ハルノユメ:SHOTA

第89話


「祥太くん!」

 駅前を歩いていると、高く粘っこい声が纏わりつく。振り返ったら、美人なお姉さま。俺のキラースマイルで

「どうしたの?」

 って聞けば、作り物みたいな笑顔で腕に絡みついてくる。あー、これ断るのが面倒なヤツだ。そう直感する。けど、逃げ道なんて思いつかなくて。ヘラヘラ笑って、内心どーしようか困っていたら、救いの神が現れた。


「……あ」

 バチッと目が合ったのは、俺の親友の彼女さん。気まずそうに、そそくさとその場を離れようとするから思わず「ななさんっ!」と呼びかけていた。


 仕方なく立ち止まったななさんに近付いて、さりげなくお姉さまの腕を振り払った。

「……誰?」

 あからさまに不機嫌そうにするお姉さまに、空気の読めないフリをして

「俺の彼女っ」

 なんて嘘を吐けば、目を真ん丸にしたななさんが、それでも何かを悟って反論しないでくれた。

「……は?」

 もうさっきまでの笑顔なんて貼りついていなくて、不謹慎ながら笑っちゃいそうだった。ななさんは隣であわあわしている。……かわい。


 ぷるぷると震えて怒りを堪えるお姉さま。悪いけど、あなたと付き合ってるわけじゃないし。文句を言われる筋合いはないよね?

 そんな意を含んだ笑みを向けると、本性丸出しのキッツい顔で、俺を睨んでヒールを荒く鳴らして去っていった。


「……ふー」

 大きく息を吐けば、ななさんが恐る恐る「……大丈夫?」と聞く。

「ありがとうっ」

 にっこり笑ってお礼を言えば、年上の女の人は大体落ちてくれるんだけどなー……なんて。期待しても、無駄なんだけど。

「……女は怖いからね」

 肩をポン、とたたかれて

「ちゃんとしなきゃダメよ?」

 と呆れたように笑っていた。

 ……俺に近づいてくる人が皆ななさんみたいな人なら、“ちゃんと”できるんだけどな。


「……そだね」

 言えるわけ、ないじゃん。

「祥太くんの笑顔は国宝級なんだから、大事にしなきゃね」

 なんて、真顔で言っちゃうんだから面白い人だ。


「……俺、ななさんがいーなあ」

「え、なんて?」

 ボソッと呟いた声。やば。つい口に出しちゃってた。ななさんの耳には届いてなかったみたいで、ホッとする。

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