第88話



「その“いとちゃん”にはちゃんと好きって伝えなアカンのちゃう?」

 もっともなアドバイスをすると、真央は顔を歪めた。

「……いとちゃんってあんまり呼ばないでください……」

「ハァ?」

 顔を上げて、晴を見据えた真央の瞳は強く、たくましくて。どこか、晴と似ていた。

「やなんです。他の男の人が……しかもこんなカッコいい人がいとちゃんって呼んだら……好きになるに決まってます……」

 自信なさそうに、また俯いてしまった。だけど今度は晴が、きっぱりと言い放つ。


「……ならんやろ」

 真央を見つめるその横顔は、悔しいけどすごくカッコよかった。

「お前の好きな女、そんな尻軽なんか?」

「違いますっ!」

「じゃあ平気やん。自信持てや。きっと、向こうもお前がどう思っとんか分からんくて悩んどるんちゃう?」

 真央の悩みに真剣に向き合ってあげている晴は、私にも友達にも見せる顔とは違って、お兄ちゃんらしさに溢れている。


「お前に、お前だけに向けられる笑顔があるなら、それはお前が“特別”っちゅーことや。なんとも思っとらん相手にハグしたりちゅーしたり好きやって言うたりせんで?」


 なんだか、新鮮だ。真央の表情も明るくなっていく。


「弟みたいやったとしても、好意はあるわけやろ?それを男を見せてギャップで落とせ!ゼロからのスタートやないんやから案外コロッといくと思うで?」


 最後には、にっこり笑っていた。そんな様子を見て、晴もまたフッと笑う。兄弟みたいだ。


「……晴さんになら、ななちゃん取られても、いいかも」

 へへっと笑った真央に「好きな女おるくせに、生意気やでー?」なんて、人のこと言えないでしょ、生意気具合に関しては。



「……なんか、晴ってやっぱり女を落とし慣れてるよね」

「え、ちょっ!あらぬ疑いがかかっとるやんけ!これは祥太の悪知恵やで!?」

 年上キラーに何を吹き込まれてんの?

 じろりと睨むと、「ななちゃんが相手にしてくれへんからやん!」と文句を言われた。


「……どーだか」

「信じてやー!!」

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