第51話 ジェナの協力者

 日が落ちると僕たちは教会の一室に戻っていた。


「良かったねソフィア」

「はい!!!」


 ソフィアは手助けできると笑顔になっている。


「にしてもあの野郎の家が関わっているとはな」


 オルドの言うあの野郎とはニゼルのことだ。


「本当に、貴族なら取り締まる方なのに」


 カリナはニゼルだけでなくアズバン家にも嫌悪感を覚えたようだ。その証拠に顔はしかめっ面になっている。


「~ん?誰か来たみたいだよ」


 リズがそういうと扉がノックされる。


「皆さ~ん、エルダさんが帰ってきましたよ、それと同じくエルダさんが呼んでいますよ」


 教会の子がエルダさんが帰ってきたことと、僕たちを呼んでいることを伝えてくれた。














「来たわね」


 朝に来た会議室に来てみるとエルダさんともう一人いる。


「こいつらかい、あんたが言っていたガキどもは」


 エルダさんと一緒にいたのは口の悪い女性だ。


 エルダさんと同じくらいの身長、服は神官服とは真逆で体を見せつけるような扇情的な服装をしている、そして一番目を引くのは血のような紅色の長い髪だ。


「たく、久しぶりに呼び出しを食らったと思えば、今回はガキの子守かい?」


 女性は口が悪く僕たちは少し気分を悪くする。


「それで、そろそろ本題に入んないかい?」

「そうね」

「あの~この人は」


 すると二人は顔を見合わせる。


「彼女はジェナ、今回の件の協力者よ」

「ジェナだ、私はあんたたちみたいなガキどもは嫌いだから寄って来るなよ」

「……嫌な人」


 珍しく、人が良いソフィアもジェナさんを苦手に感じたようだ。


「こう見えてもAランク戦闘者なのよ」


 Aランク戦闘者、それは冒険ギルドが定める役職とランクだ。


 まず冒険ギルドに登録すると三つの役職が与えられる。それが戦闘者、探索者、作製者の三つ。


 まずは戦闘者、それは戦闘依頼を受ける人達の持つ役職だ。ここから近接、遠距離、魔法戦とさらに細分化されるが最も高いランクが反映される。


 次に探索者、こういわれているが実質は採取などを主とする人たちのことだ。彼らは戦闘よりも安全に移動することや危機感知が重視される。


 最後に作製者、これは罠や拠点づくりなどの便利な道具を即席で作れる人たちの役職だ。戦闘に直接は関係しないが事前に準備を行い戦闘を有利にする。


 これらは登録すればそれぞれGランクから始まる。


 ここでAランク冒険者とAランク戦闘者の違いは何だとなるかもしれない。


 Aランク冒険者とは三つの役職のうちどれかがAランクにたどり着いたもののことを言う。例えばCランク戦闘者Bランク探索者Dランク作製者だとBランク冒険者と呼ばれる。


 そしてAランクの役職は一つの国でも10人もいないランクなのだ。


 そのうちの一人が今目の前にいる。


「ったく、ガキどもが面倒な仕事を持ってきやがって」

「ジェナはこう言っているけど、あなたたちが関わるのはよした方がいいって言っているのよ」

「ちげぇよ!!!」


 二人は気の知れた仲なのは先ほどのやり取りで分かった。


「それでなんでジェナさんを呼んだのですか?」

「実はね、協力者を得るためにジェナの協力が必要なのよ」

「協力者ですか?」

「ええ、その通りよ」

「なんだまだわかっていないのか……ガキならしゃあないか」


 そう言って大げさに顔を振るジェナさん。


 この行為に僕たちはイラつきを覚える。


「わかってないなら教えてやるよ、今お前たちに足りないのは何だと思う?」

「足りないもの……情報ですか」

「もちろん、それも足りてない。だが決定的に足りてないのは伝手だ」


 伝手?


