合いのいる宿に泊まるわ」
「僕たちは教会に行きます」
目的が別々なのでマークスさんとルーアは途中で別れる。
「ただいま戻りましたシスターエルダ」
教会に戻ってくるとソフィアはエルダさんに巡礼を完了したことを伝えに行った。
「お疲れ様です、あとは王都に戻れば今回の巡礼は無事終わりですね」
エルダさんの笑顔とは裏腹にソフィアは少し不満げな顔をしている。
「どうしましたか?」
「いえ……何でもありません」
その後、僕たちは教会の一室に泊まることになった。
「………」
もう少しで王都に帰れるのに、やはりソフィアの様子が少しおかしい。
「どうしたんだソフィアは」
「わからないよ」
カリナも何やらソフィアがおかしいのは気づいている。
それからもソフィアは何やら考え込んでいる。
「アーク、ソフィアを連れて少し外に出かけてきたらどうだ?」
「……そうだね」
カリナの提案で僕はソフィアを外に連れ出す。
「あれ、おいしそうだね」
「ええ……そうですね」
「面白いもの売っているよ」
「……そうですね」
「見て動物の芸だよ」
「………そうですね」
屋台でおいしそうなものを渡したり、変な形の工芸品をみせたり、なにやら大通りで芸をしているのを見ているのだが一向にソフィアの元気が出ない。
「っあ………」
ソフィアは屋台の手伝いをしている子供を見ている。
「…………」
とりあえず近くの椅子に座る。
「ねぇ何を悩んでいるのか教えてくれないかな」
「アーク」
「僕は頼りないかもしれないけど話を聞くくらいならできるよ」
そういうとポツポツと話してくれた。
「私は人は清らかに生きられる種だと思っています。教えにあるように汚い人も居ることも知っています、ですがいつかは改心して清らかになれるのだと」
優しいソフィアは人の可能性を否定しない。
神光教の教えで清く正しくというものがある、それに忠実なソフィアは人が清い存在と疑うことがなかったのだろう。それが教会の中だけで生きてきたのならなおさら、だが今回の巡礼で奴隷売買なんて汚い部分を見てしまったソフィアからしたらどれほど気持ち悪く感じるだろうか。
「ですが私が思っているよりも人は汚かったです………見てください、人さらいに合ったエルフの子はあのように笑えているでしょうか」
ソフィアは父親であろう屋台の人の手伝いをしている子供を見る。仕事は辛そうだけど父親と楽しく笑っている子供を。
「私は歯がゆくて仕方がありません、悔しくて仕方がありません」
優しい、優しすぎるソフィアは攫われた子を思って心を痛めている。だったらその気持ちをどうにかする方法は一つしかない。
「じゃあ、ルーアを手伝おう」
「え?」
「確かに僕たちは力も権力もない、なら今できることを一生懸命やろう」
ソフィアは少し考えこんで立ち上がる。そして、軽く笑みを浮かべるとゆっくりと立ち上がる。
「そうですね、ありがとうございます、アーク」
「元気が戻ってよかったよ」
「アーク、私はルーアの手助けをしたいと思います、手伝ってくれますか?」
ソフィアが手を差し出してくるので力強く握る。
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