第29話 余計な存在
「さて、大丈夫か?」
魔物を総て排除し終わると固まっている五人に近づく。
「え、ええ、大丈夫です」
以前、町でナンパされていた少女が反応してくれる。
「(確か名は……)ソフィア・テラナラスだったな?」
「私のことをご存じなのですか?」
「少し前で町でナンパされているのを遠目に見ていた、そのときそこのアーク・ファラクスもいたな?」
「あ、はい」
「ほかはカリナ・イシュタリナ、オルド・バーフール、リズ・アーラニルで合っているな」
「「「はい」」」
全員がいることを確認すると、現状を説明する。
「現在は騎士団が来ている、だが人手が足りないから俺が協力したわけだ」
「つまり、あんたは俺たちを助けに来たわけか」
(……こいつは、威圧までされたのに未だに学習してないのか)
「馬鹿!?すみませんバアル様」
「カリナ!?なにすんだよ!」
女の方は何が悪いのかを理解しているようだが、オルドという少年は一切理解しようとしない。
(帰りに反抗的な態度をされても面倒だ)
俺はオルドという少年に近づき、そして
「ガッ!?」
オルドという少年を殴りとばす。
「なにすんだ!!!」
「理不尽な暴力に怒ったか?だがな、この国では貴族と平民には超えようもない格差がある」
周りの4人が動こうとするが威圧して止める。
「だから、俺たち貴族はお前が敬語を使わなかったという理由で処刑することすら許されている」
現にこの数年で似たようなことを何回か耳にしている。もちろんどこでも誰彼構わずというわけではない、あくまで式典中や大事な行事などの最中に酩酊して失言を吐いた際や悪意があって面と向かって罵詈雑言を吐いた際のことだ。そうでなければ学園でどれほどの平民の生徒が貴族の生徒に殺されていることか。
「わかるか?お前の言動でこの場にいる全員が処罰の対象になりえる。わかったら今後の言動には注意しろ」
「そんな理不」
「オルド、やめろ!」
オルドが文句を言おうとするのをアークが止めに入る。
「申し訳ありませんバアル様、今回はなにとぞ、この馬鹿の言動は大目に見てやってくれませんか」
そう言って頭を下げる。
「(こいつは理解できているな)今回は咎めは与えない。救助対象で良かったな」
ここが落としどころだろう。
にしても
(親から貴族への対応は教わっていないのか?)
このオルドという人物の思考が歪だ。
この国にいるのならば少なくとも貴族にこのような言動はまず取らない。貴族に恨みを持つのならばわかるが、その場合は敵意などを見せるだろう。だがこいつはそんな気配すらない。今でも戸惑いの方が大きいぐらいだ。
「あの……」
「ん?ああ、では移動するぞ」
思考を切り替えて、俺は5人をつれて戻ろうとするのだが。
オオオオオオオォォォォォーーー!!!!!
再びあの咆哮が聞こえる。
「!!注意しろ魔物が来るぞ!?」
オルドは咆哮を聞いた瞬間そう俺たちに告げる。
「どういう意味だ?」
「あの咆哮は魔物を呼び集め、操るんだ!!」
咆哮の主が魔物を呼び寄せ操り俺たちにけしかけるという。
「どうしますか?」
「逃げるぞ。あの程度の魔物は倒せるがお前たちを守りながらだと厳しい」
俺の戦い方は味方すら巻き込む可能性を持つ。
「き、来た?!」
「お前たちはそのまま走り続けろ」
キャンプの方向に5人を走らせて俺が
(すごい数だな)
走りながら後ろの様子を見てみる。
後ろには先ほどの何倍もの魔物の群れが来ているのだが。
(なぜ異種族で争わない?)
いくら魔物とはいえ異なる種族で群れを成すなどあり得ない、それも多種族となるとなおさらに。
つまり協力関係ではなく。
「隷属か、洗脳」
この2つが考えられる。
「……まずいな」
キャンプに向かって移動を続けるのだが、足の速い魔物が追い付いてきている。
「(仕方ない)そのまま走り続けろ」
5人にはそのまま一直線に走らせて、俺は立ち止まる。
このまま走ってもいずれは追い付かれるだけだ、なら一番死ににくい俺が足止めをした方がいいだろう。
(『飛雷身』を使えば逃げるのは容易、となれば景気よくやるとしよう)
「『
いつもの数倍の魔力を込めて発動させる。
雷の槍が魔物の群れに刺さると特大の放電が始まり、遠目からも分かるほどの稲光を放つ。
(……少し派手だったか?)