 顔が広いエルダさんに、情報屋で雇われているベルヒムさん、それにかなりの実力者集団のエルフ達、今いる人だけでもこれだけいると思うのだが。


「残念ながらそれだけでは全く足りない」


 当然だろうという顔で返事をしてくる。


「じゃあどんな人が足りないんですか?」

「簡単だ、裏の世界に通じる人物だ」

「???それは情報屋のデッドさんが」

「あいつはあくまで情報屋というだけだ、実際に裏の世界に入り動く人物がいないだろう?」

「それは私たちが」


 するとジェナさんからとてつもなく重い空気が流れてきた。


「カハァ……カヒュ……」


 僕は息がしづらくなった。ジェナさんが僕たちに向けて威圧した、ただそれだけでだ。


 僕だけでなくオルドもソフィアもカリナもリズも全員顔が青くなったり手足が震えたりしている。


「……裏の世界はお前たちが想像しているよりも暗く恐ろしい場所だ。下手すれば二度と日の目を見ることができなくなるんだぞ」


 とても悲しい声でジェナさんは言った。髪で表情は見えないが声から耐えがたい悔しさが見え透ける。


 さすがの僕たちも口を紡ぐしかなかった。


「ふぅ~すまん少し感情的になった、でなんだっけ?」

「裏の世界の伝手がないって話をしていたわ」

「そうだったな、そこで私だ」


 全員の視線がジェナさんに集まる。


「私にはいくつか裏に通じる伝手がある、そいつらに協力を求めるんだ」

「そんな上手くいくの?」

「私を信じろエルダ、これでもAランク戦闘者なんだ、表の世界だけでなく裏の世界から声がかかることもあるのさ」

「……信用するわよ」

「任せろ」











 その後、エルダさんがこれからの行動を説明してくれる。


「まず必要なのが情報、これはデッドとベルヒムがやってくれているからすぐにわかると思うわ」

「……仕方ないとはいえあいつらに頼る、か」


 ジェナさんは何やらベルヒムさんのことが苦手なようだ、証拠にベルヒムさんの名前が出ると顔をしかめた。


「しかたないわ、表にも裏にも精通している情報屋は彼らだけだから」

「仕方ねぇな」

「次にエルフ達の伝手としてアーク君たち」

「このガキどもを関わらせるのか?」

「ええ、これは仕方ないわ彼らがいたから今回の件も私たちが知ることとなったんだから」

「だけどよぅ」

「仕方ないわ、彼らは私たちの協力が無くても今回の件に関わろうとするもの」


 エルダさんの言う通り僕たちはさらに言えば僕だけでも動こうと思っている。


「……みたいだな全員テコでも動かなそうだ」


 ジェナさんは僕たちの雰囲気を感じ取ってくれた。


「そして裏に伝手がある」

「私ってわけか」

「その通りよ」

「なるほど、で肝心の方法はどうするんだ?」


 エルダさんの言葉に僕たちは注目する。


「それは簡単よ、まずはオークションに参加するの」

「そのために私か」

「ええ、まずは何をおいても攫われたエルフの居場所を知るのが重要よ」


 奪うにしろ、買い戻すにしろ居場所を掴むのが最初だ。


「ベルヒム達が調べられたらそれに越したことはないわ、でもベルヒム達でも居場所まではつかめないと思うの」

「まぁそうだわな、攫った奴からしたら大金に化ける商品だ。横取りされないように隠すのは当たり前だな」


 人攫いからしたら居場所を隠すのも最重要だ。なにせ下手に見つかり騒ぎになると大変なことになる。


「だから確実にエルフが現れる場所、つまりはオークションに参加しなければいけないのよ」

「そこからならエルフ達が自分たちで追跡もできるかもな」

「ええ、それに何だったら自分たちで買い戻せる可能性もあるわ」


 ジェナさんを通じて裏の組織に接触してオークションに参加することが最初の条件になった。













 翌朝、ジェナさんは僕とオルドを連れて貧民街、いわゆるスラム街にきていた。


 建物はツギハギだらけで、中から腐敗臭や鉄の匂いが漂ってきており鼻の奥が壊れそうだ。周囲にいる人たちの眼には光がなく、人の肥溜めと言い表せるほど悲惨な場所だ。


「いいか、ここから先は私からあまり離れるなよ」


 ジェナさんはそう告げるとスラム街ではまだマシな建物にたどり着く。


「おい、ここがどこか分かっているのか」

「いい女じゃねえか誰かが呼んだ娼婦か?」


 扉の前に座り込んでいる二人組はこちらを見て笑っている。彼らはむき出しの武器を手に持ちながら酒瓶を呷る、見るからにガラが悪い人物だった。


「下っ端だな、さっさとクアレスを呼んできな、ジェナが呼んでいるってな」


 そういうと下っ端であろう彼らは顔色を変えて慌てて中に入っていった。


「えっとジェナさんここは?」

「ガキはそういうことを聞くな」


 そう言って何も教えてくれない。


 これには少し不満だ。


 しばらくすると建物からさっきの2人と武装した二人に守られている老人が出てくる。


「ジェナか、今回はなんようだ」


