第91話


 穏やかな晴れの日。いつもの何倍も賑やかな学内には人が溢れかえっている。

「祥太、頑張れよ」

 ニヤニヤと揶揄うように晴が俺を見た。

 今日は学園祭。去年に引き続いて出場予定のミスターコンは、こいつが断固拒否したせいで優勝候補になんかなっちゃってる。

 控室という名の空き教室で、晴がわざわざ俺を揶揄いに来たらしい。

「……ご褒美ないとやる気出ないよー」

 そう、たとえば。

 ななさんに、頭撫でてもらうとか?


 パイプ椅子に手足を投げ出すように座った。

「オマエには美女が何人もついとるやろ。そん中の誰かに貰ったらえーやん」

 ……まーた、無責任な。

 好きな人からでもないのに、ご褒美にはならないでしょ。

 ──なんて言えるわけもなく、ただジロリと晴を睨んだ。


 コンコン

 ノックされた扉を見遣るわけでもなく、気のない返事をする。音を立てて開いた扉から現れたのは

「──こんにちは、祥太くん」

 陽の光みたいな、笑顔だった。

「なな、さん……」

 ビックリして椅子から転げ落ちそうになる俺を見て、腹抱えて笑う晴を一喝してくれたななさん。

「ミスターコンなんて凄い!かっこいいよー!絶対優勝してね?」

 その一言で俄然やる気になっちゃう俺も、晴のこと馬鹿にできないくらい単純だ。晴は今更「俺も出たらよかった……」なんて後悔してる。ザマーミロ。

「……優勝したら、ななちゃんご褒美くれる?」

 椅子に座ったまま、上目遣いでそう聞けば「なにがいい?」ってなんの疑いも持たずに返した。なんか、晴があれだけ過保護になるのも分かるわぁ。

「ちゅーしてもらおっかな♡」

「黙って聞いとりゃオマエ!!ちょーしのんなよ!?」

 あはは。こんだけで、じゅーぶんだよ。

 晴の隣で笑う、あの人を見ていたら。

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