第90話
ななさんがハッと何かを思い出したように腕時計を見て、スマホを取り出した。
「うわ、晴から鬼電だよ……もう行かなきゃ」
画面を見て迷惑そうに眉間にシワを寄せる。……でもどこか、幸せそうだ。
「そっか、残念。もうちょっと、一緒にいたかったんだけど!」
冗談ぽく言うと、頬を少し赤らめる。……これも別に意味はないんだろうなあ。
「……じゃあ、またね!」
手を振って、ななさんに背を向ける。
あー……できるなら、また会いたい。でも、あんま会いたくない気もするなあ、なんか。俺の中の、何かが動いちゃいそうだからさ。
「……あ!祥太くん!」
優しさに溢れた声が聞こえて、振り返ったらななさんが笑っていた。
「これ!あげる!」
ポーンと投げられた何かが弧を描いて俺の手の中に落下する。
「ナイスキャッチ!」
……あんなに無邪気に笑う大人、初めて見たかも。
手の中のソレを見てみればなぜかいちごオレ。きょとんとしていると
「間違えて買っちゃったんだけど、晴より祥太くんに似合いそうだから!」
訳わかんない理由にぶはっと笑ってしまった。でもなんか、気分いーや。「晴より」ってとこ。なんか優越感。
……俺、甘いの苦手なんだけどな~。
ニコニコと嬉しそうに笑うお姉さんにそんなこと言えず。いつもの取り繕ったキラースマイルなんかじゃなく、本物の、俺の笑顔でななさんにお礼を言えば、大きく手を振って去っていった。……ほんとに6個も上?
──あの人の隣は居心地が良さそうだ。優しい声とか柔らかい雰囲気とか。照れたように笑う姿はグッとくるし、からかいがいもある。
めちゃくちゃ美人ってわけじゃないんだけど、小動物みたいで可愛くて……目を引く。なんだろ、守ってあげなきゃって思う。
晴が5年間片思いしてるって聞いたときはどんな人なんだろうって思った。よっぽどの美人かなって。だから、初めてななさんを見た時の感想は正直「え?この人?」だった。
でも喋れば喋るほどいい人なのが分かって、ななさんの隣にいる晴がとてつもなく安心しきった、どうしようもなくユルユルの顔で笑ってるから、俺までほっこりした。
「……いーな、晴は」
いちごオレを投げてキャッチ。それを何度か繰り返した。
無意識のうちに鼻歌なんて歌っちゃって。
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