魔物を感電死させるどころか小さくない範囲の地形を変えてしまった。
(やはり駄目だな、魔力を込めれば込めるほど威力が上がっていく)
(効率だけ考えても魔術とは比較にならないな)
同じ規模の威力を再現しようとしたら100倍の魔力量でもおそらく足りないだろう。
「さて、合流し」
合流しようと足を向けるのだがとてつもなく嫌な気配がする。
「っ!?『飛雷身』!!」
瞬時にこの場から距離を取る。
移動した先で見たのは、俺の居た場所の半径50メートルほどが真っ黒に染まりすべてを飲み込んで行く光景だ。
「ふむ、案外勘がいいようである」
移動した際で空から声が聞こえる。
「……なぜ
蝙蝠のような羽、マグマのように赤くなっている角、一切の光も反射しない黒い肌、人のような形を取っているが本能からアレは敵だとわかる。
「ふむ、ヒューマンにしては強いのである」
黒い顔にある4つの目が俺を捕らえる。
「だれかが悪魔召喚でもしたのか」
禁忌とされる魔法の中には悪魔を呼び出す類もあったはずだ。そしてニゼルが保険として呼び出す準備をしていても不思議ではない。
「ふむ、ワガハイは呼ばれたのではない」
悪魔は怒りや憎しみなどが一か所に集まったときに発生するか召喚陣を用いて呼び出すしか方法はないはず。そうでないということは既にどこかに存在していた奴ということになる。
そしてだからこそ厄介だった。
「では何でここにいる」
「ふむ、面白そうな魂を見つけたので観察していただけである」
「つまりは元々存在していた悪魔か」
「そうであるな、ワガハイが生まれたのは200年ほど前だったのである」
お互いにお互いを観察する。
「おしゃべりついでに教えてくれ、あの魔物はお前の仕業か?」
「ふむ、さっきの醜い群れのことか?それならワガハイではないぞ」
「なら誰があの群れを統率している?」
こいつでないなら何が魔物を操っている。
「それなら、ちょうどあの五人が戦っている相手である」
悪魔が指差す。
「……
悪魔の指先には樹を超える身長を持つ緑色の巨躯が見えた。
「いかにも森の王たるトロールがあの魔物どもをけしかけていたのであるよ」
「あの魔物が何をするか見るのも面白かったのでござるが、それよりも面白い
「それが俺か」
俺の言葉を聞くと口裂け女のように亀裂が入り笑う。
「ワガハイは闘争を快楽とする悪魔である。自己紹介も終わったので死合おうぞ」
それから言葉はいらず、俺は槍を悪魔は歪な爪を構え戦闘が始まる。
そして森の危機とは伐採もその中に入る。つまりは
それが今五人の少年少女に襲い掛かろうとしている。
〔~アーク視点~〕
オオオオオオオォォォォォーーー!!!!!
「まだついてくるのか!?」
僕は後ろを見ながらそう叫ぶ。
「くそ!なにが貴族だ肝心な時に役に立たないくせに!!」
オルドは悪態ついている。
だが今はそう言いたいのが少しだけ理解できる。
けど
「後ろで起こったあの爆発……バアル様がやったのではないですか?」
ソフィアの言う通りだと思う、今も少し遠くで雷の音が響いている。
「でもバアル様のおかげで今はあのウスノロしか来てないね」
リズの言う通りで、あの大きな爆発のおかげで
「だけどこのままだと」
足幅が違いすぎるため、これならすぐに追いつかれてしまう。
「ならやることは一つだろう」
オルドは楽しそうな顔で言う。
そして僕を含めて皆が覚悟を決める。
「授業の通り、僕とオルド前衛、カリナが中衛、ソフィアは魔法で援護、リズは弓で援護を」
いつも狩りをする陣形を取る。
「改めて見ると大きいね」
剣を構えるとより一層大きさの違いを感じる。
それもそうだろう
「怖いのか、アーク?」
いつもながら僕の友達はポジティブだ。
「そんなわけないだろ!」
いつも通り体を魔力で覆い【身体強化】を発動させる。
「ガァアアアアアアア!!」
振り下ろされた大木を避けてそのまま腕を足場にして駆けあがる。
「ハッ!!」
首のあたりを切りつけるが、傷はすぐにふさがってしまう。
「オラ!!」
反対側からオルドが肩に乗り、全力で
すると
「オルド!!」
「わかっているよ!!」
傾いた体を足場に縦横無尽に駆け回る。
こんなことができているのは【身体強化】のおかげだ、魔力なしだと、こんなことはまずできない。
そしてその間に。
「万物の御霊よ、彼の者に大いなる力と祝福を授けたまえ『
「泉の精霊よ、我が声が聞こえるならば力をお貸しください、“
一つはソフィアが発動した神聖魔法、もう一つはカリナが発動した精霊魔法だった。
グウゥオオオ??!!