 前に出た老人は、腰は曲がり、髪は真っ白くなっているのだが、しわがれた声は確かな力強さを感じさせていた。


「少し頼み事だよ」

「……いいだろう中に入れ」


 ジェナさんが中に入るので僕たちもついて行く。


「そいつらもか?」

「ああ、今回はこのガキたちがメインだからな」


 老人がこちらを見定める。


「いいだろう、そいつらも中に入れ」








 建物の中を進むと一室に案内される。


 案内された部屋は外見とは違い、豪華な内装を施されており、豪華な屋敷を彷彿させる。


 真ん中には対面するように長いソファが並べられており、先ほどの2人とさらに5人の武装した人たちが片方のソファの後ろで待ち構えていた。


「それで話とはなんだ?」


 僕たちと老人がそれぞれ座ると話が始まる。


「次の裏オークションに参加したい、具体的には人身売買が行われるやつだ」

「また急だな」


 老人はジェナさんを深く観察する。


「……ふむ」


 そして僕たちも観察する。


「なるほど、誰かが攫われたのか」

「「!?」」


 僕とオルドは驚く。


「そこまで驚くことか?ジェナが裏オークションと言った時点でそこに出る品か出品者、参加者がメインになる。あとはその子供を連れてきたことにより何が目的かが絞られるな、貴族の子弟なら高価な武具が入るから絞りにくいが、平民なら別だ。平民、それも子供ならそこまで武具に固執もしないだろう。ましてや表じゃない裏オークションなのだからな。仮に出品者や参加者がメインだとしても平民の子供が関係するとなれば復讐となる、だがジェナお前はそんなことには手を貸さない。この時点で考えられるのが人か薬に分けられる。だが誰かを治そうと高価な薬目当てなら、これも同じくお前は手を貸さない」

「……」

「なら考えられるのが人だ、だがそこの子供たちは別に道楽で買うわけではないのだろう?では誰かが攫われてそれが裏のオークションに出品されることを知りジェナに助けを求めた……こんなところだろう」


 これには僕たちは茫然とするしかなかった。


「相変わらず、賢い爺さんだな」

「年寄りになったら楽しみは知恵比べぐらいだからな」

「でどうなんだ?協力してくれるのか?」

「さてどうしようかのぅ~」


 するとこの部屋がやけに重苦しくなった。


 証拠に7人のうち4人は武器を構えている。


「馬鹿者、武器を仕舞え」

「し、しかし」

「安心しろこやつが儂を殺すことは絶対にない」

「へぇ~賢老と呼ばれたあんたが絶対というか」

「ああ、言伝もなく急に来たんだ相当焦っているのだろう?」

「でもあんたが居なくてもほかの組織だって色々あるんだぜぇ~」

「はっはっは、先ほど言っただろう焦っているのだろうと、儂たちの『黒霧の館』は少数精鋭の裏組織、動きやすさで言えばアズバン領で一番だと自負があるからな」


 ジェナさんは悔しそうな顔をする。おそらくこの言葉に嘘はないのだろう。


「で、先ほどの申し出だが、条件次第で受けよう」

「詳細は聞き出さなくていいのか?」

「ふ、儂はこう見えても結構情報通でね、ある程度事情を知れば見えてくるさ」


(この人は分かってて!!!)


 老人は人身売買のことを知っていて何も思っていないことに腹が立つ。


「ちっ、さっさと条件を言いな」

「実はな、カジノで面白い催し物があるのだ」

「カジノ?」


 なにかのショーか何かかな?


「ちっあの趣味の悪いところか」

「そう、実はね少しお痛をした馬鹿どもが居てね、その後始末をしてほしいんだ」

(お痛?)


 何をやったのか不思議に思っている


「暗殺ってことか?」


 ジェナさんの口からあっさりと暗殺という単語が出てきて僕とオルドは驚く。


「違う違う、それなら不器用な小娘に頼むわけなかろう儂が頼みたいのは闘技場に持ち込まれたある魔物を討伐してほしいんじゃ」


 魔物の討伐、言うのは簡単だが人によっては恐怖する言葉だ。


「詳細を話せ」

「その前にお茶でも持ってこさせよう、老人には長話はきつくてな」


 護衛の一人が外に出ていき、お茶を持ってくる。テーブルにカップと軽めの食べ物が置かれると再び話し合いが始まる。


「で、その魔物はなんだ?」

「せっかちじゃのぅ、そうだな結論から言えば討伐してほしいのはワイバーンじゃ」

「はぁ?!」


 ワイバーン。


 それは亜竜と呼ばれる魔物で、竜ほどの知力はないが力は竜同等と言われているモンスターだ。


「なぁアーク、ワイバーンってどれくらい強いんだ?」

「そうだね、少なくとも僕たちが倒したトロールよりは断然強いよ」


 トロールはその特殊性ゆえに脅威とされているがワイバーンは純粋な個の力で脅威として考えられている。


 実力がどちらが強いかなど明白。


「はぁそれは少しめんどくせえな」

「でも討伐できなくはないだろう?」

「………まぁな、しかしなんでワイバーンを?」

「実はな―――」

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