カリナの精霊魔法で
上半身に来ないのは僕たちが動き回るのに邪魔になるからだろう。
そして今度はソフィアの魔法で僕たちの体が淡く輝き、体が軽くなる感覚がする。
「私もいるわよ」
リズは少し高めな木の上におり、そこで弓を放つ。
アァアアアアアアアアアア!!
リズの矢は
それにより、より一層暴れるが狙いが定まってない。
「これならやれそうだな!!」
オルドはそう言うが僕はなんとなく嫌な予感がしている。
証拠に
オォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
一度動きを止め、とてつもなく大きい咆哮をあげる。
「うっ耳が!?」
僕たち全員が耳を押さえて動けなくなる。
だけど目に刺さった矢と足元の水は続いているので
「キャア!!」
悲鳴で後ろを振り返るとソフィアが鳥の魔物に襲われていた。
「マズイ!!」
一番近くにいるカリナが剣を取り対処する。
グルゥウウウウ!!
今度は違う魔物の声が聞こえてくる。
「なっ!?まだくんのかよ!!」
横から狼の魔物が襲い掛かってくる。
「こっちくんな~~!」
リズも蛇型の魔物に襲われて援護できなくなっている。
こうしてほかの魔物に対処している間に
「最初よりも悪くなっているな!!」
オルドの言う通りだ、振り出しに戻っただけではなく敵は増えてこちらは魔力を消費した状態になっている。
「どうする、アーク」
「……オルドはみんなの援護して」
「一人で相手をするつもりか?」
「耐えるだけなら僕一人でもなんとかなる」
僕のユニークスキルは守りの方が優れているからこその言葉だ。
「……わかった」
オルドはカリナ達の方に向かっていった。
ガァアアアア!!!
「頑張って時間を稼がないとね」
振り下ろされた棍棒を避けて、先ほどのように腕を駆けあがる。
「おっと」
反対の腕で振り払おうとしてくるのでそちらの腕に飛び乗る。
「っまずい!!」
腕を揺されて振り落とされた。
その隙を
ドンッ!!!
僕は殴り飛ばされた……のではなく目の前に現れた五角形の光の盾が
これが僕のユニークスキル【天上の光器】の力だ。
今発動したのは『極光の聖盾』という
これだけ聞けば強く感じるだろうがもちろんデメリットもある、消費魔力量は威力次第で決まってしまう。なので計算上は魔力量さえ足りていればどんな攻撃も受け止めることができるが逆を言えば魔力量が足りなければ受け止めることはできなくなる。
「あと1発か……」
自分の中の魔力量を確認すると先ほどの拳で3割の魔力が消費された。いままで消費した魔力であと一撃しか防ぐことができない。しかも身体強化を発動しているから徐々に魔力を消費している状態でだ。
「あっちは……」
オルドたちは少しずつ魔物の数を減らしている。
(もうすこしで何とかなりそうだけど)
もう一度魔物の群れを呼び出されたら、もう勝てる見込みがなくなるだろう。
今度は足甲から膝、腰、背中へと駆けあがっていく。
(できるだけ頭の近くで翻弄して咆哮させないようにしないと)
すると僕がいるにも関わらず咆哮をしようとする。
(なら)
首元に剣を突き刺し叫べないようにする。
だけどその代わりに振り払った腕に当たってしまう。
「本当にまずい、魔力もあと少し」
腕を『極光の聖盾』防ぐと自分の魔力が底をつきかけているのが理解できる。
これにより身体強化すら切れる。
そして
オォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
またあの叫び声が響き渡る。
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